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女神様の命令は絶対なのです!  作者: 村瀬誠
第一章:気まぐれ悪魔による暇潰しの悪戯
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第二話:謎多き少年ロイ

フィーリア「(どうしよう、どうしよう!…やっちゃったよぉ。)」


岩の上に置いてあった服を手早く着、この現状をどうしたものかと思案に耽るが焦りからかまともに思考が纏まらないフィーリア。

不可抗力とは言え、対外的には女神が無害な人間に対し理不尽に魔法を使われたことになる。

もちろん今倒れている少年にも落ち度はあるが、それでもフィーリアが一方的に暴力を振るったということに違いは無い。

人間に暴行を加えたとして、フィーリアの罪は更に重いものとなるだろう。

しかしそんなことは今のフィーリアにはどうでもいいことで…今はただ、自らの身勝手に巻き込んでしまった少年の心配をしていた。

とりあえずびしょ濡れの彼を介抱するべくそっと近付き顔を覗き込む。


フィーリア「(えっと…触っても大丈夫、だよね?)」


仰向けに横たわる少年の顔に触れ、ぶっ放してしまった水を吸い取っていく。

続くように他の濡れた箇所をぺたぺたと触っていき、出来る範囲での後始末を行う。


フィーリア「…ごめんね、私のせいで。」


罪の気持ちからか、フィーリアは少年の頭を正座した自分の膝の上に置く。

少しでも楽になれば…と考えてはいるが、この行いに対し少年が実際どう感じているかなど、気を失っているため分かるはずもなかった。

特に出来ることがなくなると、やはり自然と、目の前の少年のことを考察してしまう。


フィーリア「(そういえばこの子、どうしてこんなところにいたんだろう?)」


フィーリア「(人間が住めるような所じゃないし…ライドケイターの音も聞こえなかったから歩いてここまで来たはずだよね?)」


ライドケイターは何も女神専用の道具というわけでもなく、エレメンタリアの人間なら使用していてもなんら不思議はない。

むしろエレメンタリアの人間ならば金銭的に余裕もあるだろうから、予備のライドケイターすら持っている可能性もある。

とは言うものの、そもそも人間全体の中でのエレメンタリアの人口は少ないため、この少年がエレメンタリアである確率は当然低いと言える。

なぜ少年がこの砂漠にいたのか、そもそもこの少年は何者なのか…それを想像することはいくらでもできるが、やはり本人の口から直接聞かないことには確証は得られない。

しかも単独で行動していたというのも疑問の一つ…周囲の気配をそれとなく探ってみたがどうやら手近な所に他の人間の気配はない。

この少年が近付いて来る気配を察知できればあんなことには!…とも思ったが、既に起きてしまったことを覆せる訳もなく己の油断をただただ後悔するだけであった。


…。


それから数分後、少年がいつ目覚めるのか心配になってきたフィーリアであったが、ついに少年が意識を取り戻す。

小さな呻き声を上げながらゆっくりと瞼を持ち上げフィーリアを見上げる。


フィーリア「あっ、気が付いた。…あの、大丈夫ですか?どこか痛い所はありますか?」


???「…。」


フィーリアの問いかけに対し、少年はやけにぼんやりとした反応を見せたが…それは単にこの状況をまだ飲み込めていなかったからであり。


???「…っ!!!」


瞬時に気絶する直前のことを思い出した少年はフィーリアの膝から飛び退き焦りを見せる。


フィーリア「あ、ダメだよ急に動いたら!どこか怪我してるのかもしれないし!」


???「いえっ、不可抗力とは言えあなたの裸を見てしまったんです。…そんな自分を介抱までしてくれたなんて。…申し訳無さ過ぎます。」


フィーリア「気にしないで…とは言えないけど、私もいきなり魔法使っちゃったし…あなただけが謝る必要はないよ。」


俯き顔を伏せる少年であったが、フィーリアの首にかけられているネックレスがちらっと目に入る。


???「…あの、もし間違っていたら訂正してもらって構わないんですが…その宝石は。」


とてつもなく嫌な予感を覚え、自分が思う疑問を相手にぶつける。

帰ってくる答えが想像するものではないことを頭の片隅で祈っていたが、どうやらその期待は裏切られたようで…。


フィーリア「ああこれは、『女神の証』です。」


一般的に女神は、人間との外見的差別化を図るため、己の司っている象徴の色を持つ石をアクセサリーとして身に付けている。

フィーリアの場合は水を司る女神であるため、透き通る水色の石を選び着用している。

その石を持っているということは、即ちその者が女神であることを示しているわけだが…当然この時まで少年はそれに気付かないでいた。

…最も、このまま気付かずにこの場を切り抜けられることができたなら、それはこの少年にとって最善であっただろうが…それに気付いてしまったからには、少年は『償い』をしなければならない。


