Bridal-1
――「まあ、正直なところ、こうなるのは読めていたよ」
シャルルが特別な装飾を施した白いイスに座りながら話しだす。
「そうっすね。結局のところ、終始ヒロインしていたのは1人だけでしたしね」
シャルルの横に座っていたウィルヘルミーが笑いながら言う。
「私も一時期はヒロインになろうかなって考えてた時期もあったんですが、なんか普通に飽きちゃいました」
シャルルの横に座っているローリーは気まずそうにする素振りもせずに答える。あくまでも過去の思い出の1つなのだ。
「なんか聞いたところによると、討伐のときとか、もう既にいい感じだったらしいですよ」
シャルルの向かい側に座っているバラールが喜々としながら話す。
「へえー」
驚く一同。
「でも本人は知らなかったらしいですよ。討伐の後にこれがあるって」
とバラール。
「らしいな。本当にアイツは失敗したらどうするつもりだったんだろうな。その時点で既に予約も済ませていたらしいし。私達は事前に聞かされていたから少し身をわきまえて行動していたからよかったものの」
呆れるシャルル。
「もし討伐の時に私達が邪魔をしにいってたらどうしたんでしょうかね」
まあ、そんなことはしないですけど、とローリー。
「信用されているととっていいのか舐められてるととっていいのか」
ウィルヘルミーも呆れる。
テーブルを囲んでいる全員が口々に不満を言いながらも、誰もが楽しそうな顔をしている。
楽しまずにはいられないのだ。
司会がマイクを持って話し始める。
「お待たせいたしました。盛大な拍手でお迎え下さい。新郎新婦の入場です」
会場の扉が開く――
「暇だな……」
ニュークリアーの討伐から数週間経過し、僕は愛しの母校に帰ってからも自堕落な生活を続けていた。あれからより一層寒くなるのかと思ったら、今年は異常的な温度上昇があったらしく、例年と比べて温かい日が続いていた。しかしそれは例年と比べたときの話であって、体感としては普通に寒かった。
ここしばらくはニュークリアーとの戦いを目標とした毎日を過ごしていたため、それが達成して目標を失った僕は生きる活力を見失っていた。
学校には行っていたが、行っているだけだった。とくに授業を真面目に受けるわけでもなければ、ボイコットしたり居眠りをしたりというわけでもなかった。
ただボケッと授業を受けて、そうしていると授業が勝手に終わっているので、寮に帰ってダラダラするという毎日。
そんな毎日を今日も送って僕は寮に帰ってきたが、今日は少し様子が違った。
僕の部屋にはコールラウシュさんがいた。
「なんで人の部屋に入ってきてるんですか。不法侵入ですよ」
「鍵がかかってないからセーフよ」
そういえば僕の部屋って鍵がなかったな。すっかり忘れていた。もう最近はドアを開けっ放しにして廊下の暖かい空気を取り入れていたので鍵という概念すらも忘れていた。
「なんのようなんですか?」
僕は討伐の報奨金で購入した電気ケトルで2人分の紅茶を淹れながら聞く。
「今日はこれから用事があるのよ。ついてきてくれないと困るわ」
「はあ。とりあえず紅茶です」
僕はテーブルの上にティーカップを2つ置く。
「あら、ありがとう」
そういいながらコールラウシュさんは紅茶に息を吹きかけながらゆっくりと飲む。
「安そうな紅茶ね」
そして暴言を吐いた。
じゃあ飲むな、と言いたいところだったが実際に安い紅茶だったから仕方がない。紅茶百杯で安い米粉パンが1つ買えるレベルの紅茶だった。
「用事ってどんな用事ですか?」
僕も座って紅茶を飲みながらコールラウシュさんに聞く。
「そうね、夜までかかるからできるだけ早くに出発したいと思っているのだけれど。もう準備は万全かしら」
「あ、それなら服を着替えるんで少し待って貰えますか」
僕はそう言いながらタンスの中にある一張羅を出そうとする。が、コールラウシュさんはそれを静止させる。
「服は途中で着替えるから制服のままでいいわよ」
コールラウシュさんは紅茶を勢いよくグビグビと飲みほして、自分の人生に一切の悔いがないような風に立ち上がった。
「行くわよ!」