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代替の利く私は、汚い要塞で

作者: 甘宮るい



 カーテンも窓もずっとこの暗い部屋を作っている。電機はオレンジ色の小さいものだけが本を読んで動画を見る程度の視界をくれた。2リットルのペットボトルは、空であってもまだ開けていなくても関係なく適当に転がっていた。紅茶を飲んだマグカップはキッチンに持っていかないまま、一昨日くらいにコンソメスープを飲むときに使ったスープカップと一緒に置いてある。

 びっしり埋まっていたスケジュール帳も珍しい週捲りカレンダーも3ヵ月前から今日まで真っ白だ。2台のパソコンは付けっぱなし、それなのに毎日聞いていたパソコンの中の目覚ましソフトの音だけは鳴り止んでいる。ここのところ、ずっと聞いていない。

 ポストにはきっと山盛りの郵便物が届いているだろう、廊下に出すところまでしかしなかったゴミ袋も溜まったままだ。

 冷蔵庫は冷凍食品とお茶を残して空っぽ。日課だった毎朝のサラダ習慣は、少しの変化で消え去った。インスタントの食品が冷蔵庫の上に並んでいる。昨日も使った、ポットは口を開けていた。


 人と関わるということはとても恐ろしいことだと、この歳になってやっと理解した。ずっとずっと、分からなかった。何度も傷つく周りの友人たちを見て、大袈裟だろうと思っていた。見下しているような心中をいつか覗かれないか、それだけが気がかりなだけだった。

 覗かれるとか見つかってしまうとかそういうものでなく、私はただ人と関わったというだけで見っとも無く3ヵ月も家に篭ることになった。恋をしたわけでも、とても大事な友情が壊れたわけでもない。

 人に意見を聞いてもらえなかった。人に意見を求められなかった。

 ただ少し関わっただけの彼らに、あまり関心を持たれなくなったのだ。

 疎遠になったわけではなかった、距離を置かれたわけではなかった。今までにないその変化に感づいてしまった。あぁ、この人たちは私が私ではない、似たような他人でもいいのかもしれないと思ってしまった。

 気づくだろうかと疑い始めた。

 ここで私が彼らと出会う前の私と入れ替わったところで、たった数週間の短い期間しか私と居ない彼らが気づくだろうかと考えた。私はきっと戸惑うが、適当に話をあわせてボロが出ないうちにそっと場を抜けるだろう。

 その少しの時間の間に、気づかれたいと思ってしまった。

 似たような他人でも、私でも今とは違う私でも、良いと思ってしまう程に酷い関わり方をしていたくせに。

 そこでやっと気がついた。今までの私の所業に気がついた。

 私は、人と関わって傷つく周りの人間を見て大袈裟だと感じるほど、周りとほとんど関わっていなかった。

 他の誰かが取って代われるような関係しか築けていないから、その傷がわからない。あの人たちは、この人たちは、きっと取って代われない関係を沢山築いているから悩むのだろう。取って代われないからそこまで大事で、代えられないから大事にしていたのだ。


 それを軽視した私は取って代わられる。私は、交換ができる消耗品だった。


 この汚い部屋を片付けて、人と今から交換したくない関係を作れるかどうかわからない。部屋を片付けてしまえば、進まなければいけない気がして怖い。カーテンの先の窓の向こう、その光が遠くて仕方ない。


 あぁ、人との関わりはこんなにも。

 これじゃあ私は、自分を守るので精一杯だ。



読んでいただきありがとうございます!

勢いで書いた話なので、ちょっと重かったらごめんなさい。いい後味だと嬉しいです!


あえて「それでもいつか、取って代えられない関係を築きたい」という文を入れるのを辞めました。

ちょっと先の未来で、そうふと思って欲しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 人の本質を飾ることなく正直に語っているんじゃないですか。 カッコつけたところがなく、素直に受け止められます。 後書きの通り、その一文は入れなくて正解だったと思います。
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