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【完結済】愛し愛される世界へ ~一目惚れした彼女が、この世界の敵でした~  作者: 冬木アルマ
第一章

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聖なる狂気

「だん、ざああああああい!!!!!」


 ヴァルスが耳を突き刺すような甲高い声をあげたのと同時に、五人の部下たちが腰の剣を引き抜いて一斉に駆け出した。

 部下たちは瞬く間にカルミナとオルトスを囲み、剣を向けた。全員が一糸乱れることのない、訓練された動きだ。その光景を眺めながら、ヴァルスはニヤァ~と再び気味の悪い笑みを浮かべた。すでに自分たちの勝利を確信しているようだ。


「ギャハハハハハ!! まあ逃げずに潔く御魂(みたま)を捧げに来たことは褒めてさしあげましょ~う!! 抵抗はムダですよぅ~? 我らは日々、神の御元でお前たちが想像も付かぬような厳しい修練に励み、心身ともにお前たちよりはぁ~るかに優れているのでぇ~す!! お前たちに勝ち目など、初めからないのです! さぁ……、覚悟を決めてくださぁ~い!」


 ヴァルスは喜びのあまり奇妙な踊りをしながら、ゲラゲラと高笑いをし始めた。その姿はさながら全く売れない道化師のよう。カルミナとオルトスは互いに背を預けて神軍(ジーニス)と対峙する。そしてーー、


 二人は、なんと()()を解いてしまった。そして、だらんとその場に諦めたように立ち尽くす。


「えっ……? 二人とも!?」


 アリシアは遠くから驚きの声をあげる。そんな二人の姿を見たヴァルスは満足そうに何度も頷いた。


「うんうん、それでいいのですよぉ……。さあ、あなたたち! 苦しめるのはいけませぇ~ん……。優しく、一瞬で御魂を神の御元へ送るのでぇ~す!」


 五人のうち、カルミナとオルトスの向かいにいる兵士二人が、剣を構えたままゆっくり歩み寄る。兵士たちが目と鼻の先に近づいても二人は俯いたままだ。むしろ、大人しく自分の首を差し出すかのように兵士たちに顔を近づける。

 そして、二人の兵士が同時に剣を首に向かって振り下ろした時ーー



  二人は、一瞬()()()


「………え?」

「「が、ガハッ……」」



 カルミナとオルトスの首は離れることなく、代わりに剣を振り下ろした二人のほうが血を噴き出している。カルミナとオルトスはいつの間にか、先程までいた場所から少し横にずれて立っていた。おかげで、向かい合っていた兵士たちはお互いを斬り合ってしまう。


「な、なあっ……!?」

 

「さすがになめすぎでしょ……。さっきまで私たちあんなに敵意むき出しだったのに……」

 

「てめえらにくれてやるものなんざ、一つもねえよばぁーか」


 オルトスが舌を出して挑発しているそばで、カルミナは兵士たちの血を見たからか、青ざめた顔をしていた。手で口と鼻を覆い、今にも中から出てきそうなモノを抑え込む。


「なんだよおめえ、人の血を見るの初めてかよ」

 

「う、うん……。ごめんね、なるべくすぐに慣れる」

 

「今日は少なくとも慣れないと思うぞ」

 

「そ、そっか……」

 

「とにかく殺せとは言わねえから、せめて気絶させてくれ。それくらい、朝飯前だろ?」

 

「当然!」


「ぐぬぬぬぬ……、どこまでも我らを侮辱しおってぇ~……! 何をしているお前たち!! さっさと奴らを断罪するのでぇ~す!!」


 残る三人が、一気にカルミナとオルトスに向かって走り出した。


「うらああああああああ!!!!」


 オルトスはそのまま真っ向から走り出した。兵士たちは構わずオルトスに向かって同時に剣を力いっぱい振り下ろす。しかしーー


「甘いぜ!!」

 

「「……!! なっ!?」」


 オルトスは二人の放った斬撃を、片手でそれぞれ()()()()()。そのまま、剣を左に右に振り回す。兵士たちは振りほどかれまいと、必死に自分の剣にしがみついて、オルトスから取り戻そうと踏ん張る。オルトスはその光景を見てニヤリと笑い、


「うらあ!!!」

 

「「が……、ぐあっ!!」」


 掴んでいた剣を、兵士二人が勢いよくぶつかるように振った。オルトスの思惑通り、剣を取り戻すことに集中していた兵士たちは頭からぶつかり、そのまま意識を失ってしまった。


「へっ、何が神の元で鍛えてる、だ。素人じゃねえかよ」



 一方、カルミナは残る一人と一対一で向かい合う。兵士は剣を力強く握り締め、一瞬で間合いを詰めてきた。カルミナは全く動かない。兵士はカルミナが反応できていないと思い勝ちを確信しながら、勢いを殺さないまま剣をカルミナに向けて振る。


  ヒュンーー


 しかし、勢い良く振ったその剣は、虚しく空を切る。全く手応えがなかったことに、兵士は一瞬何が起きたのか分からず首を傾げた。

 カルミナは先程までいた場所から、ほんの少し後ろに下がっていた。よく見なければ分からないほど、ほんのわずかな距離。

 しかしその距離は、ギリギリ剣の切っ先が当たらない間合いであった。


「チッ……、俺も耄碌(もうろく)したみたいだな。この程度を外すなど……だが、これならどうだ!!」


 今度はさらに剣に力を込め、カルミナに対して連続で素早く斬りかかる。さすがに何度もまぐれで当たらないなんてことはないはずだ。だが…、


「ば、ばかな…。全部、外しただと…?」


 カルミナは変わらず、目を瞑りながら立ち尽くしている。その余裕を見せつけているような態度が、兵士の癪にさわった。


「うおおおおおおお!!!! なめやがってええええ!!!」


 兵士は雄叫びをあげながら、一閃、また一閃と休むことなく剣を振り続ける。カルミナは静かに、まるで瞑想しているかのように目を閉じながら、それらを全て紙一重で回避する。

 確実に捉えたはずなのに、気付いたら間合いが少しずれている。兵士は霧に包まれたような感覚に陥り、次第に恐れが増していく。


「なぜだ……、なぜ当たらない!?」

 

()()を見せ過ぎだよ」


 カルミナは、ボソリと呟くように言った。兵士はそれを聞いてビクッと肩を震わせる。冷や汗が止まらない。


(自分は一体、何を相手にしている…?)


