005:魔王
デモ子が大陸に『精霊石の塔』をぶっさすのを世界に降りられないので、一部始終見ていた。
刺さった瞬間に「ア゛ーーーーーーッ」って声というか叫びが聞こえた気がするけど幻聴だろう。
下層部から実体化し深々と地面に刺さっていった、地中1,000kmほどまで埋もれているがプレートとか大丈夫なのだろうか。
大地震とか地殻変動とか環境破壊だとか質量兵器だとかコロニー落としだとかそんなちゃちなもんじゃない、物理法則にケンカ売ってるようなそんなものを目撃してしまった。
埃も塵も巻上げず、さらには衝撃波もなく大地にぶっささった『精霊石の塔』、もしや物質としての存在よりもアストラルなものなのだろうか、謎だ。
テーブル上の球体から視線を外すと、反対側の椅子に戻ってきたデモ子が現れる。
「おかえりデモ子ご苦労様」
「ただいま戻りましたお母様、私なりに『魔王』を意識して演技してみましたが……如何でしたでしょうか?」
「初めてにしては上出来だと思う、ご褒美に撫でてあげましょうか」
「はい是非お願いしますお母様~♪」
撫でるのがご褒美とは何となく冗談半分で言ったつもりだったのだが、デモ子には十分すぎるご褒美なのだろう、即決で瞬きの間に私の傍に移動し待機している。
期待に満ちた表情で尻尾振りながら待機しているデモ子に意地悪したくなり、手を頭に触れる寸前で止めて敢えて違う話題を出してみる。
「あ、そういえば眷属や武器の創造がまだだったっけ、色々と候補はあるんだけど――って、デモ子!?」
手が頭に触れることなく寸前で止められ別の話題に移り、話しながら段々と引かれていく手を見て悲しみで瞳に涙を浮かべ始めていたデモ子。
気付いた時には決壊寸前まで涙が溜まってしまっていて、慌てて抱き寄せて撫でながら宥める私。
「おかあさまいじわるです、ぐすっ、えっぐ、ごほうびくれるって、ぐす、いったのにぃ~っ」
「本当にごめんねデモ子、可愛かったからついつい意地悪しちゃったけど謝るから、もうしないからごめんね!」
ぐずるデモ子は中々泣き止まず、泣かないでと言うと「泣いてないです」って余計に拗ねちゃうものだから宥めるのに苦労しました。
ようやく泣き止んだデモ子。
「泣いてないです!」
そう言ってそっぽ向いてしまい、頬を膨らませて体全体で不機嫌ですと主張している。
そんな様子も可愛いけど、また泣かれてしまうと困るので止めておこう。
改めて泣き止んだデモ子の頭を撫でてあげると、そっぽを向いたままだが顔がすぐに緩んでいた。
不機嫌のポーズは変わらないけどフリフリと尻尾が揺れており、デモ子も気づき恥ずかしいのか顔が赤くなっている。
このままでしばらくは話を進めても問題なさそうだが、デモ子が満足するまでのどかな時間を過ごそう。
デモ子の髪はさらさらしてて触り心地がとてもいいので、実は私も撫でるのは嫌いじゃないのでいつまでもこののどかな時間を過ごしていたい気分になる。
「デモ子ーしっかりー」
「おか~さま~ふぁ~もっと~」
撫で続けていたらデモ子がふにゃふにゃのダメな子になっていた。
いつの間にか私の胴に回っていた腕は引き剥がせない、完全にふにゃふにゃのダメ子になったデモ子が離してくれない。
思いっきり力を込めれば引き剥がせるかもしれないが可哀想なので最終手段、どうにかして自主的に元に戻って欲しい。
「取りあえず、話してデモ子ーこのままだと話もできないから」
「やです~おか~さまのおそばが~わたしのいばしょです~」
そう言うと胴に回した腕にさらなる力が加わり、背骨と肋骨あたりからミシミシと嫌な音がした気がする。
身の危険を感じ始める私に対してふにゃふにゃの緩み切った満足そうな顔のデモ子、非常に対照的な状態である。
「うぐっ、デモ子離れて、背骨とか、肋骨、お、折れるぅっ!」
「ふぁ~おか~さまのにおい~おちつきます~」
「ぐおぉ、うぐぐぅっ、おちるっ、おれるぅ、に、にどとぉ、あたまなんてなでるもんかぁ「分かりました離れますので撫でないなんて言わないでくださいお母様っ!!」……っ」
私の撫でない宣言にすぐさま離れて悲痛な表情で訴えてくるデモ子、おちる寸前で解放されて事無きを得たが背骨がぽっきりいく寸前だったようだ。肋骨は数本折れたがな。
