表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
センパイ、「計算高い」って褒め言葉ですよそれ♪  作者: ラムチョップ三世
第3話
13/49

3-4

「近かったなー」

「二秒なので……ええっと」

 姫宮と揃って窓の外を眺めながら話す。


「七百メートルってとこか」

「さすが梅雨ですね」

「いや、梅雨って別に雨が多いだけで、雷はそうでもないらしいぞ」

「え、そうなんですか」

「らしいぞ」

 神楽坂先輩が言ってたからたぶん本当だろう。


「へぇー。藤和さんは知ってました? ……藤和さん?」

 振り返って藤和の席を向くも、そこに彼女の姿はなかった。


「藤和さん?」


 一体どこに行ったのかと見渡すと、部屋の隅にしゃがみ込んでいる藤和がいた。両手は固く自身の両耳に当てられている。

 どうしたものかと俺らが対応に困っていると、藤和はしゃがんだままゆっくりとこっちを向いて言った。




「……も、もう、大丈夫ですか……?」




 その声は消え入りそうで、その瞳は潤んでいた。


「「(か、可愛いぃぃぃぃ!!)」

 姫宮と揃って息を呑む。


「(センパイなんですかあれ! ずるくないですか! 超ずるいと思うんですけど!)」

「(いやぁ……うん……)」

「(クール系で完璧な感じ出してて、それで雷怖いとかなんですかそのギャップ! 反則でしょ!)」

「(姫宮。お前の言いたいことは分かるから落ち着け)」

「(あーもうヒナもやります! 使いますあれ!)」


 ちょうどその時、再度雷が鳴った。しかし先ほどよりはずっと小さいものだ。


「きゃぁぁっ!!」

「きゃああああ!!」


 姫宮も藤和に習って、部屋の隅に縮こまる。やっぱり藤和と比べて大袈裟でわざとらしかった。


「…………」


六畳の手狭な部屋の両サイドに、怯えた女子高生が背中を向けて丸くなっているという、非常に混沌とした空間が生まれていた。しばらくその様を眺めたのち、


「……お前らいい加減起きろ」

 そう言うと、姫宮はもちろん、藤和も時間が経って落ち着いたようで、ゆっくりと席に戻る。


「藤和さんは雷が苦手なの?」

「雷というか、急に大きな音するのが苦手で……」

「ちなみに他に怖いものってある?」

「ええっと……お、お化けとか……」

 両手の指先だけを合わせつつ、恥ずかしそうにそう答える藤和。


「……ねぇセンパイやっぱこの子ずるい」

「はいはい分かったから」

 なんとなく姫宮はホラー映画を「ちょ、このゾンビの顔ウケるんですけど!」と笑って観てそうだと思えた。


「そういうことなら、これで悩みは解決出来そうだな」

「ですねー」

「え、ちょ、どういうことですか!?」

 藤和は事態が飲み込めないようだが、俺と姫宮は勝手に納得していた。


「とりあえず藤和さん。これから雨の日は先輩達の近くで練習しとけばいいよ」

「え、それだけでいいんですか?」

「うん」

 これから数日は雨が続くらしい。


「わ、かりました……」

 釈然としないまま、藤和は「ありがとうございました」と一言礼を言って、部屋を後にした。


 二人になった部室で、姫宮が独りごちる。


「やっぱ女の子は弱点があった方が可愛いんですかねぇ……」

「まぁ女の子に限ったことじゃないと思うけど、一つくらいあった方がいいかもな」

「……神楽坂会長の弱点は?」

「……ないな。そういえば」

「うぇー」

 姫宮がよく分からん鳴き声をあげる。先輩が何かを怖がったり苦手としたりしてるところなんか、一度も見たことがない。弱点なんてなくても、先輩の周りには彼女を慕う人で溢れていた。


「まぁあの人は特別だから」

「特別ですか……」


 姫宮は椅子に深くもたれかかって、遠い目をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