Episode.1-3
「ハッ!」
目が覚めた。
周りを見渡して状況を確認する。
どうやらここは部屋のようだ。
部屋の中にはベッドが2つあり、僕は奥のベッドに寝ていた。
部屋は八畳ほどのビジネスホテルのような作りで、壁にはテーブルが横続きに2つに並んでいた。
右側には立派なキッチンがある。
ここは、どこだろう。
保健室というには小さすぎるから、学生寮か何かだろうか。
なんだか眠る前の記憶があいまいだったが、その割には頭は酷く冷静で、人間追いつめられると案外冷静になるのだと感じた。
そう考えていると、玄関らしき扉の横側から誰かが出てくるのが分かった。玄関の横には洗面所でもあるのだろうか。
「あら、機嫌はいかが?」
そこにいたのはコールラウシュさんだった。
「ひえっ~」
僕は卒倒した。
「危ないわ」
僕は卒倒しようとしたのだが、目を閉じるよりも早くコールラウシュさんに抱き付かれ、またキスをされた。
「んんんんんんんん!!!」
僕はコールラウシュさんの背中を思いっ切り叩いた。
「痛いわ」
コールラウシュさんは僕の口から顔を離していった。
「痛いじゃないですよ。こっちは痛いですまないんですよ」
「でも気持ちよかったでしょう?」
「う、うん」
思わず敬語を忘れてしまう僕。
「じゃあ問題ないでしょう?」
コールラウシュさんは微笑みながら話す。
「問題ないのかな?」
「問題ないのよ」
「じゃあ問題ないや!」
「そうよ!」
立ち上がって拳を掲げ合う2人。
シュールな光景だ。
「何でそうなるんだ!おかしいだろ!」
ドアが開く音がしたと思ったら、学生会長が入ってきていた。
「あら、シャルちゃん。どうしたの?」
コールラウシュさんは学生会長に話しかける。
「ああ、シャルちゃん」
僕も話しかける。
「会ってからまだ数時間しか経ってない先輩をちゃん付けって……もうコールラウシュに染められている……」
シャルちゃんは驚愕していた。
「と、とりえあず、新入生は連れていくぞ」
シャルちゃんは僕を部屋から出そうと僕の手をとった。
「待ってよ」
コールラウシュさんは僕がシャルちゃんに掴まれた手とは反対側の手を掴んで、僕が連れていかれるのを止めようとした。
僕は両方から引っ張られてピーンとなる。まるで洗濯物にでもなったような気分だった。
冷静。
「どうしたのシャルちゃん。ヘルムホルツ君は私と同室になる決まりだったでしょう?」
「たった今をもってその決まりは取り消しになった」
「なんで?私は新入生を熱くもてなしただけなんだけど?」
「そのもてなし方が問題なんだろうが」
「そう?私はそうは思わないわよ。ね?ヘルムホルツ君?」
突然僕に話がふられて、僕はどうやって返事をすればいいのか分からなくなる。
「え?ええっと、うん、ううん?」
何も明言しない返事をしてしまった。もはや返事にもなっていなかった。ただのオノマトペだった。
「ほら、ヘルムホルツ君だってそう言ってるでしょ?」
コールラウシュさんは僕を手元に引き寄せるようにしながらシャルちゃんに言う。
「いや、そんなこと言ってないだろ」
シャルちゃんはそう言って、僕を引っ張っていた手を離した。
僕は再びコールラウシュさんの懐に収まる。
顔をあげるとコールラウシュさんの顔がそこにあった。
コールラウシュさんは微笑んでいた。
その笑みには恐ろしささえ感じられた。というか恐ろしさしか感じなかった。
「とりあえず、」
シャルちゃんは仕切り直すように話し始めた。
「新入生に校内を案内しておかないといけないからな」