第五話:使用人としての始まり、学園生としての足がかり
あれからフィーリアは学生服に着替えた後大浴場へと向かい軽く汗を流し、ロイの作ってくれたサンドイッチをありがたく頂戴し、諸々の準備を済ませ学園へと向かっていた。
フィーリア「帰ったらちゃんとロイ君にお礼言わなきゃ…っ。レイナもっ、起こしてくれるのは助かるけどあれはやめてっていつも言ってるじゃない!」
レイナ「他の方法で起きるならそうしてるけど、そうじゃないんだから仕方ないじゃない。」
ちなみに、レイナが気を利かせていつもより遅めにフィーリアを起こしたこともあり…結局は普段と変わらないギリギリの時間での登校となった。
そこそこの速度で走っているはずだが…既に体力の尽きかけているフィーリアに対し、レイナは息を切らす様子もない。
悪夢を見せられた事に恨めしい気持ちもあるが、今はそれを気にしている場合ではない。
フィーリア「そ、それはそうかもしれないけどっ…。」
レイナ「…ほら、急がないとホームルームに間に合わないわよ。」
ペースを上げ先行するレイナに途中置いていかれそうになりながらも、フィーリアはそれに必死に食いついていき本日の遅刻は無事に免れることができた。
結局は汗だくになってしまったのでシャワーを浴びたことが無駄になってしまったが、これもいつものことである。
…。
ロイ「それで、今日は何をしたらいいでしょうか。」
一方のロイはマリーの元を訪ね、何か手伝えることがないかを聞きに行ったのだが…。
マリー「んー、そうねぇ…。私としても、ロイ君を持て余すのはロイ君の為にあまりしたくはないんだけど…残念ながらお昼までやることがあまりないのよね。」
マリーの話では日中は体調不良等を除くほぼ全ての女神が学園へ登校しているため、特にすることはないという。
といっても完全にやることがないわけではないが…それは寮母のマリーにしか分からないことが多く、中には機密に関する事柄もあるためそうそう気軽に他の者へと明かすことはできない。
マリー「あっ、それじゃあ私の家庭菜園の手入れの方法でも教えておきましょうか。」
ロイ「家庭菜園…ですか。どのようなものを育てているのですか?」
マリー「ふふっ、それは見てからのお楽しみということで。作業服を用意するから、それに着替えてちょうだい。」
そうしてロイは、なぜか全身をすっぽりと覆う防護服のようなものを手渡されそれに着替え…マリーと共に寮の屋上へと足を運んだ。
そこには巨大なガラス張りのドームがあり、その中にある植物たちが元気に蠢いているのがばっちりと見える。
着替えを用意すると言っていた張本人であるマリーは防護服に着替えておらず、ロイは心配になり大丈夫なのかとも尋ねたが…マリー曰く『子が親に勝てるわけないじゃない。…悪いことをしたらお仕置きされると分かっていて悪戯する程バカじゃないのよ、この子達は。』とのこと。
そして二人は、厳重に施錠されている扉を開けドームの中に入る…足を踏み入れた瞬間独特の匂いが鼻を擽り、感じる室温もこの植物たちに合わせているのだろう…僅かな湿気も感じる。
マリー「手入れって言っても、特別なことは何もないのよね。…強いて言うなら、病気になりそうな子たちを治してあげるくらい。」
マリー「それも私にしかできないから…ロイ君にはたまにここを見回ってもらって、元気がない子たちがいないか見て欲しいの。」
ロイ「はい、分かりました。」
緑を司る女神のマリーは植物全般を操ることが出来る。
ここに生息している植物も大半がマリーの生み出したものであり、学園長の許可を得てこうして屋上で栽培している。
栽培しているとは言っても、基本は成長過程を見守るだけであり…時折土の栄養が全て吸い取られていないかを確認しに訪れる程度。
その際に植物に触れていきそれぞれ健康状態を確かめ、その成長過程を楽しんでいるという。
マリー「たまーにやんちゃして、他の子を傷つけちゃう子もいるから…ぐったりしている子を見かけたら私に報告してちょうだいね。…そういう子には後でお仕置きしておくから。」
『お仕置き』というフレーズをマリーが口にした瞬間、辺りの植物たちがビクッと反応したのは恐らく気のせいではあるまい。
ここでは生みの親のマリーが絶対無二の神であり、それに逆らうことを恐ろしさを嫌というほど知っている。
