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女神様の命令は絶対なのです!  作者: 村瀬誠
第一章:気まぐれ悪魔による暇潰しの悪戯
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第四話:終焉を迎える怒涛の一日

フィーリア「顔色悪いみたいだけど、大丈夫?マリーさんと何かあった?」


フィーリアがあの部屋を訪れた理由は単純…もうすぐ夕食の時間を迎えるからだった。

まだ片付けの全て終わっていたわけではないが…マリーが後を引き受けるとのことで、フィーリアはロイを連れて食堂に向かっていた。

ロイの体調が優れないのは、あの部屋でのマリーとのやりとりが原因なのだが…ロイの口からそれを言えるはずもなく。


ロイ「いえ、ご心配には及びません。…少々タンスの角に小指をぶつけただけですから。」


フィーリア「え!?それって大変じゃん!…あ、えっと…い、今すぐ治療室に…っ!」


ロイ「マリーさんが治療してくださったので問題ありません。…それでも、あの痛みを忘れることは簡単に出来そうにありませんが。」


咄嗟に放った嘘の辻褄を合わせるべく、ロイは冷静に頭を回転させる。

幸いなことに、フィーリアは一切疑う素振りも見せずその嘘を信じてくれた。

…その純粋なあり方に、胸を抉られるような感覚に陥るロイだが…それを表に出すことは決してなかった。


フィーリア「そ、そっか、マリーさんがいたんだもんね。私ちょっと焦っちゃった。」


ロイ「…そういえば、レイナ様はどうされたのですか?」


フィーリア「レイナなら部屋で待ってるはずだよ。なんか用事があるんだって。」


その用事の内容が何なのかは気になる所だが、わざわざレイナが明言しなかったことを深く追求することもあるまい。

その距離感は信頼からくるものなのだとロイは感じ、二人の仲の良さを改めて実感する。

そうして話す内に二人は食堂へと辿り着き、それぞれカウンターで注文を済ませ…出来上がった品物をトレイに乗せフィーリアたちの自室へと戻るのであった。

ちなみになぜそのまま食堂で食さないのかというと、必要以上にロイの存在を広めたくないため。

とは言え姿を消して日常生活を送らせるわけにも行かず、聞かれた時になんて答えればいいかな…と、珍しく思案に耽るフィーリア。

行き当たりばったりの弊害がどこまで行っても無くならないことに、流石のフィーリアもこれはまずいと焦りを感じているようだ。

ただ、その大半をレイナが解決しているので問題ないといえばないのだが…やはり自分で決めたことには責任を持ちたいらしい。

しかし結局最終的に妙案を思い付くのはレイナなため、フィーリアとしては頼もしいやら悔しいやら…複雑な気分である。

そうこうしている内に二人はレイナの待つ部屋へ付き、共に席を囲むこととなった。

ロイは最初、従者が同じ食卓に着くなど…とらしい反応を見せたが、フィーリアたっての希望だということで仕方なく腰を落ち着けることとなった。


レイナ「…そういえば、部屋の片付けは終わったの?夜までに間に合いそうになかったら、私も手伝うけど。」


夕食後、食休めのため雑談に花を咲かせる中レイナがふと疑問を口にする。


ロイ「いえ、荷物を運び出すだけだったので、もうほとんど終わっています。元から運び入れるものもありませんし。」


レイナ「そう…ならいいわ。それでフィーリアの方は?マリーさんに花壇の水やりを頼まれてたわよね。」


フィーリア「あ、うんっ、そっちはばっちり!…けど大変だったなぁ、水道と往復するのが面倒で魔法を使おうとしたのが悪かったのかな?」


レイナ「…あなたの場合、そっちの方が効率悪くなるわよ。途中で気が付かなかったの?」


フィーリア「あはは、なんか悔しくなっちゃって後に引けなくなっちゃったんだよねぇ…。そのせいで部屋の片付け手伝えなかったし…ごめんね、ロイ君。」


ロイ「いえ、そんなっ。お気持ちだけで十分です。」


領地外での魔法の無断使用の罪が免除されたからといって、全くの処置なしというわけではない。

しばらくの間は、フィーリアもマリーの手伝いをすることになったらしく…今日はマリーが空き部屋の片付けをする関係上、普段欠かさず行っている花壇の水やりを代わりにフィーリアが行った次第である。


