表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】愛し愛される世界へ ~一目惚れした彼女が、この世界の敵でした~  作者: 冬木アルマ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/112

アリシアの実力

寝落ちしたああああああい

「それじゃアリシア、まずはあなたの限界を知りたいから、ちょっとこの人形の頭を思い切り蹴ってみて」


 カルミナはそう言って、真ん中の人形の前にアリシアを誘導した。アリシアはどこか緊張した様子で人形の前に立つ。


「思い切り蹴ればいいの?」

 

「うん、何も気にせず力任せに。ただし最大の力で」

 

「最大の……、わかりました。とりあえずやってみます」


 アリシアはスゥーッと緊張の糸をほぐすために大きく息を吸って、フゥーッと大きく吐いた。そして、右足に全神経を集中させる。ビキ……と右足から音がした気がした。そして……、


「……えいっ!!!」


 力いっぱいに人形の頭めがけて蹴りを放つ。その蹴りは見事人形の頭を捉えて……、


 

「………えっ……?」


 頭が、()()()()()。カルミナも何が起きたのか分からずに思わず声を漏らした。


「あれ? 案外脆い……」


 アリシアも拍子抜けしたのか、目をパチパチさせながら頭の無くなった人形を見ていた。頭を失いバランスが保てなくなったのか、人形はそのままバタンと倒れてしまう。

 沈黙が、周囲一帯に広がっていく。アリシアはどうすればいいか分からずオロオロし、カルミナは目と口を大きく開けながら呆然と突っ立っていた。


「あ、あの……先生? 人形が、意外にも柔らかかったんですけど……、もしかして古く?なっていたとか……」

 

「……それ、新品らしいよ」

 

「あ、そうですか……。す、すみません……壊しちゃって……」

 

「……それは別にハロルドおじさんが弁償してくれるから良いと思うけどさ」

 

「いや良くはない」

 

「いや、今の問題はね……? そこじゃなくてね……?」


 カルミナはとうとう我慢できなくなったのか、アリシアの元に詰め寄り、アリシアの肩をガッと激しく掴む。


「えっ!? アリシア今のどうやったの!? 吹っ飛んだよ? 首吹っ飛んじゃったよ!? アリシア、実は何か修行してたの!!?」

 

「い、いや……少なくとも逃げてる時はそんな暇ないし、それ以前は記憶が無いから何とも……」

 

「力いっぱいやっただけってこと? 特別な技とか使わずに!??」

 

「え? う、うん。そんなに驚くことなの? いや確かに、私も自分の力がここまであったことにはびっくりしてるけど……」

 

「……今の人形はね、どういう理屈かは知らないけど、人と同じくらいの強度があるらしいの…」

 

「………え? それってつまり…」

 

「つまり、アリシアが本気で人の頭めがけて蹴ったら……」


 そう言ってカルミナたちは地面に転がった人形の頭を見る。嫌な想像をしてしまい、二人とも思わずゾッと身震いした。


「アリシア、分かってるとは思うけど」

 

「はい、絶対しません」

 

「自衛のためでもダメだからね。これからアリシアにはその力をコントロールする術を学んでもらうから、それを会得できるまでは蹴りは封印しよう」

 