そうして順々に植物を見て回り異常がないことを確認すると、マリーはロイを連れて更に奥へと続く道を歩いていく。
この先に何があるのかとロイが尋ねると、マリーは『私の好きなもの』…と答えるだけであった。
そして目の前に現れたのは高く聳える細い塔のようなもの…またもや厳重に守られている扉を開錠すると、その中へと足を踏み入れる。
…すると強烈に甘い匂いを放つ『それ』が目に入り、その神秘的とも思える光景を前にロイは言葉を失う。
マリー「…私がこの家庭菜園を始めたのは、ほんの気まぐれだったの。今でもそれは変わらない。単なる趣味の延長線上に過ぎないけど…でも、これだけは特別気に入っているの。」
ロイ「…はい。こうして見ただけでも、それが伝わってきます。」
そこにあるのは白桃、黄桃、そして桜花桃の計三本の桃の木。
それぞれが美しく花を咲かせ、そして同時にいくつかの実を付けている。
マリー「最高の桃をいつでも手に入れられるよう改良を加えて、今のこの子達がこうしているの。」
ロイ「凄いですね、花が枯れていないのに実が付いている。」
マリー「せっかくだから、見た目にも拘りたいじゃない?…旬の時期は関係なくいつでもこの光景が見られるから、寮の子達も興味があるみたいでね。」
マリー「あまり頻繁に連れてくるとこの子達も疲れちゃうから、いい子にしていた子達にだけたまにこれを見せてあげるの。」
ロイ「…良いのですか、そのような所に私のような者を入れてしまって。」
マリー「ダメだったらそもそも連れてこないわ。…共通の話題があれば、少しは打ち解けるかもと思ってね。」
マリー「どれか食べてみたい子たちはいる?せっかくだから剥いてあげるわよ。」
ロイ「そんな!私にはもったいないです!」
マリー「んー、そう言うと思っていたけど…でもね、これは私のためでもあるの。」
ロイ「…マリーさんのため?」
マリー「そう、見せびらかしたいわけじゃないけど…私はやっぱりこの桃の素晴らしさを知ってもらいたいの。けど寮の皆は一度食べたことがあるから、この美味しさを知らないのはあなただけ。」
マリー「だから味見をしてみて感想を聞かせて欲しいの。人間の男の子の意見を聞けるなんて、そんな機会滅多にあるものでもないし…どう?」
ロイ「マリーさんが、そう仰るのでしたら…。」
マリー「じゃあ決まりね。厨房に行って早速試食してもらいましょうか。」
マリーがそっと桃の木に手を触れると、桃の木は果実を一つ切り落とし…それを両手で優しく受け止める。
緑を司る女神のマリーにだからこそできる芸当…ロイは、ここで静かに実を宿す桃の木とそれを温かく見守るマリーの絆の深さを実感するのであった。
…。
そして昼の十二時を回る前、マリーはロイを連れて学園にある調理室へ来ていた。
そこにいるメンバーは、今朝ロイが朝食を作った時に厨房にいたメンバーとほぼ変わらなかった。
軽く挨拶を済ませ、ロイは再びエプロンに袖を通し包丁を構える。
昼食時はほぼ全ての学園生がこの学食を利用するため、調理担当の女神も昼間はこうしてほぼ毎日のように学園へ通っている。
比較的時間に余裕のある朝や夜とは違い、昼は昼食を食べられる時間が決まっているせいもあってか、厨房は今日も激務と化していた。
料理スキルを持っているロイも流石に厨房の勝手が全て分かっているわけではないため、調理の補完をする形で女神たちに貢献した。
…。
そして放課後…ロイをどこへ連れて行こうかとウキウキ気分のフィーリアと、それに同行するレイナは担任から呼び出しを受け学園長室へと向かっていた。
フィーリア「ど、どどどどどどうしようレイナ。…何しちゃったのかな、私何やらかしちゃったのかな!?」
レイナ「…大分混乱してるみたいね。少し落ち着きなさい、心当たりがあるわけでもないでしょ?」
フィーリア「え!?…この前転んで花瓶割っちゃったのは反省文書いて先生に提出したし、隣のクラスとの合同魔法演習で水ぶっかけちゃったカルネさんには謝って許してもらえたし…はっ、もしやこの前の筆記試験も実は採点ミスで不合格だったとか!?」
レイナ「…もし仮にそれらが理由だとして、なんで私までそんなことで呼び出されるのよ。」
フィーリア「あ…それもそうだよね。…うん、よくよく考えたら成績優秀のレイナまで呼び出されてるんだから…それはそれで心当たりがなさすぎて逆に怖いんだけど!」
焦りの表情から一転、うっすらと悪寒が走るフィーリア。