レイナ「荷物はないって言ってたけど、そのポーチには何が入っているの?」


ロイ「何種類かの薬草が入っています。最近ストックがなくなってきたので、南西にある町まで買いに行っていたんです。」


ベルトに括りつけたポーチを外し蓋を開けてみせるとそこには…生のままの薬草や粉末にすり潰されているもの、小瓶に詰められた液状のものなど様々な薬が入っていた。


フィーリア「わざわざ、あんな砂漠を通って?近くの町とかには売ってないの?」


ロイ「そうですね…その町にしかない高価な薬草などもありますから、たまにこうして買いに行っているんです。」


フィーリア「へぇー。…ちょっと見せてもらってもいい?」


ロイ「どうぞ。特に珍しいものでもありませんが。」


ロイにとっては取るに足らない見飽きるほどに見飽きたものかもしれないが、地上に生える薬草というものがどのようなものか知らないフィーリアにとってはとても興味深いものがあった。

レイナも少しばかり興味があるらしく、フィーリアと一緒にポーチを覗き込みいくつか薬草を取り出しては眺めていた。


フィーリア「これは何に使う薬草なの?」


葉の形が大きな円を描いている薬草を手に取り興味深そうに尋ねるフィーリア。


ロイ「それはマーマル草と言って、磨り潰してペースト状にしたものを傷口などの患部に塗ると痛みを感じにくくなるという作用があります。…ただ、この薬草自体に殺菌効果はないので他の薬草と併用することが多いですね。」


フィーリア「へぇ、そうなんだぁ。」


ロイ「あの、やはりこういった地上のものは珍しいのですか?」


レイナ「…探せばなくはないと思うけど、大抵は魔法でなんとかなるからそもそも必要ないのよ。」


フィーリア「でもでもっ、興味がないわけじゃないんだよ?立派な女神になるためには、こういうことも知っておかなきゃだしね!」


見せてくれてありがとう…と、手に取った薬草をしまいポーチをロイへ手渡す。

そして次に話題に出たのは、ロイの今後についてだった。


ロイ「学園、ですか。…マリーさんという方が寮母だという話を聞いて、何となくそうではないかと思っていましたが。このアスケイドにもそういった施設があるのですね。」


フィーリア「うん。私たちは『カトラーナ学園』って所に通ってて、ここはその寮だね。何か事情がない限り、みんなこの寮に住んでるんだ。」


全学園生徒数およそ五千、アスケイド唯一の学園…それがフィーリアたちの通っているカトラーナ学園である。

カトラーナ学園は女神の自立を促すための学園であり、アスケイドに住む女神であるならばそのほとんどがこの学園の門を潜るという。

合計年数百年の在籍と必要単位数取得で卒業資格を得ることができ、卒業後は地上へ降りて活動することも可能となる。

フィーリアはそれを目的としてこのカトラーナ学園に通っているわけだが…成績としては実技が芳しくなくあまり評価が高くない。

真面目でやる気は人一倍あるため、授業内容をしっかりと反復し筆記の成績はさほど悪くない…が魔法の絡む実技では百パーセント力を発揮できないこともあり、そこが悩みの種だったりもする。

