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Episode.2-4

「どうしたの?バラール」


 僕は自分の部屋を訪ねてきたバラールに聞く。予告がなかったのでイキナリバラールである。

「え?いや、別に用事はないんだけどね。なんとなくだよ。どんな部屋に住んでいるかも見てみたかったし」

 バラールは僕のベッドに横になりながら言う。

 僕は椅子に座っているので、ベッドしか座る場所がないといえばその通りなのだが、しかし横になる必要はあるのだろうか。


 ないだろう。

 僕は横になっているバラールに構わず話を続ける。

「そういえば、この部屋は他の部屋と間取りが違うんだっけ。他の部屋はどんな感じの間取りなの?」

「うーんと、これより一回り大きいくらいかな」

 バラールは掛布団と敷布団の間に入って、本格的に寝る体勢に入りながら、部屋をぐるりと見まわして言う。

 僕の部屋のサイズを確認してから、バラールは目をつむった。

 本当に寝る気はゼロなの?

 絶対60くらいあるわ。


 それにしても、なぜ僕だけ部屋が狭いのだろうか。一応、授業開始日の前日に学校に来たのだが。入学式のことは忘れていたので仕方がないにしても。

「ねえ、バラール」

「どうしたのギーブ」

「バラールがこの学校に来たのっていつ?」

「うーんと、1週間前ぐらいかなあ。でも私が入寮したときには既に半分ぐらいの人が入寮していたよ」

 えー!そんなに前だったのか。

 そう考えると入学式の日に待っていてくれたシャルルさんは僕がその日に来ると思いながら待っていたのだろうかと考えてしまう。内心、今日も来ないだろうなと思いながら待っていたのではないのだろうか。

 どちらにしても、優しいことには変わりはない。

 生憎、僕の地元には電話がなく、僕の安否を確認する方法が手紙しかないのだ。その手紙も確実に届くとは限らない。

 たぶん僕は、入学に関する書類を貰ってないのだろう。僕の家まで郵送されなかったため、入学式の時間を知らなかったのだろう。あんなピラピラの紙1枚に合格と授業開始日のだけが書いてあるものだけが入学案内の紙ではないだろう。


「ねえ、バラール」

「どうしたのギーブ」

「入学に関する書類ってどれくらいあった?」

「うーんと、100ページくらいあったかな。正確には覚えてないけど、たしか合計でそれくらいあったと思うよ」

 あ、絶対届いてないですね。

 1パーセントしか届いてないですね。

 残念。

「ああ、郵送だったからね」

 バラールは僕と同じ場所に数年前まで住んでいたので、僕の地元の事情を詳しく知っている。僕が言葉にしなくても理解してくれたようだ。

 その後、食事の時間になったのでバラールと食堂に向かう。

「あれ?カギはないの?」

 バラールは聞く。

「普通の部屋にはあるの?」

 僕は聞き返す。

「そりゃあね、プライバシーとかあるし」

 あの年増がカギを用意してくれないんだ!と弱さを見せたところで変な人だと思われ、さらには年増と言っていたとチクられる可能性もあるから黙る。

 困ったら黙ればいいんだ。


 沈黙最強!


 ただのクズ人間である。

 僕とバラールは食堂に向かった。

 今日のメニューはカレイの素揚げとカレーライスだった。

 僕はカレイにし、バラールはカレーライスにした。

 この街の人はカレーライスが好きなのだろうか。馬車で街に来るときにもカレーライスの匂いが漂っていた。

 バラールは僕の向かいの席に座り、僕はカレイを食べ始める。

 うーん。

 昨日から思っていたのだが、あまり食事が美味しくない。

 このカレイも調理法的に美味しくないのではなく、カレイそのものが美味しくないのだ。パサパサしているだとか、時間が経ちすぎている、などということでもなく、ただ単純に、最高のコンディションの状態で・調理方法で美味しくないのである。

「ねえ、バラール」

「どうしたの?」

「この寮の料理って美味しくない?」

「美味しくない?っていうのは、美味しい?って聞いてるの?それとも不味い?って聞いてるの?分かりづらいよ」

「ああ、ごめん」

 寮食の話をしようと思ったのに、まさか全然関係ない言葉使いで怒られてしまうとは思わなかった。

「不味いよね?」

「この寮の料理が特別に美味しくないっていう訳じゃなくて、この街全体で料理が美味しくないんだよ」

 この街全体?

 国内でも最大級の都市なのに?

 聞いてしまう。

「でも、この街って国内最大級の街だよね?普通、国で最も栄えている街って、美味しいものが集まるんじゃないの?」

「いや、言葉に語弊があったね。この国全体で食材が美味しくないんだよ」

「この国全体?どういうこと?」

「私も詳しくは知らないんだけど、なんか国のバランスが急速に崩れているらしくて。なんかそれが原因らしいよ」

「ふーん」

 えらく抽象的な話をされてしまったので、なんとも返答ができなかった。

 しかも気軽に聞いたのに、思いのほかマジな話をされてしまった。

 もっと、ここのお店は美味しいよー、このお店はオススメだよー。的な話を期待していたのに、まさか国情を聞かされるとは思わなかった。

「横、座ってもいい?」

 僕が国情を聞かされて、言わなきゃよかったな……という後悔の気持ちになっているときに2人の女の子が僕達に話しかけてきた。

「全然問題ないよ」

 僕が言う前にその子達は座った。

 アレニウス使いは強情な人が多いから、一度そうだと決めてしまったら、もうそれで決定なのだろう。

 変更は不可能なのである。

 じゃあ聞くな。

「2人はどういう関係なの?」

 僕の横に座っている子が僕達に聞いてきた。

「おさ」

 ぐらいまで言いかけた僕を遮るようにして、

「さっき出会ったばかりだよ」

 とバラールは言った。

「そうなの?仲良さそうに見えたけど」

「ねー」

 その子達は2人で意見を共有した。

 その後も適当に話を進めながら僕達は昼ご飯を食べた。ちなみに、僕以外のみんなはカレーライスを食べていた。

 カレーライス大人気かよ。

 昼ご飯を食べ終わったら時間もあまりなかったので、サクッと自分の部屋に戻ってカバンを取りにいってから教室に向かうことにした。


 午後の授業が始まる。

 教室はカレーライスの匂いが蔓延していた。

 やはり食材の質があまり高くないため、味と匂いが強いカレーライスなどに逃げてしまうのだろうか。

 午後からの授業はアレニウス歴史学だった。

 アレニウスが開発された300年前からの変遷を4時間ガッツリと勉強した。

 歴史学はガイダンスの必要があまり無かったため、先生が自己紹介を数分だけスラッとしただけで、後は普通に勉強だった。

 アレニウスの歴史とか必要あるのかよ……という思いはあったのだが、それよりも先生の口臭がカレーライスの臭いだった。


 学校はまだ始まったばかりだった。


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