???「では、あなたはやはり…。」


フィーリア「はい。女神のフィーリア・ノーイスと言います。…まだ、見習いではありますが。」


場の空気が重くならないようにと、敢えて自分の欠点を晒したフィーリアであったが…そんなことは最早この少年にはどうでもよかった。

『女神様の裸を見てしまった』…この事実がどれほどに罪深いものであるか、それはフィーリアが考える以上にこの少年にとっては重いものであることをこの時は理解できなかった。

…故に次に少年の放った発言も、フィーリアには当然理解できるものではなかった。


???「…お許し頂けるとは到底思っていません。ですが、今この場で命を散らすことによってその償いと致します。」


フィーリア「…はい?」


そう言って少年は懐から素早く短剣を取り出すと躊躇なく自分の首筋にあてがう。


フィーリア「ちょ、ちょっと!何やってるの!」


???「このような大罪を犯すなど…最早自分がこの世に存在していい理由などありません。」


フィーリア「何馬鹿なこと言ってるの!?」


???「いいえ、こうでもしないと私は私自身が許せませんっ。…どうかお気になさらず。命を捨てることに躊躇いはありません。」


フィーリア「ダメだよ、今すぐやめて!そんなこと私、望んでない…!」


???「…女神様は、私が死ぬことに反対なのですか?」


フィーリア「当たり前だよ!…そんなに簡単に、死んでいいわけない。自分から命を投げ捨てるなんてダメだよっ。」


フィーリアの必死の説得が伝わった…というわけではないが、フィーリアの言葉を聞き、少年はその手に持つ刃物をゆっくりと下ろす。

刀身を押し付けた首筋からは薄らと血が滲んでいた…ひとまず最悪の事態にならなかったことにフィーリアは胸を撫で下ろすが、問題が解決したわけではない。


???「では私は、何も持ってこの罪を償えばいいのでしょう…。今この場では、自分の命以上に捧げられるものは持ち合わせておりませんし…。」


フィーリア「いいから、さっきみたいなことはもうしないように。…その剣も、もう仕舞って。」


???「…はい。」


とりあえず言うことは聞いてくれるようで、少年は大人しく短剣を懐に仕舞う。

…所までは良かったのだが、なんだか気まずい雰囲気になってしまいお互いに口を閉ざしてしまう。

初めて人間というものに対峙したフィーリアは、とても想定などできるはずもないこの展開に困惑を見せ…そして少年は大罪を犯したとの罪の心からフィーリアの審判の言葉を待つため口を閉ざす。