しかしレイナはこんな状況でもどこ吹く風…その悠然とした態度は変わらなかった。
レイナ「別に、分からないなら分からないでいいじゃない。どうせこのあと学園長から直接聞く事になるんだし、心当たりがないなら気にしてもしょうがないわ。」
フィーリア「うぅ…すごいなレイナは。その度胸を少しでもいいから分けて欲しいよ…。」
フィーリアも変に緊張しないようにと自分に言い聞かせているが、やはり学園を統治する長からの直々の呼び出しともなると自然と体が強張ってしまう。
こんな時でも肝の据わったレイナを羨ましく思いながらも…今にも回れ右をしそうになる自分を律し学園長室へと向かう。
普通に生活している生徒ならば滅多に見ることのない『学園長室』のプレートが二人の視界に入ってくる。
扉の前まで来たフィーリアは一度深呼吸を行い気分を落ち着け、レイナと共にその扉をノックしそれぞれ名を名乗った後学園長室へと足を踏み入れる。
そこには二人の予想通り、二人を呼び出したカトラーナ学園の学園長メルローズの姿があったが…手前にあるソファに腰掛けている人物はもう二人いた。
メルローズ「急な呼び出しに応じてくださってありがとうございます。フィーリアさん、レイナさん。」
フィーリア「あ、いえ、それはいいんですけど…えっと、なんでマリーさんとロイ君まで?」
そこにいたのは静かに手を振って二人を歓迎するマリーと、フィーリアたちが入ってきたのを見て小さく頭を下げるロイ。
てっきりなにかの不始末が原因で呼び出されたと思っていたフィーリアは首を捻るが、一目見ただけで状況が理解できる訳もなかった。
メルローズ「それはこれからお話します。どうぞ、そちらに座ってください。」
メルローズに促され入ってきて正面右側にあるソファに腰掛けるフィーリアとレイナ。
それを待ってから、メルローズは静かに本題を切り出す。
その本題というのは、ロイをカトラーナ学園へ特別編入させたいというものであった。
マリー「あのね、これは前々から議題にも上がっていて…私とメルローズもどうにかしないといけないと思っていたの。」
詳しく話を聞くと、それはこの学園を卒業し地上での活動をし始めたばかりの女神にありがちなことが原因だという。
…と言うのも、今まで自分たちと同じ女神としか接する機会のなかった彼女たちが、初めて自分たちを崇める存在の人間とどう接して良いか分からず…一部トラブルが発生した事例があること。
そのトラブルの中で最も多いのが…言ってしまえば恋愛に関するいざこざである。
主には人間側から女神に対して迫ることが多いのだが、人間…特に異性というものに対して新米女神はあまりにも『普通』に接しすぎてしまうとのこと。
もちろん職務上の先輩女神がある程度指導は入っているのだが…それでも深くその意味を理解していない、というか自分の言動がどう人間に影響を及ぼすかを理解していないため、決して少なくない件数そういった事例が発生しているらしい。
なのでその対策として極小数の人間をアスケイドに移住させるという計画も持ち上がったが…長年このアスケイドに身を置く女神たちからは猛反対されてしまい断念したという。
そもそも、卒業後地上にて活動を行わせていることに関してもメルローズが押し切ったこともあって、これ以上他の女神たちを刺激しないためにも計画そのものを一度諦めたらしい。
しかしそんな中、生徒の一人が人間をこのアスケイドに連れて帰ったというではないか。
これを利用しない手はないということで、今日こうしてメンツを揃え承諾を取り付けたいとのこと。
なお、これに関してロイは既に承諾しており…後はそのロイを連れてきたフィーリアの確認と、直接話すことで手間を省きたいからとの理由でレイナがこうして呼ばれた。
本来なら、レイナには予め話を通しておくべきなのだろうが、レイナにも『役割』がある…その妨げになりたくないとのメルローズの計らいである。
もちろん、それはレイナも理解しているだろう…だからその既に答えの出ている疑問を口に出すことはない。
マリー「それでね、後はフィーリアちゃんの許可だけが必要なの。…どうかしら、この話受けてくれる?」
フィーリア「いえっ、私もしても願ったり叶ったりです!…良かったね、ロイ君。これで一緒に学園に行けるねっ。」
特に断る理由もなく…どちらかといえばロイと共に学園へ行きたいと願っていたフィーリアにとっては、まさに渡りに船。
