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センパイ、「計算高い」って褒め言葉ですよそれ♪  作者: ラムチョップ三世
エピローグ
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エピローグ

「先輩、このファイルはここでいいですか?」

「あー……それはあっちの棚で。左上の方にそれの古いのあるからそれと並べといて」

「了解です」

 藤和は持っていたファイルを棚に収めると、やることがなくなったようで席に座る。


「遅いですねー、一年生達」

 回転イスの背もたれを抱えるように座ったヒナが、くるくると回りながらそう呟いた。


「そうだねー」 

「ま、今日は仕事があるわけじゃないし急がなくてもいいだろ」

「それもそうですねー。……あ、センパイ」

「ん?」

「…………目、回りました」

「アホだろお前」

「……だってパイプ椅子じゃなくて回転イスですよ? しかもこんなに広いんですよ? ……回るっきゃないでしょう」

「確かに無駄に広いけども」

 俺は改めて部屋の中を見渡す。ここはいつもの後輩部の部室ではない。神楽坂先輩との思い出の場所。そして今ではそれ以上にヒナとの思い出の場所。


 そう、生徒会室だった。


 ヒナと付き合った日から数ヶ月後、俺は生徒会長選挙に出馬した。唯一の三年生であったことや、かつて神楽坂先輩の右腕として活動してたことを知る者も多かったことで無事当選すると、予定通りヒナを副会長に据えた。さらに弦楽部と両立で負担が大きいながらも本人たっての希望で藤和を会計に、そして残りの役員に自己推薦の一年生二人を招いて、生徒会活動を行うこととなったのだった。

 今日はその顔合わせだ。一応互いに顔と名前は知っているが、正式に。


「……もしかしてここが分かってないとか?」

「いやいや結衣ちゃん、それはさすがに……」

「……なくはないかもな」

 生徒会室は教室棟の最上階にあって、普段は前を通ることもない。生徒会役員になったとはいえ、入学したての一年生だ。知らない可能性は大いにあった。


「私ちょっと見てきます!」

 そう言って藤和が早足で部屋を後にする。必然、俺とヒナの二人きりになった。


「ここでセンパイと二人になると、あの時を思い出しますね」

「やめろ恥ずかしい……」

 ヒナはくすくすと笑うと勢いよく立ち上がる。反動でイスが床を滑った。


「ありがとうございます。ヒナのために生徒会長になってもらって」

「別にお前のためだけじゃないよ。元より神楽坂先輩のことは差し引いても、生徒会の活動はそれなりに楽しかったし」


 だから先輩に振られたというわだかまりが消えた今、生徒会に入るというのは俺の中で自然なことだった。


「ただまぁ……どこまでもお前の計算通りだな」

「えへへ♪」

 はにかむヒナの顔は、相変わらず百点満点に可愛い。付き合った当初は本当にこんなに可愛いやつが俺の彼女なのかと度々思っていたが、ようやく実感が湧いてきた。しかしまだヒナという呼び方には慣れない。ヒナに至っては俺のことはまだセンパイ呼びだった。


 ただ、恋仲自体に関しては順調と思えた。いかんせん両者経験がないから主観になるけど、特に不和もなく、高校生らしい健全なお付き合いをしている。……ただまぁ、そろそろキスくらいしてもいいんじゃないかと個人的には思っていたり。


「これからはどう考えてるんだ?」

「なーんにも」

「え?」

 てっきりヒナのことだから、また何か算段があるのかと思っていた。


「だってセンパイと一緒なら、どんなことだって楽しいですし」

「…………」

「おー、センパイが照れてる」

 ヒナの方が一枚も二枚も上手なのは今も変わらなかった。正直、覆せる気がしない。


 バツが悪くなってそっぽを向いた俺の顔を覗き込んで、ヒナが問う。


「どうです? ヒナ、理想の後輩でしょうか?」

「……ああ。少なくとも俺にとっては最高の後輩だよ」

「ヒナ、可愛いですか?」

「……超可愛い」

「んえっへっへ♪」

 相変わらず独特の笑い方をしていた。


「あ、でもでも、いくらヒナが可愛くてもこれから学校ではベタベタしちゃダメですからね」

 人差し指を立ててそう言うヒナに、なんでさ、と俺は訊ねる。


「だって会長が彼女を副会長にして生徒会を私物化してるって噂されて心象悪くなりますし」

「……お前、そういうとこ聡いよな」

 ただ、実際は副会長が彼氏を会長にして私物化してるって感じだし、ベタベタしてくるのはお前だろうと心の中で突っ込んでおいた。


「生徒会たるもの、生徒の模範とならなきゃいけませんからね!」

「……まぁな」

 それは確かにその通りなのだが、こうも直接的に宣言されると少し物悲しい。




「だから――」




 するとヒナは突然俺に詰め寄り、


「――だからこういうのは、こっそりしなきゃですね」

 ちゅ、と小さくキスをした。


 柑橘系の残り香を置いて、目前にあったヒナの顔が一瞬で遠のく。反射的に唇を指先でなぞるとリップクリームのべたつきがあって、確かにヒナの唇がそこにあったことを証明していた。


「……お、お前なぁ」

「にひひ♪」

 呆れながらも喜びが隠し切れていない俺に、ヒナはいたずらっ子のように笑みを浮かべる。しかしその両頬は真っ赤に染まっていた。


 まったく……。



 

 本当に、俺の後輩はどこまでも計算高くて、最高に可愛い。




                               おしまい

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