表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

EPISODE1 紫炎覚醒 編 その3

ELPIS その3です。その1その2よりこのその3は、全体的に説教臭い感じになっているので、もしかしたら合わ無い人も出てくるかも知れませんが、それでも楽しんで頂けたのなら幸いです。

藍田(あいだ)(えん)はこの自分と瓜二つの人物、アイダ エンに、何とも言えない感覚になった。


まだ、完全に断定するには早いのだろうが、自分に対する接し方や置かれている状況から見て、少なくてもアイダ エンは自分の敵ではないと、彼はそう判断した。


縁は辺りを見回した。先程は色々な事が頭を駆け巡り周りを気にする事が出来なかった。


縁は自分が今着ている衣服を確認した。


着ていたのは患者が着る手術着の様な物で、下着をはいていない為、下がすうすうして縁は落ち着かない表情をとった。


縁は周りも見渡して見た… 。


彼が寝かされていたベットの周りには何も置かれていなかった。


ただ、置かれてはいなかったが、“囲まれてはいた”。透明な箱の様な物に‼︎…。


見た目は透明なアクリル板の様で、縁がいるベットの周りを半径4メトールぐらいの幅を空けて、隙間なく囲んでいる。


アクリル板の向こうはプレハブ小屋で使われそうな、波打ったトタン板で出来た大きい部屋だった。


このアクリル板で囲われた巨大な箱は、ぱっと見では無菌室の様な感じもしたが、縁はどちらかと言えば、ウィルスに侵された人間を治療と言う名目(めいもく)で閉じ込めておく、隔離室の様な感じがした。


縁は急に不安になった…今更だが何故?、自分はこんな部屋で寝かされていたのか?…。


ふいに縁は天井を見上げた。天井にもアクリル板で蓋をしている。


ただし、真ん中だけはアクリル板が空いて、そこから上に向かって、蛇腹状のダクトがプレハブの天井まで伸びて繋がっている。


「この部屋が気になるか…。」唐突にアイダ エンが、話しかけた!… 。


急に話しかけられた縁はあたふたしてしまい、「ハイ」と言うたった一言の言葉が直ぐには出なかった。


そんな、縁の気持ちを汲んだのか、アイダ エンは縁が何も言っていないのに、勝手に話し始めた。


「…この部屋は隔離室だ…。」


「えっ!… 」思わず縁は乾いた声が出てしまった。

隔離室?…どう言う事だ、自分は何かの病気にかかったのか?…でも、わざわざわ隔離すると言う事は何か深刻なものなのか?……。


縁は青ざめてうつむいてしまった。身体も微かに震えている!… 。


そんな縁の姿を見た、アイダ エンは彼の背中を優しくさすった。


さすられた瞬間、縁は不思議と不安や焦りが消え、色々な事で逆立っていた神経がほぐされていくような心地よい感覚になった。


アイダ エンは少し生気が戻った縁を見ると、少し微笑み、再び話しの続きをし始めた。


「…藍田君、どうやら私は君に要らぬ誤解を与えてしまった様だね、すまない…。先程ここを隔離室と言ったが、君を周りから隔離しているのではなく、周りから君を隔離しているのだ…。」


「…どう言う事ですか?周りから隔離するって?…。」縁は訝しげな表情でアイダ エンを見た。


「そのままの意味だよ藍田 、縁君…この部屋の中は“君の住んでいた星の大気”に合わせているが、この部屋から一歩外に出れば君は1分と持たないだろ。」


縁は混乱した。“君の住んでた星の大気”とはどう言う事だ…それに一歩外って、そもそもこの部屋は何なのか?…。


考えれば考える程、縁は混乱し、柔らかくほぐされていた神経が再び硬くなり、逆立っていく感覚がした。


「君は意外と神経質なんだな…」縁の背中を未ださすり続けるアイダ エンはボソッとそうつぶやいた。


「…そんな事、別にありませ…ってか、もう、さすらなくていいです…。」


「…解った。」アイダ エンは何も言い返さず、素直に縁の言う通りさするのを止めた。


ただ、内心は心が落ち着くので、さすり続けて欲しかったが、大の男が男に背中をさすり続けて貰うのは気恥ずかしい以上に見た目が気持ちが悪いなと縁は感じた。


「…話しを続けてもいいかね?…。」アイダ エンが自身の白く長い髭をクネクネいじりながら質問して来た。


「あっ!、すみません、どうぞ…。」縁は思わず、軽く頭を下げた。


「イヤ、こちらの方こそ何か急かした様ですまないね。」彼は謝って来た縁同様小さく頭を下げ、一呼吸置いてから再び話し始めた。


「まず、君はそんなに深刻にならなくてもいい

…ここは確かに隔離室見たいものだか、本当の隔離室ではない。あくまでこの透明な箱は君を今はなるべく外気に触れさせない様にするだけで、時間が来たら直ぐに出られる。」


「時間ってどれぐらいですか?。」


「まぁ〜あと一時間は辛抱してもらう事になる。」


「…さっき、俺を外気に触れさせない様にって言いましたけど、そもそも何で?、外気に触れたらダメ何ですか?。」


「単純な事さ、この部屋の外は…まぁ〜この部屋の外も室内見たいものだが…大気の組成が地球とは違うのだよ…例え地球と似た様な大気組成であっても、少しでも違えば身体にどの様な影響が出るかも分からない…それにだ、何も外気に触れさせない理由が組成違いだけと言う訳でもないからな…。」


「…他に何があるんですか……?。」


「……君も気づいているとは思うが、ここは地球ではない。」


「…別の星ですか?……。」縁は伏せ目がちに質問した。


「イヤ、その別の星に今向かっている所だ…ここは宇宙船の中だ…。」


‼︎ …… 縁は宇宙船と聞いて、ビクッとしてしまった。地球で赤甲冑達に乗せられた、貨物船のトラウマが、一瞬頭をよぎったからだ…。


「…これから、どうなるんですか?。」縁は不安げな表情で、アイダ エンを見つめた。


「どうもこうもならないさ…ただし、それを決めるのは君だがね…。」


「…決める?、何の事ですか?……。」


「…まぁ〜それは、おいおい話すとして…

あっ!、そうだ…先程君に尋ねられた、組成意外の問題についても話しておかないとはな!。」


「…えっ、イヤ、それよりも、さっきの決めるって何を決め、……」


「…まぁーそれは今はいいではないか、それよりもこっちだ…」


アイダ エンは、縁の話しを無理矢理遮り、その話題には深く追求するなと、見えない威圧を感じた為、縁はこれ以上この事について質問しない方がいいと、今だけは口をつぐむ事にした……。


「藍田君、この部屋の外は宇宙船の船内だが、船内に充満している酸素は地球のものとは少し違う、まぁ〜ぶっちゃけた話し、地球の大気とほとんど変わらないから、苦しんだり、いきなり身体に変調をきたす様な事は、そうそうないのとは思うのだがな…。」


「…さっき、1分も持たないとか言ってたじゃないですか?…別に吸って問題ないなら、こんな水槽見たいな箱の中に閉じ込める必要ないじゃないですか!…。」


「イヤ、それがそうでもないのだ。この船の酸素は別の星の空気を取り入れて、それを充満、循環させて船内の酸素供給にしている…

ただ、酸素だけを取り出せればいいのだが、何分…いくらフィルターでろ過しても、余計なものもわずかに混じってしまうのだよ…。」


「…余計なものって何ですか?…。」縁は険しい表情で質問した。


「簡単に言えば、その星由来のバクテリアや病原菌の類いだな…。」


「…………、それ、大気の組成どうこうよりも、まずくないですか?。」縁は感情を抑えて喋ったが、その顔からは血の気が引き、怯えているのは、誰が見ても分かった。


「あぁー藍田君、そんな死人見たいな顔をしなくてもいい…そこまで深刻にする問題ではないし、ちゃんとそれ用の対策は打ってある。」


「…対策って、防護服を着るとかですか?。」

なるべく冷静さを装うと縁は心がけたが、その声は震えていた。


「防護服など、ブカブカして邪魔なだけだ!…そんなものを着なくても、平気な様にちゃんとした…だから、そんな怯えた目で、私を見るな…大丈夫だ、何も心配ない。」


「ちゃんとしたって…何をしたんですか?。」


「…君の身体が他の星でも生身で活動できる様に、“適応剤”を射っておいた。」


「…てっ、てきおうざいって何ですか?。」


「そのままの意味だよ…違う星の大気やそこに土着する固有の菌から身体を守り、その星の環境に適応していく、そう言う代物だよ…。」


「薬見たいものですか?…。」


「厳密に言えば薬ではなく、ナノマシンの類だ。」


アイダ エンはおもむろに、羽織っている白いローブの内ポケットから、小さい試験官の様なもの出し、縁に渡した。


アイダ エンに渡された試験官の中には、銀ラメの様なものを混ぜた液体が入っていた。


傾けると、液体はゆっくりと試験官の中を進み、粘性が高かった。


「何ですかこれ?…。」


「それが適応剤だ…。」


「…こんな得体の知れない物、勝手に身体の中に入れたんですか?…。」縁はあからさまに、不快感を示した表情だった!… 。


「意識がない状態で運ばれて来た急患に、意識が回復するのを待って、投薬の許可を貰うのか?、そんな事していたら死ねぞ!…。」


「…それは薬の場合であって、この試験官の中に入っとんのは、薬じゃないでしょ…。」


縁はアイダ エンから渡された試験官を、突き返す様に渡した。


「薬なら、勝手に入れても文句はなかったのかね?…。」


「…イヤ、まぁ〜、それはそれで、問題ありますけど…。」


「…そうか、では、すまなかったな…君の許諾(きょだく)も得ずに勝手に身体の中に、ナノマシンと医療目的の“寄生虫”を入れてしまって…。」

アイダ エンは深々と頭を下げた。


「…止めてくだい!、えっーと、あ、あいださん?…わざわざ頭なんか下げなくてもかまいませんから。俺も、何だか言い過ぎました、すみませ。…そもそも、俺を助ける為に必要な行為だったんですよね?…だからナノマシンと寄生虫を俺の体内に…………………

