Tenpure 1-1
「次はギーブの番だよ」
すでに試合を終えていたバラールは僕に言う。
今は新人戦の最中だった。
新しい場所での生活というのは早く過ぎるもので、気がつけば1か月はとうに過ぎ去って、新人戦の日になったのだ。
新人戦の前にアレニウスを軽く慣らしておきたかったのだが、新しい生活に翻弄されているうちに当日になってしまった。
新人戦はトーナメント形式のため、優勝するには1敗の負けも許されない。
「よし」
僕は出場者専用の待機室を出て、第三闘技場のゲートをくぐってバトルフィールドへと足を進める。
バトルフィールドから観客席をみわたす。
あまり人がいなかった。
というのも、新人戦は、まずクラス内選抜を行って各クラスで2名にまで絞り、そこから4クラスの選抜者を合わせた合計8人で決勝トーナメントを行い、その学年で最も強い人を決める。
今はクラス内選抜のため観客は4分割しており、さらに上級生の中には決勝トーナメントだけ見に来る人もいるため、観客は少ない。もちろん関係者以外は立ち入り禁止である。
「がんばってね」
そう声をかけてくれたのはコールラウシュさんだった。
入学から1か月が経ち、なぜか僕はコールラウシュさんにめちゃくちゃ目をかけられていた。
僕が何か好かれるようなことをしたのか、それとも自家製ウォシュレットシーンを見てしまったことによる罪滅ぼしなのかは知らないが、目をかけられている。
もはや目をつけられていると言った方が適切かもしれない。
「コールラウシュさん、なんでここにいるんですか」
コールラウシュさんは観客席ではなくバトルフィールドにいた。
「なんでって、私は君にいる場所を支配されなくちゃいけないの?独占欲が強いのね」
「いや、そういう問題じゃなくてですね」
コールラウシュさんはガッツリとバトルフィールドにいた。隅の方に待機しているとかではない。 もしも今コールラウシュさんのことを知らない人がこの状況を見れば、きっとコールラウシュさんが戦うのだと勘違いしてしまうぐらい、ど真ん中にいた。
「そこにいたら危ないですよ」
「あら、心配してくれるの?優しいのね」
優しいっていうか、そんな戦場のど真ん中にいたら誰でも危ないと指摘するだろう。というか、はっきりいって邪魔だった。
コールラウシュさんは僕の発言を聞いても動こうとはしなかった。
「いや、あの、コールラウシュさん?」
「どうしたの?」
「はっきりいって邪魔です」
「……」
コールラウシュさんは無言になっていた。無言であり、真顔でもあった。まるで柔らかな人形のようだった。
僕はさらに話をつづける。
「どいてください」
コールラウシュさんはいよいよ話し始めた。
「私にそんな態度とってもいいの?」
「大丈夫です」
「ウォシュレットのこと広めるわよ」
え~~~~!
1か月も話に出てこないからテッキリ忘れていたのかと思ったらキッチリ覚えていたようだった。
しかも新人戦の直前である。
僕の心は乱された。
「あわわ、あわわ」
そこには、あわわマシーンとなった僕がいた。
「ふふふ」
コールラウシュさんは形勢逆転といった感じで微笑んでいた。きっとここまで計算して会話していたのだろう。
ただウォシュレットのことを言いたいがためにバトルフィールドにいたのだ。
なんというか、
そこまでして僕の気を惑わせたいか。
僕ってそこまでからかわれやすい性格をしているだろうか。
「がんばってね」
コールラウシュさんは僕の耳元でそう呟き、バトルフィールドを去っていった。
「もういい?」
対戦相手にそう声をかけられてしまい、自分のせいで試合の開始を遅らせていたのだということを思い出す。僕のせいか?
「1年2組、1回戦第4試合、開始!」
アナウンスが入って僕のデビュー戦が始まる。
「波動の理より出でよ我がアレニウス!アダージェット!」




