Bridal-3
そうしてこうして、本番。
教会で行われる結婚式のよくある光景としては、先に式場の中央にいる新郎の元に新婦が父親と一緒に入場してくるシーンであろうが、しかし僕達の結婚式にはコールラウシュさんの両親は呼んでいないのでどうするのかな?と考えてもいたが、僕は式場の列席者名簿を見た途端にその疑問は吹っ飛んだ。
そこには学生会のメンバーの名前が並んでいた。
「これは?」
僕はドアの隙間から会場を見渡しながらコールラウシュさんに訪ねる。
「誰を呼ぼうか迷ったのだけれど、私のなかではこの結婚式は自分達の大切な人に私たちが恋仲の関係になったことを見せるためのものなのよ。
そうなったときに誰を誘うかって再び考えたら、やっぱり学生会のみんなを呼ぶという結論になったの。
だめかしら?」
ときおりコールラウシュさんは僕の顔色を疑うように聞いてくる。コールラウシュさんにどういった人生経験があるのかは分からないが、他人に否定されることを恐れているのは確かだった。
僕は答える。
「僕も同じ意見ですよ」
これはコールラウシュさんに話を合わせたという訳ではない。本心で同意できた。とはいっても、僕が結婚式に呼べるような人がそもそもいないのだが。親も殺しちゃったし。
というか冷静に考えて、自分の産みの親を2人とも自分の手で殺すってヤバいな。偉いお坊さんにめちゃくちゃ怒られそうだ。
しかしそれでも心穏やかである僕には、もとより親への帰属意識なんてものはなかったのだろう。実際に親と過ごしたのは数年であるため、親というものをこの段階でも実感できていないのだろう。
コールラウシュさんが僕の手をつかむ。
「行きましょう」
バージンロードを歩く。この瞬間は人生で一度しか体験できないものだ。たとえ僕が再婚したとしても、そのときに見えるバージンロードでの景色は一度経験した脚色のあるものとして僕の視界に入ってくるため、なんど再婚しようがこの瞬間を味わうことができないのだ。
僕は一歩一歩、感激を踏みしめながら歩く。
「さっさと歩け!」
誰かにお尻を蹴られた。
え?
嘘でしょ?
イレギュラーすぎるだろ……と思った僕は、さすがに一喝しようと後ろを振り返ると、そこには6歳くらいの男の子がいた。
え?
学生会のメンバーに6歳の子供なんていたっけ?
僕の心に感激という感情は消えていた。
困惑の勝ち。感激の負け。
かわいそうな僕。
「あ!こら!じっとしてないとダメでしょ!」
そういいながら子供を抱えあげるシャルルさん。
「ええ……」
僕は戸惑いの声が漏れる。
まさかの学生で既婚者かよ。いやダメじゃないけどね。ダメじゃないけど、攻めの姿勢は素晴らしいけれども。
シャルルさんは金髪だけど子供は金髪じゃないのね。まだ子供が小さいからなのかもしれないけど。シルバー系だ。
などとどうでもいいことを思いながら入場する。さすがに子供がいるというドッキリビックリ展開は予想できなかった。
ゆっくり歩んでいき、そして教会の中央で止まる。そのままチラリと横目で列席者の方を向く。
学生会メンバーの表情は様々だったが、そのどれもが楽しそうな表情であることに変わりはなかった。
僕は視線を目の前のコールラウシュさんへと戻す。
何度見ても愛おしかった。正直、結婚式を挙げる前はウエディングドレスに思い入れはなかったのだが、実際に見てみると本当に最高だった。
コールラウシュさんが僕と目を合わせて少しはにかんだ後に正面を向き、僕も振り向いて牧師さんの方を向く。牧師さんはなにやらよく分からないことをスラスラと話しだす。
事前に練習をしておいたのでバッチリだ。
そして次の工程も僕は知っている。
……。
もういいだろうか。
僕は言った。
「誓います」
「まだよ」
コールラウシュさんに素早く制された。
タイミングがよく分からなかったので適当なタイミングで言ったら全然違った。後ろから笑い声が聞こえる。
というか牧師も少し笑っていた。苦笑いではなくファニーな方での笑み。
僕は仕方がないのでじっくりと時を待って、コールラウシュさんが僕に向かって軽くウインクしたタイミングで、
「誓います」
と言った。
再び牧師さんが話し始め、ほどなくしたところでコールラウシュさんも、
「誓います」
と言ったのだった。
コールラウシュさんが僕の方を向いたので僕もコールラウシュさんと向き合う。
少し首を傾けて目をつむるコールラウシュさん。
僕はそんなコールラウシュさんにそっとキスをした。
これまでキスをすることはたびたびあったが、ここにきて初めて僕の主導でキスをしたのだった。
観客席がざわついていたので僕は耳を澄まして聞いてみる。
「うわあ、キスしてるよ。ヤバくね」
ドン引きされていた。しかもよくわからない口調の人にドン引きされた。
「マジ半端ねえな」
もう1人よくわからない口調の人がいた。
……誰。