対するレイナは筆記実技共に高成績であり、フィーリアにとっても憧れの存在である。

特に知識量が相当凄まじいらしく、どこで知り得たのか地上に関する事柄にも造詣が深く、いくつかの授業が免除されているほど。

とは言え卒業後に関することは今の所特に決めていないらしく、今はのんびりと学園生活を楽しんでいるとのこと。


フィーリア「それで、明日からはまた学園があるから…その間はやる事ないし、今日言ったみたいにマリーさんのお手伝いをしてくれればいいかな。」


フィーリア「学園に連れていければいいんだけど、そうもいかないからねー…。」


レイナ「この寮に住まわせるのだって特例中の特例でしょうし、流石にそんな無茶は通らないわよ。」


フィーリア「あはは…だよね。せっかくだからロイ君も授業受けられたらなーって思ったんだけど、やっぱり無理かー。」


フィーリア「けどせっかくだし、明日授業が終わったら近くの町を案内するよ!レイナも、明日は用事なかったよね?」


レイナ「ええ、急用が入らない限りは大丈夫よ。」


フィーリア「やったー!じゃあ決まりっ。」


ロイ「お、お待ちください!フィーリア様が私のような者のためにそのようなことをする必要はありません!」


フィーリア「えー、でもしばらくはここにいるんだし、知っておかないと不便かもよ?」


ロイ「それは私が個人で町を回れば良いだけの話です。…わざわざフィーリア様のお手を煩わせるわけにはいきません。」


フィーリア「う~ん、やっぱりそうなっちゃうかぁ…。…あっ、じゃあ!」


何かを思い付いたのか、フィーリアは得意げな表情で主人らしくロイに『命令』する。


フィーリア「私たちは明日の放課後、街へ遊びに出かけます。しかしその時にうっかり買い物をしてしまうかもしれません。…そんな時にのために君を連れて行きたいんだけど、ダメかな?」


命令というよりはお願いと言った方が正しいのかもしれないが、それでもロイはフィーリアのそのお願いを聞き入れるしかない。


ロイ「…はい、そういうことでしたら明日の放課後、私もフィーリア様たちに同行致します。」


その言葉が建前であることは明白であり…ロイの本心としては受け入れ難かったが、フィーリアにそう言われてしまってはそれを聞き入れざるを得なかった。


…。


その後ロイは管理人室へと向かい、マリーに礼を言うべく彼女の部屋を訪ねた。

帳簿でも付けていたのか、マリーはその手に持つ筆を一旦置きロイの話に耳を傾ける。


マリー「いいのよ、あれくらい。寮母として当然のことをしたまでよ。…ああでも、内装に関しては後で好きにいじってもらって構わないわ。ロイ君の住みやすいようにしてちょうだいね。」


ロイ「はい、分かりました…重ね重ね、本当にありがとうございました。」


マリー「うふふ、どういたしまして。…それと、ロイ君お風呂どうする?」


ロイ「どうする…とは?」


マリー「この寮では皆に大浴場を使ってもらっているんだけど…この管理人室には特別に浴室があるからそこを使う?」


ロイ「…そういうことでしたら、その浴室を使わせてもらえるとありがたいです。」


マリー「そうよねぇ。いくらなんでも、皆が入った後のお湯を使うのは気が引けるわよね。」


ロイ「個別に湯を使うのも、それはそれで不経済のような気もしますが…やはり私は。」


マリー「いいのよ、あなたがそういう人間だってことは、よく分かっているから。…でも、たまに大浴場の掃除を頼むかも知れないから、その時はよろしくね。」


ロイ「はい、それに限らず、ご要件の際はなんなりとご申し付けください。…本日はマリーさんの手助けをするどころか、逆にお手を煩わせてしまいましたので…。」


マリー「それはしょうがないわよ。だってロイ君はこの寮に来たばかりじゃない。知らないことはどうしようもないわ。」


ロイ「いえ、それではダメなんです。…私はフィーリア様の従者として、マリーさんのお役に立たないと。」


それが自分の使命であり、それが犯してしまった罪に対する償い…そう己を戒めているロイにとって、マリーの役に立てていない現状に焦りを感じる。

マリーの言うように、それが仕方がないことだとしても…それでもロイは自分自身が許せないのだ。

むしろ無知であることすら己の罪と思い、今もこうして思いつめている。


マリー「…そんなに自分を追い詰める必要はないと思うけど、でも仕方がないわよね…あなたはそう出来ているんだもの。」


ロイ「…はい。」


マリー「なら早速、今日から大浴場の掃除を任せてもいいかしら。後でやり方を教えるわ。」


ロイ「!…分かりました!」


…それは、女神に対するあまりに歪んだ想い。

純粋にそれを願っているが故に、その事を知っている者にとってはこのロイという少年に対し薄ら寒い恐怖のようなものを感じるのかもしれない。

しかしここは女神だけが住む…女神のための世界。

女神が人間に対し哀れみを向けることは決してなく、人間もまた女神に対し崇拝する心を向ける以外にありえない。

…仮にこれに当てはまらない存在が居るとしたらそれは、世界の真実を正しく知る者だけである。


…。


そして翌日、ロイは食堂の厨房にてエプロンを身に纏い包丁を手にしていた。

昨夜のマリーとの会話の中で、フィーリアの寝起きがお世辞にも良いとは言えず毎朝レイナが起こすのに苦労しているとの情報を得て、現在そのためにマリーの許可を得て朝食を作っている。

