Tenpure 1-2
アレニウスは武器である。
剣であり、弓であり、槍であり。
アレニウスにはテーマがある。それぞれに決まったテーマが備わっている。
火であり、闇であり、光であり。
アレニウスはテーマを形容した攻撃を放つことが出来る。
火を弾丸にして撃ち、闇に攻撃を閉じ込め、光で障壁を造る。
アレニウスは兵器である。
僕は決勝トーナメントの1回戦を直前に控えている。
「いやあ、奨学生で入って来ただけのことはあるな。流石の使いこなしだ」
待機室にいたシャルルさんは僕に話す。
「あの、シャルルさんはなんで待機室にいるんですか?」
シャルルさんは学生会長を務めるようなバリバリの在校生なのに、なぜか新人戦参加者専用の待機室にいた。
「君と話をしたいと思ってな」
デレかよ。
別にツンをしていたということでもないが。
「うそだよ」
嘘だった。
「決勝トーナメントを前に学生会長の挨拶があるからな。それに出るために、ここでこうやって待機している訳だよ」
「へえ」
へえ、としか返答のしようがなかった。
「それにしても、私は見ていないからなんとも言えないが、コールラウシュに聞いた話だと、なかなか珍しいアレニウスを使うらしいじゃないか」
なんだよ見てないのかよ。最初に僕に話しかけるときに「流石の使いこなしだ」と言っておきながら見てないのかよ。
にわかじゃねえか。
「クラス内選抜で僕が見ていた限りだと使ってる人いませんでしたし、確かに珍しいといえば珍しいのかもしれませんね」
謙遜をする僕。
本当はめっちゃ珍しい。
その時、待機室のドアが開いて緑色の髪を肩ぐらいにまで伸ばした女の子がシャルルさんに、会長、時間です。と伝えた。
入ってきたその子を、僕は初日に見たことがあった。多目的ホールで先生方が会議をしているタイミング。きっと学生会のメンバーなのだろう。
「うむ」
と言ってシャルルさんは待機室を出ていった。
シャルルさんは去り際に僕に向かって、
「楽しみにしているからな」
と言った。
シャルルさんが出ていってから待機室には気まずい無言の時間が流れる。
決勝トーナメントにもなると全員が緊張しているため、自然と空気が張り詰めたような感じになる。
クラス内選抜を共に勝ち上がってきたクラスメイトと話をする人もいたが、緊張で話に集中できないのか、それもすぐに終わってしまう。
僕と同じクラスの人はトイレに行っていた。
シャルルさんが入ってきて、それから出ていくまでずっとトイレに行っていた。
トイレ大好きかよ。
と考えていると、ドアの開く音がした。
一瞬、試合を始めるために呼びに来たのか、と全員が思ったが、正体は僕のクラスである1年2組の代表学生だった。
「あ、まだ始まってないんだ。よかった」
バラールが言う。
僕のクラスの代表学生は僕とバラールだった。
「長かったね。うんこ?」
僕はバラールに聞く。
バラールは途端に嫌な顔になる。
デリカシー0の発言だった。
僕はプライバシーもデリカシーも0だった。キャプテンシーは0でないと信じたい。
別にキャプテンになりたいわけでもないが。
「女性にそういうこと言うんじゃないよ」
バラールはあくびをしながら言う。
バラールは緊張していないのだろうか。まあ、バラールはいつもあくびをしているので、緊張があくびに出にくいタイプなのかもしれない。
世の中には緊張するとあくびがでる人もいるし。
「決勝トーナメント進出者のみなさん、出番ですので入場の準備をお願いします」
ドアが開いて、緑髪の女の子が待機室にいる全員に声をかける。
僕を含めた決勝トーナメント出場者は待機室を出る。
僕は一番奥の席に座っていたため、最後に待機室を出た。
待機室のドアから出た途端、それまでドアを押さえていた緑髪の女の子に右足を蹴られた。
「いたっ!」
僕は予想していなかった攻撃に思わず声が出てしまう。
間髪開けずに緑髪の女の子は僕の耳元で話し始める。
「あんまりシャルル先輩に馴れ馴れしい態度をとるなよ。男だからってチヤホヤされて舞い上がってると、殺すぞ」
えー。
こわすぎだろ。
おしっこ漏らすところだった。
というよりも、僕が積極的にシャルルさんに話しかけている訳ではなくて、どちらかというとシャルルさんの方から僕に話しかけてくることの方が多いのだが。
心の中で言い訳を並べてしまう。
……今度からシャルルさんに冷たく当たろう。
緑髪の女の子はいつのまにか出場者の先頭に並んでいた。
「開会式が終わったら第一試合に出場予定の2名以外はこちらの待機室に戻っていただく形になります」
と言って緑髪の女の子は歩き始める。
「あの、第一試合に出場する人が誰か教えてほしいんですけど」
緑髪の女の子に一番近い場所にいた女の子が話す。
「ああ、それは直前に決まる仕組みになってます。待機室が1つしかないので対戦予定者と同じ部屋にいても気まずいという判断です」
たしかに同じクラスの人と戦うとなったら気まずいしなあ。
他のクラスの人とはまだ面識がないから話す人は同じクラスの人になってしまうし。
僕達は歩いて第一闘技場の中へと入り長い廊下を進む。
第一闘技場の廊下を進むたびに観客のどよめきが近づくのが体に伝わってくる。
そこに多くの人がいることを体で感じてしまう。
バトルフィールドに入る直前で僕達は止められる。
「入場のアナウンスが鳴るまでここで待っていてください」
そう言って緑髪の女の子は去っていった。




