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【完結済】愛し愛される世界へ ~一目惚れした彼女が、この世界の敵でした~  作者: 冬木アルマ
第二章

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早速問題発生?

第二章、はじまります!

「すっごい行列ね……。このまま日が暮れたらここで野宿になるのかな?」

 

「毎日のようにここに来るが、そうなった日は一度も無いな」

 

「それなら安心ね! ここで泊まることになったら、アリシアと抱き合って寒さを紛らわすしかないもの……、あれ? むしろそっちのほうが良い?」

 

「良くない」


 列の遥か後方に並ぶカルミナ一行。ある程度時間は経ったはずだが、まだまだサマルカンの入り口までは距離がある。それほどまでに、サマルカンに出入りする人は多いのだ。


「サマルカンは大陸で最も大きい街であり、最も栄えてる街だ。世界中のありとあらゆる人が、種族の垣根を越えてやって来る。中入ったら、お前らさぞ驚くだろうぜ。まあ、あんましサマルカンに滞在してられないがな」


「最も栄えてる街……」

 

「アリシアも、サマルカンに来たのは今回が初めてだったな?」

 

「はい……ちょっと緊張してます……」


 アリシアは心無しか身体をソワソワさせる。まだ見ぬ場所へ行くことに対する緊張感と高揚感が入り交じる。カルミナたちに会うまでは、こんな気持ちを持つ余裕もなかっただろう。アリシアは自分の変化に少し驚いていた。


「どんな、ところなのかな……? たくさん人がいるんだよね……?」

 

「アリシアの行ったことのある街や村は分からないが、断言できる。お前が行ったどの場所よりも多くの人がいるぜ」

 

「そうなんだ……」


 アリシアは震えを抑えるためにギュッとカルミナの袖を握る。それに気づいたカルミナは、心配そうな顔でアリシアの顔を覗き込んだ。


「大丈夫、アリシア? やっぱり、人の多い所は怖い?」


 おそるおそるカルミナは尋ねた。アリシアのトラウマを、できる限り呼び起こさないように。

 しかし、アリシアはそんなカルミナに対してニコリと笑顔を返した。


「大丈夫。今は、カルミナやハロルドさんがいるから」

 

「アリシア……」


 カルミナはアリシアのその言葉に、この上ない幸せを感じていた。

 ようやく、この関係性までいけた……! 命を張った甲斐はあった……!ハロルドと同列なことに、若干不満ではあるが!

 カルミナは目に喜びの涙を溜めながら、何度も今の幸福を味わう。そんな様子のカルミナを、アリシアは不可思議な思いで見ていた。


「なんで泣いてるの? まさか……、この前の傷が痛むの!?」

 

「え!? ああ、これは違うのアリシア。あまりにも嬉しくてつい、ね……」

 

「? 嬉しくても涙が出る時があるの? 涙が出る時って悲しい時とか辛い時だけじゃないの?」

 

「ううんアリシア。それは違うの。涙はね、心がジーンときたときに出るものなの。あまりにも嬉しくて心が震えた時も、涙って出るんだよ」


「ふーん、涙って別に悪いものじゃないんだね」

 

「そりゃそうだよ! 涙を出せるってことは、それだけ一生懸命生きてるってことなんだから! 頑張ってる証拠!」


 カルミナは両手でガッツポーズを作りながら、アリシアに身振り手振りで教えた。アリシアにとって、涙とは辛い時にしか流さないものだと思っていたようだ。


(いろいろアリシアにも、一般常識とか教えていかないとね…)


 カルミナは、アリシアが人並みに暮らせるようにこれから、生活面でも助けていく決心をしたのだった。


 ~~~~~~~~~


 サマルカンの名物のひとつ、神通門。巨大な壁で囲まれたサマルカンと外の世界をつなぐ唯一の場であり、世界の至る所から多種多様な人々が集まる場である。毎日何十万の人々が、様々な目的を持ってこの地を訪れるのだ。

 そして当然、この門は厳重な警備が敷かれている。一組ごとに順番に警備兵が素性をチェックしていく。そのため、サマルカンは毎日行列ができるのだ。


「おお、これはハロルド殿!」

 

「ようマイルズ。励んでるな」


 ハロルドと顔馴染みであろう若い警備兵が眩しいくらい素敵な笑顔でハロルドに挨拶をする。ハロルドはほぼ毎日サマルカンを出入りしているため、顔馴染みが多いのだ。


「今日もお仕事ですか?」

 

「おう。友人の()()()を乗せてきてな。何でも旅に出たいってもんでな。俺もその願いを叶えてやろうと協力したって訳よ」


 事前にカルミナとアリシアには、二人ともヘンリーの娘で姉妹であるという設定でいく話をしていた。何か聞かれた際はカルミナが喋り、アリシアは終始俯いて人見知りが激しいと周囲に思わせるように仕込むことにした。


「なるほど、そこにいらっしゃる麗しいお嬢さん方が……」

 

「ああマイルズ。その通りだ」

 

「こんにちは、麗しいお嬢さん方。私はマイルズと申します」

 

「カルミナです。よろしくお願いします。こっちは()のアリシアです。すみません、妹は人見知りが激しくあまり喋れないもので…エヘヘ」

 

「構いませんよ。色んな性格の人がいるのですから」


 マイルズ、と名乗った警備兵は再び、イケメン顔で私を笑った。その笑いに邪気は感じない。


(気持ちの良い人だな……)


 アリシアは顔を見られないように俯きながら、カルミナの背中に隠れてマイルズを見据えていた。人を疑うことを知らないような素敵な笑顔。しかしーー、


(私の正体を知ったら、きっとこの人も私をゴミのような目で見るんだろうな……)


 いまだアリシアには、そうした不安・恐怖が根付く。これは早々になくなるものではない。なにせおよそ十年間、少しずつ形成された根っこなのだから。アリシアは自己嫌悪に陥りながら、マイルズを見るのをやめて本当に俯いてしまった。

 カルミナはアリシアの負の感情に気づいたのか、マイルズと笑顔で話しながらもアリシアの頭を優しく撫でた。アリシアは多少、気が晴れたのかクスッと誰にも聞こえないように笑った。


「それで、お嬢さん方はどちらを目指しているのかな?」

 

「はい、南東部のヒノワまで」

 

「ヒノワ? あそこは危険だよ。よそ者は受け付けないし、下手をしたら殺される危険もある」

 

「承知しています。ですが、私たちにはまずヒノワに寄らなくてはならない理由があるのです。何としても」


 カルミナは燃えるような赤い瞳でマイルズを見つめる。マイルズは凛としたその美しさに思わずドキッとする。


(なるほど、覚悟を決めた目だ……。嘘をついているようには見えない。本当に何か大事な理由があるんだろう)


 マイルズはその瞳から何かを察し、それ以上の追求はしなかった。しかし、とある事実だけは、言っておかねばならなかった。


「お三方……。大変言いにくいのですが……」

 

「どうした? マイルズ」


 ハロルドはマイルズの様子に、嫌な予感を覚える。そしてすぐにその嫌な予感は正しいと思い知らされることになる。


「現在、ヒノワへのルートはありません。神の御名のもと、そのルートは止められたのです」


 カルミナたちの前に早速、分厚い壁が立ち塞がったのである。


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