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Episode.1-6

「部屋はどうしようか」


 シャルルさんは僕に聞いてきた。

「本来ならコールラウシュと同室にする予定だったんだが、コールラウシュと同室にするのは不安しかないしなあ」

 僕も不安だ。1週間後には廃人になってそうだ。

 性の廃人。

「私の部屋に来てもいいけど、でも私の部屋は嫌だろうしなあ」

「別に嫌じゃないですよ」

 僕は答える。

「いや、そうじゃなくてだな……。まあ、とりあえず、私の部屋に来てみるか」

 シャルルさんは僕を自身の部屋へと案内してくれた。シャルルさんの部屋は角部屋で、3階の一番奥にあった。見た目ではそんなに変な感じはしない。

「まあ、入るだけ入ってみるがいいさ」

 僕はシャルルさんに促されて部屋の中に入る。

 部屋の中に入ってみると、本棚が天井まで続いていた。

 本棚だけでなく、机やベッドもあるが、机やベッドの上には大量の書物が置かれている。

 人がギリギリ歩けるだけの隙間しかなかった。

「……」

 僕は悶絶した。絶句した。言葉が出なかった。天井まで本棚が続いていて、本棚の前にも人が1人歩けるだけの隙間を空けて、さらに本棚が並んでいる。

 本棚が窓をふさいでいるため、昼なのに夜のように暗い。

「どうだ?住めないだろう?」

 シャルルさんが自慢げに言う。

 確かにこれは自慢できる。

 本棚が並んでいるのに、部屋全体で見ると整理が行き届いているため、汚いという感想ももたない。ただただ、凄いという感想のみだ。

 だが、間違いなく僕は住めなかった。

 住むスペースが一切なかった。

 というか本人も住めるのか?これ。ベッドも本が無い隙間に身をひそめるように寝るしか方法がなさそうな空きスペースだ。


「これは、住めないですね。というより、誰かを部屋の中に入れようという気持ちすらも感じさせないですね」

 僕は正直な感想を言った。

「う」

 なぜかシャルルさんは僕の発言でダメージを受けてた。

「仕方ないんだ。本がどんどん増えていって、しかたなく本棚を増やしていたら、歩ける面積よりも本棚の面積の方が広くなってしまったんだ」

 なぜか言い訳を始めていた。

「ま、まあ」

 シャルルさんは仕切り直すようにして話し始める。

「一応、小さめだけど部屋が空いているから、とりあえずはそこに住んでくれ」

 シャルルさんは僕の部屋へと案内してくれた。

 僕の部屋は3階にあった。

 中に入ってみると、ベッドと机があるだけの簡素な部屋だった。縦長な部屋の奥には窓があって、そこから太陽の光が入りこんでくる。

「トイレと洗面台は玄関横にある。風呂は1階の大浴場を使ってくれ。食堂も1階にある。詳しいことはこの冊子に書いてあるから、読んでみれば分かる」

 僕はシャルルさんから冊子を受け取って、パラパラと中身をチェックした。

「あの、1ついいですか」

 僕は冊子を見て気になる点があったので質問をする。

「どうした?」

「大浴場って男湯はあるんですか?」

「あ」

「え?」

「忘れてた……」

「忘れちゃダメでしょう……」

 お風呂に入れないのは死活問題である。ただでさえアレニウスを使うのは重労働なのに、お湯を浴びられないというのは耐えられない苦痛である。

「誰も女子がいないタイミングを狙って入ってくれ」

 シャルルさんは投げやりに言う。

「この寮って、全部で何人いるんですか?」

「300くらいかな」

「そのうちで男の人は何人いるんですか?」

「君だけだ」

「僕、絶対お風呂に入れないじゃないですか。絶対僕が入ろうと思ったタイミングで誰かがお風呂に入ってますよ、その人数」

 ラッキースケベも毎日起きてしまえば日常の何気ない一コマである。

「まあ、コールラウシュみたいな人がいるかもしれないから……」

「コールラウシュさんみたいな人がいたとして、向こうは問題ないかもしれませんが、こっちは問題ありですよ。大有りですよ」

「じゃあ、各部屋に水道が取り付けられているから……ね?」

「さすがに僕の肩身狭すぎませんか?」

「じゃあ、11時から12時までがヘルムホルツ君の入浴時間に設定するから!その間に入って!!!!」

「分かりました。ありがとうございます」

 その後、シャルルさんは、じゃあね!と言って僕の部屋から出ていった。

 なんだかキレ気味。

 シャルルさんが部屋から出ていって、僕はこの学校に来てから初めて1人になることが出来た。

 僕は椅子に腰かけて部屋の中を見渡す。