撫でるとダメ子になってしまうデモ子に扱い方を身を持って学んだ、今後んは撫で続けてダメ子になる前に止めようと心に誓う。
正気に戻ったデモ子は私の状態に気づいたのかオロオロと慌てているようだが、自己再生などという能力を持った私は既に回復済みだ。肋骨も治ったが安静にしていよう。
しかし痛いのは勘弁して欲しい、抱擁がいつの間にかベアハッグに変わっているなんてたちの悪い冗談だ。
しょんぼりとしてしまったデモ子の頭を軽く撫でて上げるがすぐに止める、今しがた経験した事を忘れてはならない。
「申し訳ありませんでした、お母様……」
「はいはい、顔上げてしっかりしてデモ子、次から失敗しないように注意すればいいからね」
「……ありがとうございますお母様」
私自身が創造したとはいえ可愛いよデモ子、撫でてあげたくなるが今は抑えよう。
少し顔が赤いが落ち着いた様子のデモ子、ようやく話を進めることが出来そうだ、そもそもの原因は私が意地悪してしまったからなのだが掘り返すことではないし。
「じゃあ改めて、眷属や武器の創造で色々と候補はあるんだけど、希望はある?」
「希望ですか?」
「そ、国を興すなんてするからどんな眷属や、どんな特徴が必要なのかって希望はある?」
デモ子は少しの間考え込み、ウィンドウを開いて大陸の情報を確認すると考えがまとまったらしい。
「私のような万能型ではなく分野ごとの特化型の眷属であることが望ましいです、戦闘、医療、建築、農業、交易、統治の分野で創造で私はよいと思います」
「OK~、って性格にもリンクさせた方がいい?」
「お任せします♪」
つまり、戦闘特化の大人しい子とか、マッドな医療特化とか、気分で動く統治者とか想像しちゃってもいいのかと考える。
本来の目的と完全にかけ離れるのでやらないけど、態々環境整えた意味がなくなる。
「それじゃあ早速…………はっ?……え、ええぇ、はあぁー!?」
突然顔を白黒させて驚愕の叫びを上げた私にびっくりしいるデモ子、だけど私としてはそれどころじゃない。
創造の手順その1、自身の能力の確認を行って看過できないものがあったのだから。
生命創造(魔王限定):創造した生命の種族が魔王になります。
魔王しか想像できない、訳が分からないよ。
一番最初にデモ子を創造したとき種族が魔王だったが気にしなかった、可愛いから問題なかったし。
ただこれから創造する子達は種族が魔王だと人間と魔物に溶け込めない可能性が、今後の予定を変更する必要性もありどうしたものかと慌ててデモ子に意見を求め――
「外見的特徴を可能な限り人間、もしくは魔物に近づけたとしても、結局のところ種族として魔王は分からないのではありませんか?」
「…………あぁ……そういえば、そっか」
解決した。
気分を切り替よう、忘れよう、無かったことに、顔が赤くなってる?熱いんだよ。
デモ子が頼ってくださいとかお母様可愛いですとか言っているが忘れてほしい、ニコニコしながら言われるとどつきたくなってくるが悪意の籠っていない純粋な行為を無下にできない。
『メッセージ:お顔が真っ赤ーwσ( ゜∀ ゜)σ』
「――死ぃねえぇーーーっ!!」
弄りどころ満載な時に神は来ると私の直感が告げていた。
神のメッセージウィンドウが表示された瞬間に拳を叩き付けてウィンドウを粉砕(空間投影ディスプレイのようなものだが)する。
ありがとう神、私のやり場の無かった感情を発散する機会を与えてくれて、さすが神、ナイス神、もっと殴らせろ神。
『メッセージ:私はサンドバッグではなーーい、ぼうりょくはんたーい(´; ω ; `)』
「神よあなたの犠牲は忘れない、1秒くらいはっ!」
『メッセージ「せいっ!」 『メッセ「ふんっ!」 『メ「はあっ!」
懲りずに次々と表示される神のメッセージウィンドウ、表示された瞬間に尽く砕いていく。
途中から如何に文字の表示をさせないで砕くか、と目的が変わっていたりした。
しばらくして諦めたのか表示されなくなり、私の気分もだいぶ落ち着いた、だが出来るのなら直接殴りたい。
「まあ神のせいで無駄な時間使ちゃったからなんてサクサク創造しよう」