………………………………………………………… 」


縁は会話の途中だったが急に喋るのを止めてしまった。縁は視線を自分の下腹部辺りに向け、お腹の方をさすりながら、ガタガタ震えだした。


「どうしたのだ!、藍田君…また、顔色が悪いぞ…それに、お腹をさすって…痛いのか?…。」


「……今、あんた俺の身体にナノマシンと寄生虫を入れたって言ったよな…。」縁は震えた声で、ガタガタ身震いしながら、半分涙目の状態でアイダ エン に質問した。


それを聞いたアイダ エンは、ポンッと両手を軽く叩き、何か解った様な顔になった。


「藍田君、もしかして君は“寄生虫”と言う単語に反応したのかね……。」


「そーだよ…………。」縁は思わず叫んでしまった。縁はこの、アイダ エンのどこか深刻さの感じられ無い他人事の様な表情に、思わず怒りを放出せずにはいられなかった。


「…そんな近くで怒鳴らなくても良いだろう、耳が痛い……。」


「耳が痛いだと、そんなん、どって事ないだろ!……あぁ、あぁぁ、あんた俺の身体に何をした……。」


「何をしたって、今から向う星に適応してもらう為に、ナノマシンを君の身体に注入して、欠損した部位を修復する為に、寄生虫を傷口から流し込んだ…。」


「何で!、えっ!、何で!… 、治療するのにわざわざ寄生虫を身体の中に入れるんだ!…。」


縁は怒りが収まらないのか身振り手振りが大きくなって行く。


「怒るな藍田君…君は今はそうやって傷が癒えているが、発見した時はかなり酷い状態だったんだぞ!…。」


「それと身体の中に寄生虫入れられる事が何の関係があるんだよ!…。」


「多いに関係ある。私が君に注入したナノマシンは、あくまで適応が主な目的であって、傷などの人体の損傷を治す機能は備わっていない…。」


「ナノマシン何てハイテク装備ひっさげてんだから、傷治すぐらい、できるやつもあるやろ………。」


「確かに、身体を治すタイプのナノマシンもあるが、治癒型に特化したナノマシンは傷を治すだけではなく、ウィルスや細菌なども身体を内側から傷つける存在として無作為に攻撃し、排除しようとする機能があるのだよ!…。」


「それの何が、問題何ですか?、身体に得体の知れない寄生虫入れられるより、よっぽどマシなんですけど!…。」


縁は嫌味を込めた言い方で、アイダ エンをまくしたてた。


「それが問題何だ、いいか藍田君、適応型ナノマシンに治癒型ナノマシンを入れると、その機能故に、お互いがお互いを邪魔しあって、結局両方身体に入れても使い物にならなくなってしまうのだよ…。」


「何でだよ…そこは、お互い干渉しない様に、プログラミングで何とかなんねーのかよ!……。」


「残念だが無理だ、治癒型は適応型を外部から侵入し、身体の構造を変えてしまうウィルスと認定して攻撃をしてしまう。逆に適応型は治癒型を内部に止まり、身体の構造を変えるの妨げるウィルスと判断し、これを排除できる様に身体を作り変え様とする。」


「…何か、さっきと話してる事違いませんか?…身体の構造を作り変える!、適応するだけって言ってたじゃ無いですか?…。」


「藍田君…違う環境でも適応できると言う事は、身体の構造そのものが、その環境状態に合わせられる様に変わる事なのだよ…例えば、陸が一切なく、海しかないなら海中で長時間活動できる様になったり、険しい山に囲まれた山岳地帯なら、強靭な足腰とそれに負けない体力を得たりもする。…まぁ〜今回の場合は、大気の組成やバクテリアによる耐性強化が主な目的だが……。」


「…あの、アイダさん、そもそもなんですけど、いっぺんに入れようとするのが問題であって、どちらか一方を時間を空けて入れれば、最初に入れた方は、身体の一部と認定されて、攻撃されないんじゃ無いんですか?、じゃなきゃ元々身体に住んでるバクテリアとかいい細菌も、その治癒型ナノマシンの攻撃対象になりますよ。」


「…確かに、君の言う通り、身体の一部として認定されれば攻撃される事も、それを追い出そうする事も無いが、無理何だ!…。」


「だから、何で!…。」


「ナノマシンは絶対身体の一部にはなり得ないからだ!…いいか、藍田君…ナノマシンと言うのは、あくまで細菌サイズにした小型の機械であって、有機物で出来た人体とは元々違う物質だ、それが年月を過ぎたから言って、身体の一部になって行く事はない、機械はあくまで機械なのだから…。」


「…あの、アイダさん、適応型って身体の作り変え完了したら、お役ごめんじゃないですか?、だったら身体の構造を変え終わった段階で、治癒型を入れれば、仮にそれで適応型を破壊されても、身体の適応は済んでるだから何も問題ないでしょ?…。」


「…あぁーいい質問だ、確かに適応が完了すればそれも可能だ。」


「はぁぁぁ〜、だったら、最初っからそうしろよ。…」


「…そうしろか、それをする為に私も君も、

3〜40年待たなければならないがな…。」


「……… 、どう言う事ですか?。」


「いいかい、藍田君…生物がいきなりその自然環境に適応する事はない、普通は長い年月をかけて徐々に進化していき適応していくが、適応剤はその過程を省略して身体の構造を変える……。」


「その話のどこに、3〜40年待たなきゃいけない理由の説明があるんですか?。」


「…極端な人体の変化は、それだけで身体の毒になる可能性がある…それを抑える為に、適応剤ナノマシンは、急激な構造変化に伴う細胞の劣化を壊れては治し、壊れては治すを常に繰り返し、それらの作業が完全に終了するまでに、大体3〜40年ぐらいかかってしまうのだよ

……。」


「… ? ? ? ??、はぁ!……。」


「何だ、その鳩が豆鉄砲食らった見たいな顔は?…。」


「…適応剤って、その環境に適応できる様にするだけって、あんた、確かに言ったぞ…なのに壊れた細胞を治す作用って…それ、治癒型のナノマシンも入ってんじゃん! …… 何が両方入れたら壊れるだよ。そもそも、急な身体の変化は毒って、ナノマシンの説明、最初にした時、一番最初に言わなあかん事やろ… 。」


縁はあきれ返って、左腕しかない手で頭をかきむしりながらうなだれた。


「藍田君、それは違うぞ…治癒型は外的要因で、できた傷や病気は治すが、適応型が行う傷の修復は、自らの構造変化作用によって引き起こされるであろう、人体への過度な負担を軽減する為の…まぁ〜アフターケアー見たいなものだ…。解ったくれたかね、藍田君…。」


「……… ぜんぜん、解らんかった。それと、説明がクドイ!… 。」


「…何故?、解りやすく説明する義務がある?。私は、君が怒って来たから、親切心で長々と適応剤について、説明しただけだぞ。」


「……俺は別にナノマシンを身体に入れられた事を怒った訳じゃないですよ…。」


「ならば、この無意味に長い会話は何だったんだ!…。」


「あんたが、俺の身体に適応剤と一緒に寄生虫を入れたって言ったからだ…。」


「…そうか、それで私は、適応剤もとい、ナノマシンの説明をしてた訳か!。」


「…忘れとったんか?…。」縁は最早、怒りを通り越し、呆れと長い説明疲れによる、物凄い、倦怠感(けんたいかん)に見はわれた。


「… 寄生虫の説明もするのか?…。」アイダ エンは嫌そうな顔で、縁を見つめた。


「… あたり前だろ!、あっ、でも…簡潔にしてくれ…。」縁は恫喝(どうかつ)するかの様に、アイダ エンに言いよった。


「…偉そうだな、はぁ〜面倒くさいがしかたがない… 。」


アイダ エンは一呼吸息を吐くと気だるそうな顔で、話し始めた。


「…藍田君、君に分かりやすく寄生虫と言っているが、厳密に言えばそれは寄生虫ではなく、宿主の細胞を元に作った、言わば、自立して動く細胞だ…元が宿主の細胞なのだから、適応剤を入れても、その細胞含めてその人の一部と認定されるから、寄生虫が排除される心配がない。」


「…自立して動くって、身体の中や外を動きまわるんですか?… 。」縁は、左手でお腹の辺りを強く押さえながら、怪訝な顔をした。


「…なぁー 、 藍田君、何も動くと言っても基本は身体の中にいて、宿主が怪我などをした時にだけ、傷を塞ぐ為に、損傷箇所を縫合(ほうごう)する糸ミミズ見たいなのが、汗腺を通って出るだけだ… まぁ〜、鍛えれば、その糸ミミズを自分の意思で出し入れする事もできるがな…。」


そう言うと、アイダ エンは、右手にはめていた手袋を取り、右手を縁の前に差し出した。


縁は、アイダ エンの右手を見た時、少し驚いた。彼の右手は、親指、人差し指、中指しかなく、そこから下は金属製の技手になっていた。


縁は生身の指が三本しかなく、残り二本が技手になっているアイダ・エンの右手をまじまじと見つめていると……。


「…気になるか?。」アイダ エンにその発言に縁は少し焦りながら!、いいえ…と答え、顔を右手から背けたが、目線は薬指と小指の技手に向いたままだった。


‼︎ …… それは突然だった、何の前降りもなく、アイダ エンの生身で残っている部分の右手が淡い青色に光った。


光を見つめていると、細い糸の様な物が何十本と、右手から生え出た。


この糸の様な物も右手と同じで淡い青色に発光し、風に煽られた稲の様に、揺らいで動いていた。


「…痛くないんですか?。」縁は不思議そうな表情で、アイダ エンに質問した。


「…痛くない。この生き物は汗腺の穴よりも細いからな。」アイダ エンは、少し笑みを含ませて、得意げな表情で答えた。


「…でもこれ、注射器針ぐらいの太さ、ありますけど… 。」縁は、アイダ エンの右手から生え出た、光る糸に指を向けて、疑う様な視線をアイダ エンに向ける。


「今、顔を出している部分は、細い糸が絡み合い、束となって集合した状態だ…だから、皮膚から出る時、戻る時は、束を外し、細い形状になる… 。」


「…身体に違和感とかないんですか?… 。」


「ない… 、触って見るか… 。」


「えっ、!… 。」縁は一瞬たじろいだが、この生き物に対しては、恐怖や嫌悪感よりも興味の方が勝り、恐る恐るだが、指先に軽く当ててみた。


触れると糸から光る粉が出た。慌てて指を引っ込めたが、特に何も起きなかった。


糸に触れた指先を見てみたが、何も付着しておらず、試しに臭いを嗅いでみたが、異臭の類いもしなかった。


「不思議の生き物だろ… 。」この光る糸ミミズの様な生き物に、アイダ エンはどこか慈愛のこもった表情を向けていた。


「…俺の身体に入れたのも、これですか?… 。」縁は心配そうな眼差しで質問した。


「…あぁ、そうだ、元々私の身体で培養した物だから、君の身体に早く馴染んだよ… 。」


「…ア、アイダさん身体で育ったら、何で早く馴染むんですか?… 。」


縁はこの発言に特に特別な意味など、待たせてはいなかったが、これを聞いたアイダ エンは、少し呆れた様な、薄ら笑いを浮かべた。


「何ですか、その顔?… 。」縁はその表情にムッとした。


「…いや、いや〜 本気でそんな事を言っているのかと思ってな…いや〜だって君が何故?、早く馴染むなど言うから…… 。」


「可笑しな質問じゃないと思いますけど… 。」

縁はやや怒り気味で答えた。


「…あぁ、すまない藍田君、そう怒るな。…てっきり君は、もう私の事をだいたい分かっているのかと思ってな… 。」


「?… 貴方は俺に、自分はアイダ エンだって名乗られた以外詳しい貴方の素性何て聞かされていませんけど… 。」


「… 言わなくても、だいたいの想像がついていると思ったからね… 。」


「… 何で、そう思うんですか?、説明されなきゃ貴方が一体何者だなかなんて、解る訳!ないでしょ?… 。」


「…じゃー、君と同じ顔をしている、私は何なのかね?… 。」


「… えっ!そ、それは…… 。」縁は直ぐに返答ができなかった。イヤ…できなかった訳ではなくあえて返答しなかった。何故?、頭をよぎった考えが、あまりにも荒唐無稽だったからだ。