まさか学園長自らからその申し出があるとは露ほどにも思っていなかったので多少面を食らったが、やはり叶わないと思っていた願いが叶うことは純粋に嬉しいもの。
ここに来るまでの緊張した面持ちは何処へやら、今のフィーリアの頭の中にはロイにどう学園生活を満喫してもらうかでいっぱいだった。
そして次にロイがどうこのアスケイドで暮らしていくかについての話になり…現状を無理に変える必要はないということで、フィーリアの使用人として仕えるこの一ヶ月間はそのまま寮で生活するになった。
しかし問題点が一つだけあった…それはロイの服である。
着の身着のままアスケイドへやって来たロイは、当然替えの服など持ち合わせていない。
そこで、このカトラーナ学園の制服の製作を手がけたという女神ファファノーラをメルローズが紹介するとのことで、本日の放課後の予定をキャンセルしフィーリアたちはその女神の元を訪れることとなった。
…。
フィーリア「…よくよく考えてみたらそうだよねぇ、アスケイドにあるお店には男物の服なんて売ってないもんね。」
レイナ「てっきりその辺りのことはどうにかするのだと思っていたけど、何も考えていなかったのね。」
フィーリア「でもさっ、こうしてどうにかなったんだし結果オーライだよ!」
ロイ「すみません、お二人に付き合ってもらって。」
フィーリア「いいのいいの!元々今日はロイ君に街の案内するつもりだったんだし!…今日は行けなくなっちゃったけど、また今度改めて案内してあげるねっ。」
ファファノーラの勤める店の地図をフリーリングに転送してもらい、それを頼りに三人は町中を歩いていた。
フリーリングとは魔力を消費して使用するブレスレット型の通信機であり、ここアスケイドに住んでいる女神ならばそのほとんどがそれを身に付けている。
このフリーリングは、それぞれのフリーリングに与えられたフリーリングコードというものを認証することによって初めて相手との通話が可能となる。
通話は主に立体映像を通じて行うが、音声のみでの通話も可能。
他の機能としては、文字媒体によるメッセージのやり取りやカメラ機能やGPS機能なども搭載されている。
フリーリングが開発された当初は各々が使うフリーリングにデータを取り込むだけで事足りていたが、フリーリングが普及し女神同士の交流の数が激増すると次第にデータ保存容量を増加してほしいとの声が多くなり…今ではリンクサーバという仮想空間を作り、そこにそれぞれのデータを保存して管理している。
短い期間とは言えアスケイドに滞在するロイもこれがないと不便であろうと、メルローズは予備のフリーリングを渡し現在ロイもそれを身に付けている。
フリーリングは魔力を消費することもあって、魔力を持たない普通の人間ならそもそも起動すらできない所だが…幸いにもロイはエレメンタリア、問題なくフリーリングを起動することができた。
そして歩くことおよそ三十分…目的の店に着いた三人は扉をくぐると近くの店員に話しかけ、ファファノーラに会いに来た旨を伝えると奥の作業場へと通されここで待つようにと言われ待機すること十数分。
ファファノーラ「ハーイ!アナタたちが、メルローズの言っていた子たちデスね。話は聞いていマスヨ。」
作業が一段落したのか別室からファファノーラが顔を見せ、各々軽く自己紹介を済ませた後早速ロイの服の話となった。
ファファノーラ「ヤー、それにしてもまた男の子の服を作れるなんてラッキーデスね~。メルローズには感謝感謝デス!」
フィーリア「『また』ってことは、これまでに何着か作ったことがあるんですか?」
ファファノーラ「エエ、このショップにも数は少ないけどいくつか置いてありマスし…またに個人発注もあるんデスヨ。」
ファファノーラ「皆さんが知っている女神デスと…クレンキット君なんかがそうデスネ~。彼の要望に答える服を作るのはタイヘンですけど、とてもやり甲斐がありマァス!」
フィーリア「クレンキットって…えっ、まさかファファノーラさん、『王子』の服も作ってるんですか!?」
クレンキットとは、学園内でその名を聞かない者はいないほどの有名女神である。
自分に似合っていないからと、ボーイッシュな格好を好む女神も決して少なくはないのだが…そのクレンキットは完全に男性になりきっていると言っても過言ではない。
