Tenpure 1-5
「二回戦第一試合、開始!」
僕はアレニウスを起動させる。
「波動の理より出でよ我がアレニウス!アダージェット!」
相手もアレニウスを起動させる。クナイ使いだ。
相手は起動させた途端、全速力で走って僕との間合いを詰めてくる。
おおよそ、僕のアレニウスの能力である波動を使った遠距離攻撃を防ぐために距離を詰める、という算段だろう。
相手は一秒も経たずに10mの距離を詰め、僕との距離は手が届く範囲にまで近づいた。
相手の右手に持っているクナイが僕を貫こうとする。
僕の右肩にクナイが刺さる。
「うっ」
クナイはアレニウスの力によって何倍の威力になって僕を襲う。
鋭い痛みが体中に広がっていく。
口の中に血の味が広がる。
早いとこ決着をつけなくてはいけない。
僕は戦いを終わらせにいく。
「レガティッシモ!」
僕は相手の体に手を当てて叫ぶ。
相手の体に無数の攻撃が光速に近い速度で当たっていく。
相手は一回の攻撃で吹っ飛ばされるよりも速い速度で僕の次の攻撃が当たるため、その一回の攻防で何回もの攻撃を受ける。
ドドドドドと鈍い音が響き渡る。
レガティッシモが相手に当たる時の音だ。
あまりにも速い速度で攻撃を当てているため、僕の周りには衝撃波のようなものが発生ている。それは相手を傷つけ、自分も傷つける。
僕は最後に、最も強い攻撃を相手に当てる。
ドン!という音と共に相手は吹っ飛んでいく。
相手は高く飛び上がり、その勢いのまま地面に打ち付けられる。
吐血し、アレニウスが強制解除される。
「勝者、ヘルムホルツ!」
僕はアレニウスを解除させる。
クナイが刺さった右肩がズキズキと痛む。
アレニウスで体を強化できているとはいえ、痛みが伝わらない訳ではない。僕がアレニウスで身体を強化しているのと同様に、相手もアレニウスで攻撃を強化させているからだ。
肩から出血はしていなかったため、打撲痕が残っただけだった。
僕は盛り上がっている観客の声援を背中で受けながらバトルフィールドを後にする。
バトルフィールドを出て暗くて長い廊下を歩いて外に出ると緑髪の女の子がいた。
ローリーさんだった。
気まずい。
とりあえず、挨拶をする。
「お疲れ様です」
僕はそう言って何のわだかまりも無かったように通り過ぎようとしたが、
「まて」
とローリーさんに言われて僕は足を止める。
「はい!ごめんなさい」
とりあえず謝る僕。小物っぷりが身に沁みている。
てっきり何か怒られるのかと思ったが、ローリーさんは予想もつかない言葉を発した。
「肩、治療しなくちゃいけないでしょ」
「いや、全然問題ないですよ」
強がる僕。
「そういうの、いいから」
ローリーさんは僕に近づいてくる。
殴られる!
怖い!
アレニウスを起動させて逃げちゃおうかな。
いや、それは男らしくないか。男なら黙って殴られるものだろう。
と思って歯を食いしばったが、殴られることはなく、
「しゃがんで」
と言われた。
僕は命令に従ってしゃがむ。
そのとき、ローリーさんが何か大きな箱のようなものを持っていることに気がついた。
救急セットだった。
「上裸になって」
僕は言われたとおり、上半身に着ていた服を全て脱ぐ。セクシー。
「右肩、だして」
これはさっきの試合でダメージを受けた僕の右肩を治療してくれるのだろう。と思い、僕は右肩をローリーさんの前に出す。
ローリーさんは僕の右肩に渾身のパンチを食らわせた。
「痛!は!?何!?」
僕は予想外の展開にキレた。
年上にキレた。
「うるさい。静かにして」
ローリーさんは落ち着いた声で僕に言う。
「あ、はい。すいません」
僕は従った。
右肩は痛いと思ったのだが、それは見た目のインパクトから痛いと思っただけで、実際には痛みはじわじわと和らいでいた。
不思議そうな顔をしている僕をみて、ローリーさんは説明してくれた。
「私のアレニウスには治癒能力もあるの」
「あれ?でもその格好……」
ローリーさんの体はアレニウスで武装されていなかった。
「私はアレニウスを2つ使えるの。片方は攻撃型のアレニウスだけど、こっちは回復系のアレニウスだから戦闘を目的とされていないのよ。だから武装もないの。まあ、これだけはアレニウスを起動させると出てくるから、武装なのかもしれないけど」
ローリーさんはそう言って、地面に置いてある救急セットを撫でた。
「それ、どうやって使うんですか?」
僕は救急セットを指さす。
「ああ、これは自分に攻撃が当たりそうなときに展開させて、ガードの役割になるの。さすがに武装0という訳にもいかないから」
「なるほど」
ケア用の道具じゃないんだ……。
「それよりも、もうそろそろ決勝戦が始まるころだから、はやく行ったら」
ローリーさんは第一闘技場の上を指さした。
そこには巨大なスクリーンがあり、今やっている準決勝の試合が放送されていた。
スクリーンにはバラールが映っている。
試合はもう決着がつこうとしていた。たぶん決勝で僕と対戦することになるのはバラールだろう。
「治療してくれてありがとうございます」
「これも学生会としての仕事だから、仕方なくしただけ。私はまだあなたのことを許してないから」
ローリーさんは僕をにらみながら言った。
僕はローリーさんから逃げるようにして、バトルフィールドへと向かった。
決勝戦が始まろうとしていた。




