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Tenpure 1-6

「決勝戦、開始!」


 僕の目の前にはバラールがいる。

 バラールは僕と目を合わせようとしない。

 戦いの最中なのだから、目を合わせないのも当然といえば当然なのだが、それでも知り合いだから、もっと何かあってもいいのではないか。

 バラールは僕に見向きもせずにアレニウスを起動させる。

「深淵より爆ぜる闇の漆黒、姿を表せ!アンデットセーラー!」

 バラールの肉体は黒々としたアレニウスに覆われていて、背中には黒くて大きな翼が生えている。

 アレニウスの黒い色がバラールの白い髪を強調している。

 カッコいい!

 右手には大きな槍を持っていて、あれが武器であることは明白である。

 僕はアレニウスを起動させる――はずだったが、

「ぐっ」

 バラールの槍が僕に向かって飛んできていた。

 僕はそれを避けようとしたが、避けきれずに右肩をかすめる。

 アレニウスを装備していない僕の体は、かすめただけでも十分なダメージを受け、とめどなく血が流れる。

 まずい。

 僕は止血を試みようとするが、

「ロスト!」

 バラールは槍を爆発させて僕をふっとばし、止血をさせてくれない。

 とにかくアレニウスを起動させないことには話にならない。

 爆発の隙をみてアレニウスを起動させる。

「波動の理より出でよ我がアレニウス!アダージェット!」

 アレニウスを起動させたところで、僕が肩に受けたダメージは和らぐことはない。正直手をあげるのも億劫だ。

 バラールは僕に正対するように距離をとりながら技を使う。

「リサシテーション!」

 バラールの右手には爆発したはずの槍が現れる。

「レガード!」

 僕はバラールの方に手を向けて攻撃をするが、バラールは背中の大きな翼を使って空を飛ぶため当たらない。

 せこくない?

「レガード!」

「レガード!」

 空を飛びながら移動するバラールに向かって攻撃をするが、その不規則な飛び方のせいで僕の攻撃は当たらない。

 バラールは槍をこちらに向ける。

「スタンドスティル!」

 槍の尖端から漆黒のレーザーのようなものが飛んでくる。

 僕はその攻撃をかわす。

 が、そのレーザーが地面に着いた途端、もの凄い速さで地面に漆黒が広がり僕の足もとまでも漆黒に染まる。

「ぐっ」

 僕は足を動かすことが出来なくなった。

 足を横に滑らせようとも、足を上にあげようとも動く気配がない。

 足もとにある漆黒のせいだろう。

 バラールが槍を構えているのが見える。いますぐにでも投擲するだろう。

 あの槍が僕の体にダイレクトに刺さったら、僕はただではすまないだろう。仮に耐えられたとしても、槍を爆発されてしまえば僕の負けは決定的である。

 僕は自分の胸に手を当てる。

 そして叫ぶ。

「レガード!」

 僕は自分の攻撃でダメージを受ける。

 だが、こうすることによって自分に強い衝撃が加わり、その勢いで足もとの漆黒から抜け出すことができた。

 しかし僕の体は壁に打ち付けられる。

 最初に槍がかすめた右肩も今なおズキズキと痛んでいる。

 このままでは防戦一方である。

 レガードは動いている敵には当たらない。それはレガードよりも強い攻撃であるリンフォルツァンドでも変わらないだろう。

 レガードを1回の攻防の最中に連続で相手に打ち付けるレガティッシモは相手との距離が近い時の技であるためここでは使えない。

 うーーん。

 厳しい。

 僕はバラールと家が近かった数年前まで、たびたびアレニウスを使ってスパーリングをすることがあった。

 そのたびにバラールは空を飛び回って攻撃してくるため、僕のアレニウスとの相性は良くなかった。

 僕はその度に苦戦を強いられていた。

 だが、僕はあの時の僕とは違う。

 僕はあの時よりも強くなった。強くなる必要があったのだ。強くならざるをえなかったのだ。強くなるしかなかった。

 あの忌々しい過去があったからこそ、強さが必要だったのだし、強さが必要だからこそ、あの忌々しい過去があるのだ。

 右肩の出血量が限界を迎えようとしていた。

 そろそろ賭けに出なくてはいけない。

 僕はバラールが飛んでいる空に向かって漠然と手を上げ、叫んだ。

「フィナーレ!」

 その見えない拘束鎖はバラールを捕まえる。

「な、なに!これ!動けないんだけど!」

 バラールの動きは制限される。

 ただ、一方向だけ、バラールが自由に動ける方向があった。

 僕の方向だ。

 僕がフィナーレをかけたことによって、バラールは僕に突進することのみ許されるのだ。

 バラールはすぐにそのことに気づいた。

「ふん、そういうことならやってやるよ!地獄で泣くがいいさ!」

 バラールは速度を最高速にして、僕の方に向かってくる。

 右手に持っている槍を大きく後ろに振りかぶる。

 僕は両手をバラールがやってくる方向に向けて、どっしりと構える。

「死ねえええ!」

 バラールはそう言って僕に槍を突き刺してくる。

 僕もそれに答えるようにして技を出す。

「アッフェットゥオーソ!」

 僕の両手から出る中でも最大の波動がバラールの体をダイレクトに突き刺す。

 相打ちだった。

 僕とバラールは同じタイミングでアレニウスが強制解除されて地面に倒れる。

「優勝者は……ええ?、これ……どっち!?」

 アナウンスの呑気な声がどんどんと遠くに聞こえてくる。

 そんな中で僕は1つだけ思った。


 バラール、数年会ってないだけで口悪くなりすぎだろ。


 死ねって。

 これでも十何年とずっと近所だった親友のような相手にいうセリフか?

 もしかしたら親友だと思っていたのは僕だけで、実はバラールは僕のことを憎んでいたのかもしれない。


 なんてこった。


 僕の意識はここで無くなった。


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