地上にいた頃も家事をしていたロイにとって、早起きをして朝食を用意することは苦でもなんでもなかったが…やはり気になるのは自分が作った料理が主人の口に合うかどうか。

味見を申し出てくれた調理担当の女神の一人が言うには、『これならいいんじゃないかしら。あの子いつも朝食は薄味のものを選んでるし。』とのこと。

女神のお墨付きをもらっていくらかホッとしたロイだが、そうは言ってもフィーリア本人が喜ぶようなものを作りたいところ。

結局はフィーリアがそれを口にするまで分からないため、この時のロイは少々緊張した面持ちだった。

二人分の朝食を作り終え、それを持ってロイはフィーリアたちの部屋へと向かい、もうすっかり支度を終えているレイナに招き入れられた。


レイナ「…わざわざ作ってくれたの?」


ロイ「はい、よろしければレイナ様もお召し上がりください。お飲み物は何になさいますか?」


レイナ「それじゃあ、ブラックコーヒーを頼もうかしら。」


ロイ「かしこまりました。」


ロイの突然の対応もすんなりと受け入れ、彼の淹れてくれたコーヒーを悠々と堪能するレイナ。


レイナ「フィーリアの朝が弱いこと、マリーさんにでも聞いた?」


ロイ「はい、なので少しでも余裕ができるようにと思って朝食を用意したのですが…やはりフィーリア様に許可を得るべきでしたかね。」


ちらりと視線を向けるその先には、ポータランの中で熟睡する己の主人の姿があった。


レイナ「ううん、あの子なら…多分喜んでくれると思う。…それじゃあいただくわね。はむっ…。」


ロイ「お味はいかがでしょうか?」


レイナ「…朝から色々頑張ってくれたみたいね。十分美味しいわ。」


いつフィーリアが起きるか分からない以上、料理が覚めるのを懸念してロイが用意したのはサンドイッチ。

ただ単純に様々な具を挟んだだけではなく、それぞれの食材に適した下ごしらえをしており、一口食べただけでそのレイナはそれに気が付いた。


ロイ「大したことはしておりませんが、お口にあったようで何よりです。」


レイナ「料理とか、得意なの?」


ロイ「下にまだ、小さい兄妹が居るのでこういったことは自然と上達しました。…と言っても、母には敵いませんが。」


レイナ「ご家族のこと、心配じゃない?…あの時私はああ言ったけど、フィーリアなら別に一度様子を見に戻るくらいしてもいいと思うけど。」


ロイ「…それには及びません。私はフィーリア様の使用人として、この一ヶ月間を全うしなければなりません。」


ロイ「多少気がかりではありますが、それはあくまでもこちらの都合。…人間が女神様より優先されることなど、あってはならないのです。」


レイナ「…そう、ならいいわ。所でこれ、量が少ない気がするんだけど…あなたの分は?」


ロイ「事前に済ませておきました。フィーリア様はああ仰ってくださいましたが…やはり主人と使用人が共に食卓を囲むべきではありません。」


レイナ「…分かったわ。フィーリアもそうだけど、あなたも結構頑固な所があるのね。」


ロイ「…すみません。」


レイナ「別に責めているわけじゃないの。…ごめんなさい、気を悪くしたわね。」


ロイ「いえ、レイナ様に非はありません。…全ては私の責任ですので。」


二人の間を取り巻く空気が些か重くなり、二人共が口を閉ざす。

元からそれほど喋る方ではないが、こんな時フィーリアがいてくれたらな…と思う程度にはレイナも気不味く思っているようだ。

とは言えいろんな意味でこのままにしておくわけにはいかないため、サンドイッチを食べ終わったレイナは未だ夢の中の世界を堪能しているであろうフィーリアの元に近寄りロイに手招きする。


