Climax-2
旭日旗がゆらゆらと揺れている。旭日旗が青空の中ではためいている。今日は雲1つない快晴だった。
バラールは戦いを終えて、壁によりかかりながら旭日旗をぼんやりと眺めていた。なんとか勝利は収めたものの、出血が酷くて応援にかけつけることができない。ただ無事を祈るだけだった。
横に寝ているシャルルは戦いで意識を失って気絶していた。右足にはグッチョリと血がついていて、傷口から見える筋肉の赤身がグロテスクを助長している。
本当ならばシャルルに応急処置をしなければいけないのだが、しかしバラールにそんな体力的余裕は残されていなく、なんとか呼吸しやすい姿勢をとらせるので精一杯だった。
のどに何かが引っかかっている感触があったため、地面に唾と共に吐きだした。口の中にいたのはゴキブリだった。
ゾッとした。戦いの最中にゴキブリを飲みこんでいたのだ。シャルルの足にザックリと入った傷口にも蛆が湧いていて、それだけでも気持ち悪かったのに。
どんなに体力は残されていなくても、虫に対する嫌悪感だけが残っている自分の日常慣れした感性にイライラする。いつからこんなに自分は弱くなってしまったのだろう。
もう一度、空を見上げる。
旭日旗の横には三色の七光星の旗が並んでいる。確か、これは何百年も前から続いているこの地方の旗章である。小さい頃から見ているはずなのに案外記憶に残っていない。それだけ毎日を平和に過ごしていた証であろう。
「無事でいていね。ギーブ」
バラールは呟いた。
「ハァ!」
僕は大鎌を振り回して僕の母親――ニュークリアーに振りかかるが、それは幻覚だったようでスカした感覚を味わう。
「はあ!くそ野郎!」
僕はコールラウシュさんから貰った大鎌をメインウエポンとしていた。スケルツォと大鎌の相性は最高で、波動よりも速い速度で攻撃することができる。
背後にニュークリアーの気配を察知した僕は、股を軸にして鎌を後ろに振るう。
「チッ」
どうやら本物だったようで、ニュークリアーは舌打ちしながら急激に方向転換する。そのままシャンデリアに着地。
僕はすかさずニュークリアーのいる天井へと大鎌を放り投げる。しかしそれも避けられ、シャンデリアと大鎌が衝突してシャンデリアが落ちる。ガシャン。と大きな音が鳴った。
「ヘルムホルツ君、下がって」
コールラウシュさんの声を聞いてすぐに、僕はバック走をしてニュークリアーから距離をとる。すぐさま、コールラウシュさんはニュークリアーの方に左手を向けて、叫ぶ。
「エースコンスタント!」
手から伸びる黒い影が素早くニュークリアーへと向かう。
ニュークリアーはそれから逃げるようにして天井をぶち抜いて空へと飛んだ。
「くるわ!」
コールラウシュさんが上を指しながら言う。僕は体内で波動を練って空から来る攻撃に備える。 幻覚だと甘く見てはいけない。
非常にレベルの高い幻覚はなによりも強力で、モチーフよりも強い。それだけ強い幻覚だと自分が幻覚に飲みこまれる危険性もあるため、強い幻術師とは才能のある人ではなく、揺るがない意思を持っている人のことである。
天井からなにか熱を感じ、その後すぐに天井を突き破ってマグマが降ってきた。ニュークリアーの繰りだす幻術は高位であるため、まごうことなき、本物であると言ってもいい。
僕は体内で練った波動を小さなプレート状の盾にして頭の上に放出する。これでマグマを防ぐのである。
コールラウシュさんは横でシールドを出してマグマに備える。コールラウシュさんの衣服はダメージを受けていてボロボロになっている。回復が追いついていないようで立ち上がることもできていない。
しかしそれは僕も同じだった。装甲はすでに無いようなもので、全身が隙間なく痛みに襲われている。アドレナリンをもってしても痛みを抑えきれていない。きっと骨が折れているのだろう。
マグマが降りかかる。
プレートは直接の衝撃こそ防いでいるものの、熱さがプレート越しに伝わってきて顔が火傷しそうになる。目をつむってしまいそうになるが、そんなことをしたら「死にたいです」と言っているようなものだ。
あまりにも長くマグマが降り続いていたが、それが止んだと思った直後に、ニュークリアーが僕との距離を詰めてくる。
ニュークリアーが振りかぶった短剣を、僕は素手で受け止める。手の装甲を貫いて短剣の刃がグッサリと食い込む。
自分の手の平から血が流れているのが分かる。
僕は痛みに耐えながら短剣ごとニュークリアーを僕の方に引きつけて、そして叫んだ。
「コールラウシュさん!」
「コンセントレーション!」
僕とニュークリアーの2人に向かって青いレーザーが飛んでくる。それは僕に当たって、そして広がる。
それは2人を包むくらいのサイズになり、そして僕達を運んでいった。
これは僕とコールラウシュさんの2人で考えていた最終手段で、このレーザーは僕とニュークリアーの2人を包んで、そしてアレニウスの発動しない場所で2人だけになる。今までアレニウスに散々頼ってきたが、最後の最後で、アレニウスのないところで決着をつけようというものだ。
アレニウスの存在しない世界を望むコールラウシュさんのウルトラCだった。まさか本当にこの技を使うことになるとは思わなかったが、使わなくてはいけないほどに厳しく、苦しい戦いだった。
僕はレーザーに飲みこまれる直前に、コールラウシュさんの方を見た。
コールラウシュさんは最後の力を使いはたして、今にも倒れそうになりながらも、僕に向かってサムズアップをしながら、そして言った。
「愛しているわ」




