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スキル名が判明した。

ここだけ鬱展開(?)です


冒頭の鬱々はいずれ訪れるザマァな時への布石として、王道ですよね( ´艸`)

コイツは筋がイイなぁ。将来は一帯を締める器かもしれん。


そう言って、黒蜘蛛の親分は可愛がってくれた。

ただの孤児が生きて行くには、拾ってくれた悪党達に従うしかなかった。教え込まれるまま、掏摸すりを覚え、錠開けを覚えた。毎日の上納金あがりを黒蜘蛛の親分の右腕・黄蟷螂の兄貴に渡し、路地裏のボロ屋で眠ることを許してもらう。


10歳になるまでに、オレと同期のヤツは鼠と百足の二人にまで減っていた。みんな、仕事に失敗したりなんだりで、あっさり死んで行ったからだ。悪党なんて、大人も子どももそんなもの。


「灰猫は要領がイイんだよね。羨ましいよ」


昔、2つ上の蝶の姉さんがそう言っていた。未成年で親分から「灰」って通り名を貰っているのはオレ一人。色を冠するのは特別な、誇らしいことだと教えられた。

親分が目をかけている子ども。それがオレ「灰猫」の全てだった。


「お前達はどんなスキルを貰ったんだい?」


日向ぼっこの似合いそうな好々爺然とした老人が、泣く子も黙る黒蜘蛛の親分だ。仕事をしていない時の親分は、上品なじいさんにしか見えない。

高級な調度品の揃った室内で、その親分は期待に満ちた目をオレ達に向けていた。


今日はオレ達10歳組にとって運命の日。降誕祭。


神様の代行者たる大天使様が現世に降り立った記念日で、その日、大天使様は新しく10歳を迎えた子ども達に祝福を与えてくれる。見た目は天使様に似てるのに、人間ってヤツはすごく弱くて脆くて、特に子どもなんて10歳まで生きる者の方が少ないから、特別に加護を与えてくれるんだって。

神様と大天使様の慈悲なのだ、と教会の偉いおっさんが言っていた。


「どうだい、鼠?」


優しく訊かれたはずなのに、オレの右隣に立つ鼠がガタガタと震えているのがわかった。


「どうしたんだい?」


「ぉ……オイラ…………すんませんっ!!」


その場でガバッと土下座する鼠に、オレは事態を察した。コイツ、ノンスキラーだったんだな。


大天使様の祝福は、魂に眠っていた力を呼び起こしてくれる。病弱な子がマシになったり、チビの背が伸びたりする程度だが、稀に、スキルという才能に目覚める者がいる。

スキルを持つ人間・スキラーはホントに少ない。大天使様がスキルを与えてくれるわけじゃなくて、スキラーは生まれつきスキラーだからだ。自覚できないレベルでしかなかったスキルが、大天使様の祝福のおかげで成長し、自覚できるようになる。

ただでさえ少ないスキラーなのに、10歳まで生きるのは更に少ない。だから、世の中、ノンスキラーの方が圧倒的に多かった。


ただし、


「テメェ……親分の顔に泥塗りやがったな!!」


「ひぃぃいっ」


悪党の世界にはスキラーが多い。見込みのある子どもだけを拾って、または攫って来て育てるのだから、当然だ。

すんません、と連呼する鼠に親分は


「残念だねぇ。黄蟷螂、鼠は明日っから茶雀んとこにやんな」


笑顔であっさりそう決めた。

茶雀の兄貴の部隊は汚れ仕事担当だ。花形部隊の尻拭い。キツい、臭い、安いで慢性的な人手不足だと聞いている。黒蜘蛛の親分傘下の、ノンスキラー部隊の一つだ。


親分は泣きながら引きずられて行く鼠に興味がないのか、さっさと百足に顔を向けた。


「百足や、お前はどうだい?」


「ぉ……オデは、『無音』だっだ」


「ほぉ。それはイイね。お前のムカデのような動きは『無音』の賜物か。ふぉっふぉっ、ワシの目に狂いはなかったようだのぉ。百足は藍鳶に任せようか」


図体のわりに素早い百足は、案の定スキラーだった。大天使様の祝福を得た今、ヤツの動きは段違いに伸びたことだろう。暗殺部隊に配属されるのだ、親分の期待のほどがわかる。

オレは小さく俯くと、ギッと唇を噛みしめた。


「さてさて、灰猫や。聞かせておくれ?」


ついに来た。親分はどんな反応をするだろう。まったく想像がつかないのが恐ろしい。

鼠のような目に合うのだろうか。

奢っていたつもりはないが、それでも、3人の中で一番上だと思って来た、のに。


「灰猫?」


「…………『……ティー』」


「あぁん?」


「これ黄蟷螂、焦るでないよ。灰猫、はっきり言ってごらん」


「…………『メンティー』」


「うぅん?」


「テメェ………まさかノンスキラーか……? テキトーなこと言ってんじゃねぇぞ」


「違うよ! オレはスキラーだっ! 『メンティー』ってスキルで……っ」


「聞いたことがないねぇ。ちょいと、紫梟を呼びな」


……やっぱり、親分も知らないスキルだったんだ……。


オレ自身、大天使様の祝福を受けて初めて知ったスキルの名前だった。詳しいことなんてさっぱりわからない。発動してみようにも、ちっとも上手く行かなかった。

でも、今まで、「スキルが発動してるな」って思った時はあったんだ。何かしら、役に立ってたはずなんだ。

祝福を得る前から感じられるくらいに強いスキルは、密かにオレの自慢だった。それなのに……っ!


