004:大陸
時間は少し遡り、世界の選択を行っていた。
見ていたウィンドウを閉じて思わずため息をついてしまう、そんな私に気が付きデモ子が首を傾げて不思議そうな顔をしている。
「お母様、どうなさいました?」
「……世界って狭いようでいて広くて大きくて摩訶不思議に溢れかえっているんだと、そう思っただけだ、うん」
「たくさんありますよね、こちらの世界などは如何でしょうかね」
ウィンドウに表示される世界は地球型惑星、ただし生命体は二足歩行する爬虫類達、知能も文明レベルも高く結構な発展を遂げていた。
別のはウィンドウを見ると昆虫型、鳥型、獣型、魚型、植物型等々で多種多様な生命が存在し文明を構築しているようである。
さらに別のウィンドウを見ると人間型の世界だが、地を裂き、海を割り、空を縦横無尽に、果ては生身で宇宙空間で戦闘していた。
また、別のウィンドウを見る、料理で世界の命運が決まっていた、料理で全てが決まる料理の世界だった。
他のウィンドウを見る、
建築技術が発展し巨大な宮殿や神殿や塔が建てられている世界。
農耕技術が発展し自然の果実や野菜が豊穣に育ち人々が健やかに暮らす世界。
海洋技術が発展し強大な船舶が海上都市となり人々は陸から離れて暮らす世界。
魔法が発展しSFと顕色ない近未来的ながら、度重なる負荷により次元境界が崩れ始めた世界。
異世界から召喚された勇者が世界を救い、萌えを広め文化的に発展したのかよく分からない世界。
平面世界があった、惑星型の世界があった、天秤型の世界があった、動物型の世界があった、本型の世界があった。
医術の世界、錬金の世界、競技の世界、裁縫の世界、音楽の世界、多様な発展をした世界があった
条件は絞り込んで表示しているとはいえ、それでも大量にしかも現在進行形で少しずつ増えている。
選択肢の幅は無限大なのだが、名無しの世界で絞り込んだ場合は少なくなってしまう(元の数が無量大数)。
何が言いたいかというと、理想となる条件の世界が意外と少ないのだ。
人間型に拘らなければ選択肢の幅は広い、ウィンドウに表示されている多種多様な種族がいるのだから。
発展状況も気にしなければ問題ない、むしろ面白い発展をしている世界が多い、むしろネタかと言いたくなる世界ばかりだ。
まあ私個人としては面白くていいが、デモ子に行ってもらうとしたら少し考えなきゃいけない。
眷属、代行者が世界に干渉して信仰を得ないと私自身が世界に干渉できない、啓示はできるが声だけでは限界がある。
デモ子は『魔王』なのでそれが活きる世界に行ってもらいたい、剣と魔法のファンタジーならはまり役だろうと思っている。
検索条件をさらに絞り込んでいく、剣と魔法のファンタジーで名無しの世界だと少ない、大抵名前付きになる。
名前付きになる条件は世界の人々が認識するか、精霊などの存在が勝手に決めるか、世界自身が意志をもって決まるか、などがありいつの間にか決まっていることもある。
「この世界なんてどうデモ子?」
表示したウィンドウには3つの大陸と人と魔物が争う世界、剣と魔法が存在し精霊も存在する。
過去には『魔王』が現れ人間を滅ぼす寸前まで追い詰め、『勇者』によって滅ぼされた履歴もあった。
先史文明の遺跡に超古代に封印された魔物、消滅した大陸、水没した国家、凍結した空間、毒された海、履歴を確認すると興味深い内容が多い。
「よろしいと思いますが、少しよろしいでしょうか?」
私の見つけた世界の情報を確認して訝しげな表情に変わるデモ子、何か気に入らない情報でもあったのか。
「どうかした?」
気になったので聞いてみると途端に「お母様が選んで頂いた事に不満があったのではありません」と実に可愛らしく慌てるデモ子。
「何か気になることでもあった?」
「その、はい、お母様宜しければ少し調べても構いませんでしょうか?」
私が構わないと告げるとウィンドウの詳細項目に素早く目を通していき、大陸情報の項目を確認してデモ子の顔がしかめっ面になった。
意外なデモ子の表情が気になり私も確認しようとする、その前にしかめっ面のままのデモ子がウィンドウを開いてくれる。
3つ大陸がありリンクス大陸に人間、レイヴン大陸に魔物、マーセナリー大陸は両方となっているが分布がおかしい。
リンクス、レイヴンの2大陸に比べマーセナリー大陸の人と魔物の分布が異常に少ない、むしろ大陸のサイズが他2つよりも大きいのにも関わらず移民の数が少ない。
