Bridal-2
夜までかかる用事と聞いたので、馬車で移動するのかと思ったら、まさかの徒歩移動だった。不審に思いもしたが、しかし僕はコールラウシュさんと仲良しさんになっていたので簡単にコールラウシュさんを疑わなかった。疑うのは良くないと思ったのだ。
コールラウシュさんはメインストリートをスラリスラリと歩いて行くので僕は軽く話でもしようと試みる。コールラウシュさんの横に並ぶ。
「どんなところに行くんですか?」
コールラウシュさんは人差し指を伸ばして口のあたりに当てながら、
「内緒よ」
と言いながらウインクした。
おお。
かわいい。
愛おしいな。
もう体中をベロベロになるまで舐めまわしたいくらいに愛おしい。僕の唾液でベチャベチャにしてしまいたい。
とりあえずめちゃくちゃかわいかった。
そんな僕の思いを知ってか知らずか、コールラウシュさんは何事もなかったかのように歩いている。照れとかないのだろうか。僕はウインクされてめちゃくちゃ照れていたのに。照れたというよりも溶けたという方が適切だ。
そうして軽い掛け言葉をしながら和気藹々意気揚々と歩いていたが、街の中心部であるところの教会の前で止まった。
「教会?」
「私も神社と迷ったのだけれど、やっぱり教会の方がステキだと思ったのよ。ヘルムホルツ君は和服よりも洋服の方が似合いそうだから」
教会?神社?和服に洋服?
僕もカンが悪い方ではない。この言葉から導き出される結末を予測することは難しいことではない。
お祓いか?
いやいやそんなわけがないか。夜までかかるお祓いってなんだ。護摩業かよ。いや護摩業だとしたらやらないけどね。熱いし。
となると結論は1つしかなかった。というより教会が視界に入った時点で結論は既に出ていたようなものだった。
「コールラウシュさん」
「どうしたの?」
「教会に来た目的を聞いてもいいですか?」
「礼拝よ」
「予想が外れた……」
まさかの礼拝という答えに驚きすぎてあごの関節が外れた。
「嘘よ」
「まあ、こんな時間帯から礼拝するなんてあまり聞きませんしね」
「結婚式を挙げるのよ」
予想通りだったのであごの関節がもとに戻った。
「そりゃあ服も要らないわけですね」
「ええ、真っ裸で式をするのよ」
意思の疎通ができていなかった。というか絶対嘘だろ。
「立ち話をしている暇はないわ」
と言いながらコールラウシュさんは教会の中に入っていくので僕も後に続いて教会に入る。僕は無宗教だったので教会に入るのはこれが初めてだった。
コールラウシュさんは教会のよく分からない偉い人となにやら話をしていたが、話はすぐに終わって教会の奥に入っていった。
僕は状況をイマイチ把握できずにいると、
「行くわよ」
とコールラウシュさんが僕の腕を掴んで教会の奥へと連れていった。
教会の奥にはたくさんのウエディングドレスが並んでいるのかと思ったが、そこにはウエディングドレスが1つと新郎が着る白いスーツがあるだけだった。
説明がほしい、という顔を僕がしていたのだろう。コールラウシュさんが微笑みながら説明をしてくれた。
「あらかじめ用意しておいたのよ。前に服屋に行った時があったでしょ。その時にちゃっかりサイズをみておいたのよ」
そういえば服を買ってもらった時に試着室にいる僕を見られたことがあったな。ということは、その時の記憶からサイズ合わせたの?不安じゃない?ほんとにサイズあってる?というかちゃっかりしすぎだろ。僕ってその頃から狙われてたの?
「もちろん、確認のためにヘルムホルツ君の部屋にある服のサイズをチェックしておいたから安心して」
「それ安心していいんですか……」
別の不安事がこみ上げてきそうだ。プライバシーゼロ。
用意されたスーツを着てみると、確かにサイズがピッタリで、袖も首回りもウエストも問題なかった。コールラウシュさん恐るべし。
スーツを着ることによって、いよいよ結婚式をあげるという実感が湧いてきた。そういえば僕はこの結婚式に友達を呼んでないぞ。もっと言ってしまえば親すらも呼んでないぞ。もう死んでるけどね!
という顔を僕はしていたのだろう。僕の顔を見たコールラウシュさんは予想通りという顔をしながら僕に話しだす。
「生徒会のみんなは呼んであるわ。今回の結婚式は内輪だけの結婚式だから私の親は呼んでないわよ。生徒会のみんなだけ。ちゃんとした立派な結婚式は2人とも立派な大人になってから挙げましょう。私の親もヘルムホルツ君の親も、まあ産みの親じゃなくてもいいわ。知り合いをいっぱいに呼んで、街の人も祝福してくれるような盛大な結婚式をしましょう。一生思い出に残る幸せな結婚式。それまではお預けね。私も惜しいけど」
ステキ!
しっかりしてる良い子だ。
こんな素敵な子をお嫁さんにできるなんて僕は世界一の幸せ者ではないか。
愛おしい。
コールラウシュさんの耳を1時間ぐらい休むことなくエンドレスにベロベロと舐め続けたい甘噛みしたい。
ああ、愛おしくてたまらない。
「それじゃあもうそろそろ結婚式本番だから事前に練習しておきましょう」
僕達はスーツとウエディングドレスを着たまま、教会のメイン会場へと戻る。
「それじゃあ君はここに立っていて、私は向こうの扉から入ってくるから」
そう言ってコールラウシュさんは扉の向こう側へと姿を消した。
僕は1人で立ち尽す。
そこから時間があまり立たずにコールラウシュさんが入ってくる。
僕はその時になって初めて、コールラウシュさんのウエディングドレス姿をまじまじと見た。
その姿は筆舌に尽くしがたいものがあり、やはり言葉でどうやって表せばいいのか分からなかった。
なんか、全てが愛おしかった。爪の先から頭にかかっている薄い布まで全てが愛おしくて狂おしかった。
コールラウシュさんがゆっくりと近づいてくる。
近づいてくることによってより愛おしさが増大されていく。今は80000000ぐらいの愛おしさだった。ちなみに自分になついている犬が愛おしさ200ぐらいなのでコールラウシュさんがどれくらい愛おしいかをコールラウシュビギナーの人にも分かってもらえるだろう。
「ヘルムホルツ君?」
コールラウシュさんに見とれて放心状態にあった僕にコールラウシュさんが話しかける。僕は夢心地から天国に意識を戻した。
「で、私がここでヘルムホルツ君の横にいるのよ。そうすると牧師さんがなんか難しいことを言うから、誓いますって言ってキスをすればいいのよ」
「分かりました」
とりあえずキスをすればいいわけだ。
楽勝楽勝!
「さて、もうそろそろ本番だから控室に行きましょう」




