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Episode.3-4

「お腹は空いているかしら」

 僕が新品の服を着て懸命に進んでいると、横で器用にスキップしていたコールラウシュさんが僕の進路をふさいで話しかけてきた。

「空いてますね」

 僕は早朝から体育大会の準備やらなにやらで、一食も食べていなかった。

「じゃあ食事にしましょうか」

「そうですね」

 カレーライスなのかなあ、と思ってしまう。

 というより、そもそもカレーライスの匂いが蔓延しているので、無意識的にカレーライスを考えざるをえない。

「じゃあ買い物しましょうか」

「え?どこか食堂に行くんじゃないんですか?」

「私の手料理を、と思っていんだけど、いけないかしら」

「いや、そんなことないです。光栄です」

「あらそう」

 八百屋、肉屋、調味料が置いてあるお店などを回って買い物を済ませた。

「じゃあ、帰りましょうか」

「はい」

 僕達は学校に帰ることにした。

 時間は昼過ぎになっていて、馬車の流れもあまり激しくなかった。

 コールラウシュさんと歩いて思ったのだが、コールラウシュさんは歩いているときに会話をしようとしなかった。

 普通なら気まずさから少しは会話をしようと思うのかもしれないが、コールラウシュさんはそれをしない。

 だが、それで気まずいとは思わなかった。

 自分でも気がつかないぐらいにコールラウシュさんと仲良くなっていたらしい。無言を気まずいと思わないほどに。

 街を歩き続けて学生寮についた。

「じゃあ、私の部屋にいきましょう」

 コールラウシュさんは僕を自身の部屋へと案内する。

「ここよ。入って」

 コールラウシュさんの部屋は3階の一番奥、シャルルさんの反対側だった。

 僕は部屋の中に入る。

 コールラウシュさんの部屋は恐ろしいぐらいに片付いていた。

 部屋の中央にはカーペットが敷かれていて、その上には低めのテーブルが設置されていた。

 ベッドが端に置かれていて、なんだか綺麗好きな女子大学生の部屋みたいだった。

 そして僕が何よりも驚いたのが、なんと部屋にキッチンがあったのだ。

 立派なキッチンがあり、調理しながら部屋を見渡せるようになっている。なんだっけこれ、アイルランドキッチン?

 コンロは3口で、冷凍庫付の冷蔵庫もあった。

「コールラウシュさんの部屋ってキッチンもあるんですね」

「当たり前よ」

「……そうですか」

 それにしても。

 つくづく自分の部屋のショボさに悲しくなってくる。

 というよりも、少し前にコールラウシュさんの部屋に拉致、もとい招待されたことがあった気がする。

 その時は3階の奥の部屋じゃないような気がしたし、こんな内装じゃないような気もした。

「コールラウシュさん」

「どうしたの」

「コールラウシュさんの部屋ってずっとここですか?」

「最初は新入生と同じ部屋になる予定だったんだけど、新入生が拒否したから別の部屋になったの」

「へえ、ワガママな新入生もいるんですね」

「君のことよ」

「……」

 そういえばそんな話もあったような気がする。

 たぶんその時の記憶だけが抜けているのだろう。なにか衝撃的なことがあったことだけが記憶に残っている。

 いや、覚えていた。

 ウォシュレットのことも記憶にあった。

 ただドわすれしていただけだった。

「じゃあ、私が料理を作るまでベッドで横になって待っててね」

 と言ってコールラウシュさんはエプロンをつける。

「カーペットに座っててもいいですか?」

「だめ」

「そうですか」

 僕はベッドに座って待つことにした。

「座っちゃダメ」

 ベッドに座っている僕にコールラウシュさんが指摘した。

「はい」

 僕はおとなしく従う。

 コールラウシュさんの部屋というのは、言ってしまえばアウェーだ。

 アウェーである以上、もしものことがあったときに、絶対的に不利になる。

 事を荒立てるのは避けるべきだろう。

 今日は朝早くに起きたためか、コールラウシュさんのベッドで横になっていると眠たくなってきた。

 だが、寝てはいけない。

 寝たら何があるか分からない。

 というより、招待された状況である以上、寝るのはダメだろう。

 そうして僕が睡魔と戦っていると、コールラウシュさんが料理を作り終わったようで、

「できたわよ」

 と言った声で目が覚めた。一瞬気を失っていた。

 僕は起き上がってテーブルの上に置かれた料理を見る。

 ロールキャベツだ。

「待って」

 僕はコールラウシュさんに言われて動きを止める。

「座っていいなんて言ってないわ」

「まじですか」

「横になりなさい」

 僕はコールラウシュさんのベッドで横になる。

「あの」

 僕は話しかける。

「ロールキャベツ食べたいんですけど」

「あら、食べていいのよ」

「いや、そうじゃなくてですね」

「?」

「寝たままじゃ食べられないですよ」

「私があーんしてあげるから問題ないわ」

「問題ありますよ!」

「そうかしら?」

「あーん関連の問題は置いといて、そもそも寝たままロールキャベツ食べたら汁でベッドがベチャベチャになりますよ」

「そうね」

「でしょう」

「でも座るのはダメよ」

「詰んだ……」

 ともあれ、僕は無事座ることを許してもらい、美味しいロールキャベツを美味しく頂いたのだった。

 コールラウシュさんが食べ終わった食器を洗っている間、僕は出された紅茶を飲んで落ち着いていた。

「ねえ」

 コールラウシュさんが僕に話しかける。

「なんですか」

「1つ聞きたいことがあるんだけど」

「いいですよ。食事も御馳走になりましたし」

「君の出身のことなんだけど」

「……」

 僕のゆるゆるだった心は必然的に引き締まる。

 緊張感が走る。

「あら、嫌だったら別にいいのだけれど」

「大丈夫ですよ」

「じゃあ聞きたいのだけど」

 僕はうなずく。


「君の出自を教えてもらえない?」


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