 目の前の金髪の少女が一瞬、長い年月をかけて一つの道を極めた達人に見えた気がした。兵士は、首を横にブンブンと振って、幻覚を断ち切ろうとした。


(あり得ん! ハッタリだ……! 神の御名を背負っている俺が、ここで負けるわけにはいかないんだ!!)


 震える手を必死で抑え、再び兵士は構えを作る。カルミナは相変わらず、微動だに動かない。


「その慢心……、我が剣を以て貴様ごと叩っ斬る!!」


 再び全身に力を込めて、さっきとは比べ物にならないスピードで一閃を繰り出した。


(どうだ! これなら避けれまい!!)


 今度こそ確実に捉えた!! 兵士がそう思った瞬間ーー、


(………え? なん、で……)


 唐突に意識が薄れていく。自分の身に何が起きているのか分からない。視界がぼやけていく中、最後に見たのは、こちらに向かって拳を突き出している少女の姿。それを見て、ようやく悟る。


(そうか……。俺、やられた、の、か……)


 兵士は、そのまま意識を暗闇の中に落ちていった。


 ~~~~~~~


「フゥーーー……」


 カルミナは大きく息を吐いて、構えを解いた。オルトスはそんなカルミナに笑いながら近づく。


「フッ、さすがだな」

 

「あら、見てたの? てかやっぱりオルトスすごく強いじゃん。二人同時に倒すなんて」

 

「こいつらの動きは単調で、やりやすかったからな。お前と違って」

 

「じゃあ、私はオルトスキラーってわけだね♪」

 

「自惚れるな。次に戦うときには克服している」

 

「だから、次はやらないってば」

 

「勝ち逃げは許さんぞ」

 

「別に私、勝ち負け競いたくてさっき戦ったわけじゃないし……」


 カルミナはため息をつく。オルトスにとって、カルミナとの対決は決定事項らしい。


「さて、そんなことは良いとして……、あとはあなただけね」

 

「油断したなヴァルス。もう少し部下を連れてきたら、どうなるか分からなかったのにな」

 

「ぐぬぬ…!こぉ~の背徳者どもめぇ~…」


 ヴァルスは悔しそうに歯噛みしながら、二人を憎々しげに見つめた。先程の余裕はどこにもなく、呼吸も荒い。カルミナとオルトスは同時に構える。


「二人とも、本当にすごい……。兵士たちもかなり強いはずなのに……。一瞬で倒しちゃった……」


 アリシアはギュッと服を掴みながら、二人の戦いぶりを遠くから眺めていた。二人の強さに素直にすごいと感嘆したと同時に、何ともいえない歯がゆい感情が、アリシアの心を支配し始めた。


(私にも、二人みたいにもっと力があれば…)


 アリシアには戦う力はない。ないから逃げるしかなかった。今も、カルミナに守ってもらっている状況だ。しかしオルトスは、アリシアと同じ世界の敵(ナーディル)であるが、戦う力をもっている。自分の無力感を否応なしに思い知らされてしまった。


「さあ、観念することねヴァルス! 逃げるなら今のうちだよ!」

 

「逃げる……? この私が? 神の敵を前に? ふっふっふ……」


 ヴァルスはぶつぶつ言いながら身体を震わしーー


「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


 最初の時のように、耳を塞ぎたくなるほどのうるさい高笑いを始めた。


「何が可笑しい!?」

 

「いやぁ何……。お二人がもう勝ち誇っているのが滑稽でしてねぇ~……。つい、面白くなってしまいましたよ……」

 

「何を言う。戦う力のないテメエに、もはや勝ち目などない!!」

 

「それはぁ~、どうでしょ~う? そもそも、なぜ私が遣わされたのか、あなた方はちゃんと考えましたかぁ~?」


 ヴァルスは目を細め、ニヤリとまた不敵な笑みを浮かべる。カルミナは、何か取り返しのつかない事態になるような、そんな嫌な予感が走る。


「まずいオルトス……、あいつ、まだ何か()()!! 早く捕まえなきゃ!」

 

「もう遅い!! さぁ、今こそ目覚めの時でぇ~す!!」


 そう言ってヴァルスは、懐から卵型の白い球体を取り出した。それは、ヴァルスの手のひらにすっぽり入るくらいの小ささだった。そして、その球体が辺りを照らすようにぱあっと光りだした。

 カルミナたちはあまりのまぶしさに、慌てて目を覆った。


「な、何!?」


 やがて、光が消えて再び暗闇の世界に戻る。カルミナたちはおそるおそる目を開けると……、


「な、なんだよ……こいつは……」

 

「こ、これ、は……」


 カルミナたちは目の前の光景が信じられないような、唖然とした顔で見つめる。

 ヴァルスは、高らかに笑いーー、


「うひゃはははははは!!! 成功でぇ~す!! もうこれでお前たちはおしまいでぇ~す!! さあ、世界の安寧を取り戻しますよ!! 我が神軍(ジーニス)の新たな兵士、()()よ!!!」


 突如、カルミナたちの目の前に、見上げないと顔が見えないほど巨大な白い化物が、顕現した。

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