確かに、彼はもう、散々荒唐無稽な場面に出くわしている… 。


現に目の前に手から光る糸ミミズを出している光景を今この瞬間見ている。


そんな事は、彼が今まで生きてきた常識の中では、体験した事も見た事、聞いた事すらもなかった。


だか、そんな地球に住んでいれば、絶対にありえなかった光景を、見て体感し、そして、今まで生きてきた中で、最悪の恐怖と悲しみを味わった。


そんな普通に生きていれば、まず体験しない様な状態に陥った縁ですら、自分がふと頭に浮かんだ、アイダ エンの素性は荒唐無稽すぎて、口に出すのも(はばか)った。


「…急に黙ってどうしたのだ、藍田君。」


「…… えっ、イヤその… 。」上手く言葉が出てこなかった。自分の考えを伝えるべきか否か、迷った… 。


縁はしばらく考えた…考えたが結局この結論しかないと思った。


「…あの、アイダさん。」


「何だね、藍田君… 。」


「… あ、貴方は、未来からきた俺ですか?。」


「……………… イヤ、違う… 。」アイダ エンは、一瞬沈黙した後、お前何言っているんだと言わんばかりの顔で、即答した。


縁は自分が言った事が恥ずかしくて、下にうつむいてしまった… 。


いくら自分が、ありえない出来事に、現在進行形で陥っているとは言え、未来から来た自分が過去の自分に会いに来るのは、さすがに無理のある話しだったかと思った。


「… なぁ〜藍田君、もう彼らを元に戻しても良いかね?。」


「… あっ、はっ、わぁ! !!!!!!!!。」


縁はアイダ エンの問いかけに、うつむいていた頭を上げると驚いた… 。


アイダ エンは、右手に出している、光る糸ミミズをいつの間にか、縁の顔面すれすれまで近づけていた。


この光る糸ミミズの様な生き物に縁は、特に嫌悪感は感じなかったが、それでも、自分の視界

3センチぐらいの距離で、うねうね動かれるなは、さすがにビビるし、目がチカチカして不快感もある。


「戻しても良いかね?藍田君… 。」念を押す様に、再び同じ質問をアイダ エンは縁に問いかけた… 。


「そんなん勝手にしたらいいでしょ… 。」縁は急に来られたので、煙たがる様に答えた。


「… すまないな、藍田君、まだ、見ていたいんだとしたら、勝手に戻すのは悪いと思って、一応君にも確認を取ったのだが… 。」


「別に俺が見たいって言って出して貰った訳じゃないんですらか、勝手に戻せばいいでしょ…

てっ、ゆうか…いきなり人の顔面近くまで、持って来る方があれだろ…… 。」


「… そうか、それはすまなかったな。」そう言って、謝罪を述べたアイダ エンだったが、彼の顔は別に申し訳なさそうでもなく、それどころか、飄々として、その態度に縁は胸ぐらを掴んでやりたい気持ちだった… 。


そんな縁の気持ちを知ってか知らずか、アイダ エンは自身の右手をジッと見つめた。… 数秘経つと、手から生え出た光る糸ミミズは、吸い込まれる様に手の中に沈んでいき、戻る最後の瞬間、光の粒子を手の平に拡散させて消えて行った。


アイダ エンは、手の奥に糸ミミズが戻って行くのを確認すると、上着の右ポケットから手袋を出し、右手にはめ直した。


はめ直したアイダ エンは縁の顔はマジマジと見つめ、何故か?、口に手を当て、笑いをこらえている様な表情をした。


「…何が可笑しいんですか?… 。」自分を見て急に笑い出したアイダ エンに縁は、不快感を感じ、少し怒気を含ませて質問した。


「イヤ、すまない藍田君…君が先ほど私が未来から来たのか?と尋ねて来たから、それを思い出してつい… 。」


「…アイダさんが俺に、私の正体はもう、藍田君なら解っているだろ的な事を、聞いて来たから想像で答えただけで、それをいちいち蒸し返して、笑う必要ないと思いますけど… ね!。」


縁はアイダ エンに嫌味の意味も込めて、最後の一文字だけを力強く、まくし立てる様に放った… 。


「… あぁ本当にすまない。まさか!、未来から来たなどと言われとは、思わなかったからな… 。」


「…貴方が、どう言う返答を望んでたかは知りませけど、ちょと老いた自分が目の前にいたら、未来から来たのかなって、少しは想像するでしょ!… それとも、貴方は俺のクローンとでも言いたいんですか?。」


「残念だがクローンも違う… 。」


「… あぁ〜そうですか、それじゃ今度は平行世界何てどうですか?… 。」


「 正解だ。」


「…えっ!。」


「それが正解だ。私は平行世界から来た別の君だよ… 藍田 縁君… 。」


言葉が出なかった。平行世界の別の自分!…

アイダ エンの正体が、仮に未来人やクローンと聞かされていたら、自分は特別驚く事はなかったと思う… 。


何故?、こんな事思うかと言えば、それはまだ、自分の頭の中で想像していた予測の範囲だったからだ。


未来人もクローンもあんな荒唐無稽な出来事を体験したら、もしかしたら可能性としてあり得るのではないか?。


でも、そんな自分でも、想像すらしていなかった答えが、アイダ エンから帰って来た。


平行世界のアイダ エン。同じだか、同じではない自分!。


「… あの、アイダさん… 平行世界から来たって言いましたけど、本気で言ってるんですか?… 。」


「…あぁ、そうだが、何故かね?。」


「もし、平行世界の俺だとしたら、絶対にありえないでしょ!。」


「君が最初とその次に言った、未来人とクローンも十分ありえない仮説だがね… 。」


「… 確かにその二人だってありえませんよ、でも何で、あんたの事を平行世界の俺だって認められないか、ちゃんとその二つ以上の理由はありますよ。」


「その理由とは、何だね… 。」


「… あんたが、平行世界の俺なら、何で俺より年を食ってる!… それにだ、あんたが俺に見せてくれたあの光る寄生虫だって、明らかに地球の科学じゃまだ無理なレベルだろ… !。」


「… なぁ〜藍田君… 何故?、唐突に地球と言う単語が出てくるのだ?… それが、私が平行世界の住人ではないと、どう繋がるのだ… 。」


アイダ エンは、長い髭をクネクネいじりながら、不思議そうな顔で縁を見つめる。


「… なぁ、アイダさん… あんたが、平行世界の俺なら、俺と同じで地球の出身だって事だよな?… 。」


「あぁ、そうだが… それが何かね… 。」


「… イヤ、それが何かだねじゃなくて… あんたが平行世界の俺なら大きく矛盾してる事があるだろ!。」


「?、矛盾… すまないが藍田君、私はそこまで(さとい訳ではない、何に対して矛盾しているのかだけを言ってはくれないか… 。」


「……… 時間です!。」


「?、ん… 」アイダ エンは一瞬、何にを言われたのか理解できず、困惑した顔になった。


そんなアイダ エンをよそに、縁はさっきまでのイラついた様子は微塵(みじんもなく、冷静に淡々とした感じで、話しの続きを始めた。


「… 一つだけあんたに言っておく、別に俺はあんたが平行世界の俺だって認められない訳じゃないだ… 。さっき俺が臆測で言った未来人やクローンだって、平行世界の住人以上に非現実的なんだから、普通はあんたが平行世界の俺だって言ったら、そうなのかって多少疑うかもしれけど、とりあえず納得はしたかもしれない、でも……………… 。」


「…… なぁ、藍田君、話しの途中ですまないのだか、君は先ほど“時間”と言った、その前は私が君より年をとっているとか、後、地球の科学技術じゃ無理だとかの理由で、私が平行世界のアイダ エンだとは、君は信じられないと言ったが…… まさか、藍田君、君は… 私のいた地球が君の住んでいた地球よりも時間が経過しているとでも思ったのかね?… 。」


「… そうです、それですよ!。」


縁はやっと理解してくれたのが嬉しかったのか、声が高くなって返答してしまい、それに気づいて少し恥ずかしくなった。


恥じて、顔が赤くなる縁にアイダ エンは、微笑ましい表情で彼を見つめ、それに気づい縁は、さらに恥ずかしくなり、顔を手で覆ってしまった。


「… ん〜 どう説明したものかな… 。」

アイダ エンは、天井の方を見上げ、髭を触りながら、聞こえるか、聞こえないからぐらいの声で、ボッソとつぶやいた。


「… どうしたんですか?。」視線が上に向いているアイダ エンに、縁はどうしたのかと思い、釣られて彼も天井の方を向いた。


「… あ!、藍田君、別に君まで上を見る必要はない、私は考え事をする時視線が上を向くらしいんだ… まぁ〜こんなのは、誰かに指摘して貰わなければ、分からない癖だがな… 。」


