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Episode.1-2

「ここは噴水だ。中に入ると濡れる」

 

 は?


 学生会長は僕に校内を案内すると言って歩き始めたと思ったら、数メートル先にあった噴水を紹介した。日常生活に本来必要としない噴水を紹介するからには、きっと特別な装飾を施したレアな噴水なのかと思いきや、おおよそコンクリートで作られた、よくある白い噴水だった。中を流れている液体もただの水のようだった。特別に粘性があるとかでもない。

「はあ、そうですか」

 僕は最初に噴水を紹介されるとは思わなかったので、生返事になってしまった。

「あれ?噴水は見たことあるのか?」

 学生会長は疑問そうに僕に聞いた。

「はい。地元にもあったので」

「そうだったのか。私が住んでいたヒュガシティでは慢性的な水不足だったから、噴水なんてものはなかったからな。この学校に来た時はとても驚いたものだ」

 と、学生会長は言い、


「慣れるまでは噴水が怖かった」

 と、どうでもいいことを付け加えた。

 なんだ噴水が怖いって……。

 アホの子なのかな。学生会長。

「まあ、今のは冗談だ」

 学生会長はそう言いはしたものの、本当に冗談かどうか怪しかった。学生会長の生まれ故郷だというヒュガシティは、この街からとても遠くに位置していて、ここから馬車で2週間以上はかかる。

「まあ、次に行こうか」

 学生会長は再び歩み始める。

 噴水を背にして、さらにまっすぐに進み、本校舎と思わしき大きな建物の中に入っていった。

 僕も後を追うようにして中に入る。

 校舎の中は全面が大理石で覆われていて、異常に高い壁からはステンドグラス越しに光が差していた。正面にある大きな階段には赤いカーペットが敷かれていて、階段の手すりにまで丁寧に装飾が施されている。

「すご……」

 僕は初めて見た景色に思わず感嘆の声をあげてしまう。

「そんなに凄いか?」

 学生会長は僕を不思議がるようにして言う。

「はい。こんなに立派な施設、僕の地元じゃ見たことないですよ」

「そうかそうか。私の地元のヒュガシティは建築に力を入れているから、私は特に珍しいとは感じなかったが。この学校の建設にもヒュガシティ出身の者が多く関わっていたらしいと学校長から聞いたことがある」

「そうなんですか。素敵な街で産まれたんですね」

「ああ、ヒュガシティは良い街だよ。今度来てみるといい。距離的には遠いから簡単には来れないだろうが」

「はい。是非」


 学生会長は正面にある階段を上った。僕も怯えながら上る。なんだかカーペットを汚してしまいそうで、足をつけるのには少し勇気が必要だった。

 階段を上り、左折してそこからまた直線に進む。

「ここは主に学生が使用する教室が並んでいる。1年生から3年生までが各教室で授業を受けている。君の教室は1年2組だ」

 そう言いながら学生会長は1年2組の教室まで歩いたところで止まる。

 教室は廊下側がガラス張りになっているため、教室の中を簡単に見ることができた。

「誰もいないですね」

 教室は無人だった。

「今日は11時に下校完了だからな。全員が寮に帰っているころだよ」

 学生会長は下校時間になっても僕のことを待っててくれたのか。

 ……なんだか本当に申し訳ないな。

「おっと」

 僕が3度目の謝罪をしようとしたときに、学生会長は僕を制するように手を伸ばして僕の動きを止めた。

「別に謝罪が欲しいわけじゃないよ」

 僕の行動を読まれていた。

「まあ、入学したばかりだから慎重になるのも分かるけど、少なくとも私は君のことを嫌っている訳じゃないから安心していいよ。ヘルムホルツ君」

 ……。

 めっちゃ良い人だ。


「申し訳ないと思っているなら一発ギャグでもしてくれればいいんだよ」

 ……。

 こういうところが無ければもっと良い人なのになあ。

 僕が学生会長のフリを完全に無視していると、学生会長も話をそれ以上続けようとはせずに、次の場所を紹介するために歩きだした。

 このすぐに諦める感じ、きっと無視されることに慣れている。じゃあもう辞めればいいのに。お互いが傷つくだけだ。


 刹那、3年生の教室のドアが開き、この学校の学生と思わしき女性がでてきた。

 歩くたびにスカイブルーの長い髪が揺れ、目は少し釣り上がっていてどこかクールな印象を与えている。身長は僕より少し高いぐらいだ。

「あら、男の子を連れて校内を練り歩いているなんて、不純異性交遊じゃないの?シャルちゃん。学生会長がそんなことしていいのかしら?」

 その女性は学生会長に向けて話していた。

 学生会長も返答する。

「ヘルムホルツ君は新入生だし、この学校は別に不純異性交遊を禁止していない。そもそも、これは校内を案内しているだけで不純異性交遊ではない。そして新入生の前でシャルちゃんって呼ぶな。示しがつかないだろ」

「あら、新入生だったのね。今年は男の新入生が来るっていう噂は聞いていたけど、本当だったのね。初めまして。3年生のコールラウシュよ」

 スカイブルーの髪をした背の高い女性は僕の前まで来て、名前を名乗りながら右手を出してきた。握手を求めているのであろうことはすぐに分かった。

「初めまして。ヘルムホルツっていいます」

 僕も自己紹介をして、右手を前に差し出す。

 僕は握手をした――つもりだったのだが、コールラウシュさんは握手をしたまま僕の右手を強く引っ張った。僕はたまらず数歩前にでてしまう。

 そのままコールラウシュさんは左手を僕の頭の裏に当て、右手を僕の背中に当てた。そして――キスをした。


 僕は困惑して、自分の身に何が起こっているのか把握できなくなる。突然のキスだったので呼吸が整っていない。

 僕は呼吸をしたくて強引に顔を遠ざける。

 顔を離して深呼吸をして。鼓動が少し落ち着いたと思ったら、コールラウシュさんは再び僕の顔を強引に近づけ、またキスをした。

 コールラウシュさんは僕の口の中に強引に舌を入れる。

 僕は放心状態になる。

 コールラウシュさんの舌が僕の舌を絡めとって、僕の舌を優しく撫で回す。歯の裏を舐められる。 僕は喉の下の方がむずがゆい感覚におそわれる。

 内ももが変な感覚に襲われる。あごの裏にも変な感覚が回ってくる。

 僕はどうしようもなくなり、膝からくずおれる。

「ふふふ」

 コールラウシュさんは僕がくずおれたことを確認してから、僕へのキスを終わらせて、不敵に笑った。

「コールラウシュの方がよっぽど不純異性交遊だろ……」

 僕は失われていく意識の中で、学生会長がコールラウシュさんに呆れた声をかけていたのだけが分かった。


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