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Tenpure 1-9

「ここだ」


 シャルルさんは建物の中に入って、一番奥にある部屋のドアの前で止まった。

 ドアを開ける。

 その部屋は天井が高く設計されていて、さらに奥が全面窓ガラスになっているので、午後5時でも十分なほどに日差しが部屋に降り注いでいる。

 左右の壁には天井までうずたかく本棚が建てられていて、一番上の本なんて4メートルぐらいの高さにあるのではないだろうか。

 そして正面には円形のテーブルがあり、そこには椅子が6脚あった。

 3脚が空だった。

 つまり3脚には既に誰かが座っていた。

 コールラウシュ。

 ウィルヘルミー。

 ローリー。

 全て知ってる人だった。

「座ってくれ」

 とシャルルさんが言ったので僕とバラールは一番手前の隣り合っている椅子に座ることは明白だった。なぜならシャルルさんが一番奥にある椅子に腰かけたからだ。

 指定席なのだろう。

 シャルルさんが一番奥に座り、その横をコールラウシュさんとローリーさんが座る。コールラウシュさんの横にウィルヘルミーさんという座り方だった。

 ローリーさんとウィルヘルミーさんの間に空の席が2つあった。

 ふむ。

 僕はウィルヘルミーさんの方に座りたい。

 正直、ローリーさんとは少しでも距離を取りたかった。何をされるかわからないという恐怖感が僕の中にあった。

つまり、ローリーさん、バラール、僕、ウィルヘルミーさん、という順番になるのがみんな幸せになる座り方なのだ。

 だが、ここで不自然な座席の取り方をするとそれはそれで、こいつ、私のこと避けてるな、と思われるのも嫌だ。

 結果。

 僕はローリーさんの横の席に座った。

 仕方ない。

 バラールが先に座ってしまうから。

 自動的に残りの椅子は1つだけになってしまったのだ。

 僕は仕方なしに残された椅子に座り、可能な限りローリーさんの方を見ないように心掛ける。

「それでだな」

 シャルルさんは話し始める。

「今日君たちに集まってもらったのは、学生会に入ってもらうためだ」

「えー!」

 驚いて椅子から飛び跳ねて天井にぶつかってまた椅子に着席する僕。

 初めと終わりは同じ体勢だ。

 違うところは天井にぶつかった跡がついていることだ。

「あんまり露骨に驚いちゃダメだよ」

 小声で注意するバラール。

 シャルルさんは僕達に目配せをしながら話を進める。

「この学校の規則として、毎年、学年1位と2位が学生会に入ることになっている。2年生はローリーとウィルヘルミー、」

 ローリーさんとウィルヘルミーさんが軽く頭を下げる。

「3年生はコールラウシュと私だ」

 コールラウシュさんは微笑む。シャルルさんはなぜかキメ顔をしている。

「というわけで、1年生の代表として、先の新人戦で優勝と準優勝だったヘルムホルツとバラールに来てもらった訳だ」

 僕はコッソリとバラールの方を向く。

 分かりきったことだ、というような表情をして話を聞いていた。

 ?

 シャルルさんは話をつづける。

「とりあえず、学生会関係の連絡は君たちのホームルームティーチャーであるウィルヘルミーが伝えるようにするから、ウィルヘルミーの指示に従ってくれ」

 といい、最後に、

「まあ、これは入学式で大方話したんだがな。確認のためと、入学式に来てない人がいるから来てもらった訳だ」

 なるほど。

 つまりは僕が入学式に出なかったのは結構やらかしているということか。

 なるほどなるほど。

「以上だ、何か質問はあるか?」

「ないです」

「ないです」

 僕らはほぼ同時に返事をする。

 新人戦の時にコールラウシュさんがいたのは僕の邪魔をしていたというわけではなくて、学生会の仕事だったのか。

 ローリーさんが新人戦の時に僕が負った怪我の治療をしてくれたのも学生会の仕事ということか。

 新人戦のときにウィルヘルミーさんが僕の試合にコメントを残していたのも学生会の仕事であそこにいる用事があったからなのか。

 みんな真面目に仕事をしていた。

「じゃあ、今日のところはこれで終わりだ。また何かあるときに頼むぞ」

「分かりました」

「分かりました」

 僕達の返事はシンクロしていた。

 なかよしだった。

「ところで君たちは仲がいいようだけど、この学校で初めまして、という訳じゃあないんだろう?」

 シャルルさんはカッコつけながら話す。

「昔同じところに住んでまして」

 僕は答える。

「同棲か!?同棲してたのか!?」

 ここまで無口を貫いていたウィルヘルミーさんは勢いよく話し始める。

「え!?同棲!?」

「マジマジ?そんなナウいヤングなのに同棲してたの!?」

 なぜかウィルヘルミーさんだけが反応していた。

「いや、幼馴染です」

 バラールは僕の発言を訂正し、

「なんでそんな誤解されちゃうような言い方なの。私に冗談でする分にはいいけど、他の場所では出さないように努めなさい」

 僕に注意をしながら、僕の右太ももをポンと叩いた。

「うむ、幼馴染なのだな」

 シャルルさんは納得したような発言をし、

「まあ、入学にあたって全校生徒の素性は予め調べてあるんだがな。私の手の上で転がされていたという訳だな」

 ドヤ顔をするシャルルさん。

 それドヤ顔するようなほどのことか?

 という思いを飲みこむ。

「私も幼馴染ですけどね」

 横から声がすると思った。その発言の内容から幻聴であることを願ったが、その願いは僕の願いは儚く消える。

 ローリーさんが幼馴染発言をしたのだ。

 僕の記憶の限りでは幼馴染にローリーさんがいたという記憶はないが、案外幼い頃の記憶というものは酷く曖昧で、本当は断片的な記憶しかないが、勝手に脳内で補足を行い、あたかもそれが全てであるかのような記憶にしてしまうところがある。

 もしかしたら本当に幼馴染だったのかもしれない。

 勝手な思い込みはよくない。

 反省。

 僕はローリーさんの顔を見て、話を促す。

「まあ、嘘ですけど」

 嘘だった。

 ……。

 帰ろう。

「もう失礼していいですか」

 僕は言う。

「うむ、これから頼むぞ」

 僕は帰る。

 バラールは席を立とうとしなかったので、まだ帰るつもりはないのだろう。

 まあ、僕はバラールの考えにとやかく意見を言うつもりはないし、そもそもバラールだって自分の人生である。

 女性にしかわからない何かがあるのだろう。

 僕はこれからの学校生活に欝々となりながらも学生寮へと帰る。

 空は晴れている。


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