EPISODE1 紫炎覚醒 編 その5
その5です。その5は今までの話より短めで、変な専門用語もあまり飛び出さ無いので、若干読みやすいかなぁ〜と!… 思います。
6〜7歳ぐらいの少年が公園の芝生を走り回っていた… 。
その姿を少し離れた位置でベンチに座りながらその少年を微笑ましい笑顔で見ている女性がいた… 。
女性はとても美しく、他人が一目でもその女性を視界に入れれば、立ち止まって見てしまうほどだった… 。
ベンチに腰掛ける女性は白い膝下まであるワンピースを見に纏い、頭には大きい麦わら帽子を被っていた… 。
女性は日焼け止め対策なのか二の腕まである長い手袋をしていた。
季節は夏なのだろう照りつける陽射しは強く、鳴り響く蝉の鳴き声は辺りの雑音さえかき消していた。
「お母さん… 。」少年は芝生を駆けながらベンチに座る女性に向かって笑顔で叫んだ。
しかし、少年は叫んだ拍子に蹴つまずき、いきよいよく顔から芝生の上にこけた。
転んでしまった少年は顔を上げ、あっ!…泣いてしまうのかと思ったが、そんな事はなく何事も無かった様に立ち上がり、服に着いた草を手で払うと笑顔でベンチに座る女性に駆け寄った。
少年が近づくと女性は少年を抱き抱え自分の太ももの上に置いた。
少年は嬉しそう顔で女性を見ると強く胸の辺りを抱き締めた。
女性も嬉しそう顔で自分の事を強く抱き締める少年に、慈愛のこもった顔で彼の頭を優しく撫でた… 。
「お母さん… 。」少年はうっとりとした表情で顔を胸に擦り付けながら女性の名を呼ぶ。
女性も少年の言葉に「なーに… 。」と嬉しそうに返答する。
女性は彼の母だった… 。
側から見れば仲睦まじい様子でとても幸せそうであり、そこには害意も悪意も存在せず愛だけが二人を包んでいる様だった… 。
そんな親子を少し離れた位置で見ている者がいた… 。
その者は夏の蒸せ返る様な暑さの中全身黒い外套を羽織り、黒い手袋にフードまで被っている。
全身黒い外套で覆われているが、突き出した胸や身体のラインから女性である事は解った… 。
それでもどう見ても不審者で他人が見れば通報されそうなものだが、幸いこの公園にはあの親子以外おらず、この不審者を指摘する者は誰一人いなかった… 。
黒い外套を被った不審者が親子に向かってゆっくり歩き出した… 。
一歩二歩確実に近づく、他に誰かがいれば止めたり、声を出して注意を促すが、今この親子しかいない公園にそんな事をしてくれる人は誰もいない… 。
そして、親子も自分達に向かってくる不審者に全く気付いていない様子だった… 。
とうとう黒ずくめの不審者が親子の座るベンチの2メートルぐらいの距離まで近づいた… 。
何かされる!… 第三者が見ればそう思い悲鳴を上げてしまうかもしれないが、親子に近づいた不審者は何かをする訳でもなくただじっと、幸せそうにお互いじゃれ合う親子を見据えるだけだった… 。
ふいに!、少年と黒ずくめの顔が合った… 。
こんなのを子供が見れば泣くか興味本意で何か話しかけたりするのだろうが、少年は別に黒ずくめを見ても騒いだり泣いたりする事もなく、再び母親の方を見て笑顔で微笑んでいた… 。
黒ずくめの不審者が被る外套は目元まで覆う様なフードが付いていたが、口元だけは見えていた… 。
自分を見ても何も反応を示さない少年に黒ずくめの口元が開き何か話しかけようとした… 。
少年が再び黒ずくめの方を見た… 。
「… おねーちゃん誰?… 。」少年は黒ずくめに向かって話しかけた… 。
黒ずくめは一緒、えっ!、と戸惑ったが慌てて頭に被るフードを下ろし「… 私だよ縁君、貴方の母親よ!… 。」そう言って黒ずくめは少年に慈愛のこもった瞳で見つめた… 。
しかし、少年は何の反応も示さず、再び母親の方を向き笑顔で笑っていた… 。
黒ずくめは再び慌てふためき少年に話しかけたが、少年は何も返さず、まるでそこにいない者の様に振舞っていた… 。
黒ずくめは話しかけても反応がないなら、少年に触って無理矢理でもこっちに意識を向けようと手を伸ばした。
‼︎ … 少年に伸ばした腕をいきなり母親に掴まれた… 。
「… 離して!、私の見てる夢何だから、私が邪魔しないで!… 。」
黒ずくめは掴まれた腕を振り払おうと必死になった。
「… 私?、貴方は私じゃない。」黒ずくめの腕を掴む少年の母親がふいにそんな事を言った。