「はぁ、そうですか… 。」


そう言って笑みを浮かべたアイダ エンだったが、彼の顔は少し赤くなり、照れ隠しなのか、必要以上に頭をボリボリ掻いていた。


頭を掻くアイダ エンの頭から白い粉の様な物が舞っていた… 縁はその光景に不快そうな表情を表わしてして、彼の方を見るのを止めた。


「… どうしたのかね?藍田君、急にそっぽをむいて。」


「… アイダさん、頭掻くの止めてもらえます、さっきからフケ見たいのが、落ちてますよ。」


「………… あ、すまん。」アイダ エンは、静かに詫び、掻くたびに爪と指の間に溜まってしまったフケを、下歯に擦りつけて取ろうとしていた。


「…… あの!、それ、気持ち悪いんで今は止めてもらっていいですか… 。」


縁はその様子を軽蔑した目で見据え、それに気づいたアイダ エンも、歯で爪に溜まったフケを取るの中断し、両手を後ろに回した… 。


「… 絶対にその手で俺に触らんでくださいね…。」縁は鋭い眼光で睨みつかせながら、アイダ エンに言い聞かせた… 。


「… 君は関西弁を使うのか?、標準語を使うのか?、よく定まっていないね?…… 。」


「…それ、今必要な情報ですか?。」


「いや、別に…… 。」


このアイダ エンの真面目、不真面目ともとれる態度に、縁はなんとも言えない歯がゆい気持ちになった!… 。


しかし、当のアイダ エンはそんな縁の気持ちには気も止めず、再び淡々とした口調で話し始めた… 。


「… では、藍田君…君が抱いている疑問に答えようとしようか… 。」


「!… いきなりだな。」


「何がだ?… 。」


「えっ!いや、あっ…… やっぱもういいです、

続けてください… 。」


縁はいきなり話し始めたアイダ エンに何気なくツコッミを入れたつもりだったが、この人は変に話しの腰を折るとまた話しの道筋が逸れると思い、それ以上何か言うのを控えた… 。


「… なぁ〜藍田君、何故君が私が平行世界の君自身だと信じられなかったと言えば、私が君より年をとっているのと、後…君が見た事のない様な技術を披露したからだね… 。」


「ええ… そうですけど。だって、そうじゃなけゃ平行世界って言うなら、同じ時間が流れているはずでしょ?… なのに俺のいた世界とアイダさんの世界では、明らかに技術的な差がありますよ… それとも、平行世界は時間の流れが違うとかじゃないですよね…… 。」


「… いや、藍田君、私がいた世界も君もいた世界も時間の流れは同じだ… 時間の跳躍など出来ない。“平行跳躍”はスタートとゴール地点、同じ時間、同じ場所にしか絶対に出ない。それがわずかでもズレるという事はない。」


「… へ、へいこう、ちょうやく?、何ですかそれ…… 。」


「名前の通りさ、数多ある平行世界に飛ぶ事が出来る。」


「… そんな事簡単に出来るもんなんですか?。」


「… 私も詳しい原理はよく解っていないのだか、君に解りやすく言えば、まぁ〜ワープみたいなものだと思ってくれればいい。」


「… ごめんなさい、アイダさん… ワープって言葉は解りますが、俺もよく原理は解ってないんです。って言うか… そもそも俺のいた世界じゃ、ワープどころか、宙に浮かぶ巨大な船すらまだ見た事もないんですけど…… 。」


「………… 土人並のレベル低さだな… 私の世界の住人が君の世界に行けば、知識や能力で無双出来そうだな…。」


アイダ エンは、どこか呆れた様な憂いを帯びてボッソとつぶやいた。


その発言は別に縁を侮辱したものではなかったが、自分も含めた全てを侮辱している様な気持ちになり、アイダ エンを今まで以上の鋭い眼光で睨みつけた。


今までなら縁にいくら怒りのこもった視線を向けられても、飄々淡々としていたアイダ エンだったが、縁のこの今までとは違う眼光に、ハッ!と気づき、さすがに今の発言は自分でもまずいと思ったのか、慌てた様子で縁に頭を下げた。


「… 今のは本当にすまなかった。本当に本当にすまない。」


アイダ エンは必死に頭を下げ続けた。縁もいくら自分と同じ見た目とはいえ、年齢的に上の人間にこうも謝罪し続けられるのは、全身にむず痒いものを感じた為、もういいと彼の身体を起こした。


「… もういいですよアイダさん… 俺の方こそ大人気なく睨んだりして悪かったと思います。だからもう、いいですってば…… 。」


アイダ エンの身体を起こそうとする縁だったが、彼はそれでも頭を下げて続け様とした。


縁はこのアイダ エンの行動に訳が分からなくなった。この人はどこか人を食った様な態度もするし、腹が立つ言動も悪気無くする。なのに、謝る時は自分より明らかに年下でも躊躇(ちゅうちょ)なく謝り、頭を下げる。


縁はアイダ エンと言うもう人の自分の人間性に困惑していた。


そして、うらやましいとすら思った…… 。


自分は、母以外の人間にはさほど興味がなかった。いや、その唯一自分が興味があり、そして… 何より大事にしなければいけない母ですら、成長するにつれ意固地になって、不躾な態度も平然と取り、それに対して詫びる事すらしてこなかった。


一人になれば、その事で自己嫌悪に陥るのは分かっているのに… 。


だから、こうやって何の恥ずかしげもなく、自分の非を認められる人間はうらやましいと思った… 。


…… 、思ったが、同時にそれを今まで出来てこられなかった自分に何故?、あんな事になる前にこうしなかったんだと、突きつけられているようで、胸が苦しくなった。


「… 何故、君がそんな申し訳なさそうな顔をするのだ… 。」


アイダ エン の行動に、過去の何も出来なかった自分を思い返した縁は、胸を押さえ、顔色が青くなった。


その様子を心配したアイダ エン は、頭を下げるのを止め、彼の肩に手を置いた。


「… 何を思い出したかは知らんが、とりあえず今だけを見つめろ、過去でも明日でもない、

今だ! … それでなければ、過去にも明日にもいずれ囚われるぞ!。」


アイダ エン は縁の肩を優しく叩いた。


「……… はい。」縁は力のない返事をした。


「… あの〜、アイダさん、過去に囚われるなは解るかんですけど、明日に囚われるって何ですか?過去みたいに思い返すものなんて、何もないですけど… 。」


「… 見えもしない明日の自分を想像して、今をがむしゃらに無意味に無理に頑張る事だ。」


「… それっていい事じゃないですか!、未来の自分を想像して今を一生懸命頑張る事は… 。」


「… 1日前に想像した自分と実際その日になった自分、何かしようと目的が大きければ、大きいほど、ズレた時の解離は日を追う毎に広がって行く。」


「… ズレるって、しようとした事が出来なかったって事ですよね。なら、どうしてそこで、解離するって言葉に繋がるんですか?。」


「……… 心が離れていくからだ。」


「… えっ!。」


「… もし、明日の為に今日出来なかった事は、必ず明日の自分を無意識に傷つける。自覚症状がなくても、そのわずかなズレの蓄積が明日になった自分… つまり今日の自分を結果的な苦しめ、心が離れるだけではなく次第にバラバラにしていく。君みたいな考え込むタイプは特にそうだ… だから、今日だけに集中しているぐらいが丁度いいんだ… 過去はともかく明日の事など考えなくても、時間が経てば明日は今日になるのだから、また、その今日だけを何とかすればいい…… 。」


「… 何とかするって、その場しのぎじゃないですか…… 。」


「そうだ… 。だか、人生はそれぐらいが丁度いいんだ… 。」


大の大人がこの発言はどうかと縁は聞きながら迷ったが… 同時に、その場しのぎかも知れなくても、分からない未来の為に頑張る事より、今見えている事柄に対処していく事の方が幾分気持ち的には楽なのかとも思った。


縁は微笑みながらクスクスと笑った…… 。


「… 何が可笑しい?… 。」アイダ エン は、さっきまで顔が死んでいたと思ったら、今度は急に笑出した縁の変わり様に、少し不気味さを感じた。


「… ごめんなさい。アイダさん、そんな目で見ないでくださいよ。何だかその〜可笑しくなっちゃて…… 。」


「………… 笑う様な所があったのか?。」


「… だって、アイダさん… 風貌は仙人みたいなのに、今の発言… かなり無責任で身勝手な考え方だし!… それで、その〜何か見た目と言動のギャップで笑えて来て…… 。」


アイダ エン は、縁の自分に対する見方に、少し困惑したが、気分が落ち込むよりは笑っていた方が良いと思い、それ以上笑う事に対して何か言及する事はなかった。


縁がある程度笑いが止まるのを待つと、アイダ エン は、息を一呼吸軽く吸い込んで、改まった様子で再び話し始めた。


「… 藍田君、また話しが逸れてしまったが、話しを元に戻そう… どうして君の世界と私の世界では技術的な差が有るのか?… 。」


「… その前に何で、アイダさん俺より年食ってるんですか?… 。」


「… そっちの説明は後だ、いろいろ面倒くさいんでな…… 。」


「… は、はぁ〜。」


縁はそっちの方が聞きたかったが、アイダ エンは、どことなく険しい表情をした為、今はあえて深く追求しないで行うと思った。


「… なぁ〜藍田君、私は実際には君の住んでいた世界の情勢は全く知らない。これから話す話しもあくまで私の仮説だ… だから、 間違っていたらその都度訂正してくれ… 。」


「… あっ、はい。」縁は小さくうなずいた。


「藍田君、説明する前にいきなり質問で悪いのだが、君の住んでいた地球では、どの程度の事が、まだ… 技術的に不可能とされているのだ… 。」


「… えっ!、どの程度って言われても… 。」


「何でもいいんだが… ならこうしよう!。

君が思う、君の世界ではまだ実現していなくて、いつか実現して欲しいと願う技術はどうだ… 。」


「… はぁ〜それなら、えーっと… 簡単に格安に宇宙に行けるとか、空を飛行機みたいな物にも乗らず自由自在に飛び回るとか、後… 空中の浮かぶディスプレイとか…… 。」


「… 藍田君もう結構だ… 大体君の世界の文明水準が解ったからそれぐらいでいい…… 。」


「… はぁ〜、あの… そもそも何ですけど、この質問って何なんですか?… 。」


「… 私の世界では幼稚と思われるものの例えでも、君のいた世界ではこう言う表現をするのが正しいのかも知れないな… 。」


「… あの〜アイダさん… 俺の話し聞いてました。何か急に話しの流れ変えるの止めてもらいたいんですけど… 。」


「… なぁ、藍田君。」


「… また、この人俺の話しを………… 。」


「君の世界は魔法と呼ばれる類いは有るのかね?… 。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!。」


縁は一瞬思考がフリーズした…… 。


今の話しの流れからして科学的、技術的な事をアイダ エン は言うのかと思っていた縁だったが、ここに来て魔法などと言う彼自身想定していなかったワードにどう返せばいいか考えあぐねた…… 。


「… どうした、藍田君… 鳩が豆鉄砲を食ったような顔だぞ!。」


「… 鳩がって…… あぁー、あの、アイダさん… 何でいきなり魔法何て非科学的ワードが出て来るんですか?、散々技術とか文明水準がどうとか言ってた癖に何で魔法?… って言うか、魔法が仮に有ったとしてそれがどう、俺と貴方の世界の差に繋がるんですか?… 。」