「『めんちー』、とのぉ?」


しばらくの後、連れて来られた紫梟のじぃさんはコキコキと音を立てながら首を傾げた。

ドクリ、嫌な汗が流れる。


「生き字引と言われるお前さんなら知っとるか?」


「ふーむ…………知らん」


「灰猫はこれまでたんまり稼いで来た。これからも役に立つと思うかぇ?」


「そうさのぉ」


紫梟のじぃさんの一言でオレの人生が決まる。そう思った。

今まで何でも自分の力で切り抜けてきたのに、まさか、この場面で人任せ。小汚いじぃさんに命を握られている。こんな恐怖、兄貴達に殴られる時ですら、感じなかった。


「『めんちー』っつーのは知らんが、一般論として言えばのぉ…………」



※※※



「あら、あの子、見たことがあるわ」


「ほぅ。ティカーテが覚えているということは、小悪党か。おい」


何かが近づいて来て、オレの髪の毛を引っ張った。むんずと掴まれ引っ張り上げられる髪は、痛いはずなのに、感じなかった。

オレ……まだ生きてんのかな……。


地面の冷たさが伝染して、春なのに体が凍ったように動かない。

鼠みたいに、茶雀の兄貴んとこに行かされた方がずっと良かった。あそこには少なくとも、屋根と飯がある。


「間違いないわね。黒蜘蛛のゴゾラのお気に入りよ」


無理やり上げさせられたオレの顔に見覚えがあったのか、目の前の高そうな服を来た娘がそう言った。習性で貴金属の位置を確かめ……


「あら嫌だ。あなた、泣いているの?」


そうだ……オレはもう、仕事をする必要がないんだった。むしろ、するなと言われた。

正体不明のスキルは破滅を呼ぶから、と嫌われて。

迷信だと思った。けど、紫梟のじぃさんの言うことに反論できるだけのことを示せなかった。スキルは、どうやっても、どう頑張っても、ちっとも発動しなかったのだ。


今までの稼ぎが良かったから温情で命は救われた。けど、追い出された。オレ自身を全て、無視して。

全部、なくした。


悪党にまで見放されたら、どうやって生きていけば良いのだろう。悪事を働く以外知らないのに。

スキルがあったって、オレは無価値だ。


「ちょっと待て。ティカーテ、本当に黒蜘蛛の所の子かい? お前が間違えるとは思わないが……この子どもは『白』だ」


「え? どうしてかしら……間違いなく黒蜘蛛の所の子よ。けれど、お父様には『白』に見える……どうしてかしら。

ねぇ、あなた? 灰猫よね?」


「……っ!」


その名は捨てた。捨てさせられた。

オレはもう、黒蜘蛛の親分とも誰とも関わりがない。

胸がジクリと痛んだ。まだこんな感覚が生きていたのかと驚く。


「ねぇ? 灰猫でしょう?」


「……………ち、が……」


久しぶりに出した声はみっともないぐらい掠れていた。無価値なオレは、声の出し方すら忘れてしまったのだろう。

それでも、親分の最後の命令だ。命令には従わなくてはならない、そう痛いほど身に染み込んでいる。


「オレ、は……一人、だ。……誰でも、ない……。名前……も、ない……」


「ふぅん……。あぁそっか。捨てられたのね? 事情はよくわからないけれど」


早くどっかに行ってくれ。裕福な娘も、気取った紳士も、オレの髪を掴むゴツい男も。


せっかく何も感じないで済んでいたのに。なんで、あれこれ思い出させる。痛みも空腹も、忘れていればツラくないのに。


「ねぇ、あなた。ワタクシが拾ってあげましょうか」


「ティカーテ?」


「灰猫は廃業したのでしょう? お父様、黒蜘蛛には手を焼いていたじゃない。ね、この子、今なら『白』なのよね?」


「ふむ。そういうことか。…………よかろう」


「良かったわね、あなた。運がイイわ。今日からあなたはワタクシのものよ、覚えておいてね。

ギビド、この子を馬車に乗せてくれる?」


「…………荷台でよろしいですか?」


「仕方ないわね、汚いもの。あぁ、この子に名前を付けなければ。もう灰猫ではないのだから」


両脇の下にぐいっと温かな物が差し込まれた。かと思うと、ヒョイと持ち上げられる。大きな男の小脇に、荷物のように抱えられていると気付くには、時間がかかった。


コイツら、オレをどうする気なんだろ……。思ったのは一瞬。次の瞬間にはどうでも良くなって、忘れた。


「白猫、ではつまらないわね。いっそ色から離れて……水猫、花猫、山猫、海猫、空猫、天猫…………。あぁ、それがイイわ。あなたは今日から天猫……アマネよ」


娘の顔は見えない。けれど、親分達と同じ、命じ慣れた、人の上に立つ者らしい声だった。


「アマネ、命令です。ワタクシのため強くおなりなさい。イイ? ワタクシのために、よ。あなたの全てをわたくしに捧げ、ワタクシのため生きなさい」



他にも連載中がいろいろあるにも関わらず、また始めてしまいました(^-^;

いつもは「こんなの書きたい!」と思うのですが、今回は「軽くてスカッとするチート無双が読みたい!」という趣味先行型


コロナ……がなくても鬱々とした御時世です

物語の中でくらい、気分良く行きたいじゃない!チート無双大賛成! ……というノリで参ります( ´艸`)

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