「… はぁ?、何言って… 。」黒ずくめが続きを言いかけた時に、追い風が吹き髪が前になびいた… 。
なびいた髪が視界の横をかすった時、黒ずくめは愕然とした… 。
どうして髪が黒い⁈ … 。
黒ずくめは母親に掴まれていた腕を何とか離すと、自分の髪を掴み視界の前にやった… 。
黒い!、そこには黒々とした髪があり毛先が少しうねっている。
違う!、違う!、自分の髪はこんなんじゃない!… 黒ずくめはパッニクになり頭を抱え膝を着いた… 。
「… 何なのこの夢… 。」黒ずくめがパッニクのあまり小言を吐いたが、その時おかしな事に気付いた… 。
あれ?、自分の声はこんなんだったか?… 。
似ていたから気づかなかったが、元の自分の声より微妙に高い… 髪の色同様声も自分のものとは違う!… 。」
何て酷い夢だ!、黒ずくめはそう思いさらに頭を抱えうなだれた… 。
数秒ぐらいだろうか何かに気づき視界を前にやると、あの少年が自分の前に立っていた… 。
少年が自分の前に来てくれた事に黒ずくめは嬉しさを覚え手を伸ばしたが、次の瞬間不思議な事が起こった… 。
少年はまるで霧の様に黒ずくめの前で霧散し、それを眺めいた少年母親も彼同様霧散した。
状況が解らず慌てふためくと、今度は周りの景色もあの消えた2人の様に霧散して、黒い空間になった… 。
上下左右も解らず、臭いも、音も、風すら感じない黒い空間で黒ずくめは目を閉じて必死なって、醒めろ、醒めろ、醒めろ、と念じた。
これが夢なのは解っている。… それでも気分のいい夢ではない!。
自分と自分がこの世で一番愛している息子が仲睦まじく戯れているのを、別人になった自分が眺める。何だこの夢は!…… 。
目を閉じ夢が醒めてくれる事を待っていると、かすかに肌に風が当たる感じがした… 。
何だと思い目を開けると、さっきまでの黒い空間がなくなり、辺りはまるで空爆でもあったのかと思うほど荒れ果てていた… 。
しかし、一番驚いたのがいつの間にか自分は地面に倒れており、目を開けるまで倒れているなどとは感じなかった… 。
まぁー 、夢だから仕方がないかと、黒ずくめは親子が消えた時ほどパッニクにはならなかった。
‼︎ … いきなり背中に激しい痛みが走った… 。何だと思い背中の方を見ると誰かに自分の背中を蹴りつけられていた… 。
誰が蹴っているのか確認する為、顔を上げると‼︎ …… 。
そこには自分がいた!!!… 。
絶対にこんな顔は自分はしないと確信を持って言えるほど、下卑た笑顔で自分が自分を蹴っていた!… 。
ふいに… 自分と同じ容姿をしたこいつが手に持つ物に目が行った… 。
手に握っていた物は先端が穴の空いたペロペロキャンディーの様な形をした、長さ20センチぐらいの金色に輝く棒だった… 。
アレは!、そんな事を考え身が震えそうになった時、「… 止めろーー 。」と男の声で叫び声が聞こえた… 。
えっ!、この声は… その声を聞いた瞬間黒ずくめは一瞬安堵した。
自分が一番良く聞く声、自分が一番愛している人の声… そして私の息子の………… 。
黒ずくめはこの聞こえて来た声について、思い出が閃光の様に瞬く間にフラッシュバックしたが、今目の前で起こった現状に全てかき消されてしまった… 。
自分を蹴っていた自分がそれを止めよう背後から近づいた男を手に持っていた金色の棒を警棒の様に伸ばし、振り向きざまに切りつけた… 。
切りつけられた男は地面に倒れ伏し、右腕を押さえて痛みで悶えていた。
彼の右腕は無くなっていた…… 。
少し離れた位置に人間に腕らしき物が落ちていた。
切られた断面が赤く発熱しており、焼き切られた事は解った… 。
こんな光景を見れば泣き叫んだりするのだろうが、自分はそうはならなかった… 。
これが夢だと理解しているのもあるが、自分が全く想像し得ない光景を目の前で見た時、脳はどう反応していいのか処理し切れないものだと、この時になって初めて感じた… 。
ただ、もう見たくないと思った、自分と同じ姿をした奴が、自分がこの世で一番傷つけたくない人を傷つける。こんな最悪の夢!… 黒ずくめはそんな事を想いこれ以上見てられないのか目を閉じた…… 。
‼︎ …… 身体の異変に気付き再び目を開けた… 。
