動き出した異端
第三章、はじまります!!
お待たせして申し訳ありません!!
『奇跡の道』ーー
それは、かつて神が創造した、世界で最も危険なエリアを安全に通るための、いわば避難路だ。
一本道ではあるが、道幅は広く、馬車が何十台も並列して進めるほど。道の端は巨大な白い壁が建っており、これにより両隣の危険地帯の影響を受けないようにしている。
その道を、カラカラと馬車の車輪を鳴らして進む集団が一組いた。
「しっかし、オルトスとアーノルドさんが知り合いだったなんてね~」
「俺たちは普段、ヒノワとサマルカン間の運び屋をやってるからな。あの首長サマとも、結構長い付き合いなのさ」
「へぇ~、ちゃんと自立してるのね~」
「運び屋は馬と馬車さえあれば、誰でも簡単に始められるからな。それに、色んな客を乗せることで、情報収集の役割も果たしてくれる」
「隠れ蓑にもうってつけというわけね」
「まあ、そういうこった」
久しぶりにオルトスと再会したことで、カルミナはどこか嬉しそうだ。アリシアも同じ気持ちなのか、笑みを絶やさずにオルトスたちとの会話に参加している。ちなみに、馬車を動かしているのは、オルトスの後輩分で彼と同郷の、バンク(小さいほう)とボンク(大きいほう)だ。
「それよりお二人さん、聞いたぜ~? サマルカンでは派手にやったらしいじゃねえか」
オルトスがニヤリとからかうような笑みを浮かべながら、話を切り出した。カルミナたちは照れ笑いしながら、オルトスから目をそらす。
「やっぱり知ってるんだ……」
「といっても、俺たちもさっき知ったんだけどな。まさか《反逆者》があそこにいたとはな……大人気じゃねえか、アリシア」
「……こんな人気は、嬉しくない……」
アリシアはどんよりとした影を落としながら、そう力無く言った。オルトスも顔をポリポリ掻きながら、アハハと同情するような笑みを見せる。
「だが見違えたぜ、アリシア。この短期間で一体何があった? 明らかに強くなってやがる」
「あ、わかった? うちのアリシアたんものすごく強くなったのよ!」
そう言って、カルミナはサマルカンでのアリシアの経緯を話し始める。ある程度、覚醒時の力をコントロールできるようになったこと、カルミナから舞道を習い始めたこと等……。
全てを聞き終わったオルトスは、改めて真剣な瞳でアリシアを見つめた。アリシアは特に動じること無く、オルトスを見つめ返す。すると、オルトスはフッと目を閉じて少しばかりため息をつくとーー、
「……先を越されたか……」
誰にも聞こえないように、ボソリと呟いた。
「えっ? 何か言った?」
カルミナはオルトスが何か話しかけたと思ったが、よく聞き取れなかったのでオルトスに尋ねる。オルトスは首を横に振った。
「いや、何でもない。なるほど、覚醒の力を使いこなせるようになったんなら、もう一端の世界の敵だな。おめでとう、そしてようこそ、こちら側の世界へ」
「……全く、嬉しくない……」
「ちょっとオルトスやめてよ~、うちのアリシアをそんな闇の世界の住人みたいな言い方して~。うちのアリシアは今もこれからも陽の目が見れる世界を生きるんです!」
「なんかもう……保護者の台詞だぞ、それ。お母さんか何かか?」
「それを言うならお姉さんのほうが正しいでしょ~! ねー、アリシア?」
「?」
「あれ? まさかの首を傾げます? そこで? ちょっと、待って? 何そのよくわかりませんって言いたげな顔? え、ちょっ、アリシア? お願いします私が悪かったから。だから無言の圧はやめてえええ!!」
相変わらずの二人に、オルトスは嘆息するのだった。
~~~~~~
「そういえばさ、オルトス」
「ん? どうしたカルミナ」
変わり映えのない景色を何となく眺めながら、カルミナはオルトスに思っていたことを切り出した。
「そろそろ教えてほしいな、あなたが何故ここに来たのかを」
その瞬間、アリシアはサッ、とカルミナの所に向かう。オルトスの表情から、笑みが消えた。どこか思い詰めたような顔で二人を見つめる。
「勘違いしないでほしいのは、私はあなたのことは信用してるつもり。あの時も、私たちのことを助けてくれたから。だからこそ、こうして面と向かって聞くことにしたの。私たちを、あれからもずっと調べてたんだよね? このままヒノワに行くと、何かがあるの?」
カルミナは、あくまでも穏やかな表情のままオルトスに尋ねる。オルトスはためらうかのように、視線をあちこち移動させる。しばしの沈黙の後、オルトスは観念したかのようにため息をつき、重い口を開いた。
「敵わねえな、やっぱ。さすがだぜ、カルミナ」
「ありがと、それは素直に受けとるわ」
「気付いたものはしょうがない。正直に打ち明けるとしよう」
「い、いいんですかい? カシラには、黙って連れてこいと言われてたんじゃ……」
聞いていたのか、馬車の前方からバンクの不安げな声が聞こえてきた。
「え、そうなの? 大丈夫?」
黙って連れて行かれそうになっているカルミナのほうが、逆にオルトスを心配してしまう。オルトスはその言葉を受けて、ブハッと吹き出した。
「俺の心配かよ。そこは自分たちの心配するところだろ」
「あら、心配しないといけない目に遭うの? 私たち」
カルミナが挑発的な瞳でオルトスを捉える。オルトスは不敵に一笑するとーー、
「まさか! 俺たちはお前らに危害を加えるつもりは毛頭ない。俺たちの敵はあくまで、あのクソ神だ」
「じゃあ、どうして私たちに黙って?」
「まあ、順番に話していこう。ひとまず、お前らの目指してるヒノワ村についてなんだが……厄介なことになった」
「と、いうと……?」
オルトスは息を一旦整え、こう切り出した。
「ヒノワ村が、神軍に対して宣戦布告した。もうあそこは、お前らにとって安全地帯とは程遠い、戦場と化しちまった」