原因はすぐに分かった、気候と環境が滅茶苦茶なのだ。
精霊達がやりたい放題に大陸を弄りまわした結果、人も魔物も住めるような場所じゃなくなったようだ。
行き場のない者達が辿り着いても、この精霊達によって生命力をじわじわと奪われてしまい死に至る。
さらには生命力を奪うに飽き足らず魂まで奪い取って自らのものにしていた、精霊じゃなくて悪魔なのではと考えたがカテゴリーは精霊の様だった。
2つの大陸でも悪徳商法染みた方法で精霊達はマーセナリー大陸に送ったり、戦争や闘争、政争を誘発したりして争いを起こしていた。
生命力を奪うのに争いを隠れ蓑として精霊達は人間達を利用し、それが殺し合いに発展すれば魂も得られて精霊達には一石二鳥なのだろう。
『精霊は嘘を付かない』とのことだが全てを話しているわけじゃなく、自分達に都合の悪いことは決して言わず濁しているだけ。
確かに酷い状況だ、生まれて間もないデモ子にはきっと許せない行為に映ったのだろう。
「お母様の得るべき魂を精霊如きが得るなんて本当に許せません、生まれてきたことを後悔させてやりませんと!」
「……ああそっちか」
私を第一に考えるデモ子だった、世界の状況なんて二の次の問題なのだと殺る気に満ちた表情のデモ子を見て思い出す。
「マーセナリー大陸をまず徹底的に完膚なきまで一切の手加減なくやりましょうお母様!」
「う~ん……」
「あ、ですがその前に3つほどよろしいでしょうか」
殺る気満々で今にも突撃して精霊は皆殺しだひゃっはー!しそうなオーラを醸し出していたデモ子、どうしたものかと迷っていたら急に思案顔になり始めオーラも霧散する。
コロコロ変わる表情や雰囲気が可愛く何とはなしに頭を撫でてあげる、思案顔がすぐに嬉しそうな笑顔になり犬のようにブンブンと左右に振られる尻尾。
私もその様子が面白く愛らしいので撫でながら話の続きを促すと、表情を引き締めようとして失敗し完全に親に甘える子犬状態のデモ子。
「はい、おかーさまにあたらしーけんぞくのそーぞーと、せーれーをぜんぶやるおゆるしを、あとはわたしせんよーのぶきがほしーです、ふぁ」
「創造は問題ない何人くらい必要になる?それとマーセナリー大陸以外の精霊は放置で、武器はどんな形状が欲しい?」
「5~6にんいればだいじょーぶです、あ……武器はお母様が創って頂いたモノならば何でもいいです」
途中から撫でるのを止めてみると非常に残念そうな顔になり、私がそんな表情を見て楽しんでいたと悟るとブスっとむくれてしまう。
そんな様子も面白いと思っているがこれ以上やるとデモ子がいじけてしまいそうなので止めることにする、ご機嫌取りも含めていいものを贈るとしよう。
「まあ今回武器は必要ないと思うから後回しにして、創造もデモ子が戻ってくるまでに考えておくから問題なし、でだけど精霊どもは(ry はマーセナリー大陸だけ、これ絶対」
「お母様の望みのままに、ですが他の大陸は何故手を出さないのでしょうか?」
「……デモ子が本気でこの世界を滅ぼそうと考えたら何分?」
「おそらく45分以内には終わると思います、大規模儀式型魔法を使い魔力の集束に10分、術式構築に10分、精密な術式ですので展開と発動に20分、発動後の術式を安全に破棄して5分ほどだと思われます。直接的な方法ですと『次元斬』という剣技の究極奥義にて世界の核を破壊してしまえば24時間以内に世界は消滅します、奥義発動は一瞬で可能です」
つまり『魔王』が現れた、制限時間45分、勝利条件:魔王を倒す。敗北条件:45分経過もしくは術式発動の妨害に失敗する。+『次元斬』発動前に倒せなかった場合。
それなんて無理ゲー、あまりにも理不尽な能力。想定の範囲内とはいえこのままではダメだ。
「滅ぼすだけならデモ子一人で十分過ぎるけどそれを考えると一人で世界滅ぼせるのに何で眷属が必要?」
「私はお母様の代行者です、お母様のお傍が私の居場所であり片時も離れたくはありません。一度行ってすぐにお母様のお傍に戻り、他の眷属の方にお願いするつもりでした」
「丸投げかい……この世界でこれから色々やっていこうと思っているから、拠点として使う予定のマーセナリー大陸以外は手を付けたくないんだ。デモ子が疑問に感じてた他の場所の精霊は、世界のバランスを維持するのに必要なのと後々面白くなりそうだから残すってのが理由。それに全ての精霊がいなくなったら力の均衡が崩れて生態系が完全に崩壊しちゃうし、最悪の可能性として生命の消失した世界になっちゃうからな」
