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ワーヒド 第一章 アーラム家 ミディールさんサイド

ミディールさんの心の中を書いた話なので読まなくとも問題ありません。

 私はアーラム伯爵家の四男。

 今領地の南側に位置するグリザヤル子爵領に通商の話をしに行った帰りだ。


 本来、貴族同士の話し合いは現当主か時期当主が出向かうものであり、いくら爵位が格下の子爵でも、それは貴族として常識に欠ける行為である。


 しかし、アーラム家は生死の淵に立たされている。長男のライセン兄はウルバン伯爵家に吸収されないために父上と領に常時居なければならない。次男のブライス兄は王都で仕官をして、社交界でアーラム家を支え、王都でのアーラム家の地位を保っている、これも本来は長男の仕事。三男のディビット兄は病で五年もベットの上だ。


 このことは周知の事実で、子爵も苦笑いしただけで何も咎めなかった。むしろ通商の話を快く承諾してくれた。なんでも、先先代のアーラム伯爵が当時のグリザヤル男爵を助けたらしい。


 グリザヤル領はファルデン山脈とザンディール山脈の間の平野に位置し、大規模の商隊も月に何度も来る通商の要。領地の大きさと歴史と武功がなかったせいで爵位は子爵までしか上がらなかったが、並みの侯爵に負けない財力がある。


 グリザヤル子爵の支援がなかったら今頃ウルバン伯爵領の一部になっていたかも知れない。


 アーラム家は先代のギャンブル癖で年々赤字が続いており、今回も大事な話なのに付き人は御者のアルだけで護衛すらいない。このあたりは盗賊も出ないし、魔物なんてアーラム領全体でも月一だ。心配するに及ばないが、貴族の面子というものもある。これをよその貴族のネタにされたらたまったものではない。


 アーラム家の存続を考えているとアルが馬車を止めた。なんでも魔法使いが通りかかったらしい。

 何をそんな馬鹿な話と思ったが、アル洞察力が高く私の腹心だ。相手が嘘をついてるなら即時見破られるだろう。本当に魔術師か、アルを騙せるほどの腕前か、どのみち只者ではない。


 馬車を降りて挨拶を交わす。確かに魔術師風の格好をしている。そして終始表情を崩さない。無愛想の無表情ではなく、基本笑みを浮かべていて、こっちの話によって表情も変わったりする。だが貴族との腹の探り合いに慣れた私には分かる、これは作った表情ということを。


 彼にいろんな質問をしたが、はっきりした答えが出ない。貴族同士でもここまで答えが曖昧なのは極めて無礼な行為、それをものともしないというのは彼はかなりの大物だ。


 話している途中でアルはまた馬車を止めた。前回と違うのは今回はゆっくりとめたのではなく、急に泊まり、馬も落ち着いでいない。盗賊でも出たのか。いや、盗賊でさえこんなうまみが全くない貧乏貴族を襲わないだろう。だとしたら最悪な可能性…


「大変だ!オークの群れだ!30はある!」


 こんなことになっているというのに、彼は動揺したそぶりを見せなかった。しかもその上に

「片付けましょか?」

 なんて聞いてきた。


「30のオークなんて、うちの領の騎士百人が必要だぞ!」

 思わず落ち着きのない声を出してしまったが、状況が状況だから許して欲しい。

 それでも彼は大したことないように片付けた。そう、『片付けた』のだ。

 激しい戦闘は起こらなかった、一方的な蹂躙ではなく、我々にとっての強敵は声を発することなく『片付けられて』しまった。


 私はその光景に圧倒されてしまったが、残された一縷の理性で冷静のように振る舞い、オークの魔石の買い取りの話を切り出した。そして彼は後払いでいいということで先に魔石の袋を渡してくれた。

 私を逃さない自信があるのでしょう、そもそもこのくらい彼にとって他愛もないかも知れない。


 彼は東にある魔導王国から来たのではないと言ったが、信憑性が薄れて行く。

 結果はどうであれ、彼の情報を得ようとして機嫌を損ねるのは愚かだ。それでアーラム領のことを話したら彼は楽しそうにきいてくれた。


 話していると、彼の性格についてある程度分かった。まず、彼は実力を見せた後でも高圧的な態度取らない、話が通じる人だと思う。

 それ以外の情報は一切手に入ってこない。


 アーラム家に着いてから直ぐに父上と会って、このことを話した。

 父上も最初は信じなかったが、大きな袋いっぱいのオークの魔石を見たら信じてくれた。今のアーラム家の財政では、この一袋で一年近くはもつ。そして彼の戦力について話した。これには父上はさらに驚かされたと思う、アーラム家にいる全軍を投入しても勝てるかどうかわからないから。


 父上も事情を理解したが、それほど者にどうやって接するかを悩んでいるようだ。

 しかし、あまり待たせられない。時間は一秒も無駄にはできない。当主である父上がいるので四男である私の出る幕はない。父上の成功を祈ることしか私にはできない。

樋口さんは接客に慣れているので、表情を作るのはうまいです。


至高神様

「幕間の世界に逃げやがりましたね!!」


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