一職目 出会い
『 キーンコーンカーンコーン』
『はぁ…』
授業の終わりを知らせる鐘の音ともに、私はいつも通り溜め息が漏れた。
『帰るか…』
俺の通う高校は男子校だ。いわずもがな華はない。話はするものの、仲のよい友達はいない。部活動は盛んなものの長続きしない性格で入部はしていない。
そして、俺には夢が無かった…。
『進路か…』
今日のホームルームの時に、進路先に関するプリントが配られた。高校生になれば一度は悩むことだろう。
俺は、高校まで電車で帰っている。
この田舎には地下鉄など存在する訳でもなく、路面電車たる歴史あるオンボロ電車があるくらいだ。
『次は、佐倉町〜、佐倉町〜』
(降りるか…)
なんか今日は歩きたい気分だった。
一つ前の駅で降りた、俺は人気の無い通りをゆったりとした足取りで歩いていた。
家は貧しいわけではなく、兄弟もいない、比較的恵まれた家庭だと思う。
勉強も平均的に出来るが、得意ではない。好きなことと言えば、本を読むことぐらいだ。
『何やってんだろ、俺は…』
そんな罪悪感に包まれながら、俺は夕日も照らすことのない寂れた町の商店街の道外れで、つぶやいた。
『やあやあ。』
黒髪のセミロングに、スーツをまとい眼鏡を掛けた彼女が、さも知り合いかの様に話しかけて来た。
『うっ、あっ?』
つい、男子校の癖が出た。長年女子と絡みが無いと、女子に絡まれた時に、こうなる。
『なんだって顔をしているね?』
『私は神だ。エナと呼んでくれ。』
あぁ、真面目そうな顔をしてるが危ない人だ。私はこの人を蔑んだ目で見ていた。
『君を助けに来たよ』
『君には夢が無いようだね』
(なぜ知っている…)
『初めに言っておこう』
『日本にはね。2万8000の職業があるんだ』
『はぁ…』
『だからね、君には2万8000通りの可能性があるんだよ』
何故かこの時、俺は日の光の入るはずもない通りに、ふと明かりが射し込んだそんな気がしてしまった。