プロローグ
「もういーかい」
「まーだだよ」
その子達はたった2人でかくれんぼをしていた。この町はどこまでも自然が広がっていて、あぜ道がひっそりと町中を隙間なく巡っていた。
家と呼べるようなものは趣向を凝らしたログハウスがところどころにあるぐらいで、この町は人よりも自然の方が多い。この町の人は主に農業をして生活をしていた。
ヘルムホルツはかくれんぼの名人だった。友達が考えつかないような場所に隠れたり、小さな物陰にひっそりと身をひそめるのが得意だった。
ときには腰まで泥の中に浸かりながら田んぼの中に隠れたり、天井にしがみついて隠れたりもした。
今日は家の倉庫に隠れることにした。動かすたびにガタガタと音が鳴る年季の入ったドアを、できる限り音が鳴らないように気をつけながら開ける。
倉庫の中は少しほこりっぽい。しかし気にせずに隠れる。
とりあえず、奥に、奥に、と思いながら進んでいると、倉庫の上にあった小さな小物入れを見つけた。
その箱には鍵がかかっていたが、箱がつくられてから結構な時間が経っていたのだろう。少し力を入れてしまえば鍵は壊れて簡単に箱は開いた。
「これは……?」
中には2つの指輪が入っていた。
1つは黒光りする指輪、もう1つはまったく色を持たない指輪。
「なんだろう、この指輪」
それはエンゲージリングともマリッジリングとも予想できないようなデザインでありカラーリングの指輪だった。
「もういーかい」
指輪に気を取られていたヘルムホルツは我に帰る。
いけない。このままだと倉庫の扉を開けられたらすぐに見つかってしまう。もう少し複雑なところに隠れなくちゃ。
指輪を箱にしまって、元の場所に戻す。
「まーだだよ」
これは先の世界再編から数百年後の出来事であり、これから起きる物語にはまだ少し時間があった。