「はい……、ぜひお願いします……」


 ~~~~~~~~


「アッハッハッハッハ!! ポッキリぶっ飛ばしたのかい!? アリシアちゃんが!?? さすがに冗談にもならないよカルミナちゃん!!」

 

「ほんとなんだってば! 信じられないだろうけど!!」

 

「当たり前だろう!! そもそもヒトの力で()()を折ろうとするなら、それこそ獣人族のかなり鍛えられた奴らが本気でやってようやく吹っ飛ばせるんだよ!? ましてやそれをアリシアちゃんが吹っ飛ばすなんてさ!!」


 ミランダの笑い話を聞きながら、カルミナとアリシアは顔を見合わせてさらに青ざめた顔をする。どうやらあれは獣人族の中でもさらに力のある者だけができる芸当であるらしい。

 近くで聞いていたハロルドも、さすがにこの話には胡散臭く感じていた。カルミナとアリシアに対して訝しげな視線を送る。


「いくらなんでもなあ……。嘘をついてるようには見えないし、そんな嘘をつく理由もないだろうから、人形にどこか脆くなってた部分があったんじゃないか?」

 

「それだハロルド。どこか痛んでたんだろうなあ……、この人形。あの親父に文句言ってやる……」


 ミランダとハロルドは完全に二人の言葉を信じていないようで、人形の不備だと断定している。特に理由は無いが、どこか悔しさを覚えたカルミナは頬をムッと膨らませ……、


「アリシア……、二人にさっきの見せてやろうよ」

 

「えっ……? いいのかな、大丈夫?」

 

「まあ、この二人だしいいんじゃない?」


 カルミナは全く信じていない(当然ではあるが)二人を半ば強引に中庭まで連れ、別の人形を使ってさっきと同じ事をアリシアにさせる。

 アリシアは不安になりながらも、先ほどのように全神経を集中させて思い切り人形の頭に向かって蹴りを入れた。

 結果は一回目同様、頭がきれいに宙を舞った。ミランダとハロルドは最初のカルミナと同じ表情をしてその光景を眺めていた。


「どう?これで信じた?」

 

「……信じたも何も、今目の前でやられたからな……。これが夢なら話は別だが……」

 

「……40数年生きてきたけど、ここまで驚いたのは今日が初めてだよ……。しかしまあ、良かったじゃないか」

 

「え?」


 ミランダはアリシアに向かって、ニッと力強い笑みを浮かべた。そしてアリシアの頭にポンと大きな手を置いた。アリシアはどこかくすぐったそうにしながらも、ミランダの手を受け入れる。


「あんたにも、何かしらの()があることが分かったんだ。あとはその力を、あんたがどう使いこなしていくか、だ。そういう意味では、カルミナちゃんとの修行は丁度良かったのかもしれないね」

 

「女将さん……」

 

「頑張りなアリシアちゃん。昨日は強く言い過ぎちまって悪かったよ。だが、あの涙と悔しさは本物のはずだ。あとはそれをバネにして、ひたすら進むだけだよ」

 

「……はい!」


 ミランダはアリシアの頭をくしゃくしゃと激しく撫でる。力強いので、ミランダの手の動きに従ってアリシアの頭が振り子のように揺れた。それによってアワアワ困っているアリシアを見て、カルミナは安心感からか、二人のやり取りを微笑ましく思った。


「しかしアリシア嬢のその力は一体どこで身に付けたんだ? はっきり言って人間離れしてるぞ? 頑張って鍛えたってなれるもんじゃない」


 ハロルドが首を傾げながら、先ほど起こった光景についてアリシアに答えを求めた。しかし、当のアリシアもよくわかってはいない。皆して、うーん、と唸っていると…、


「……もしかして、()()の影響?」


 カルミナがぼそりと、思い出したように呟いた。


()()? 何だいそりゃ?」


 ミランダが首を傾げながらカルミナに尋ねた。


「この前私たちが神軍(ジーニス)に襲われた時に、同じ世界の敵(ナーディル)のオルトスって獣人が教えてくれたの。世界の敵(ナーディル)が一定の条件を満たすと、これまでの何倍も強くなることができる。それが()()だって。詳しい原理とかは私も知らないけど……」

 

「なるほどね、つまりアリシアちゃんもその戦いの時に()()したと?」

 

「オルトス曰く、そうらしいよ」

 

「……()()…」


 アリシアはこの前の戦いを思い出していた。あの時、自分の中に潜むもう一人の()()に飲み込まれる感覚。身体が言うことを聞かなくなり、終いには意識すらも……。


(もし……、()()を制御することができれば、私も……!)


 かなり危険だし、難しいことではあるだろう。それでも、強くなるために目指す価値はあるはずだ。

 できるか、できないかではない。やるか、やらないかの話なのだ。


「当面は、いかに力をコントロールするかに焦点を置いて修行した方が良さそうだね」とミランダ。

 

「そうだな、下手なことして相手さんに取り返しのつかないことしたら大惨事だ」とハロルド。


「うん、私の操る舞道はいかに最小限の力で技を繰り出していくか、だからね。あらゆる武術に言えることだけど」

 

「なるほど、まさしく今のアリシア嬢にはうってつけなんだな」

 

「そういうこと! さっ、アリシア! やるべきこともわかったし、続きやるよー!」

 

「はい、お願いします」


 そう言ってカルミナとアリシアは鍛練を再開した。ミランダとハロルドは、まるで親が子供を見守るかのようにしばらく二人の修行風景を眺めるのだった。

感想・評価・ブクマお待ちしております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