しかしいつまでもこうしているわけにもいかない…とりあえず間を持たせるべくフィーリアは意を決して話しかける。


フィーリア「…そういえば、名前を聞いてなかったよね。教えてくれるかな、君の名前。」


???「っ…申し訳ありません。あまりに衝撃的な出来事があったのですっかり失念しておりました。」


ロイ「私は、ロイ・カースナイトと申します。」


フィーリア「ロイ・カースナイト…。…ロイ君って呼んでいいかな?」


ロイ「どのように呼んでいただいても構いません。女神様のお気に召すように。」


フィーリア「じゃあ決まりっ。私の事は、気軽にフィーリアって呼んでいいよ!」


ロイ「…申し訳ありませんが、自分はノーイス様のことを呼び捨てにはできません。…どうしてもとのご命令ならばそう致しますが。」


フィーリア「えっと、無理強いはしないよ!…でも出来れば名前の方で呼んで欲しいかな。」


ロイ「…では、僭越ながらフィーリア様と呼ばせていただきます。」


どうにも少年との距離を測りかねるフィーリア。

先程からの様子を見るに、この少年は相当女神という存在を神聖ししている。

どちらかというと気軽に接して欲しいフィーリアはもどかしさを感じるが、少年から感じる危うさもあってか慎重に言葉を選ぶ。

…と、お互い簡単に名乗った所で、ロイが先送りになる前に話題を引き戻す。


ロイ「それで…フィーリア様。私はどのような罰を受ければ償いになるのでしょう。」


フィーリア「え、えっとぉ…それって、私の裸を見ちゃったこと…だよね?」


ロイ「はい。…先程、命を持って償おうとした際、それは代価にならないと仰りましたが…でしたらどのような方法で償えばよろしいでしょうか。」


フィーリア「それは…わ、私もいきなり魔法使っちゃったし、それでお相子っていうわけには…。」


ロイ「いえ、それはいけません!どのような形であれ、私は罪を償うべきです!…他に案がないのであれば、やはりこの命を持って償うしか…。」


またもや短剣を取り出しそうになるロイを見て、フィーリアは慌てて静止に入る。


フィーリア「わ、分かったから剣を出さないで!…えっと、君は償いができればいいんだよね?」


ロイ「はい。可能であるならば、フィーリア様に償いをするという形を取ることができればベストですが…。」


フィーリア「う、うん。じゃあちょっと考えるから時間頂戴!」


どうにも面倒なことになったが、下手な対応をするとまた少年が短剣を取り出し自殺しかねないので、フィーリアは少年に対する罰を真面目に考え始める。

命を代価にすると躊躇いもなく言い切るだけあって、生易しい罰ではロイが納得しないだろう。

しかしフィーリアもロイに対してはあまり強く責められないこともあって、答えを出すには少しばかりの時間を要した。

あーでもないこーでもないと首を捻り続け、悩み抜いた末にフィーリアが出した結論は…。


…。


ロイ「フィーリア様の使用人…ですか。」


フィーリア「そう!一ヶ月間私の使用人として身の回りのお世話をするっていうのはどうかな?」


罰を与えるということは、何も体罰に限定されたことではない。

要は相応の不自由さが絡んでいれば立派に罰になるだろうと判断し、フィーリアはロイに対しそう提案する。


ロイ「承知致しました。では今この時を持って、私はあなた様にお仕え致します。」


フィーリア「そ、そんなに畏まらなくてもいいよ!普通に接してくれればそれでいいから!」


その場で片膝を付き頭を垂れるロイに戸惑いを見せるフィーリア。

隔たりを感じることに窮屈さを覚えてしまう彼女にとって、畏まった様子のロイには少々接し辛いものがあった。

しかしそういった態度を取ってしまうのも二人の関係性から言って当然のものであり、それを強く否定できないでいた。


ロイ「…私にとってはこれが普通なのですが、フィーリア様がそう仰るなら…。」


フィーリア「あ、えっと。無理に砕けた感じにしなくても大丈夫だよ!…ただ、必要以上に畏まられちゃうと私が恐縮しちゃうから…。」


ロイ「分かりました。失礼のない範囲で接しさせていただきますね。」


フィーリア「(まだちょっと固いけど、まあそれはこれから慣れていけば柔らかくなる…かな?)」


ロイ「…そういえば、お聞きしてもよろしいでしょうか。」


フィーリア「ん、なーに?」


ロイ「フィーリア様は、こんな人気のない砂漠で何をしていたのですか?…私がここに来るまでに、他の女神様は見かけませんでしたし…。」


フィーリア「あ、そうだよ!それをすっかり忘れてた!」


この場で起こった出来事のインパクトが強く印象に残りうっかり忘れそうになってしまったが、現在フィーリアは遭難している最中である。

事の顛末をロイへと話し、現在はルームメイトが迎えに来るのを待っているのだと伝えると、話の内容を聞いて心配そうにこちらを見つめるロイは安堵を見せる。


フィーリア「…という訳だから安心して。ここで待っていればレイナが必ず助けに来てくれるから。」


ロイ「随分と信頼なさっているんですね。」


フィーリア「んー…表情が読めなくて掴み所のない子だけど、本当は凄く優しい良い子なんだよ。…さっきも話したけど、私って周りから見ると結構危なっかしいみたいで…無理しそうになる時はいつもレイナが止めてくれるんだ。」


