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Tenpure 1-4

 開始の掛け声と共に僕はアレニウスを起動させる。


「波動の理より出でよ我がアレニウス!アダージェット!」

 僕の全身に機械の装飾が施される。

 その装飾によって僕の体は何倍もの力を持ち、何倍もの強度を持つ。

 相手も同じようにアレニウスを起動させた。

 僕がアレニウスを起動させたとき、観客席からざわめきのようなものが聞こえた。

「あの子、武器を持ってないよ」

「どうやって戦うんだ」

 相手は炎タイプのサーベルを使うようだった。右手に赤いオーラを出している細長いサーベルを持っている。

 体から炎のオーラを感じる。

「ジョルト!」

 掛け声と共に相手のサーベルから速度のある火の玉が飛んでくる。

 相手がサーベルを振り回すたびに、サーベルの先から火の玉が飛んでくる。

 僕はそれを身のこなしでかわす。

「レガート!」

 僕は手の平を相手の方に向けながら叫ぶ。

 相手は遠距離からの攻撃に無抵抗で吹っ飛び、壁にぶつかる。

 僕が技を出したと同時に、四方の観客席からざわざわと声が聞こえる。

「どうやって攻撃を……」

「なぜ……」

 僕は攻撃を繰り返す。

「レガート!」

「レガート!」

 相手は攻撃が見えないため、タイミングを読み切れずに、僕の攻撃を全て受けている。その度に壁に打ち付けられ、相手のアレニウスは音をたてて壊れていく。

「リンフォルツァンド!」

 僕が叫んだ途端、相手は強いダメージを受け、ミシミシという音をたてながら相手のアレニウスは強制解除された。

「しょ、勝利、ヘルムホルツ!」

 僕はアレニウスを解除させて、安堵する。

「ふう」

 僕は息を吐く。

「うわあああああああああああ!!!!!!!!!」

 四方から歓声が上がる。

「なんだあの武器!」

「あの新入生チェックして!」

「なんて一方的な試合だったんだ」

「強すぎて引くわ」

「なんか強すぎてキモイ」

 ……。

 試合をしただけなのにキモイ扱い。

 そして引かれる。

 強すぎて引くなんて、嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちだった。

 いっそのこと惹かれてほしかった。

 恋焦がれてほしかった。

 僕はバトルフィールドから退場する。

 クラス内選抜のときは観客などいないようなものだったので、たくさんの観客に酔ってしまった。

 そして引かれるとは思わなかったので少しショックだった。

 僕がバトルフィールドからでると、ウィルヘルミーさんがいた。

「いやあ、凄いねえ。ヘルムホルツ君」

 ウィルヘルミーさんは感心したようにして僕に話しかける。

「ありがとうございます」

 褒められていると受け取って僕は返事をする。

「それにしても、君のアレニウスは波動だね。正確には音かな?」

「……そうです」

 波動を当てる人はいたが、音まで当てる人は初めてだった。

「しかも無刀派とは珍しいねえ。観客も君の手から攻撃が出ていることに理解できてなかったようだし」

 ウィルヘルミーさんの、いつもとは違ったおどろおどろしい雰囲気を感じとってしまい、思わず僕も身構えてしまう。

 ウィルヘルミーさんは話し続ける。

「それにしても、君はショウゲームとしてはゼロ点の戦い方だったねえ。圧倒的過ぎたし、それに試合時間も短すぎた」

「……そうですか」

 廊下は薄暗く、誰の気配も感じない。

 学校にいる誰もがバトルフィールドで行われている第二試合をみているのだろう。

「まあ、なにはともあれ頑張ってね。担任として応援しているよ」

 そう言ってウィルヘルミーさんは去っていった。


 僕は長くて暗い廊下を歩く。

 廊下には誰もいない。

 僕は二回戦に備えて、少しの気分転換をしたい気分だった。決して気分が悪いという訳ではなかった。ただ、複雑な気分だった。

 夜が明けたのに朝が来ていないような感じだった。

 それは、決してウィルヘルミーさんと会話をしたからという訳ではなかった。圧倒的な勝利をしたからでも、ショウゲームとして成立しない戦いをしたからでもなかった。

 ただ、気分転換をしたかった。

 僕は外に出る。

「ねえ」

 僕が外に出てさらに遠くに行こうとすると、僕を引き留めようとする声が聞こえた。

 声の聞こえた方に振り返る。

 そこにいたのはバラールだった。

「どこにいこうとしてるの?もうすぐギーブの試合が始まるよ」

「あれ?バラールは試合どうだったの?」

「私はもう終わって、今は一回戦の第四試合をやってるところだよ。休みを入れずに二回戦だから、ギーブも準備した方がいいよ」

 もうそんなに時間が経過していたのか。

「ギーブは昔と変わってないね」

「戦い方が?」

「戦い方もそうだし、戦った後に外に出て気分転換するところも変わってない。まだ昔のこと忘れられないの?」

「いや、そんなことないよ。昔のクセが忘れられないだけだよ」

「そういうならギーブのことを信じるけど……無理だけはしないでね。いざとなったら私が助けるからね」

「うん。僕はもう行くから」

 バラールは答えずに、ただ後ろを向いて歩きだす。

 僕はバラールと逆向きに歩いて、再びバトルフィールドへと向かう。


 二回戦が始まる。


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