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Tenpure 1-8

 日を跨いで放課後。

 授業終了のチャイムが校内に鳴り響く。

 僕は挨拶も早々にバラールの元へと走っていく。

「ねえバラール、これから予定ある?」

「別にないけど、その聞き方は誤解を招く恐れがあるから辞めた方がいいよ」

「いうほどか?」

「念には念を入れてだよ。私も学生会長から放課後に教室に残っているように言われていたから、きっとそれでしょ」

 シャルルさんは既にバラールに伝えていたようだ。

「それで、」

 僕はバラールに問う。

「僕達はなんで残っているように言われてるの?」

「私に聞かれても……」

 困った顔をするバラール。

 どうやらバラールもこれから何があるか聞かされていないようだった。

「ねえ、ところでさ」

 僕はバラールに気がかりになっていたことを聞く。

「バラールって僕のこと好き?」

「はぁ……」

 ため息をつくバラール。

 そして僕に指導をする。お得意の流れだった。

「そういう言い方辞めた方がいいよ」

「大丈夫。この言い方はバラールにしかやってないから」

「そう。ならいいけど」

 いいのか。

「バラールとは幼馴染なだけあって気軽に話せるからなあ。確信犯なんだよ」

「確信犯の使い方、間違ってるよ」

「え?そうだっけ」

「まあ、今は誤用でも通じるというか、誤用が一般的になりすぎて間違ってるって言うのも微妙な感じなんだけどね」

 バラールは威張るような素振りを一切みせずに言う。

 バラールは昔から言葉関連に強かった。

 こうやって会話の節々で発言を訂正されるのは、よくあることだった。

 それにしても、言葉関連、という言い方でしか表せない語彙力のなさに悲しくなってくる。

 だが、人間だれしも会話をする上で大事なのは難しい言葉を知っているかどうかではない。伝わるかどうかなのだ。

 言葉関連、ああ、なんて伝わりやすく、そしてイメージしやすい言葉なのだろうか。

 僕には伝える才能があるのかもしれない。

 自己の正当化というのは、なんと悲しいのだろうか。

 悲壮感に浸っている僕を無視しながら、バラールは話をつづける。


「それにしても、なんでそんなこと聞くの?」

「新人戦の時に僕のことを容赦なくボロボロにしようとしてたし、挙句の果てに死ねまで言われたから、僕のことが嫌いなんじゃないかと思って」

「戦いなんだから闘争心だすのは当たり前でしょ。1つ言っておくけど、私がギーブのことを嫌いになるなんてこと、絶対にないから」

 バラールは呆れたような顔で言う。

 僕はバラールのその発言を聞いてめちゃくちゃ照れる。

 体中が火照るような感覚に襲われる。

 バラールは自分の発言の重大さに気づいて僕より少し遅れて火照る。

 僕とバラールは目が合う。

 日ごろから軽口を叩きあうだけの仲なので、こんなにもクサくて、恋愛ドラマだったらクライマックス以外でも使われていそうな安っぽい発言でも、僕達にとっては新鮮で、なによりも照れる発言だった。

 お互いに見つめ合ったまま動くことが出来ない。

 教室には誰もいなかった。

 絶好のチャンスなのかもしれなかったが、ここから何をどうすればどうなるのか分からなかった。

 それはバラールも同じだった。

 僕らはこれ以上の進展を嫌った訳ではないが、これ以上の進展の方法を知らなかったのだ。

 僕達は恋をしたことがなかった。


「おーい!いるかー!」

 ドアが勢いよく開いてシャルルさんが教室の中に入って来た。

「あ、お取込み中だったか?」

 シャルルさんは僕達を眺めてニヤニヤしながら話す。

 なんとも言えない僕達。

 複雑な気分だ。

「うん?」

 シャルルさんにとっては思ってもいないリアクションだったようで、不安がって僕達の顔色を窺うような素振りをする。

 僕は返事をする。

「問題ないですよ。行きましょうか」

「う、うむ。こっちだ」

 シャルルさんは教室を出て歩き始める。僕達もそれに続く。

 廊下を歩いて正面階段を下る。

 校舎の外に出る。

「あれ?校舎に用事があるんじゃないんですか?そのために教室で待たされたのかと思ってたんですけど」

「いや、べつにそういう訳じゃないんだ。私も教師として教壇に立つ身だから、わざわざ寮に迎えに行くのがめんどくさかったんだよ」

「そうですか。シャルルさんって教師もやってたんですね」

「うむ。だが本職の学生会長の仕事が忙しいからホームルームティーチャー的な仕事はできないけどな」

「学生会長の仕事ってどんなことするんですか?」

「聞きたいか?」

「まあ、少しは」

「それはよかった、これから嫌でも知ることが出来るぞ」

「はあ」

 僕はシャルルさんの意味ありげな発言をなにかのアプローチかと思ったが、よく考えてみても何の意味もなかった。

 校舎を出てから闘技場の横にあるグラウンドを横切り、木々が生い茂っている道を抜けて進んでいくと面積が大きな建物が出てきた。

 2階というほどの高さはなかったが、1階というよりは大きい建物で、周りに木々があるため外からは建物を見ることができない。

 面積は広くとられていて、大きな校舎の三分の一ぐらいサイズだった。

「ここだ」

 シャルルさんはそう言って中に入っていく。

「……入る?」

 バラールは僕に聞いた。

 え?

「入らないという選択肢があったの?」

「もしかしたら、建物に入った途端に床が抜け落ちてゴミ箱のような場所に落とされて、ベルトコンベヤーで運ばれて焼かれちゃったらどうするの?」

「どんな生活してたらそういう発想になるの……」

 僕と会っていない数年間でなにがあった。

「まあ、私は別に空を飛べるから助かるんだけどね」

「僕は助けてくれないの……」

 僕を担いで飛べるくらいの能力は持ってるでしょ。

「えー」

 バラールは嫌そうな顔をする。

「嫌なのかよ……」

 さっき教室でやっていた「何がっても絶対に好き」みたいなやり取りを全否定されてしまった。

 あれか?好きであるが故に殺したいのか?

 やっぱり僕のことを殺したいんじゃないかと考えずにはいられない。

 すぐに生死の問題を絡めてしまう。

 僕達がそうやってふざけていると、シャルルさんが後ろに僕達がついてきていないことに気づいたようで、

「どうした?」

 と建物の入口まで戻ってきて言った。

「あ、すいません」

「ごめんなさい」


 僕達は謝って怪しい建物の中に入っていく。


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