いつでも反応できるよう感覚を研ぎ澄まして待っていたがウィンドウは現れなかった、死角も含め全周警戒をしていたが残念である。
意識を切り替える。
創造するものは既に用意していた、イメージを選択し創造を行う。
目の前に9つの人型が形作られる、詳細な情報を瞬時に展開し構築していく。
デモ子を創造する時よりも同精度でありながら早く姿形の創造が完了する、老若男女がそれぞれだが予めイメージしていた通りに想像できた。
炎のような真っ赤な髪と瞳、銀色の鎧を身に纏い、腰には一振りの剣、左手にカイトシールドを持った女顔の青年。
水のように流れる青い長髪と瞳、紺のベストの上に白いローブと頭には鍔の広い三角帽子、右手に背丈と同じ大きさの杖を持った少女。
風のようにさらさらとした緑の髪と瞳の二人、白い革製の服に黒いロングコートを羽織り、チャクラムを両手に持った左サイドポニーの少女、バヨネットを両手に持った右サイドポニーの少女。
土のような茶色の短髪と瞳、2m近い身長に革製の鎧に覆われてなお主張する隆々たる筋肉、ウォーハンマーを背負った中年男性
光のように輝く金糸の長髪と黄金の瞳、純白の法衣を着こみ、左手に大弓を持った眼鏡の女性
闇のような黒い髪と瞳に獣耳と尻尾、服装や容姿に特徴はなく一見するとただの庶民のよう、両手にトンファーを持った男性。
氷のように冷たい印象の蒼白の髪と瞳、尖った耳、青白い肌、人の上半身と魚の下半身を持ち、白くボディラインが浮き出るような鎧を纏い槍を持った魔物の女性。
雷のように逆立ったとげとげの紫色の髪と瞳、頭には捻じれた2本角、瞳孔は爬虫類の様に縦に割れ、背には紫色の翼、鱗に覆われた紫色の尻尾、灰色の軍服を纏い、腰に一振りの刀を差した魔物の青年。
時間にして10秒にも満たずに9人の創造を行えた、混じり合ったりしなかったので複数同時創造は問題なく行えるようだ。
能力の設定とか性格の設定で時間が掛かるので、一人ずつ姿形を創造するよりもまとめてやって時間の短縮を行う、後で一人ずつ自己紹介する手間も同時に創造することで省ける。
今回の子達はデモ子並の能力を持たせると世界が危険なので、更に押さえて能力設定する必要がある、領域のリソースはなるべく抑えよう。
いつの間にかデモ子が尻尾ブンブン振って喜んでいる、「ありがとうございますお母様、家族が増えますね♪」って家族なのか?
マーセナリー大陸に『魔王』が降臨した時よりこの大陸は激変した。
水は清められ、大地は肥え、空気は澄みわたり、何より空には太陽が見える。
絶望は少しずつではあるが希望に変わっていた、この大陸の過酷な環境が突如として変わったことで混乱もあったが、多くの者が適応してきている。
しかし『魔王』に恭順するか拒むかで意見が分かれことにもなった。
この環境を作り出し我等をお救い下さったと主張する、魔王恭順派。彼等の大半は魔物が大多数だが少なくない数の人間も含まれている。
我等に偽りの恩義を押しつける為に作った環境を元に戻したと主張する、魔王拒絶派。人間と一部の魔物が主張しているがその数は少ない。
どちらの意見にも賛同せずに生きるために行動する、中立派とも個人ともいえる者達。彼等の考え方はシンプルで食と住さえあれば他はいらなかった。
生きるために精一杯だった彼等は少しの余裕を得たことによって、生きる事だけを考える以外のことを思い出せたのである。
本来、人間と魔物は相容れない存在だが、マーセナリー大陸では生きる事以外のことを考えることが困難だったため対立することは無かった。
環境の改善と共に本来の対立構図に戻っただけなのだが、長らく共にいた者達は互いに反発はすれど直接的な対立にまで発展はしなかった。
こうして主張の相違で済んでいるだけでも稀有なのである、他の大陸では血みどろの争いに発展している筈なのだ。
人間と魔物、種族的違いは主に姿形で決められていた。
二本の腕、二本の脚を持ち直立二足歩行し知性をようするものを人間と呼び。
下半身が人でないものや手が翼のもの、二足歩行する獣で知性とをもったもの達が魔物と呼ばれていた。
人間と魔物はそういった特徴を表した総称であり、細かな種族としての名称は別に存在する。