フィーリア「だからきっと、ロイ君もすぐに仲良くなれると思うな!」


ロイ「…そう言ってくださるのは非常に光栄ですが、私が女神様と親しくするなどとてもおこがましいです。…私は本来、こうして女神様の側にいることすらはばかれる存在ですので。」


フィーリア「え、それってどういう…。」


またもや表情が陰るロイ。

その理由を尋ねるフィーリアであったが…。


ロイ「…申し訳ありません。出来ることなら、この事は私の胸の中にしまっておきたいんです。…フィーリア様のためにも。」


フィーリア「あ…そう、だよね。誰だって知られたくないことの一つや二つ、あるはずだもん。こっちこそごめんね。」


答えをはぐらかし、思わせぶりなことを呟くロイを見て…フィーリアは触れられたくないことに触れてしまったのだと謝罪を口にする。


ロイ「いえっ、フィーリア様が謝る必要はありません。…罪の意識を感じるのは、私たちだけで十分ですから。」


フィーリア「…ううん、ロイ君だけが謝る事でもないよ。私は、私が悪いことをしたと思ったらちゃんと謝りたいの。そうしないと、立派な女神にはなれないと思うから。」


ロイ「フィーリア様…。」


フィーリア「…なんてね!ちょっと恥ずかしい事言っちゃったかな。」


ロイ「いえ、素晴らしい心掛けだと思います。…フィーリア様はきっと、誰もが崇拝する女神様になれます。」


フィーリア「えへへっ、ありがと!…そう言ってくれる人が居るだけで、やっぱり頑張ろうって思えてくるから。出来ればロイ君が生きている間にそうなれればいいんだけどね。」


女神は通常、人間の寿命のおよそ百倍を生きる…女神見習いの学園生であるフィーリアが無事に学園を卒業する頃には恐らく、ロイは生きていないだろう。

こうして純粋に自分の事を応援してくれるロイに対し、自分から何かを返してあげることはできない。

立派な女神となって多くの人間に感謝されるような存在になれれば一番だが…現状それが出来る程の力を持っていないことは、フィーリア自身が一番よく理解していた。

…と、ここでタイミングを見計らったかのように、待ち望んでいたあの人物が姿を現す。


レイナ「…それじゃあこんな所で油を売ってないで、さっさと帰りましょ。」


フィーリア「レイナ!来てくれたんだね!」


レイナ「ごめんなさい、時間がかかって。」


フィーリア「ううん、レイナがいなかったら私ここで干からびるのを待つだけだったもん!」


レイナ「…所で彼は誰?人間みたいだけど。」


素直に再開の喜びに浸りたい所ではあるが、恐らくこの場において決して無関係でないであろうロイの存在にレイナが疑問を持つのは最もであった。

…が、ここに至るまでの過程を話そうとするとなると、必然的に裸を覗かれた話もしなくてはならない。

隠そうとしても、長年寝食を共にしているこのルームメイトは、例えフィーリアが嘘を付いたとしても簡単に見破るであろう。

しかしだからといって素直に話すことが出来る訳もなく…フィーリアは口篭るしかなかった。


レイナ「…?…言いたくないなら別に深く詮索するつもりはないわ。特に問題ないようなら、さっさと寮に戻りましょ。」


フィーリア「あ、えっとぉ…そうもいかない事情があるといいますかぁ…。」


レイナ「…何、この人間と何かあったの?」


フィーリア「ロ、ロイ君!ちょっと耳塞いで後ろ向いてて!」


ロイ「はい、分かりました。」


レイナ「…一体何があったのよ。」


いまいち状況が飲み込めないレイナだが、フィーリアも意を決してこれまでの経緯を語り始める。

しかしそれを堂々と当事者のいる前で話すのは恥ずかしすぎるので、ロイには聞こえないようにこっそりとレイナに伝える。

最初は訝しんだ様子で聞いていたレイナだったが…次第に呆れ顔になり、話が終わる頃にはため息を付く程だった。


レイナ「…あなた馬鹿なの?」


フィーリア「ちょっとレイナ!いくら何でも直接的すぎるよ!」


レイナ「だってそうじゃない、あの人間を使用人にするとか…。…アスケイドに連れて帰るつもり?」


フィーリア「そ、そのつもりだけど…何か問題でもある?」


レイナ「はぁ…まだそこまで人間のことを詳しく授業でやってるわけじゃないから仕方ないのかもしれないけど。…いい?人間には『血の繋がった家族』がいるの。一ヶ月も家を空けたら、その家族が心配するでしょ。」