「… 仮にと言う言葉が出ると言う事は、君の世界には魔法はないのだな… 。」


「… ないと思いますよ。少なくても俺の知る限りでは、まぁ…手品ならありますけどね。」


「… 手品の様な、種や仕掛けが有るものではなく、純粋に己の持っている力のみで、物事の事象に介入する力の事を私は言っているのだか?… 。」


「… なら、ないですよ。そんなのそれこそ空想の話しですよ!… 。」


「… そうか、なら何で君の世界より私の世界の方が発展しているのか、仮説ではなく確定として話す事ができるな。」


「… どう言う事ですか?。」


「… 私のいた地球では、道具を使わずとも浮いたり、手から火や水を出せる者が大勢いた。… なぁ〜、藍田君… 私は一様、君にも分かりやすい様に魔法と敬称はしたが、その誰もがその能力を魔法だなんて言う奴は一人もいなかったよ… 。」


「… いや、それ、完全に魔法とか超能力の類いじゃ… 。」


「… 魔法や超能力か… なぁ〜藍田君… 君は身体を動かしたり、頭の使って何かを考える事は何か特殊な能力だと思った事はあるかね… 。」


「… えっ!、いや…… うんー と、人それぞれ差異は有るとは思うけど、別に使ってて何かを感じた事はありません… 。」


「… そういう事だ藍田君… 。」


「… はいっ⁈。」


「私の世界では、君が魔法と思う行為は全て、身体を動かしたり、頭を使うぐらい辺り前の行為過ぎて、誰も何も思わない。」


「… 辺り前って!、…… ん?、ちょっと待てよ

…… あの、藍田さん、そもそも何ですけど、魔法とか超能力みたいな力が一般的に有る世界なら、むしろ技術は低い方じゃないんですか… ?。」


「… 何故そう思う。」縁のこの質問に今度は、アイダ エン の方が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。


「… えっ、だって… 魔法や超能力が使えたら、別に便利な道具とかこさえなくてもいいじゃないですか… 。」


「… いや、むしろ超常の力が有るからこそ、文明は発展して行くのだが!… 。」


「… でも、魔法が有れば科学何て廃れるでしょ

… 魔法が有れば科学みたいに物理法則に縛られる事もないし… 。」


縁のこの自信にも満ち溢れた問いに、アイダ

エン は、困惑した…… 。


どうやら、彼の世界と自分の世界では、自分が想定していたよりも、考え方や、教養、技術が違い過ぎて、どう説明していいか解らなくなった。


アイダ エン は、呆れを通り越し、呆然として黙っていると「… 大丈夫ですか?。」心配した縁が声をかけてきた。


「… あっ、あぁー、大丈夫だ。」


アイダ エン は、どこか気の無い返事をすると、突然自身の頬をいきよいよく叩き、

「… よし。」と一言、大きい声で叫んだ。


それはまるで側から見れば、何か気合いを入れている様な行動にも見て取れた。


「… 藍田君。」


「…はいっ!」


アイダ エン は縁の名を力強く言うと、彼の肩をいきよいよく掴んできた。


「… 君の持っている常識はとりあえず捨てろ、

いいかな… 。」


「… わ、わかりました。」


縁の肩を強く握るアイダ エン は、力強い目つきで彼を見据え、縁が了承してうなずくと肩から手を話し、小さい子に諭す様に縁に話し始めた。


「… 藍田君、君は、魔法や超能力の類いが有れば、技術や科学が発展せず、それで事足りると思っているのだね… 。」


「… そうじゃないんですか?、だって不思議な力があれば、“力”で身の回りの事が出来るんだから。」


「… 出来るには、出来るが、それでは常に何かをするのに、力を出し続ける事になるぞ … 。」


「… いや!、だから、魔法的なのを使って、物に自分の力を付与(ふよ)して、常に力を使わなくてもいい様に、便利な物を作るとか … 。」


「……… 君はさっき、魔法が有れば便利な道具など必要ないと言ったんだぞ、早速君の言葉と矛盾しているぞ … 。」


「… あっ!。」


「… どうなんだ、藍田君。」


「… いや!、違います。僕が言いたいのは。」


「… 一人称が僕になったな。」


「… っく、そんなん今どうでもいいでしょ。」


「… 確かに。」


「… アイダさん、お・れ・は…… 。」


「… 藍田君、そんないや嫌みたらしく、俺を強調しなくても…… 。」


「………… いいから聞け !!!!!!!!。」


縁を叫び声を上げた。さすがにアイダ エン も少し茶化し過ぎたかと思った。


「… もう、余計な話しはしない。、良し。

…… あの、アイダさん、俺が言った便利な物って、アイダさんが見せてくれた適応剤とか、光る糸ミミズ見たいな明らかに見ただけで、わぁ〜!、すげー、テクノロジー的な産物じゃなくて、うん〜、何て言うのかな、もっとこう… 古臭い感じって言うか… 。」


「… すまない、藍田君。君の言っている事が全く解らない。後… 君が言った凄いテクノロジーに“菌糸虫(きんしちゅう)”と適応剤は一様入るのだな?。君の世界の尺度だと、二人とも技術的産物より、魔法の様な理解しがたい産物の様な気もするが…… 。」


「… きんしちゅうって何ですか?… 。」


「… 光る糸ミミズの正式名称だ。菌類の様に菌糸を伸ばして体内全域に根をはる様に宿主に寄生する。… だから念じれば、身体のどこからでも出す事が出来る。私が君に見せたのはそれだ…… 。」


「… アイダさん、その寄生って言葉止めてもらえます。何か身体の中をうねうね(うごめ)いているイメージがして気持ち悪いんで… 。」


「… 人だって星の資源を食い荒らす、寄生虫みたいなものだろ… 。」


「… そう言う、ワールド・ワイルドな話しじゃなくて、って、また、話しが逸れた…… あのアイダさん、話し元に戻していいですか?… 。」


「… どうぞ。ただ、藍田君、私は君が菌糸虫について聞いて来たから説明を………… 。」


「… あー、はい、はい、もういいですから…

本文元に戻しましょう。」


アイダ エン はどうも煮え切らないと言った顔を縁に向けた。


「… アイダさん、僕が言いたかった事は、魔法が有るから便利な道具が作られないとかじゃなくて、一度魔法とかの不思議な力で何かアイテムを作ったら、そこからはもう進化しようがないと思うんですけど… 。」


「… さっきから君は、道具、道具と言っているが、超常の力が有るからこそ技術や文明はそれを取り入れ、能力を持たない所よりも発展して行くものなのだがな…… 。」


「… いや、魔法とかが有れば、機会に頼らなくても、ある程度は人のみで何とかなるじゃないですか。」


「… ある程度とはどの程度だ。」


「… えっ!、それは、その… 掃除とか洗濯とか全部魔法で…… 。」


「… 結局魔法は使うのだろ、だったら、動いて作業するのと何も変わらないじゃないか。」


「… いや!、違います。…魔法とか超能力使えるなら、別に動かなくても念じるだけで、色々出来るじゃないですか… 。」


「… なぁ〜、藍田君、君にも先ほど伝えたが、魔法や超能力は私の世界では、身体を動かす事や頭を使うぐらい当たり前の事だと…… 。

なら、藍田君、君に質問なのだが、君は頭や身体を一日中使い続ける事は出来るか?。」


「… 俺は無理です。出来る人は出来ると思いますけど… 。」


「… 出来る人出来るだろうが、それでもフルで使い続けるのは無理だ。魔法も超能力も体力と同じで、使えば使うほど消費して疲れる。ならば、能力など使わずとも、ラクが出来る技術や環境が有れば、そちらを優先してそちらを使うだろ…… 。」


「… いや!、だから… 僕が言いたいのは、魔法があっても便利な道具は有るだろうけど、魔法が有ったら、その人個人の持ってる魔法の技術は上がっても、科学的な技術の発展はしないでしょ… 。」


「… なぁ〜、藍田君、そもそもなんだが… 何故君は魔法は科学じゃないんだと思うのだ。」


「… えっ!、だって魔法は魔法、科学は科学でしょ?説明出来るものじゃないですよ… 。」

そう言い切った縁の目は明らかに泳いでいた。それをアイダ エン は、哀れな物を見る目で眺めていた。


「… なぁ〜、藍田 縁 君… 君は根本的に間違っている。いいか… 魔法が有るから科学が発展しないのではなく、魔法が有るから科学が発達し、科学が有るからまた、魔法も発展するのだ。両者は切って切れる様な関係ではない。

君が矛盾していると言った、文明の差も私の世界の方が魔法の様な超常の力を科学技術に取り入れ、発展して行っただけに過ぎない。

そして、君の世界はそれがなかった、ただ、それだけの違いだ。」


「… でも、皆んな魔法が使えるなら、そもそも技術な発展自体どっかで止まる様な…… 。」


「 …… 皆んな!、皆が同じ様に能力が使えるとでも言うのかね君は!… 。」


「… えっ!、違うんですか!。」


「… 君の住んでいた世界では、皆が同じ様に頭が良かったり、運動能力が高かったりしたのかね?… 。」


「… いえ、違います。個人差はあります。」


「… そうだ。例え同じ人間でも、能力には個人差が出る。皆んなが皆んな平均で同じなどありえない。」


「… だけど、例えば、他の人よりも強い能力を持っている人がいて、その人が力を使って何かしようとすれば、道具とか技術は進歩せずに、文明はそこ止まりじゃ… 。」


「… その誰かも知らない人は、いちいち個人、一人一人に対応するのか?。だったら、その自分よりも力の劣る者達でも、自分と同じ様な力を個人個人が使える様になる技術や道具を作る方が、今よりも遥かにに効率的に物事が進むと思うがな… 。」


「… で!、でも…… 。」


「… では、藍田君、こう言う話しはどうだ。

ある場所に全く同じ物を扱う露店が隣どうしで、二つ有ったとしよう。そこには店主が一人ずついて、2人とも同じレベルの魔法を使える者とする。では… 君に質問なのだが、どちらの方が繁盛する。」


「… どちらって?… ちなみに何ですけど、その店が扱っている物って何なんですか?… 。」


「… 何でもいいさ。君が思う物でも…… 。」


「… 僕が思う物って?… あの、店主2人は魔法を使えるですよね… その2人は別に同じ魔法を使うとかではないですよね?。」


「… 同じでもいいし、同じじゃなくてもいい。だが、藍田君、どうして君はどちらが繁盛するかに、魔法がいると思ったのかね… 。」


「… はぁ!、貴方が店主は魔法を使えますよって言ったんだろ!。」


「… 確かに言ったが、私が君に尋ねたのは、どちらの露店が繁盛するかであって、魔法を使ってどうこうとは聞いていないが。」


「… いや、いや、いや… 今までの話しの流れからして、このアイダさんが俺に聞いてる質問って、魔法とか超能力のある世界で商売したらどうなるかって話しでしょ。だったらその同じ物しか扱わない二つの店は、店主らが持ってる能力使って、何かするんじゃないんですか?。」