人間種はヒューマン族、エルフ族、ドワーフ族、ビースト族、オーガ族、デモン族の6種族。
中でも闘争本能が高いヒューマン族と種族的に好戦的なオーガ族は、絶えず国家間で争いが頻繁に起こっている。
他の4種族は争いがないとは言えないが自身から仕掛けることは殆ど無いが、ヒューマン族は他の4種族に手を出したことが歴史上幾度もあり、今なお問題となっている。
魔物種はハーピー族、アラクネ族、ケンタウロス族、マーフォーク族、ラミア族、ライカンスロープ族の6種族。
独自の縄張り意識を持ちそれぞれが違った姿形をしたこともあり、遭遇すれば争いに発展するのは火を見るよりも明らかである。
中には友好を結んでいる種族もいるが、ライカンスロープ族の気性が荒く度々人間の領土へ侵攻を繰り返すため、魔物種全体が狂暴であるかのように人間種は思っている。
人間は――ヒューマンは争いに敗れた者、争いに疲れた者が、ドワーフとビーストは争いから逃げてきた者が、エルフとデモンは平穏を求め、オーガ達は迷い込んできただけである。
魔物は――ライカンスロープとケンタウロス達は戦いに敗北し逃げ延びた者達が、アラクネは縄張りの争いに敗れた者が、マーフォークとラミア達は争いの無い新天地を求め、ハーピー達は気まぐれで入ったら出られなくなっていた。
歪な共存関係は『魔王』降臨と共に崩れ始めたが、隣人として接し歩んできたことで情が生まれた彼等は迷いの中にいた。
彼らはもう敵ではなかった、敵になることなど出来なかった。
それでも『魔王』に従うか従わないか、それは今後の生き方を決める事であり妥協も出来ず選択を決め兼ねていた。
しかし時間は確実に経過し、日に日に魔物は少なくなり、人間も同様に少なくなっていた、宝珠を使用し『魔王』の作りだした白い巨塔の元へと行ったのだ。
残った者達は最後まで宝珠を使用することはなかった。
約束の日、中天に太陽が昇ると同時に砕けた宝珠が風に溶けるように消えたのである。
風は大陸の中央、白い巨塔に向かって吹いていた。
宝珠を使用し転移した先にあったモノ、それは彼らの想像を超えていた。
天の彼方まで伸びる巨大な白亜の巨塔とその周囲に広がる緑豊かな森、清浄な水がきらきらと光りを反射する湖。
多くの者が聳え立つ白亜の巨塔の大きさに圧倒されているが、徐々にその様なことを気にしなくなるのであった。
ただ見ているだけで、ただ近くにいるだけで心が安らぎ気持ちが軽くなっていく、それは母なるものに抱かれた安心感に似ていた。
そしてマーセナリー大陸においては見る事が出来なかった自然、多くの果実が実った木々、透き通った水を泳ぐ魚達。
地獄のように過酷な環境だった大陸で見る事が出来なかった光景、嘗ての故郷から見る事のなかった自然が広がっていた。
一人がおもむろに食し始め、他の者達も続々と実った果実を食べ、マーフォーク達は水の中の魚を捕っているのであった。
肉食のライカンスロープとアラクネは草木の陰に潜んでいた野兎や鹿を仕留めていた、ここは草食の動物達が生息しているようだった。
後から宝珠を使って来た者達も、実りを食し、野兎や鹿や魚を捕り、健やかな安息を、命あることに感謝した。
誰かが呟いた――『楽園』と。
7日経ち、太陽は中天に昇る約束の時。
人間も魔物も誰かが決めたことではないが白亜の巨塔の中、巨塔の中心へと集まっていた。
巨塔の大きさが途方も無いのに対して中心へと向かうの30分とかからず、物理的距離感が意味をなさない空間となっていた。
中心は円形の巨大な石で出来た祭壇の様な場所、中央部には直径1mほどの無色透明な魔石が浮かび、その周囲をぐるりと浮遊した色とりどりの宝石が囲んでいるのある。
遥か頭上には青空の中と太陽が見えており、集まって者達は一様にソワソワとしていた。
時が来たことを告げるように世界が動き出す――光が集い凝縮する。
光が集い凝縮する――
漆黒の光が凝縮し、漆黒の六翼3対の翼と二本角と黒い尾の『魔王』デモゴルゴンが現れる。
光が集い凝縮する――
真紅の光が凝縮し、銀の鎧を纏った女性の様な騎士が現れる。
光が集い凝縮する――
蒼天の光が凝縮し、とんがり帽子をかぶった魔法使いの様な少女が現れる。
光が集い凝縮する――
