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Tenpure 2-7

「明日は討伐当日だから今日は軽めにするわ」

「助かります」

 なんだか全てが嫌になって二度寝しようと思たが、当然二度寝など許してもらえるわけもなく再び叩き起こされた。

 僕が必死の抵抗の末に布団から出ると、シャルルさんは部屋からいなくなっていて、コールラウシュさんが起こしてくれた。

「なにか食べたいものはある?」

 僕がいつものようにコールラウシュさんが用意してくれた中華料理をモグモグしているとき、僕に質問が飛んできた。

「食べたいもの、ですか?」

「ええ、明日は討伐だもの。美味しいものを食べるのは大事よ」

 今週はずっとコールラウシュさんの朝食に1日が始まり、稽古が終わるころには食堂が閉まっていたためコールラウシュさんお手製の夕食を食べ、昼は軽食を用意してくれ、とコールラウシュさんの食事を食べまくっていた。

 だから今日もコールラウシュさんの食事にするつもりだったのだが、まさか食べたいものを用意してくれるとは思わなかった。

「カレーライス食べたいです」

「そう。じゃあ今日はみんなカレーライスにしましょうか」

「みんな?」

「今日の晩御飯は学生会室で生徒会のみんなで食べるのよ。みんなにも食べたい料理を聞いておいたのよ」

 僕はコールラウシュさんの話を聞きながら、朝ご飯を食べて、身支度をする。もう体にしみついてしまった慣習だ。

「今日はフリーよ。明日に疲れを残さないように調整しなさい。私は学生会館で料理を作っておくから」

「わかりました」

 僕とコールラウシュさんは学生寮を一緒に出て、闘技場と学生会館との分かれ道でさよならした。

 僕は闘技場の中に入る前に空を見上げる。

 最近は忙しさのあまり寒さをかみしめることもない日々を過ごしていた。

 討伐があると聞いた日から、僕の生活は厚みを増していった。

 昨日まで二度寝はあたりまえだった生活が、二度寝は絶対に許されない、というか二度寝できない生活になり、こうして寒空を見上げることもない。

 気がつけば夜になり、疲れのせいかすぐに寝てしまう。

 ああ、僕はこの生活をどう思っているのだろうか。

 好んでいるのか、辞めたいのか。

 そんなことを考えることがないくらい、僕の生活は忙しかった。

 そもそも僕はなんのために戦うのだろうか。

 ニュークリアーとの決着をつけたいためだろうか。

 学生会のみんなと一緒に戦って仲良しになりたいためだろうか。

 それとも誰か1人のため?

 だとしたらいったい誰のため?

 シャルルさん?

 コールラウシュさん?

 ローリーさん?

 ウィルヘルミーさん?

 バラール?

 あえてのニュークリアー?

 それはないか。

「なにしてるの。邪魔なんだけど」

「ごめんなさい!」

 後ろから声がしたので反射的に謝る。

 僕に対してここまで高圧的な態度を取るのは1人しかいなかった。

「……なに」

 ローリーさんだ。

「あの、ローリーさん。人生の先輩として1つ相談があるんですけど聞きたいですか?聞かせてあげてもいいですけど」

「なんでちょっと上から目線なの」

「冷静につっこむなあ……」

 表情1つ変えることなく指摘するローリーさん。

「まあ聞くわ」

「優しい」

「分かったから早く話して。外だから寒いのよ」

「僕はなんのために戦うんでしょうかね」

「学校からの命令だからでしょ。そんなことのために私をこの寒空の中で待たせたの」

「え?いや、たしかに命令ですけど……」

「これから討伐で向かう先に対して、君がどんなに思い出があったのかは知らないけど、君はただ学校の命令に従うだけ。それに運命を感じたり避けられないことだと思ったりするのなんて、自分を過大評価するにも程があるわ。君は学校に言われたとおりに業務をこなせばいいの。ああ、それとも終わってからの方に悩んでいるの?」

「終わってから?燃え尽き症候群ってことですか?」

「いや、そうじゃなくて退学の……って君は今でも全然学校に来てないじゃない。ウィルヘルミーが悩んでいたわ」

「その件に関してはなんとかするとして、退学ってどういうことですか?」

「もしかして、まったく聞いてないのね。いいわ、忘れて」

「忘れてって……」

 本当にそれで僕が忘れると思ってるのだろうか。

 もう今まで悩んでいた些細な云々などどこかに消え去ってしまった。

 そんな漠然とした悩みよりも目の前に超ド級のモヤモヤを提示されてしまったら思わず手を伸ばしてしまう。そしてドツボにはまる。

「じゃあ、私はもう行くから」

 ローリーさんは僕の横を通りすぎて森の中へと入っていこうとする。

「ローリーさん」

 僕はローリーさんの背中に話しかける。

「何よ」

 その背中は動くのを辞めて、対照的にローリーさんの顔が僕の顔と対になる。その顔はいつものように僕に厳しい視線を向ける。

「頑張りましょうね」

 もちろん、僕が一番言いたかったことはこんなことではない。本当は僕がこれからどうなるのか知りたかったし、僕の頭の中には、少し前にコールラウシュさんが発言した、討伐の後に学校を辞めることになる。という発言との関連性も考えずにはいられなかった。

 しかし、思考に行動が占拠されてはならない。自分にとって利益になることだけを行っていては社会を生き抜くことはできない。時には不利益になることを行わなくてはいけない時もある。しかしそれでも僕は迷わず不利益に進むのだ。

 僕はローリーさんにそう言って、笑う。

「そうね。頑張りましょう」

 ローリーさんは僕に背を向けながらそう言った。笑い返してくれたのかどうかは分からなかった。



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