「… 何かとは何だ… 。」


「… 何かって… その、魔法で店の雰囲気を良くするとか。扱ってる商品に魔法で何か特別な付与するか。」


「… 隣も同じ事をしたらどうする。」


「… だったら、隣よりももっと魔法で店を煌びやかにして、それこそ女性でも入りやすそうな工夫をして、後それから… もっと見た目とか中身の性能を魔法で強化して… あっ!……… 。」


「… そうだ、普通はそうなる。… この話しは商売にのみ適応される話しではない。他の所が違う何かをすれば、他だって違う何かをする。

よければそこの評価が上がり、そうでなければ下がる。人がいてなおかつ集団で行動していれば、必ずそうなる。

まぁ… 目立ち過ぎれば、徒党を組んで出る杭は打たれるかもしれないが、それは嫉妬から来るものだ… いずれ杭を打った者は、打たれた者と似た事をし、そして違う誰かに打たれる。

… あぁ!、藍田君… 打たれるからと言って、そこで、技術や知識が足踏みする訳ではないぞ、それらの事は遅かれ早かれ、必ず誰かが広え伝える。人間はお喋りな生き物だからな。

そして、それを使った別の誰かがまた、それらの発展改良系を違う誰かに伝え、その繰り返しの過程で技能や知識は高度な文明を形成して行くと私は思うのだがな… 。

なぁ〜藍田君、それらを踏まえて最後の質問なのだが、そんな彼らが魔法や超能力と言った、物理法則すら捩じ曲げる力を元から持っていた場合どうなる。文明はそこで停滞してしまうのか… 。」


「……………………………」縁は、言い返す言葉が出て来なかった。いや…、言い返さなかったのではなく、言い返す意味がないと悟ったからだ。


人は異能の様な力がなければ、それに変わる何で、科学のみが発展して行くと思っていた。


いや、… そもそも、縁とアイダ エン の世界では、科学も魔法も大した差などなく、魔法も科学であり、科学も魔法で有るのだと思う。


ただ、縁の世界では、魔法や超能力がなかったから、あの程度止まりの発展しかしていなかっと言うだけの事… もし、縁のいた世界に魔法や超能力の類いがあれば、今よりももっと、文明は進展していたかもしれない。


それこそ、あの地球に飛来してきた空飛ぶ軍艦にすら対抗する術を持ち合わせるぐらい… 。


「… 藍田君、そもそも何故君は超常の力が有れば、文明が発展は止まるなどと思ったのだ。」


「… アニメとか小説では、魔法とかを使う世界は大体、文明が中世ヨーロッパ辺りで止まっていたんで… 。」


「… 創作物のみから得た知識か… 。」


「… すいません。」


「… いいや、藍田君、別に謝る必要はない。

私の世界だって君の言った様な時代も確かに有るには有った。しかし、そんな時代は人が異能の力を使えると認識し、完全にコントロールする事が出来た段階で、たった10年足らずで終わっている。」


「… たった10年ですか!。」


「… 10年でも長いと思うがな… まぁ〜私は、その超常の力も科学も発展していない、土人の様な生活を贈っていた時代を実際見た訳ではないが…… 。」


「… そりゃそうでしょ!。昔の時代の話し何て、教科書とか専門書でも見ない限り、その時代の人が何やってた何て、素人には解らないんですから。でも、アイダさんが住んでる

超、科学も魔法も発展した世界からして見れば、僕の世界って、相当原始時代に見えるんですかね…… 。」


「… 私は君を助ける為、地上に降り立ったが…何て言うか、懐かしい感じがした。」


「… 懐かしいって、どう言う事ですか?。」


「… 私が小さい頃見ていた街の雰囲気に似ていたからな… まぁ〜、ほとんど奴らのせいで更地にされて、建物などは残っていなかったが…

あっ!…そうだ、地上に降り立った時、足元に落ちていたから、懐かしさついでに拾って持って来た物があるのだか…… 。


そう言うとアイダ エン は、上着の左ポケットから長方形で10センチぐらいの板の様な物を縁に手渡した。


「… こう言う時は懐かしいと言うのだろうな…

“私が5〜6歳の時の記憶”で見た物だ、こんな古い物よく落ちていたな… 。」


アイダ エン は、縁に手渡した物を嬉しそうに語っていたが、手渡された方の縁はむしろ惨めな気持ちになった。


これが古い!。そして自分よりも老いているアイダ エン が5〜6歳の時に出た物だと!。


アイダ エン が縁に手渡した物は、どう見てもスマートフォンだった… 。


多分、あの惨状で誰かが逃げる時にでも落としたのだろう、画面はひびが入り傷だらけで、本体は落とした衝撃なのか、ボディーが欠け、中の基盤が露出していた。


壊れているだろうと思ったが、何気に電源を入れてみた。


ついた…… 。


画面には若い男女二人の画像が出てきた。手を組み幸せそうな表情をしている。よく見ると二人の薬指には指輪がしてあった。


縁はその画像を眺めていたら、急に気分が悪くなり、スマートフォンを落として、左手で口を押さえた。


「… どうした!。」アイダ エン は、急に吐き気を(もよお)した縁に困惑しながらも心配で声をかけた。


「… 大丈夫です。アイダさん、本当に、大丈夫ですから… 。」心配かけまいと気丈に振舞おうとする縁だが、彼の瞳は空い、息も緩急の差が激しくなっていく。


アイダ エン は縁が落としたスマートフォンを拾い画面をつけた。


「… この画像のどこに気分の悪くなる要素があるのだ?。」


「… アイダさん、もうそれ絶対に僕には見せないでください、お願いいたします… 。」


「… 構わないが、何がそんなに気が触った。幸せそうな夫婦じゃないか。」


「… やっぱりそれ夫婦ですよね… 。」


「… 夫婦だろ!、薬指に指輪もはめているし。…… 何が気に食わない。他人の幸せは不快か?… 。」


「… いや!違うんです。… 気持ちが悪いとか、気に食わないとかじゃなくて、その… 画像を見てたら考えちゃって…… 。」


「… 考えた、 何をだ… 。」


「… このスマホの持ち主はもうこの世にはいないんだって… 。」縁は空い沈んだ顔でそう答えた。


「… 彼らは君の知り合いかね… 。」


「… いえ、違いますけど、どうしてですか?。」


「… なら、君が気にやむ事もないだろ。生き残ったのは君、死んだのは画面に映る彼ら、ただそれだけの違いなのだから。」


「… アイダさんはよくそんな風に割り切れますね。」


「… 割り切るも何も、知り合いでも何でもなければ、わざわざ感傷に浸る必要性はないだろ…

それとも君は、自分だけが生き残った事に罪悪感でも抱いているのかね… 。」


縁はこのアイダ エン の投げかけに、肯定はしなかったが、虚ろいだ表情であえてアイダ・エンから視線を外す縁の今の姿は、アイダ エン が尋ねた質問の答えそのものになっていた。


「… アイダさん。」その声に力はなかった。


「… 何かね。」


「… 助かったのって、俺だけですか?。」


「… そうだが、いや!、セレハ君… あぁー、そう言えば今は君の母親か?、いちよう生きてはいるから、助かったのは、君と君の母親の2人だ。」


「… 他の人が大勢死んだって言うのに!、何でそんなに他人事みたいに、淡々と話してられるんですか… 。」


「… 所詮、他人だからな、わざわざ君の様に、意味もなく無意味に無価値に悲しんだりはしない。… そもそも、君はセレハ君意外、興味はないのだろ。君が持つ、その他人への哀れみは、自分が他人に興味のない酷い人間だと認めたくなく、それを万が一認めてしまった、自分が傷つきたくないからの他人も心配してますよ〜の、代償行為ではないのかね…… 。」


「… アイダさんそれ以上は言わないで下さい。自分でも分かってますから… 。」


「… いや!、君は分かっていないよ。… その顔を見れば分かる。」


「… 顔をって!、… 貴方は僕の何を知ってるっていうんですか?… 。」


「… 君よりは知っているさ… 。」


「… 何を!。」縁は語気を強めに喋った。


彼らの周りは徐々に嫌悪な空気が立ち込め、やたらつかかって来るアイダ エン に縁は嫌気がさし始めた。


「… しかし、まぁ〜 、君がそうなってしまったのは、ある意味あのバカ女のせいなのかもな!… 。」


「… バカ女!、誰の事言ってるんですか?。」


縁は眉間にシワを寄せてアイダ エン の方を見た… 。


「… セレハ君、君の母親以外いないだろ。」


「… !!!!!!!!!!!…… 。」縁は太ももまでかかっていたシーツを蹴り上げ、ベットから降りて立ち上がると、アイダ エン の胸倉を激しく掴んだ。その顔はアイダ エン と話し始めた中で一番の怒りと悲しに満ちていた。


「… アイダ・エン、今の発言は撤回しろ!!! 。」縁は、今まで以上の怒りとそして、殺意にも似た感情で、アイダ エン に怒鳴りつけた。


「… 藍田 君、私は自分の発言が自分でも間違っていると思えばそれは訂正もするし、謝りもする。しかしだ、今の発言は訂正はせんぞ、何一つ間違っていないからな…… 。」


「… っう!、…… テメェ!!!!!!… 。」

怒りで、胸倉を掴む手にさらに力がこもった。それでもアイダ エン は、顔色一つ変えず縁を見据えていた。


「… 君は怒りの沸点が分からないな。君との今までの会話で、これよりもキレそうなポイントはいくつか有ったと思うが⁈ ……… 。」


「… あんたはいい人なんじゃないかと一瞬は思った。… でもそれは違ってたみたいだ!。」


「… 何を持って良い悪いとするかは、人の主観だ。… 私は自分が悪い人間とも答えなかったが、良い人も答はしなかったがな。… 後、藍田君、すまないが、もう手を離してはくれないだろうか、服が伸びる。結構気に入っているのだこの服。」


「… ふざけてんのか!!!…あんた!… 。」アイダ エン のこのふてぶてしいとも取れるこの態度に縁は、さらに怒りを強め、より一層服を()じ切ってしまう勢いで掴んだ。


