爺さん
「お怪我はありませんかな? 右足以外に、となりますが」
老人は目を見開いたまま立ち尽くす男に、そう声を掛けた。
「あ、あぁ、助かった。しかし、あんたは一体? 凄腕の魔道士とお見受けするが。あー、俺の名はリクルドだ。冒険者をやってる」
正気に戻ったのか、リクルドはそう言った。一連の出来事は魔法ではなく、類稀なる剣技によって為された事だが見る人によっては魔法に見えても仕方がなかった。
「そうですな 、魔道士といったところでしょうかね。私はジーと言います。性はありませぬ」
「そうか、ジーさん助かった。あんたは命の恩人だ。礼を言う」
「いえ、お気になさらず。しかし、リクルド殿は相当なご覚悟でこの場に居たようですが、あの女性の冒険者を助ける為に?」
「ジーさん! ハナンザを見たのか? 無事か?」
「ハナンザさんで合ってるかと思います。ええ、彼女なら私の仲間が保護していますよ。ご安心ください」
リクルドは心底安心したようで、肩を撫で下ろした。彼の決意は無駄にはならなかったのだ。
「しかし、こんな大魔法は見た事がない。そう何度も打てるものでないのは俺でも分かる。とっとと森を抜けよう」
「そうですな、あのヘルハウンド達も群れの一部でしょう」
「こんな足だ、ジーさん、あんたは俺と一緒にいる必要はねぇ。一度救ってもらっただけで充分だ。ただ欲を言えばハナンザを王国まで連れてって欲しい」
「もう少し欲をかいて、俺も王国まで連れて行って欲しい、と言っても良いんですよ? 時には強欲に、生きる事に執着する事も必要です」
「はは、さすがに命の恩人に、これ以上無理は言えねぇ」
「貴方のような方には好感を得ますな。約束しましょう、貴方方二人を絶対に王国まで帰すと」
そう言ってニコりと笑いながら、老人はリクルドに治療を施し始める。するとどんどんリクルドの左足の傷口が塞がっていった。
「ジーさん、治癒魔法まで使えるのか」
「治癒魔法とはまた違いますが、まぁ似たようなものでしょうか。少しばかり心得があります」
この老人は魔法など一切使えない、今のは気功術の1つだった。己の生命力を使い患部を活性化させ、自己再生を促す効果がある。
「どうですかな? これで多少は動けるはずですが」
「あぁ、問題ない。これなら走れそうだ」
「では、合流しに行くとしましょうか。血の匂いでヘルハウンドが集まってくるでしょうからね」
「そうだな、急ごう」
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