一旦の別れ、そして次の舞台へ
「もう、行くんだね?」
「ああ。いつまでもここにいる理由はないからな」
世界が朝を迎え、明るくなってきた頃、カルミナとアリシアはオルトスと別れの言葉を交わしていた。
「カルミナ、アリシア。最初はまあ、あんなんだったが……、今日お前たちに出会えて良かった。お前たちに出会わなければ、俺はここで志半ばに朽ち果てていただろう」
「それはこっちも同じ気持ち。本当に、ありがとう」
カルミナとオルトスは互いに拳を突き出して、コツンと軽くぶつける。二人とも、互いに友と出逢えたからか気持ちの良い笑顔だった。
「だが、勝負をなかったことにはできない。次に会った時にはお前に何としても勝つ」
「ええ……、それまだやるんだ……」
「当然」
「良かったねカルミナ。喧嘩友達ができた」
「何を言うんですかアリシア! それじゃまるで私が不良の暴れ馬みたいじゃあないですか!!」
アリシアの言葉を、カルミナは即座に否定する。アリシアはふふっ、と小さく笑ってーー
「分かってるよ。カルミナは不良じゃない」
「アリシア…!」(恍惚の表情)
「不良じゃなくて変態だもんね」
「うわあああああああん!! アリシアが虐めるううう!!!」
アリシアの言葉のナイフがグサリと刺さり、カルミナは大声を出して泣きわめく。アリシアはカルミナのその反応を見て、さらにクスクス、と愉快そうに笑った。
オルトスは置いてけぼりの感覚になりながらもーー、
「やっぱ仲良いんだな、お前ら」
二人のやり取りを見て、生暖かい笑みを浮かべた。カルミナたちはその声に反応して、オルトスの方を向く。
「そうそう! 私たちはこんなにも仲良しなの!! ねっ、アリシア!」
「……まあ、ね」
「あーん、そうやって顔をそむけるのもかわいいいい♪」
「人前で、スリスリしないでよ……。恥ずかしい……」
「だってえ~、かわいいんだもん♪」
「………もう」
「はいはい、夫婦?プレイは二人きりのときにやってくれ」
オルトスは手をパンパンと叩いて、面倒くさそうに言った。
「そういえば、オルトス」
「あん?」
カルミナが、ふと思い出したようにオルトスに尋ねた。
「あの二人もオルトスと同じ黒豹顔をしていたけど、やっぱり……」
「ああ、同郷だよ。俺とあいつら二人だけが生き残った」
オルトスはカルミナたちに背を向ける。その背中は、かすかに震えていた。
「あいつらは……、生まれた時から一緒にいた幼馴染みなんだ。俺が二つ年上だから、よくあいつらの面倒見ててよ。二人とも、こんな俺に懐いてくれて……」
オルトスの声が段々と小さくなる。過去を思い出したのか、震えはさらに大きくなる。
「あいつらには、復讐なんてできるほど心が汚れちゃいねえ。良い奴らなんだ……! そんな奴らに、俺は咎を背負わせたくない」
「オルトス……」
「嫌われ者は俺だけでいい。あいつらの両親の仇も、俺が代わりに討つ! だからあいつらにはこの戦いが終わった後、自由に生きさせる」
「オルトス、それは! 二人の気持ちは……!」
「そんなことも分かってる!! 今は言わないでくれ、カルミナ。俺がいなくなった後、あいつらがどんな顔をするかくらい、俺が一番分かってる」
「オルトス……」
オルトスは、なおもカルミナたちに背を向けたまま、上を見上げる。朝日の光がオルトスの顔にいたく突き刺さった。
「……分かった。今はもう、何も言わない」
「カルミナ…」
「命を懸けてでも、誰かを守りたい気持ちは私が一番よく分かっているから」
「カルミナ……、ありがとう……!」
ようやくオルトスはカルミナたちの方に顔を向けた。オルトスの目は、朝日に照らされてより黒く、美しい光を帯びていた。
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「しっかし、あいつら、いつまでのびてやがる……。お前、本当に何したんだよ……」
「い、いや……、頭をガーンと一発……」
「ああ、俺にやったヤツか……。はぁ、あいつらもまだまだ軟弱だなあ……」
オルトスがハァ、と勢いよくため息をつく。頭をポリポリと掻きながらしょうがない、と言ったような顔をしてーー
「そろそろ行く。あいつらも拾わなきゃならないしな」