代行者が世界に一度行きその存在が認識されないと眷属を送れない、そんな条件が在ったりするから面倒なことこの上ない。
それにしてもデモ子は世界を滅ぼす気でいたのか未然に防ぐことが出来て、また他の世界から条件にあうものを探すのはめんどくさい。
この世界の精霊はマーセナリー大陸以外もおかしな事をしでかしている精霊がたくさんいるが、世界のバランスを保つ以上は必要な存在なので放置しておく。
どうせその内に面白そうなことをやらかしてくれそうな気がする、私が勘がそう告げている。
ただマーセナリー大陸の精霊は(ry なので疑似精霊で代用にしても、所詮は疑似なのでどうしても無理なり不都合なりが生じる。
精霊を使って何か出来ないか、疑似精霊でもどうにか出来る方法はないかを検索にかけ、とても有効活用できそうな内容が見つかる。
「デモ子~精霊をミキサーにかけて粉々にし粉末状にして水と溶かし固めて地面にぶっさすとっても自然に優しい方法が見つかったよ」
「何を言っているのか分かりませんがどういう事でしょうか?」
詳細な内容が表示されたウィンドをデモ子に見せるとすぐに納得してくれる、この方法ならデモ子の気も晴れて精霊どもも有効活用できて一石二鳥。
デモ子の3分クッキング~
材料:精霊(マーセナリー大陸の全て)、物質(マーセナリー大陸内の石や金属等)、創造(彼方お母様の力)、地脈の上(目星を付けた場所)
1:精霊と物質を集めます。
2:精霊と物質を選り分け、精霊は粉々に磨り潰して霊体と魔力に分けます、物質は素粒子レベルまで分解します。
3:霊体は握りつぶしましょう。
4:握りつぶした霊体から魂魄を除き純粋な力のみを抽出し、お母様に還元します。
5:魂魄は輪廻の輪に放り込んでおきましょう。
6:お母様に創造をして頂き、魔力と素粒子まで分解したものを再構成し精霊の代わりとなるものを造ります、『精霊石』と呼称するようです。
7:出来上がった『精霊石』を地脈の上に設置して完成です。
「――ってことですねお母様♪」
「3と5……いや、うん、デモ子の好きにして、マーセナリー大陸の環境を維持するだけの『精霊石』だから巨大で設置というより地脈にぶっさす規模のものになるけどね」
デモ子が笑顔で磨り潰すとか握りつぶすなんて怖いことを言っている、精霊達には悪いが自業自得なので大人しく運命を受け入れて欲しい。私は悪くない。
『精霊石』と言う呼称だが今回必要な規模が途方もないので縦に伸ばして塔の形状になり、出来上がる規模が直径100㎞、全長15,000㎞。
カテゴリー的にもはや起動エレベーター的なものだが赤道付近でもなく先端が大気圏にも出ない、思わず建つのか不安になったが問題無いとのこと、解せぬ。
名称は『精霊石の塔』、精霊の有効活用は終わりにして最後の問題。
「人間と魔物を統治して国興しなんてやろうと考えてるから、デモ子にはマーセナリー大陸全土に『魔王』らしく宣告しておいて」
「レイヴン大陸の旧魔王城後ではなくですか、少々どころではない時間が掛かってしまいますがよろしいのでしょうか?」
「何事も経験だ、時間をかけて集落から村、村から町、町から都市、都市から国って発展させるには丁度いい大陸なんだし」
「畏まりました、では7日ほどの期間を設け選定いたします、先見の明があるものと恭順の意思があるものは歓迎しますがそれ以外の者は捨て置きます」
期間を設けて有能無能は問わず人間と魔物を集め、決めきれないような優柔不断な者や選択を拒んだ者は残念としか言いようがない。
自力で来るような根性のある者なら受け入れるけど、伸ばした手を拒んだ者は受け入れる気はない。
転移の宝珠という形で与え簡単に来れる手筈を整え、所有者の選択も実は伝わるというプライバシーの侵害機能付き。
あとは実際に始めてから問題点や改善点が出てくるだろう、試行錯誤を繰り返していこう。
暇だからデモ子に神の仕事なんてものをさせられたが意外と楽しめそうだと認識を改める、ルナもニートせずに神のマネでもして暇を潰せばいいのにと思う。
それとも私の知らないめんどくさいことがあってニート始めたのか、一区切り付いたら聞いてみることにしよう。
「さて、じゃあ始めようかデモ子」