フィーリア「あ、そっか…人間にも家族がいるんだっけ。」


レイナ「…話を聞く限りだと、あの人間はやる気満々みたいだけど。そこの所の事情をきちんと考慮しなさい。…でないといずれ捜索隊が編成されて大事になるかもしれないじゃない。」


フィーリア「うっ…ごめん、そこまで考えてなかった。」


レイナ「でしょうね。…それと、私が呆れている理由はもう一つあるわ。」


フィーリア「え、まだあるの…?」


レイナ「当たり前じゃない、むしろあなたが疑問にすら思っていないことにこっちが驚いてるくらいよ。」


フィーリア「…なんかよく分からないけど、ごめん。」


レイナ「別に謝らなくていいわ。…単純に、素性の知れない人間を手元に置いておく事に危機感を覚えなさいって事。もし仮に彼が危険人物だったらどうするのよ。」


レイナ「今はフィーリアの言うことをきちんと聞いてああしてはいるけど、けどそれだけじゃ彼に対して無防備になるには早過ぎる。」


フィーリア「で、でも、ちゃんと相手のことを考えてあげられるいい子だよ?」


レイナ「…確かに、女神に対して不埒を働こうとする人間は極小数かも知れない。でもね、フィーリア。もう一つ問題があるって気付いてる?」


フィーリア「…え?」


先程から正論の槍で貫かれっぱなしのフィーリアであったが、ここで止めとなる一撃が放たれる。


レイナ「仮にアスケイドに連れて帰ったとして、彼の寝床はどうするのよ。…彼一人のためにわざわざ寝床を用意してあげるつもり?そんな伝があなたにあったかしら。」


フィーリア「そ、それは…。」


レイナ「…まさか寮に住まわせるつもりじゃないでしょうね?そんなこと、あのマリーさんなら兎も角、学園が認めるわけない。」


考えるまでもなくそれは実現不可能だと、自分の見通しの甘さを痛感させられたフィーリアであったが…彼女にも譲れないものがある。


フィーリア「でも他に方法がないの!…こうでもしなきゃあの子、目を離したらすぐに危ないことしそうで…。」


それはその場面を間近で見たフィーリアの切実な思いだった。

罪の意識から命を捨てることを厭わない…そんな危うさを秘めているロイの事が気にかからないはずがなかった。


レイナ「…だったら他に、何か罰を与えればいいでしょ。使用人として側に置いておくのは無理よ。」


現実を突きつけられ落ち込むフィーリアを見て、レイナはここら辺が潮時かと思いあっさりと手の平を返す。


レイナ「…まあでも、とりあえず聞いてみるだけならいいんじゃない。」


フィーリア「…え。」


レイナ「あの子の事情を確認して、問題なさそうならアスケイドに連れて帰って…そしてマリーさんと学園に掛け合ってみて。」


レイナ「色々言ったけど、全部の問題がクリアできるなら…あなたの選んだその答えが多分、一番の落とし所だと思うから」


フィーリア「…レイナ。」


レイナ「それじゃあまずは、あの子に話を聞くけど…いいわね?」


フィーリア「うん、ありがとレイナ!」


レイナ「別にいいわよ。あなたのお人好しは、今に始まったことではないし。」


レイナにはレイナの考えがあるが、フィーリアにはフィーリアの考えもある。

そしてレイナは、出来る限りフィーリアが心揺れ動くであろう選択を選ばなくてはならない。

不確定要素を取り込むことに若干の不安は残るが…その選択をフィーリアが後悔するならばそれでも構わない。

あくまでもやりすぎない範囲で、適度に感情を刺激できればいい…もし許容範囲外の出来事が起こったなら自分が対処すればいい。

今後の展開をある程度予想しつつ、とりあえずはロイに話を聞くべく彼の方を振り向く。

フィーリアの言うことを律儀に守り…耳を塞ぎ背を向ける少年に近付き肩を叩く。

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