 部屋は石造りで、木製の椅子に机、それに簡素なベッド。

 部屋の壁に触れてみると、ひんやりと冷たかった。

 それだけだった。

 僕は椅子から立ち上がって、玄関の横にある水場へと向かう。

 水場の引き戸を開けると、中には洗面台とトイレがあった。

 和式便所だった。

 まあ、部屋が質素だから水場がしっかりとしているとは思っていなかったが、まさか和式便所だとは思わなかった。

 うーん、和式か。

 部屋の壁は石造りだったが、水場の壁や床にはアルミ樹脂が使用されていて、常に温度が一定になるように配慮されている。

 どうやら水場はしっかりとした作りになっているようだった。

 察するに部屋の質素な感じも設計者が狙ったものだろう。

 ……そして和式便所も。

 和式便所は割とショックだ。

 ウォシュレットを使えないのは苦痛だ。なにより、おしりが痒い。ウォシュレットが使えないとなると、トイレットペーパーに尻の全権を与えざるを得ないが、質の悪いトイレットペーパーだと僕の尻を傷つけてしまう。

 切れ痔は辛い。

 もちろん日常生活でも辛いのだが、アレニウスを使う時は尚のこと辛い。

 アレニウスを使う時は足を閉じた状態が続くため、尻を乾燥させることによって切れ痔を和らげることはできない。

 アレニウス使いには切れ痔は厳禁である。

 なんとかならないだろうか。

 ……。

 横に水道があるな。

 なんかコップとか、ペットボトルとかないかな。

 僕は辺りを見渡す。

 コップがない。

 うーん。

 部屋の中を見渡してもコップのようなものはなく、もちろんペットボトルもなかった。マヨネーズの容器もなかった。

 ……。

 外に出るか。

 僕は部屋から出る。

 学生寮の廊下には人が誰もいなかった。部屋の中から物音こそはする部屋もあったが、多くの人が外出しているようだった。

 この街は国内で最大級の都市であり、この街に来るときに使用した馬車の窓からも、地元では見ないような珍しいお店があった。

 僕はゴミ捨て場を探した。

 ゴミ捨て場はそれぞれの階の階段横に設置されている。

 そこではゴミを種類別に捨てられるようになっていて、燃えるゴミ、燃えないゴミ、ペットボトル、缶ビンと分けられていた。

 僕はペットボトルのゴミの中から比較的きれいな500mlのペットボトルを手に入れた。

 他の人に見つからないようにコソコソと自分の部屋に帰った。

 ペットボトルのキャップに小さな穴を開けて、いっぱいに水を入れる。

 和式便所にまたがり、ズボンを下ろす。

 ペットボトルを尻の下にセットして、ペットボトルを力強く押す。

「お、おおお」

 ペットボトルのキャップを通して勢いのいい水が連続的に送られてくる。

 さながらウォシュレットのようだ。

 これは、控えめに言って最高だった。

 最高だ。

 最高だ!

 思わず声が出てしまう。

「ふ、ふふふ」

 笑いを抑えきれない。

「ふはははははははは!!!!!!!!!!!!!!」

 僕は笑いを我慢するのを辞めた。

「ふははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!」

 ふはははははははは!!!!!!!!!!!

 声に出しても出さなくても笑ってしまう。

 自分の頭の良さに、クリエイト力の高さに思わず笑いが出てしまう。

「はっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!!!!!!あっ」

 その時、トイレの扉が開いた。

 僕の部屋には侵入者を拒むための鍵などなかった。

 笑っていたので玄関の扉が開いた音など聞こえていなかった。

 ドアの先にはコールラウシュさんがいた。

「あら」

 僕はコールラウシュさんに哀れな姿を見られた。

「あらあら」

 コールラウシュさんは微笑みながら言う。

「い、」

 僕は破顔し、叫んだ。叫ばざるをえなかった。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 僕は卒倒した。

 気を失って、倒れた。

 便器の中に頭を突っ込んだ。

 僕は気が薄れていく中で、コールラウシュさんの笑う声だけが聞こえていた。

 ……いや、笑ってないで助けてくれよ。

 助けてください。お願いします。

 そもそも何で僕の部屋に来たのだろうか。

 謎は深まるばかりである。


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