「… 藍田君、本当にやめてくれないか… 。」


縁は、アイダ エン の静止も聞かず、胸倉を掴み続け、怒りにこもった荒い息を彼の顔に吐き捨てる。


!!!!!!… 突然だった。アイダ エンは、縁の襟元を掴み、片腕の力のみで彼を放り投げ、天井に叩きつけた。


叩きつけた縁も一瞬何が起こったかわからなかったが、考えるよりも先に、背中の方から物凄い衝撃が身体全体を伝い、意識が飛んでしまった。そして数秒してから今度は、腹部にとてつもない鈍痛が走り、そのせいで、飛んでいた意識が再び戻った。


背中の衝撃は天井に叩きつけた事によるものだが、腹部の痛みは何だと?、霞む目で、お腹の方を見た。


拳が腹部にめり込んでいた。アイダ エン の腕だった… 。


アイダ エン は縁を天井に投げつけた時、落下してくる彼を、受け止めるのではなく、腹にめがけて、真上に拳を叩きつけた。


アイダ エン の拳のみで支えられている縁の身体は、床から数センチ離れた所で浮いてい、ぶらぶら揺れていた。


アイダ エン はそんな糸の切れた人形の様に手足が揺れる縁を、投げ捨てる様に床に放り投げた。


縁は、右半身をいきよいよく床に打ち付けた…


痛い!…… 縁はそれしか感じなかった。ただ、天井にも腹部にもそして、こうして床に叩きつけられてさえも、痛い事には痛いのだが、どれも長引く様な痛みではなく、よろけはしたが、直ぐ立ち上がる事が出来た。


「… 少し熱は冷めたかね、藍田君。」


縁を殴った本人であるアイダ エン は、とても人を殴ったとは思えないほど、涼しい顔をしていた。


「… てっ、テメェー!… 。」縁はよろめきながら、低い唸り声を出して、アイダ エン に近づき、彼を睨みつけた。


アイダ エン はそんな縁をどこか哀れむ様な顔つきで見据え、深く深呼吸してから、一言放った。


「… まだ、お前は、頭に血が上っているのか!………… 。」


今まで人をどこか小馬鹿にした様な、飄々とした口調だったアイダ エン の声が少しだけ変わった。ほんの少しの差だが、縁には何故か?、その差が物凄くある様に感じた。


‼︎ … 縁は何かに気づき!、足元を見た。足が震えていた⁉︎… 。


えっ‼︎ … どうして!、そんな感想しか出て来なかった。


別に恐怖を感じている訳ではないのにどうして。足から来た震えは全身にまで上がって来た。そして、とうとう頭まで来ると、明確な恐怖となって、襲って来た。


縁は膝から崩れる様に倒れた… 。


縁は一瞬だけある事が頭をよぎった。地球で母親に似た女に右腕を切り落とされ、その後、彼女が読んだであろう軍隊が地上に降り立ち、それを引き連れていた赤マントの男を見た時、今と同じ様な恐怖を覚えた。


ただ、今とあの時は同じ恐怖でも性質が違う様に縁は感じた… 。


赤マントの男は、目を合わせた者を一瞬で射殺す様な、瞬時で来る恐怖感だったが、今自分が感じている恐怖は、得体の知れない何かに包まれて、外から中にかけてジワジワ、精神を崩される様な不快感を伴った、恐怖感がある。


膝が崩れ落ち、今だ治る事のない震えと恐怖感の中、縁は顔を上げた… 。


アイダ エン が縁を汚い物を見る様な目で俯瞰(ふかん)したいた。


その顔は、まるで、駄々をこねる子供に対し、平然を装いながらも、隠しきれない怒りを必死で抑えている様にも感じてた。


縁は何か言いかけたが止めた…… 。


今まではこの人と話すのは、最初こそ同じ顔で得体の知れなさから警戒心も有ったが、話して見れば、冗談めいた事も言うし、物腰も柔らかかったので、気を許して縁自身、激しい口調で喋ってしまっていたりもした。


だか、今縁の目の前に立っている人物は人の姿はしているが、おおよそ彼の目には、人とは思えない別の何かに見え、防ぎようのない恐怖心を倍増させるだけであった。


アイダ エン が、膝を着き座り込む縁の前に、急にしゃがみ込み出来た。


縁は、ビクっ!と、仰け反り、アイダ エン から目線をそらそうとしたが、アイダ エン は、縁の頬を両手で挟む様にして、自分の正面に向けさせた。


今の縁は、先程とは威勢の良さはなくなり、怯えた子犬の様な表情をアイダ エン に向ける… 。


そんな縁の様子にアイダ エン は、少し呆れを含ませて彼に話しかけた… 。


「… 藍田君、先程はいきなり天井の叩きつけたり、腹パンして悪かった。だかな… 、君もしつこい。… 止めろと言っているのだから止めるべきなのだ。相手との力量も解っていないのに、無闇に突っ掛かり、止めどきを測れない者ほど、見苦しいものはないぞ。」


「… で、でも………… 。」縁は両頬をアイダ エン に挟まれ、顔がむぎゅっとした形になっていた。


「… でも、何だ… 。」


「… あっ、アイダさんが、あんな事言うから… 。」


「… むしろ何故、あの程度の発言でキレるのかそっちの方が不思議だぞ… これよりも前から君を怒らせる様な発言は沢山したと思うがな… 。」


「… じ、自覚、あったんですね… 。」


「… ないよりマシだろ。」


アイダ エン は、挟んでいた縁の頬から手を離して立ち上がると、彼に手を差し伸べた。


「… 立ってくれるかな… 。」そう言われた縁は、少しヒクつきながらも、アイダ エン の手を取り、立ち上がった。


立ち上がった時、縁は不思議に思った事がある。… アイダ エン に感じていたあの、得体の知れない恐怖感が何故か?突然消え!、いつも通りの自分に戻っていた… 。


縁はアイダ エン に何か言いかけたがその瞬間、…ピンポン… とインターホンを鳴らしたかの様な音が部屋に響いた。


「… あぁぁぁ〜 、やっと出れるか。」アイダ エン はそう言うと大きく伸びをし、身体を屈伸させた。


「… あ、あのー 、何が……… 。」


「… あっ!、そうだった。… 藍田君、あの位置まで移動してくれるかな… 。」


アイダ エン は、このアクリル板で出来た、箱の真ん中辺りを指差し、縁に移動する様命じた。


縁は何だとは思ったが、さっきのアイダ エン の豹変ぶりもあり、イヤですとは言えなかった。


縁は渋々、箱の真ん中に立ち、縁が立つとアイダ エン も縁に身体をくっつける様に隣に立った。


「… あ、あの、アイダさん、もうちょっと離れて…… 。」縁が最後の一文を話しかけた時、急に床が抜け、下へと落ちた。


落ちた先は、ウォータースライダー様な螺旋状のスロープになっており、物凄いスピードで滑るたび、縁の悲鳴がウォータースライダー内に木霊した。


数秘感グルグルとウォータースライダーを降って行くと出口が見えた。


だが、このスピードで外に投げ出されれば、壁や床に激突するのではないかと思い、縁はさらに悲鳴を上げた。


出口に出た。案の定縁は背中にブースターでもつけているのと思うぐらい、いきよいよく飛び出して激突すると!… 縁は目を閉じて歯を食い縛ってが、そうはならなかった。


出た先は床がサイコロ状にカットされたスポンジが、身体が沈むぐらいその部屋一面に巻かれており、壁も天井も万が一当たっても大丈夫な様に、エアークッションの様な物が壁、天井、一面に敷いてあった。


ただ、蛍光灯らしき発光物が備えつけてある周辺は、クッションが敷かれておらず、あそこに激突しなくて良かったと、縁は心の中で安堵した。


しかし、安堵したのも束の間だった。縁はホッと一息着こうとしたが、その瞬間…背中の方に、ひざ蹴りでも食らったかの様な衝撃が来た。


衝撃の正体は、アイダ エン だった。彼も縁の後を追う様に、ウォータースライダーを降り、出口に放り出されたが、着地した場所にたまたま縁がいた為、彼の背中にひざ蹴りを喰らわせる様な形になってしまった。


「!、すまない藍田君、大丈夫か!… 。」


「… いちよう平気です。」そうは言ったものの、縁は背中を押さえて、どう見ても痛そうな表情をしている。


「… 本当に、本当に、すまない。藍田君。」


「… だから、もういいってですば… って言うか、アイダさんも可笑しな人だよな。」


「… 私は今、何も可笑しな事はしていないぞ… 。」


「… いや!、今じゃなくてさっき無菌室にいた時は俺を天井に叩きつけたじゃないですか!…

後、頑なにあの発言は謝らないのに、これは物凄い丁寧に謝るし… 。」


「… あの時の発言と行動は私的には何も間違っていないと思ったから謝らないだけで、今は完全な事故であり、私に責任がある。謝るのは当たり前じゃないか。」


「… 当たり前って!… うふふふふ…… 。」縁は突然クスクス笑い出した。


「… 何だ!、気持ち悪い。」アイダ エン はそんな突然笑い出した縁に、不気味さを感じ、彼から距離を取ろとした。


「… いや、アイダさん、ごめんなさい。何かバカらしくなっちゃて。この事もそうですけど、さっきの無菌室での会話も含めて… 。」


「… 君は、情緒不安定だな。」アイダ エン は、少し顔を引きつらせながら答えた。


「… 本当、俺はバカですよ。いつも何です、母親の事バカにされると流してほっとけばいいのにつかかって、結局負けて痛い目を見る。…

いつまで経っても学習しないな俺… !。」


縁は笑いも含んだ冗談交じりに答えていたが、アイダ エン はどこか憂い含んだ瞳で、縁を見据えていた。


「… どうしたんですか?アイダさん… 。」縁はアイダ エン が、自分の方をみて(ほう)けた様な表情をしているの事に不思議がり、声をかけた。


「… あっ!、何でもない。… すまない藍田君、少しボーッとしていた。とりあえずここから出よう…… 。」


アイダ エン はどこか急かす様に歩き出し、スポンジの山を掻き分けて行く。


縁もアイダ エン の返答に小さくうなずき、スポンジ部屋の出口に向かってアイダ エン の後を追った。


しかし、サイコロ状にカットされたスポンジは、前に進もうとしても身体に当たり中々歩けず、むしろ進めば進むほど、前に埋まって行くだけだった。


それでなくても縁は、左腕しかなく、サイコロ状のスポンジを掻き分ける事すら、アイダ エン に比べて手間取っていた。


このスポンジの塊と数分間、歩む、引くの押し問答を縁が繰り広げ格闘していると、前を進んでいたアイダ エン が縁の方を振り向き「… 出口に着いた… 」と言った。


アイダ エン が出口と言った場所はエアークッションで出来た壁で、開いたり、上がったりする様な仕掛けは、縁の目から見て見当たらなかった。


「… アイダさん、これどうやって出るんですか?… ただのどデカイマットにしか見えないんですけど… ?。」


縁は高さが2メートルぐらいあるエアークッションを、呆然とした眼差しで眺めた。


「… どうやって出るも、ここに外に出る為の切れ込みがあるではないか… 。」


そう言ってアイダ エン は、マットの中心を指差し、縁に切れ込みのある場所を伝えた。


縁はアイダ エン が指差した所を凝視した… 。


確かによく見るとマットには細い切れ込みがあり、遠目からではあまりにも細過ぎて、マットと切れ込みが全く分からなかった。


縁はマットの切れ込みに左腕を突っ込んだ… 。


最初はエアークッションの様な素材とは言え、この細い切れ込みを腕などの身体の一部ならともかく、身体全身を入れて進むのは、多少無理が有るのではないかと縁は思った… 。