周囲から『王子』と呼ばれ多くの女神より親しまれる彼女…いや彼は、他の女神たちと交流することを何よりも大切にしているのだという。
その凛々しい顔つきや雰囲気、アグレッシブな性格からクレンキットを支持する層も厚くファンクラブが出来上がっているほど。
ファファノーラ「彼の持っている私服のタイハンが、ワタシの作った服だという話は聞いたことあるネー。デザイナーとしてもパタンナーとしても、ワタシを指名してくれるのはとても光栄なことネ。」
レイナ「…パタンナーも兼任しているのですか?」
ファファノーラ「ハーイ、元々何かを作ることが好きでこの仕事を始めたのデスが、より綺麗なものや個性あるものを手がけたいと思うようになってデザイナーとしての腕も磨いたのデス。」
フィーリア「?パ、パタンナーって何?デザイナーとは違うの?」
ファファノーラ「パタンナーは、デザイナーが絵としておこしたものを立体化させる…と言えば分かるでショウカ。要所要所を型紙としておこしてそれを組み合わせてみて…その人にピッタリ合う服を作っていくのデス。」
ファファノーラ「デザイナーは、ある程度自由にデザインを描くことができマスが…パタンナーはそれを三次元的に組み立てないとイケナイので、元々のデザインとのすり合わせがタイヘンなのデスヨ。」
フィーリア「へぇー、そうなんだー。…なんか大変そうだね。」
レイナ「実際難しいでしょうね。シンプルなデザインならともかく、絵として表現できること全てが立体に描き起こせるわけじゃないもの。」
ファファノーラ「そうデスネ。…しかしそれこそがパタンナーの腕の見せ所ナノデ、日々挑戦あるのみでデス。」
ファファノーラ「…と、あまり長く話してもなんデスから、そろそろ本題へ移りまショウカ。」
そうして、まずは具体的なデザインなどの話の前にとりあえず体のサイズを確認したいとのことで、フィーリアとレイナはファファノーラに言われ一旦退室し部屋の前で待機することとなった。
ファファノーラ「それじゃあメジャーで測りマスから服を脱いでチョウダイネ。」
女神の前で己の裸を見せることに抵抗と罪悪感はあったが、これも致し方ないことだと割り切りロイは身に纏っている衣服に手をかける。
ロイ「あの、下はどうすればいいでしょうか。」
ファファノーラ「下着はそのままでパンツを脱いでくれれば問題ないデスヨ。…それにしても、小柄な割に結構引き締まった体付きをしていマスネ、ロイ君は。」
あらわになったロイの上半身を見て感想を口にするファファノーラ。
所々に小さな古傷のようなものも垣間見える背中や、筋肉の筋が見える両腕…腹筋もしっかり割れており十代後半の男子とは思えないほどガッシリとした体付きであった。
ロイ「…地上にいた頃は、狩りの他にも日々のトレーニングを欠かしたことがないので、自然とこうなりました。」
最も、ファファノーラが男の裸体を見たのはこれが初めてなので、男性ならばどのような体付きであれ同じような感想を抱いただろう。
ファファノーラ「ホゥ…狩りデスカ。どんな動物を狩っていたのデスカ?」
下着一枚を残し服を全て脱ぎ終わったロイの背中に回り、手に持ったメジャーでそれぞれサイズを測り始める。
ロイ「リスやウサギなどの小動物はもちろん、シカやクマといった大型の動物も狩っていました。…一度だけ、魚を取っている時にワニに出くわした事もありましたね。」
ファファノーラ「ワオ!…そのワニは捕まえたのデスカ?」
ロイ「ええ、せっかくなので捕らえて食してみましたが…思いの外鱗の処理が大変で、それ以降は見かけても見逃すようにしていました。」
ファファノーラ「ワタシたちの中にも自然の中で暮らす女神がいますが、人間も似たようなことをするのデスネ。」
ロイ「…いえ、私のような境遇の人間は非常に稀ですよ。必要に迫られてもいないのにあえて過酷な環境に身を置いている人間は…極僅かです。」
ファファノーラ「…ワタシはまだ、人間のことをよく知らないのデスが…人間にも色々あるのデスネ。」
雑談に花を咲かせている内に測定は終わり、脱いだ服を再び手にするロイ。
着替え終わったあとはフィーリアたちを呼び戻し、四人であれこれとロイに着させるための服の話で盛り上がった。
ロイは着られればどんな服でも構わないと言ったが、プロのファファノーラとしてはそれで満足できるはずもなく…この日は太陽が西に沈みきるまでとことん話し合いが続いた。