レイナ「…ご覧なさい、この健やかな寝顔を。見ているだけで心が洗われるようでしょ?」


スイッチを押しポータランの蓋が開くと、そこには時折寝返りを打ちながらも幸せそうに夢見るフィーリアの姿があった。


ロイ「はい、とてもお美しいとは思いますが…なぜ私を呼んだのですか?」


レイナ「一度フィーリアの起こし方を見てもらおうと思って。…いざという時の参考にでも、知っておいて損はないわ。」


ロイ「はぁ…。」


元からレイナはロイに彼女を起こせるとは微塵も思ってもいなかった。

女神を必要以上に神聖視している彼のことだ、フィーリアの安眠を妨げるような行為はできまい。

半ば強引にそれをお願いしたとしても、成功する確率はほぼないと見て間違いない…まずフィーリアの肩を掴んで揺らすことすらできそうにない。

それが分かっているレイナは、万一の時のために起こす方法を教えるとのことだが…それは建前で、本音としてはフィーリアを起こすことがどれほど大変かをロイに知ってもらいたかったからである。

まずは、こんなことでは起きないと分かっていながらも普通に肩を揺らし声をかけてみる。

当然それに返ってくる反応はなく、静かな寝息が聞こえてくるだけであった。

次は両手で体をがっしりと掴み上下に揺らしてみるが、これも反応なし。

それを見てロイはやりすぎではないかとも思ったが、『…これで起きるようだったら毎朝苦労していない。』と言われてしまい言葉をなくすしかなかった。

さて、それでは前座は終わりと、レイナはぐっと身を乗り出し無防備に晒されたその耳元に向かって静かに囁きだす。


レイナ「…今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻。」


ロイ「レ、レイナ様…?」


レイナ「…今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻。」


繰り返し繰り返しそのフレーズをひたすらに呟くレイナ。

その瞳に感情と呼べるものは一切なく、そしてこの行為は恐らくフィーリアが目を覚ますまで延々と続くのだろう。


レイナ「…今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻。今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻今すぐ起きないと遅刻。」


ロイはその様子を見て戦慄を覚え、冷や汗を垂らしながらフィーリアが目覚めるのを必死に願った。

心地よい夢でも見ていたのだろうか…幸せそうに微笑むフィーリアの顔は、レイナのその言葉を繰り返し聞く内に苦悶のものとなっていく。

…そうしてレイナが囁き続けることおよそ五分、フィーリアは苦しみに悶える中突然目を見開き飛び起きる。


フィーリア「っ…私を食べても美味しくないよ…っっっ!!!!!」


冷や汗を流しながらそのままの姿勢で固まるフィーリア。


フィーリア「あ…あれ?クマさんは…?」


夢の中ではクマに追いかけられていたのだろうと察しの付くことをポツリと呟き、それを見たレイナはひと仕事終えたとばかりにため息を付く。

ロイにとってはハテナが浮かびっぱなしの光景であったが…どうやらこれがこの部屋での日常風景のようだ。


レイナ「…おはようフィーリア、今日もいい朝ね。ロイが朝食を用意してくれたからさっさと食べなさい。…それと、いつも通り汗かいてるみたいだからシャワーでも浴びてきなさい。」


フィーリア「お、おはようだけど…。え、何突っ込みたいことがいくつかあるんだけど!とりあえず最後のはレイナのせいだよね!?」


レイナ「せっかく今日は時間ギリギリに起こしてあげたんだから、むしろ感謝して欲しいくらいだわ。」


フィーリア「うぅ…それは嬉しいけど嬉しくないよ…。…ととっ、のんびりしてる場合じゃないよねっ、急いで着替えなきゃ!」


その場でパジャマを脱ぎ始めそうになる所をレイナが冷静に止めに入り、ひとまずロイは管理人室に退散してもらい…そしてフィーリアは改めて慌ただしく支度を始めるのだった。

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