Tenpure 4-4
洋館最深部。
玄関から長く伸びる廊下を進んでいくと、途中で行き止まりになったのだが、そこにあったものは大きな扉だった。入口にあった木彫りの扉とは違って、鉄製の重々しい雰囲気のする扉である。それを触ってみると少しひんやりとしていて、少しゴツゴツする。綺麗にデザインが施してあって、扉が縦長なことを活かしたデザインだ。
その扉を開く前に、僕はコールラウシュさんに話しかけてみる。
「僕って結局、なんで戦うんですかね」
「そうね。この世界ではアレニウス使いは戦うことが当然だから、そうやって意味を考えることは一回もなかったかもしれないわね。正直なところ、ニュークリアーがした悪事というのも実感を持ってないでしょ」
「はい。今までは父が殺されたことをずっと隠してきて、それは僕の中で枷として僕の足を引っ張り続けてきたんですが、父のことをコールラウシュさんに話してしまうと、まるでそれが過去の事象として簡単に片付くようになりました。なんででしょうかね。今まであんなに恨んでいたのに、悲しんでいたのに、もうなんとも思わないです。正直、復讐とかもういいです。もう飽きました」
「この世に悪なんてものは存在しないのかもしれないわね。人が人を助けるためには、人を殺さなくてはいけない。そんな世の中だもの。みんな悪くなくて、みんな悪いの。君はニュークリアーを倒したことによって、国の多くの人からは称賛されるかもしれないわ。でも、それと同じようにこの町の人からは批判されるかもしれないわん」
「わん?」
「いいところで噛んだわ」
なんでいいところで噛むのかなあ。
「続けていいですよ」
「そうね。私は「大人になったら意味が分かるから今はただ戦いなさい」とは言わないわ。そんなもの、体験談でしか物事を語れないダメな人間そのものだもの。だけど私は答えないわ。答えられないのよ。私もなんで戦わなくちゃいけないのか分からないの。それは私が子供だからよ。だってアレニウス使いは戦うことが当然だから、仕事だから。この学校を卒業したら、しばらくすると成長しちゃって、もうアレニウスも起動できなくなって、みんな別の場所でただの社会人として生活する。もちろんアレニウス使いとしての記憶や経験は私達の中で思い出となって心に残るのかもしれない。でも、私はそうやって、ただのアレニウス使いとして人生を浪費していくのは嫌なの。もうこんな兵器、すぐにでも無くしたい。アレニウスの存在しない世界を作りたい。争いのない世界を、とは言わないわ。でも、やっぱり私はこの世の中を血の流れない世界にしたい。誰しも、親が子供を愛し、友は友を思い、異性に恋焦がれて、ときには嫌いな人ができるかもしれない。だけれど決していがみあわず、話し合いで膿を取り除けるような、そんな社会にしたいの――ダメ、かしら」
「 」
僕はコールラウシュさんに自分が思っていることを伝える。コールラウシュさんはモヤモヤが晴れたような、スッキリとした表情になる。
僕は金属でできたドアノブにゆっくりと手をかける。
「準備はいいですか」
「もちろんよ」
コールラウシュさんはもう片方のドアノブに手をかけて答える。
ゆっくりとドアノブを引く。決戦はもうすぐだった。
この時に僕が発した言葉は誰にも聞かれることはなく、ただ、僕とコールラウシュさんの2人だけの世界の中で消えることなくずっと残り続けるのだろう。




