Rule of God #1
世の中には、必ずルールというものが存在する。
そのルールを絶対的なものにすることができるのが、主導者だ。
主導者とルールは、生き物全てに存在しているということに、あなたは気付いているか?
蟻の女王は働き蟻に命令するし、大人は子供にルールを守れと要求する。あなたの周りでも、思い当たることはあるはずだ。
もう一度言おう。「世の中には、必ずルールというものが存在する」
あなたが知らない「神様の国」でも、この理は絶対だ。
ーーーー神様のゆうとおり!!ーーーー
コトコト、コトコト…。
甘い香りが充満した家の中で、一人の少女は笑っていた。
コトコト、コトコト……。
手をゆっくりと動かしながら、鍋の中の液体をかき混ぜる。まるで、ヘンゼルとグレーテルに出てくる魔女のように。しかし、その笑顔は邪悪なものとはかけ離れた可愛らしいものだった。
まるで、心の底からこの作業が楽しいような…この後起こる何かを期待しているような笑顔を浮かべて、少女は呟いた。
「できた」
カチッ。
コトコトという音が止み、代わりに明るい声が響く。
「ムーンドロップのジャムの完成ー!今回の納品分120ロット、大変だったけど楽しかったー!」
くるくると踊りながら作りたてのジャムを美味しそう、綺麗と愛でていると、勢いよく窓が開かれた。
「おい蜜宮!」
「あっ!渚!どうしたの?」
「どうしたの?じゃねえよ!」
蜜宮、と呼ばれた少女は、パッと明るく振り向く。しかし、渚と呼ばれた少年は声を荒らげて続けた。
「おまえ、また神の野郎が言ったむちゃな願い事叶えたんだって?!」
「120ロットのジャム作っただけだよ?」
「それがむちゃだっつーんだよ!…クマ、すげーできてる」
「ええっ、うそ!?やだー、神様に会うのに!」
鏡を見に行く蜜宮の後ろで、渚はますます機嫌が悪くなる。
「…あんなやつの、どこがいいんだよ…」
ここは、神様の国。
名前のとおり、神様が統べる国。
この世界には、絶対のルールがある。
それは、
「神様の指定した職業で一生を過ごすこと」
「それにもとづく捧げものを神様へ献上すること」「神への謀反は追放に値する」
そして「その3つの掟を犯さなければ、自由にこの世で過ごすことを許す」ということ。
神様のルールは絶対。
これは、ここ……神様の国で住むには必要な条件。
「よし、クマも隠れた気がするしそろそろ行きますか!約束の時間に遅れちゃイヤだし!」
鏡の前で、オレンジと黄色をベースにしたワンピースを翻して駆ける。
「それじゃあ行ってくるねー!渚!またねー!」
「蜜宮!…あーもー!!」
悪態をつきながら、水兵が着るようなセーラー襟に通ったスカーフをなびかせて、渚はズカズカと職場である海へ向かって歩いた。