満月の夜に
満月の夜が映えるこの頃私の気持ちも映える。
全ての生き物がその満月に酔いしれる。
「ねぇ、今日のお月見楽しみだね!」
幼い子供が父親に言った。
父親は優しく「そうだね」と返し、子供の頭を撫でた。
昼間に餅つきをし、餅団子を作り、三方に乗せ、ススキを準備する。
主に男が餅つきをし、女が団子を作る。
しかしこの家には女がいない。
幼い子供一人と父親一人の二人家族だ。
「僕がお団子!」
少年がそう言うと父親が練った餅をひったくって小さな手で丸め始めた。
少年の顔は笑顔で満ち溢れている。
そんな少年の顔を見る父親の顔も笑顔で溢れていた。
「パパ~お団子出来たよ~」
「凄いな~もう出来たのか。偉いぞ」
「えへへ。凄いでしょ。ママも褒めてくれるかな?」
「うん。きっと褒めてくれるぞ」
「やった!」
日が傾きかけてきた頃月が姿を現した。
綺麗な満月だ。
満月が姿を現すと少年は小さな手をパチパチさせ喜んだ。
そして日がどっぷり暮れた時満月の全貌が明らかになった。
少年の母親が亡くなって初めての満月。
その満月は光り輝き見る者を魅了していく。
少年と父親は満月を見ながら団子を食べ、月見を満足げに楽しんでいた。
すると突然少年が叫んだ。
「あ! ママだ!」
少年が指さした先は綺麗な満月だった。
少年はこの日見た満月を一生忘れる事はなかった。
20年後――。
『こちら石井和幸。月に着地しました』
あの時の少年は宇宙飛行士になり月に着陸していた。
着陸の瞬間世界中が熱狂した。
誰よりも今は亡き両親が祝福していた。
立派になった和幸を。
少年はあの日見た満月と母親の面影を忘れることなく生きてきた。
そして少年は宇宙飛行士になり月の地に降り立った。
あの日の記憶は一生忘れない。