地面が妙に柔らかい。いや!、 柔らかいだけではなく何かに包まれている感触もする… 。
暗くてよく見えない!… 手や足をバタつかせ、辺りを探った… 。
「… 目が醒めたか。」誰かの声が耳元で聞こえ慌てて起き上がった… 。
起き上がった瞬間バッさっとシーツが飛び、少し舞い上がった… 。
シーツ?、何故自分の身体に?… 、周りを見た。… 十帖ほどの打ちっ放しのコンクリートで出来ている様な部屋に大きいベットだけがあり、自分は裸でその上にいた… 。
どうしてこんな所に?… そんな自問自答をしていると、ベットの前に誰かが立っているのに気付いた… 。
気付いた瞬間言葉を失った… 。ベットの前に立っていたのは自分【藍田 セレハ】だった… 。
身体がガタガタ震え始めた… 。
震える手でセレハは髪の毛を掴み色を確認した!、 黒色だった… 。
声を出して見た。… 違う!、自分の声じゃない!… 。
まっ、待って!、どうして!… セレハは理解できなかった… いや!、理解出来ないのではなく理解したく無かった… 。
どうして?… 解っていたからだ、これが先ほどとは違い夢などでは無く間違いなく現実で、そうなると今自分の身に起こっている状態は………
…… 。
「… その身体になって最初の目覚めだ、お前にプレゼントをやる…… 。」
セレハが頭の処理速度を超えて自問自答していると、もう1人のセレハが彼女の思案を遮る様に、セレハの前に細長い箱を投げた… 。
箱の長さは80〜90センチぐらいでやけに長い…… 。
「… 開けてみろ。」自分の前に立つ自分が命令口調で指示してきた… 。
セレハは自分の前に投げ捨てられた箱を両手で持った。以外と重い… 。
箱を開けるのを拒否しようとセレハは考えたが、“今の身体”の状態なら間違いなく目の前に立つ自分自身には敵わない!… 。
指示通りセレハは箱を開けた… 。
セレハは苦い顔をした!… 。箱の中には人間の右腕が入っていた!… 。
しかし、セレハはその事で驚いたり悲鳴を上げたりはしなかった。
悪趣味だとは思うが、“昔散々この様なものは見てきた”今さら人の身体の一部を見た所で何も思わない。
セレハがそんな事を頭の中で思っていると、
「… 力は失ったとはいえ“元シエンジャ”の腕だ!… 何かに使えるかも知れないから一応回収しておいた… 。」
セレハは箱から視線を外し前を向いた。自分の前に立つ自分がいきなり話しかけて来た… 。
しかし、セレハはいきなり話しかけられた事よりも、ある一つの単語が気になった!… 。
“元シエンジャ”!…… その単語を頭の中で繰り返しながら箱の中に入っている右腕に、もう一度視線を向けた… 。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
………………………… セレハは何を悟ったのか?
ガタガタ震え始めた!。異常じゃなく震え、手にしていた箱を落とした… 。
落ちた衝撃で箱の中に入っていた右腕が放り出された… 。
放り出された右腕を見てセレハは口を押さえ吐き出しそうになった… 。
違う!、違う!、違う!、違う!、違う!、絶対違う!… セレハはまるで呪文の様に脳内に違うと言い聞かせ自分を保とうとした… 。
そんな彼女の様子に今までどこか愛想のない顔で佇んでいたセレハと同じ顔の人物が初めて笑った!… 。
涙目で口を押さえ今にも吐いてしまいそうになりながらも、そんな自分の姿を下卑た笑みで見据えるこいつにセレハは、怒りと悲しと怨念を込めて叫んだ…… 。
「… ヴァイサーチェル!。」
ベットしか置かれていないこの部屋にセレハの叫び声が木霊した… 。
セレハはベットに顔でうずめ泣いていた!。必死に我慢しようとしたがダメだった… 。
「… やっぱり腕を持って来て正解だったな!…
お前のそんな顔を見れたんだか… 。」
セレハの叫びなどおくびにもかけないと言った様子でその人物…【ヴァイサーチェル】は笑顔でセレハに話しかけた… 。
セレハは顔をうずめながら視線だけをヴァイサーチェルに向けた… 。
ヴァイサーチェルに向けるその目は殺意と悲しみで満ち溢れていた!… 。
その5読んで頂いた皆様ありがとうございます。
相変わらず意味が分かりませんが、何となく読者の皆様に伝わっているのなら、それはそれで筆者トマトジュース的には御の字です。