「うん…。私たちも、ハロルドおじさんが探してるだろうし」
「それじゃあ、近いうちにまた会えるだろう。その時まで」
「うん! またね!!」
オルトスとカルミナは互いに笑い合う。そして、今度はアリシアに顔を向ける。
「アリシア」
「……何?」
「死ぬなよ、絶対に」
「……うん、あなたもね」
「フッ……ああ」
オルトスは最後にそう笑うと、一瞬にして森の中に消えていった。もう、彼の姿は影も形もない。
「さてと! それじゃあ、ハロルドおじさんのもとに行きますか!」
「ハロルドさん、怒ってるかな……」
「まあ、仕方ないよそれは……。甘んじて受けよう」
「そうだね」
「さっ、アリシア」
カルミナは手を伸ばす。アリシアもそれに応える。
その小さな手は、震えることなくしっかりとカルミナの手を掴んだ。
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ハロルドはある程度こちらまで来ていたらしく、寝ていた場所に戻る前に二人はハロルドと再会した。ハロルドは目に涙を溜めながら、二人を見るなり思い切り抱き寄せた。
「お前らどこに行ってたんだ! 心配させやがって……!」
「おじさん、ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
「とにかく、無事で良かった……! お前らに何かあったら、俺はヘンリーに顔向けできねえ…!」
ハロルドは二人の頭をわしゃわしゃさせながら、二人が無事であることに安堵した。カルミナたちも、ハロルドが心配してくれたことに申し訳なさを感じながらも、案じてくれたことを嬉しく思った。
しばらくしてハロルドが落ち着いてから、カルミナは事の次第を彼に説明した。
「なるほど……。神軍がここまで来ていたか……。となりゃ、一刻も早くサマルカンに向かわないとな」
「そうだね、のんびりしている時間はないかな」
「そうと決まれば、さっさと行こう。お前らは疲れただろうから、ひとまず馬車の中で休め」
「おじさん、ありがとう!」
「ありがとう、ハロルドさん…」
アリシアは申し訳無さそうにハロルドを見つめた。ハロルドは何かを察したのか、アリシアの頭を優しく撫でた。アリシアはハッとなってハロルドを見る。
「アリシア、色々思うことはあるんだろうが俺から言えることは一つだ」
「……何?」
「気にするな、以上」
「……!ハロルドさん…」
ハロルドはフッ、と軽く笑った後そのまま運転席に向かった。アリシアは今ほどハロルドに撫でられた部分にそっと触れる。
その場所は、日だまりに照らされた直後のように暖かく、アリシアはこの暖かさにどこか愛おしさを覚えるのだった。
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「着いたぞ、起きろお前ら」
「ん……、う~ん……」
ハロルドの声で二人は起こされる。あの後、二人とも馬車の中で気絶するように眠った。もうすでに、日は沈み出していた。
「結構、寝てたんだね……」
「うう……、頭が痛い……」
「アリシア~、よしよし~」
「どさくさに紛れて撫でるなぁ……」
アリシアは嫌そうに、カルミナの手を振り払う。カルミナは少しショックを受けながらも、馬車から身を乗り出して前方の街を見る。いまだ寝惚け気味のアリシアもカルミナの後に続いた。
「ここが、交易都市サマルカン……」
前方に見える、巨大な壁に囲まれた街。所々その壁より高い建物が顔を出している。そして、街の入り口である門の外にズラリと並ぶたくさんの人々。その人たちが思い思いにしゃべることで、街の外にも関わらず、お祭り騒ぎのように賑やかだ。
「さあ、お前ら。準備はいいな?」
「うん! だよね、アリシア!」
「うん…、カルミナ」
あの出来事を乗り越えられた二人なら、この先もきっと乗り越えられる。
カルミナとアリシアはその確信を胸に、前方のきらびやかな石造りの街を眺めるのであった。
ーー第一章 完結ーー
第一章、完結しました!!
この後は閑話を2話挟んだあと、第二章に続きます!
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