だが、腕を入れて見るとその感触はとてつもな柔らかく、ズブズブと左腕は奥へと入って行った。


サイコロ状にカットされ、部屋一面にばら撒かれているこのスポンジの方が硬く感じてしまうほどに。


縁は左腕を抜き、アイダ エンの方をして見た。


「… あの、そもそも何ですけど、何で、こんな出口にしたんですか?。」


「… 壁を開いたら、中のスポンジが廊下側に出るではないか… 。」アイダ エン は、さも… 何当たり前の事聞いているんだ… 、とした表情を縁に向ける。


「… あっ!そうかって… なりませんからね。…そもそもこの部屋自体何なんって、ちょと…… 。」


アイダ エン は、縁の話しを全て聞く前にマットの切れ込みに潜り、1人で先に進もうとしていた。


「… ちょっ!待ってくだいよ、アイダさん!… 。」


縁は置いていかれると思い、慌ててアイダ エン の後に続いて切れ込みに入った。


切れ込みに潜ると当たり前だが暗く、先が見えない。


ただ、結構進んでいるのに外に出ないと言う事は、あのエアークッションで出来た壁は、相当な厚みがあったんだなと縁は進みながら思った。


しばらく進むと前を進んでいたアイダ エン の声で、「… 出たーー 。」と聞こえ、少し歩く速度を速めて身体を前に押し込んで行くと、ようやく細い光の筋の様なものが見えた。


光の筋を左手で広げると、廊下らしき所に出た…。


切れ目から少し離れた所では、先に出ていたアイダ エン が杖をついて待っていた。


縁は切れ込みから全身を出すと辺りを見回した。


見た目は廊下の様だったが、廊下にしては形が湾曲しており、上を見ると人の肋骨を模したかの様な天井が奥まで続いている。


「… どうしたのだ!、藍田君… 惚けた様な顔をして。」


「… いや、別に惚けてはないですけど… 、

あの、何ていうか… 気持ちの悪い形の廊下だなって… 。」


「… そうか…… やはり君もそう思うか。

私もだ…… 。」


「… じゃー何で、変えないんですか?… それとも金がないから出来ないとか?… 。」


「… 金がないから出来いのではなく、あの骨の中には、血管の様に入り組んだ配線がぎっちり詰まっていてな、変にいじるとこの船の制御システムに、支障を来す可能性があるのだよ。…

だから、変えたくても出来ない。」


「… メンテする時大変そうですね。」


「… 死ねほど大変だぞ!… お陰で、本来使えるはずの機能を喪失させてしまったよ。」


「… どっか壊したんですか?。」


「… 切ったらダメな配線や外したら不味い基盤を外した… 。」


縁はアイダ エン に対して少し軽蔑した眼差しを向けた。


「… 藍田君、そんな目で見るな。私は本来機会いじりは苦手なんだ。修理だって相方と2人で見よう見真似でやっと出来ているのだから。」


「… アイダさん以外誰かいるんですか!。」


「… あぁ、いるとも。君と私が無菌室を出たら、紹介するつもりだったから、このまま私について来てくれるかな。」


「… あっ、はい。」


縁が小さくうなずき返事をすると、アイダ エン は廊下を歩き出し、その後を縁も続いて歩い

た。


アイダ エン は杖を突き、左足を少し引きづる様に歩いていた。


アイダ エン は杖を突いていたが、無菌室の中では立ったり移動する時、杖をつかづとも行動出来ていた… 。


アイダ エン はファションで杖を持っているのかと縁は思っていたが、こうやって長い距離を歩くと足を引きづると言う事は本当に足が悪かったんだと思った。


そして、アイダ エン の足元と自分の足元を見て縁はある事に遅れながら気付いた。


今更だが、縁は靴をはいておらず、アイダ エン 自身も縁が靴をはいていない事に気付いていなかった。


金属で出来た冷たい床を素足で歩くのは結構身体を冷やすなと縁は思ったが、ここまで来ればもう靴を下さいと言うのも面倒だと思い、あえて催促はしなかった。


「… あの、アイダさん。」


「… 何だね。」


「… さっき聞きそびれたんですけど、結局あのスポンジ部屋何なんですか?。あっ!後、その杖どっから持ってきたんですか?。」


「… 杖は廊下の壁に目立たない様に等間隔で備えつけてある隠し扉に常備備蓄してある。どこかに杖を忘れた場合歩くのが大変だからな。…それとあの部屋の事は知らん。何せこの船は他人から取った物だからな。あの部屋がどうしてあの様な作りになっているのか検討もつかない。」


「… 他人から取ったて、盗んだんですか!。」

縁は立ち止まり叫んだ…… 。


アイダ エン は縁の方を振り向いた。


「… なぁ〜藍田君、君が思っている様な事は、決してしていないからな… 。」


「… 俺が思う様な事って何ですか?。」


「… いい人から無理矢理奪ったりする事だ。」


「… いい人じゃなかったら、奪うんですか?。」


「… さぁ、どうだろうな… 。」そう言い残しアイダ エン は、前を振り向き再び歩き出したが、縁はアイダ エン が振り向きざまに、口角が少し上がっているのを、ハッキリと確認した。


彼の背後を歩く縁は、この人は信じるべきなのか否なのか本気で分からなくなり、顔を下に向け、髪の毛をむしゃくしゃにかきむしり悩んだ。


!… 縁の前方を歩いていたアイダ エン が急に立ち止まった… 。


下を向いていた縁はそれに気づかず彼の背中に頭をぶつけた。


「… あっ!、すまない藍田君。」


「… えっ!、あっ!… こちらこそすいません。

よそ見してました。…… 何で止まったんですか?… 。」


「… 目的の場所に着いたからだ。」そう言うとアイダ エン は、左側にある一つの扉に指を刺した。


扉の右隣りには、赤色と青色をした丸いスイッチが縦方向に備えつけてあり、アイダ エン は赤色の方のスイッチを押した。


扉が左から右へと横にスライドして開いた… 。


「… さぁ〜、入ってくれ。」そう言うとアイダ エン は 後方にいる縁に先に扉の向こうに行く様に、手招きした。


縁はアイダ エン より先に入る事に少し躊躇したが、断ってもまたグダグダ長話をして、無理矢理納得させようとするに違いないと思い、意を決して扉の向こうに歩を進めた。


縁はこの先に何があるか分からなかった為、目を閉じて扉の中に入った。


縁は少しずつ(まぶた)を上げ、完全な開ききった。


開いた先を見て縁は感嘆とした!…… 。


目の前には巨大なガラス張りをはめ込んだ、応接室の様な作りの部屋だったが、それ以上に縁を感動させたのが、その巨大なガラス張りの向こうの景色だった… 。


映画やマンガ、ニュースや教材映像でしか見た事のない景色が、現実に縁の目の前に広がっていた。


ガラス張りの向こうは宇宙だった… 。


果てしなく続く暗闇… その暗闇の中に地上の夜空とは比べものにならないほど光輝く星々… 。


一番遠くに見える星の光すら、地球で見るよりも光っている様に感じる。


中には天野川の様な光の集合体もあるが、明らかに光の光量も、大きさも地球のよりでかく、眩しいぐらい輝いている。


縁は言葉が出ず、その光景を童心に帰った無邪気な少年の様な顔で眺めていた。


正直、ここに来るまで縁の心は半死の状態だった。… 当たり前だ、あんな荒唐無稽な出来事に襲われれば、縁でなくても遅かれ早かれ精神を来すに違いない。


それでも彼は何とか踏ん張って平静を装っていた…… 。


しかし、アイダ エン が見えない心の中では、叫び泣いていたはず。… 例えそれが自分でも気づいていなかったとしても、確実に心はボロボロに砕かれる… 。


だが、今縁が見ている景色は、そんなひび割れ、崩壊寸前の心ですら、癒し、修復するほどの力を持ったとても素晴らしい光景だった… 。


「… ガラスに近づいてもっとよく見たらどうだ… 。」いつの間か縁の左隣りに並んでいた、アイダ エン が縁に尋ねた。


「… えっ!、いや!、とりあえずはここでいいです… 。」そうは言った縁だったが、目の前の光景にずっと顔が(ほころ)んでいた。


「… いい顔をするではないか。」


「… えっ!、別にそんな事… 。」


アイダ エン の問いかけに答えるエンだったが、続きの返答よりも目の前の景色を眺める方が今の縁には重要だった… 。


アイダ エン は、そんな縁を横目で見ながらも、縁の心から来る笑顔に、自分もつられて顔が綻んでしまった。


『… 本当、いい笑顔する様になったな!… 。』


「… だから、アイダさん、そんな事は!…

!!!!!!!!!!!!………… 。」


今の声は誰だ!… 縁は心の中で、一瞬焦った。


アイダ エン の声は縁の声をあまり抑揚(よくよう)を付けずに喋った様な声だが、今聞こえた声は自分達の声よりも低くく、聞けば若い人ではなく、おじさんやおじいさんを連想させる様な声質だった。


声は自分の真下から聞こえた気がした。縁は恐る恐る自分の足元を見た。


何もなかった…… 。


縁はホッと方を撫で下ろして、アイダ エン の方を振り向いた。


『… よっ!。』アイダ エン の肩に、顔面が真っ黄色をした体調7〜80センチぐらいの生き物?が、縁に向けて手を上げていた。


「… ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 。」


宇宙船内に縁の悲鳴が今日一番で木霊した… 。


その1その2に続き、その3読んで頂いた皆様ありがとうございます。

相変わらず、意味の分から無い仕様になっていますが、成るべく解りやすい文章を書いて行ける様に心がけていきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