提案
「……あの子?」 「……坊や?」
グスタシオン王の話をしたら、老人とイーナがあの子だとか坊やだとか言い出したので、リクルドとハナンザは怪訝な顔で老人達を見ていた。
ちなみにグスタシオン王は齢30ほどだ。
「あ、いえ! こちらの話です。しかし、王に言って軍でも派遣してもらうのですかな?」
「あぁ、ヘルハウンド達を殲滅するための軍を編成してもらう。ヘルハウンドは併呑する森の浅いところまでやってきていた、それに今もこうして俺たちを追う事で更に町の方へ来てしまっている。一刻も早く軍を率いて、殲滅して頂かんと、被害者は物凄い数になるだろう」
老人は考え込んで
「そうですな……。ならば、ここで倒してしまえばよろしいのでは?」
そうすれば解決だろう、という風に老人は言ってのけるが、リクルドとハナンザからしてみれば荒唐無稽のように聞こえてならない。
もちろん老人が強者であるのは理解しているが、数とは暴力である。あの強力な一撃をみせた老人にしてもやがて魔力が尽き、物量で押されてしまうだろうと思ったのだ。
ただでさえ厄介なヘルハウンド、しかも群れておりリーダーの存在も気になる。この状況でどうやって倒すというのか。
「ジーさんの強さはわかっちゃいるが、流石にあの数は厳しいんじゃねぇか? 魔力も無限にあるわけじゃないだろうし、確認できただけでもさっきの数の100倍以上はいたぞ?実際はもっといるはずだ」
リクルドは思った事をそのまま口にした。これにはハナンザも全く同意見だった。そうなのだ、できるはずがない。いまの王国にヘルハウンドの群れを殲滅できる者は、グスタシオン閣下以外にいない。1000頭を優に超えるヘルハウンドなど絶望でしかない。
「イーナさん一応確認したいのですが、手伝ってくれたりは?」
素性がバレないように、こっそりと老人はイーナに耳打ちする。
「この地は私の庇護下にある場所よ。私自らこの地の生命を刈り取る事など絶対にしないわ。人間と魔物の小競り合いなんて自然の流れの一つよ」
庇護下というのは別に守ってくれるなどという意味ではなく、災厄ノ龍〈カラミティドラゴン〉によって攻撃される事がないと約束されているだけである。しかし、その意味する事はとても大きく、ある意味災厄から守られていると言っても良いかもしれない。
「そうですか、ならば私だけで何とかするとしましょうかね。私が動く事に何か問題はありますかな?」
「別に、私がこの地を攻撃する事はないというだけよ。どんな奴が何しようが好きにしたらいいわ。ていうかあなた、超広範囲殲滅技なんてもってたっけ?」
イーナは老人の実力を知っており、確かに自分に匹敵するほどの強者である事は分かっている。それゆえ、あくまでも剣士である老人が、この地域のモンスターを一掃する術を持たないことも知っていた。
「イーナさん、私が斬撃波を使えるのを忘れたのですかな?」
「斬撃波は剣撃に気を乗せて放つただの中近距離技でしょ。大魔法だの大袈裟に言われてるけど、あれじゃ倒し終わるのに日が暮れて登るわ。どっちみち人間がある程度死ぬのは変わらないのだから、軍を派遣するよう頼めばいいじゃない。人間なんて50年も経てばまた増えるわよ」
「イーナさん、投槍と攻城兵器のバリスタの違いは何かわかりますかな?」
「……何が言いたいわけ?」
老人の突然の例え話に何の意味があるのかイーナには伝わらない。
「違うのは槍の速度と大きさ。つまり、そういう事です」
老人は何かイタズラする子供のように、そう言うのであった。
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