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Tenpure 2-5

「愛してるわ」

「えー!一番目が覚める起こし方されたー!キスされた後に耳元で愛の言葉を叫ばれたー!なんか久しぶりで懐かしいー!」

「叫びすぎよ」

「あ、ごめんなさい」

 起こされる。

「今日はエビチリとフカヒレよ!」

「おおお、これがフカヒレってやつか……」

 身支度をする。

「今日の対戦相手はいよいよ私よ!」

「おお、ついに」

 いよいよ、とか言うもんだから僕も「ついに」とか言ってしまったが、別にいよいよという感じはなかった。

「私のアレニウスをじっくりと見せてあげるわ」

「金色より奏でる混沌!鳴らせよ偽り!チアニズム!」

 コールラウシュさんが呪文を詠唱した直後、コールラウシュさんは白なのか虹色なのかよく分からないモヤモヤしたタイツみたいなもの、朝の少女戦闘魔法アニメの変身シーンみたいな状態になったといえば分かりやすいだろうか、そのタイツを経由して最終的には真っ白のなんとも形容しづらい服装になっていた。

「なんですか?その……白装束?」

「0点のたとえね……」

 コールラウシュさんはアレニウスを起動したはずなのに、その身なりにはおよそ武器だと思えるものがなかった。

「そのアレニ」

 僕はコールラウシュさんに聞こうとして遮られる。

「別に今回の討伐に限った話だけじゃなくて、これからはどんな武器のアレニウスか分からない相手も出てくるのだから、そうやって何でも聞いていたらだめよ。学生会のみんなは刀に拳法に槍に銃だから一目で分かるもの。ローリーちゃんの拳法は比較的予想しづらいとは思うけど、あんなに重厚な手袋してたら予想できちゃうわ」

 今回になって初めて学生会の全員と手合わせしてみたが、さすがは学年最強というだけあって、ボコボコにされた。

 ウィルヘルミーさんは刀を2本持っているから二刀流なのかと思ったら飛び道具として易々と投げてしまうし。

 ローリーさんはアレニウスの上からパンチされてもそんなに痛くないと思ったらめちゃくちゃ痛いし、治療のパンチと怪我させるパンチがあるとかよく分からないし、チャイナドレス着ながら戦わないでほしいし。

 バラールは槍を何個も出してくるからバトルフィールドに50本とか刺さってるし、しかもそれを爆発させるんだからバトルフィールドが火事になるし。

 シャルルさんは拳銃とかライフルとかRPGとかよく分からない名前の銃とかめっちゃ出してくるし、そもそも願ったらその銃が出てくるってどういう原理なの。しかも銃が空中に浮いた状態でも手を振ると発砲できるってなに。引き金は?

 とまあ、ここ数日は戦い詰めだったが、そのどれもが見た目で攻撃の仕方が予想できそうなアレニウスだった。

 だからこそ、コールラウシュさんとの戦いはある意味では貴重な体験なのかもしれない。

 僕もアダージェットとスケルツォを起動させる。

 何が来るか分からないので僕はコールラウシュさんと距離を取りながら、目線を切らさないようにする。

「ドラゴン」

 コールラウシュさんは呟く。

 すると僕の目の前には緑色で金色の髭を蓄えたドラゴンが現れる。

 ドラゴンはバトルフィールドの中に納まりきらず、あふれた体を闘技場の周りにくるくると巻き付けている。

 僕はその壮大さに呆然とする。

「隙だらけね」

 僕はドラゴンに視線がいってしまい、コールラウシュさんから目線を切っていた。僕はコールラウシュさんの声に気づいて目線を戻したが、すでに攻撃は放たれていた。

 僕の首に針が刺さる。

 痛い。

 僕は悶える。

 衝動的に針を引き抜こうとするが、直前で思いとどまる。

 首の針を抜いたら出血の量が多くなり戦闘不能になるだろうし、その針には微細な返しが無数に入っていた。引き抜くにも引き抜けない。

 投了だ。

 首に刺さった針は僕を痛めつけ、僕は痛みから力を入れられず、さらに僕の技は声を必要とするため技を出すこともできない。

 後ろにいるドラゴンの攻撃をかわしつつ、さらにコールラウシュさんの攻撃もかわしながら反撃の手段を練ることが出来ない。

 僕は手を上げて降参のポーズをする。

「ふふふ」

 コールラウシュさんは僕の降参ポーズを見て、笑いながら右手の指を鳴らす。

 パチン!

 目の前にいたドラゴンはいなくなり、僕の首に刺さっていたはずの針もなくなっていて、さらには コールラウシュさんもいなくなっていた。

「あれ?」

 バトルフィールドには僕1人だけだった。

 針がなくなったので声も出せるようだ。

「私のテーマは幻術」

「ハッ!?どこ!?え!?」

 僕はどこからか聞こえたコールラウシュさんの声の出所を探す。

 ぐるりぐるり。

 首を回す。

 コールラウシュさんは僕が立っている方とは反対側の観客席にいた。

 つまりは後ろの観客席にいた。

「幻術?」

「ええ、幻術よ。今回はビックリさせるためにドラゴンをだして針を飛ばしたのだけど、弾丸を飛ばしたり、剣をだして戦うこともできるのよ。そういう意味では、私は剣の武器のアレニウス使いともいえるし、銃のアレニウス使いともいえるわけ」

「最強じゃないですか」

「いや、そうでもないのよ。幻術を使うには体力もいるし、出すのに時間がかかるものもあるわ。さっきだしたドラゴンなんかは、10秒くらいかかるわね。それに、いくら剣をだしたり銃をだしたりしたところで、私に力がなければ使えないもの。そういう意味では努力と才能が必要なのよ」

「ところで、僕の首に刺さったじゃないですか、針」

「ええ、そうね」

「幻術が解けた後も痛みが残ったんですけど、それってなんでなんですか?」

「まあ、幻術っていうよりもレンタルって言った方が感覚的には近いかしらね。その期間だけドラゴンとかを借りて、終わったら返す。みたいなものよ。だから痛みや苦痛が偽りのものということではないのよ。うーん。説明が難しいわね」

「雰囲気は分かりましたよ」

「あらそう、助かるわ」

「それにしても、コールラウシュさんって強いんですね」

「これは自慢になっちゃうんだけど、一応3年生の中では一番強いもの。舐められてもらっては困るわ」

「あれ?シャルルさんは?」

「シャルちゃんは2番よ。本当なら私が生徒会長を務めることになっていたんだけど、ほら、私に務まらないでしょ」

 おお。

 どうやら自覚していたようだ。

 僕は自分が今置かれている状況を考えてみた。

 明後日には1年生、2年生、3年生から最も強い2名を集めて僕の村を壊したニュークリアーを討伐しにいく。

 不安だ。

 僕の村の人だって簡単に洗脳されてしまうような弱い人ばかりではない。あまり覚えていないけれど、もちろんアレニウス使いだっていたはずだ。

 それなのに村は壊滅的な状態になった。

 本当に僕達は生きてこの学校に帰ってくることが出来るのだろうか。

 誰一人として死ぬことなく帰ってこられるのだろうか。

 僕はニュークリアーを目の前にして臆することなく戦えるのだろうか。

 まだ母親は生きているのだろうか。

 母親が無事だったとして、僕はどうやって話しかけたらいいのだろうか。

 また親を傷つけてしまわないだろうか。

 怖い。

「……コールラウシュさん」

「あら、どうしたの?」

「もう一度手合わせしてくれませんか?」

「あら、やる気のある子は好きよ」

 僕は戦うことによって自分の思考を止めた。


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