新緑の光が凝縮し、互いに手を繋ぎ鏡合わせのような姿の少女達が現れる。
光が集い凝縮する――
赤銅の光が凝縮し、筋肉を主張するように腕組みした中年の男が現れる。
光が集い凝縮する――
純白の光が凝縮し、法衣を纏った聖女の如き女性が現れる。
光が集い凝縮する――
蒼白の光が凝縮し、寒気を感じるほどの冷気を放つマーフォークに似た女性が現れる。。
『魔王』と7人の人物が現れる。
人間と魔物は予想外の事態に混乱していた、『魔王』降臨の際にその存在以外には誰もいなかったと、目撃した者達が言っていた。
ならば新たに現れた7人は一体何者なのか、ざわめきが広がり場が騒がしくなる――
「――静まれ」
たった一言、静かな言葉だったがざわめきが途端に消失する。
言葉に込められた言霊、共に発された魔力にのまれ誰もが言葉を失う。
『魔王』はその様子を一瞥すると、視線で7人の人物に何かを促していた。
「俺は戦いを司る『炎の魔王』ペイモンだ戦うこと以外からっきしなんでな、難しいこととかめんどくせえことは他の連中に任せる!」
赤髪の女性の様な男の騎士は気さくに笑うと何故か満足げな表情、何人かの人間と魔物を見て獰猛な笑顔になっている。
「私は医療というより錬金術ね『水の魔王』アゾート、誰かこの世界の書物持ってない?」
青髪の魔法使いのような少女はやる気ないとも思える態度、持参した書物を敷物の代わりにして座り込んでいる。
「あたしたちは農業を任されてるんだ、アンリだよ」
「マユだよ、あたしたち2人で『風の魔王』なんだ」
緑髪の双子が一切の邪気を感じさせない表情で笑っている、集まった人間と魔物を興味深そうに眺め時々同い年くらいの子供を見つけると手を振っている。
「儂は建築を司っている『地の魔王』マモンだ、お前らは木造か石造りかどちらが好みだ?」
茶髪の中年はニヤリと笑いながら人間と魔物を見下ろしている、魔物には背丈が男以上のものもいるが、筋肉の存在感が背丈以上に男をより大きく見せてしまう。
「私と彼女の二人で秩序と統治を担当させていただきます、『光の魔王』マステマと申します……そういえば私ってどちらでしたっけ?」
「『氷の魔王』ファービュラリス、マステマは秩序、私が統治だ。他に言う事などない……が、アゾート、水」
「自分でなんとかすればー」
金糸の髪の女性は優しげな微笑みを浮かべ、場違いなくらいのほほんとして隣の女性と自身を交互に指差し何故か最後が疑問形になっていた。
蒼白の髪で冷たい印象のマーフォークの女性が有りえないことに魚の下半身で直立しているが、よく見るとぷるぷると震えていた。
水を欲し青髪の少女に求めるが拒否して笑われ、青筋を浮かべながら睨み付けるも意に介さない様子で、かと言って何も出来ず倒れないように堪えている。
いきなり始まった自己紹介らしきものと告げられた『魔王』達の話の内容に人間と魔物は混乱し、場は再びざわめきに包まれる。
この世界の終わりだ、もしや私達は生贄なのか、お助けください魔王様、古き世の終わりが来たのだ、などの叫びが広がる。
混乱が加速し恐慌状態になりかけた時、『魔王』デモゴルゴンが再び場を静める。
「静まれ、お前達が疑問に感じたことは我等の母、創造主の彼方様が応えよう!」
その言葉と共に全ての『魔王』達が中央部の魔石に向かい跪く、『魔王』デモゴルゴンでさえも深々と頭を垂れて跪いていた。
誰もが疑問に思い、誰もが言葉を発することが出来ずにいた。
そうして意味を知る――
全ての存在は感じた。
魔石が極彩色の光を放ち、人間も魔物も、巨塔周囲の動物も植物も、命ある者、命なき者、月も、星も、世界の遍く全ての存在は感じた。
――大いなる存在の意志を。
降りてくると感じる、そこに在ると感じる、見えずとも感じる、そのあまりにも大きな存在を。
『魔王』デモゴルゴンの存在感さえ、今感じているものに比べてしまえば小さく思えるほど。
知らず、集まっていた者達は本能に、魂に従い跪いていた。
見られている、魂の奥底まで見つめるような眼差しを感じる。
空間は一切の穢れがなくなり、極彩色の光が包み込む。
巨塔内は異界へと変わり、福音が響く。
『私の声が聞こえているか?』