併呑する森
「ちくしょう!! レクスター達もやられた!! 俺たちだけでも! 誰か一人だけでも! 生きて故郷に帰るんだッ!!」
「あいつらが死んだ意味を、私たちが作ってやらないと……!」
鬱蒼と茂る森の中で、二人の決意が木霊する。ルミナリー王国から派遣されたA級冒険者分隊の隊員たちだ。
彼らはここ〈併呑する森〉の調査の為にやってきていた。だがその分隊も半数以上が死亡している。
手付かずの自然は、雄大な美しさとは裏腹に残酷さを同居させるものだ。
この魔法が高度に発達した世界において、〝手付かず〟な場所というのはそれ相応の理由があった。
王国内でB級レートである魔物ヘルハウンド、D級レートのハウンドドッグの群れのリーダーであるこの魔物が、ここ〈併呑する森〉では群れを形成していた。
A級冒険者一人に対して2頭までなら対応できるヘルハウンドだが、流石に40を超える数には冒険者分隊も対応しきれなかった。
「あーダメだ、足が言う事を聞かねぇ。さっきの一発が大分効いてるみてぇだな。ハナンザ死ぬ気で走れよ?」
「リクルド!何してる!早く走れ!!」
「なぁに、俺も鍛えてるんでね、食べるのに多少時間はかかるさ。それにきっと腹持ちも良いぜ?」
「何馬鹿な事」
「馬鹿はどっちだ!! このイカれた状況が分からないのか? ヘルハウンドが群れを作ってる。ってー事はだ、群れのボスがいる。ヘルハウンドのボスだぞ? お前はそれを閣下に伝えなきゃならねぇ、絶対にだ」
「——わかった」
リクルドの覚悟を受け取ったハナンザは走り出す。リクルドが命を貼って稼いでくれる時間を無駄にせぬよう、命をかけて走る。
「もう来たのかよ」
リクルドはヘルハウンドを迎え撃つべく抜刀した。目視できる距離、ほんの数秒でやってくる未来にリクルドは笑う。
「来いよワンちゃん。この先は行かせねぇ」
覚悟を決めた瞬間だった。風が凪いだかのような音がする。
遅れて動脈から大量の血が吹き出る音、そして最後にカチリと澄んだ金属音。
バタバタと首を失ったヘルハウンド達が一斉に倒れた。
「男の覚悟というものは、いつの時代も格好いいものですな」
一連の出来事をやってのけた張本人は感極まったようにそうこぼす。
「な……、なんだ今のは」
リクルドは驚いていた。
無理もない、それらの出来事はほんの一瞬の事で、加えて目の前に立っている人物は白髪の老人なのだから。
2時間後に次話投稿します。
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