Bridal-4
結婚式も終わったと思ったら、そのまま結婚披露宴へと連れていかれた。
なぜ「連れていかれた」という表現になっているかというと、僕はなにも聞かされていないからである。次になにをするのかも知らない。
なすがままに着替えをして、言われるがままに行動する。これからコールラウシュさんの尻にしかれることは明白だった。自主性のない男である。
結婚式は立派な教会で行ったので、結婚披露宴も立派な場所なのかと思ったが、実際に連れていかれた披露宴の会場は列席者の人数に相応した場所だった。そのことをコールラウシュさんに聞くと、大きいとオバケが出そうだからあまり好きじゃないのよ。と言われた。乙女か。
というか幻術師でもオバケとかって怖いものなんだな。化学者が超能力を信じやすいみたいな話と同じだろうか。
列席者全員をグルリと囲める丸テーブルが1つに、それに正対するように僕とコールラウシュさんが座る横長のテーブルが1つ。
なんだか披露宴というよりはお食事会みたいな雰囲気だった。特に司会も用意されていなかったが、一応ウエディングケーキを切ってみたりはした。このウエディングケーキはコールラウシュさんのお手製らしい。
ステキ!
ウエディングケーキとは言ったが、しかし学生会の6人に加えてシャルルさんの子供1人の合計7人で食べるためのケーキなので馬鹿みたいに大きなケーキではない。6号ぐらいである。サイズとしては少し大きめのよくあるケーキだったかもしれないが、しかし僕にとっては世界で一番豪華なケーキである。なんたって世界で一番大好きな人のお手製ケーキなのだから。
「あーんとかしないのか?」とウィルヘルミーさんが言うもんだから、ええ、してあげましたとも。あーん。僕からコールラウシュさんへはしたけど、僕としては口の中に凶器を入れられるのが怖かったのでお断りした。歯医者とかも嫌なタイプである。
「じゃあ、これならいいのかしら?」と言いながらコールラウシュさんは素手でケーキを掴み、そして僕の口の中に入れた。僕も断る理由がなかったので、コールラウシュさんの指を舐めまわすようにしてケーキを食べる。ケーキと指、僕が食べたいのがどちらだったかは定かではない。
基本的に僕は舐めまわす系が好きだった。僕も大概ヘンタイである。
ジャパニーズ・ヘンタイ・サムライだ。
コールラウシュさんの指をペロペロと舐めまわしながら、僕は自分の指を曲げたり伸ばしたりする。ニュークリアーとの戦いで切断されてしまった僕の指達も、ローリーさんのアレニウスですっかり元通りになった。アレニウスすげえ。
胴体が半分になった、というようなダメージが大きすぎるものは修復のしようがないが、指数本くらいなら楽にとは言えないが、まあ治せるらしい。もちろん治すにもローリーさんは相当の体力が削られるので、後でしっかりと借りを返さなくてはいけない。
会場の端で誰かが日本酒で酒盛りをしていた。
よく見ると、さっき教会にいた牧師だった。小さなちゃぶ台の上に純米大吟醸と安そうなガラスのコップをのせている。なんで牧師がここにいるのだろうという疑問が浮かぶ。
そういえば教会の時から牧師は普通の牧師には考えられないような長い金のベールを顔にかけていた。もしもベールが純白だったならば新婦と勘違いしてしまうそうなほどに長いベールである。
あまりにも気になる見た目だったため、結婚式の前にコールラウシュさんに聞いてみると「照れ屋なのよ」とだけ言われてしまった。確かに牧師にも照れ屋な牧師がいてもいいのかもしれないが、それにしたって人前にでる仕事は別の牧師に頼めばいいのではないかと思ってしまう。「列席者少ないし大丈夫だよ~」とでも同業者に言われたのだろうか。
しかし照れ屋ならここで酒盛りすることはないんじゃないか……。もう家に帰ったらいいのに。と思いながら牧師の方を再び見る。あらら、金のベールもぬいじゃった。
ん?
顔を露わにした牧師。どこかで見覚えがある。
あっれえ?
僕はコールラウシュさんに耳打ちする。
「あの牧師さんって僕の知り合いですか?あきらかに見たことある顔なんですけど」
「さあて。どうかしらね」
どうかしらねって……。どうせセッティングしたのはコールラウシュさんでしょ?そういうお茶目なところが好きだったりする。
急にオノロケを入れました。
だって好きなんだもん。
ともあれ、あそこで酒盛りをしている牧師に挨拶をしなければならない。この人の尽力なくしてはニュークリアーの討伐もなしえなかったのだから。
「シンギュラリティさん」
牧師の格好をしていたのは僕のアレニウスを改良してくれたシンギュラリティさんだった。コールラウシュさんの屋敷?かなんかにいる凄い人である。
「ああん?」
シンギュラリティさんの顔は真っ赤だった。お酒を飲むと顔が赤くなるタイプの人らしい。というかシンギュラリティさんって成人だったんだ。年齢の概念が希薄なこの世界では相手が成人かどうかを意識することは少ない。もちろんお酒やタバコに関する法律こそあれど、もはや形骸化していて効力を持っていなかった。
僕は酔っぱらい気味のシンギュラリティさんに話しかける。
「ありがとうございます。わざわざこの町に来てくれるなんて」
「やめろやめろ。私に気なんか使うな。今日は君が主役なんだからドーンと構えてなさい。ほら、一杯どうだ?」
なんだか酔っぱらってカッコいいセリフを吐いている。配慮が利く親戚のおじさんかよ。
「僕未成年なんで飲めないんですよね」
と言うとガハハハとシンギュラリティさんは笑った後に話す。
「そうか!まだ未成年だったのか!それなら仕方がないな!あ、そうだ。これ、あげるよ」
そう言ってシンギュラリティさんはキャソックのよくわからないところをゴソゴソと探って、そこからだした封筒を僕に手渡す。
「なんですか、これ」
僕は封筒を開けようとするが、シンギュラリティさんに制止される。
「まあ、まてまて。詳しくは言わないが、ここでは開けないほどに卑猥なものとだけ言っておこう」
……なに渡してんだこの人。
年下の結婚祝いに卑猥なものを渡すな。まあ、年下うんぬんの話をしてしまうと未成年で結婚してしまう僕も僕か。
「それにしてもシンギュラリティさん」
「どうした?」
シンギュラリティさんは純米大吟醸をグビグビと飲みながら僕の話を聞く。きっとお酒の中身を水に変えても気付かずに飲み続けているだろう。
正直なところ、泥酔状態にあるシンギュラリティさんと話するのもどうかと思ったが、これから話をできる機会もあまりないと思うので、話をしておこう。
すると、シンギュラリティさんは「あ!」と大きな声を出して「そうだそうだ」と僕に手招きをする。耳を貸せ。ということらしい。
僕はシンギュラリティさんの方に耳をよせる。
そのまま僕の耳に手をかぶせて口を近づけるシンギュラリティさん。そしてボソボソと話しだす。
「次回で最終回だから」
……え?
うーん。
まさかここで安直なメタフィジカルをぶちこんでくるとは思わなかった。僕もどうしようもなかったので、仕方なくサムズアップだけしておくことにした。
サムズアップ大好きかよ、僕。
というわけで、次回は最終回らしい。どうにかバッドエンドにならないことを祈ろう。
さすがにここまできてバッドエンドはないだろうけど。




