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職業:魔王育成師  作者: 狭魔
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003:世界

2014/8/22 行間調整






そよ風が心地よく私の髪を揺らす、深く椅子に座ったまま眠りについてしまいそう。

白いテーブルとその上に白いカップがあり、カップには黒い液体が満ち芳醇な香りを周囲に広げる。

視線を横に向けるとどこまでも広がる草原と澄んだ青い空が地平線の先まで続く、空には雲一つなく中天にある太陽からほどよく暖かい日差しが降り注ぐ。

再び視線を動かすと小さな屋敷、草原の只中にありながら不自然さはなくそこに存在する。

目の前に視線を向ける、テーブルを挟んだ向かいに少女が一人。

私の創造した少女デモゴルゴン、ニコニコと笑みを浮かべて椅子に座り私のことを見ている。


「ねえ、デモ子」

「はい、何でしょうかお母様?」


話しかけただけで目がキラキラと輝くデモゴルゴン、もといデモ子。

自身で名前を決めてつけておきながら略称で呼んでいるのは、呼びにくかったからじゃない。

デモゴルゴンと発音しようとして噛んだら、デモゴと呼んでしまったのに何故かすごく嬉しそうにしていた。

尻尾が千切れんばかりにブンブンと振っていたデモ子、デモゴじゃなくてデモ子にしたのは女の子だから。


「殺風景な領域の内装を少しいじるだけ……だった気がする」

「はい!お母様の期待に応えられるよう私なりに頑張りました!」


元気いっぱいに私の疑問に答えてくれたデモ子、可愛らしく健気で主(私)の期待に応えようと頑張ってくれる。

結果、地平線まで続く草原と青く果てしない空に屋敷まで造ってくれた。

なんということでしょうか、20m四方の白いお部屋が解放感あふれる広大な草原と青空に変わってしまったのです。

そして木の温かさと機能性を併せ持ち、小さいながらも広々と使える屋敷まで出来てしまいました。


劇的過ぎるビフォーアフター、これぞたくみの業。


物理法則は意味をなさず領域の無限の広さを身をもって知った、何故なら屋敷は地面から生えてきたんだ、まるでタケノコの様だったのです。






「……デモ子、創造も領域のレイアウト変更も終わったけど、私はどうしたらいいと思う?」

「お母様はお母様の望むようにされたらよろしいと思います。あ、ですがルナ様のように引きこもってニートになられシルフィ様にお仕事丸投げする自堕落な生活はダメです、私は容認致しませんよ」

「えぇ~働かないと、ダメ?」

「はい!」


やれそうな創造ことも終わって領域へやの整理も済んでしまい、ボンヤリとしていたが暇過ぎた。

デモ子に話を振ると、やりたいようにどうぞ、だがニートはダメだと私はクギを刺された。

誕生まれてから1日と経過していない子にダメな実例として出しされるルナ。

出来た子だデモ子、私が創造したとは思えないぐらいシッカリしている。

そもそもが働くとは何をするのか、それが分からないから動きようがない。

そんな私の思考の先をいくデモ子、チュートリアルを操作し『仕事』の項目を開いて表示する。


『領域内に現在存在する世界又は領域内に新たに創り出す世界において、

 1:神として生命の進化もしくは啓示をもって導き信仰の力を得ること。

 2:神として生命の選定を行い魂を自身の力として取り込み力を得ること。

 3:世界を抹消し領域の最適化を行い領域の崩壊を防止すること』

「デモ子ありがとう、よく分かった」

「頑張ってくださいお母様♪」


選択肢は『働く』以外用意してくれないデモ子、本当に嬉しそうに次の準備を始めているから退路が無い。

次々とデモ子の前にウィンドウが現れては消え幾つもの情報が取捨選択されている、効率的かつ的確に必要なことだけをして。

そうして整理した3つのウィンドウが私の前に表示される、30秒にも満たない時間で領域の情報整理を済ませたデモ子は有能過ぎて私いらないんじゃない?と思ってしまう。


『啓示・干渉の候補世界一覧』

『魂の選定候補世界一覧』

『抹消候補世界一覧』


「うわぁ……」


思わず唸ってしまった、特に最後。

私、破壊神になります、とでも言えばいいのか。

抹消候補の一覧から適当な世界を選び詳細を確認する。

生命は存在せず広大な宇宙と幾つかの銀河が存在する、文明の痕跡も確認できない。

履歴を確認し生命が誕生しなかった世界だと判明する、備考として今後も発生する見込みはなしとのこと。

他の世界を確認しても似たような内容ばかり、稀に文明が滅亡した世界もあるが共通して生命が存在しない世界ばかり。

一旦抹消は保留にして、魂の選定候補世界一覧を確認するとやはり共通の基準で選定されていた。

知能を要しているが文明を形成するほど賢くはない、原始人から進化していない生命やモンスターのような生命がいる世界が候補となっていた。

勝手に抹消したり選定していいのか判断しかねているとデモ子が新しいウィンドウを表示する。


『領域『星』の使用率:98.561774%

 未管理の世界:87.561774%

 領域の維持管理:10%

 代行者:1%』


現在の領域使用状況、未管理の世界が時間経過とともに増えており使用率が100%になるのも時間の問題となっていた。

どうしますと視線で問われ、再度2つのウィンドウを確認する。

『抹消候補世界一覧』に表示された世界は領域の70%以上を使用し、『魂の選定候補世界一覧』に表示された世界は領域の15%を占めていた。

確認し躊躇なく『抹消候補世界一覧』の抹消を実行と、『魂の選定候補世界一覧』はモンスターのみの世界だけを選択し実行を行う。


結果、合計81%以上の領域を確保することができた。


『領域『星』の使用率:17.48297%

 未管理の世界:6.48297%

 領域の維持管理:10%

 代行者:1%』


更新された領域の情報を確認、デモ子も特に何も言ってこないので抹消と選定のウィンドウを閉じて終了とする。

世界を抹消したり生命の選定なんてことをしたけど実感がわかない、あっさりと簡単に出来てしまって不要なファイルを削除した程度の感覚だ。

今後もまた世界は増えていき同じことをする際に躊躇うことはないと思うが、神って大変だなと痛感する。

管理できず100%を超過すると領域は崩壊し、領域内の世界全てが消滅してしまう、生命の有無に関わらず全ての世界が。

それを防止するために取捨選択して管理する必要があるから神は偉大だと痛感させられた、もしかしたら私も領域の崩壊に巻き込まれ消滅してしまっていた可能性もあった。

そう考えると、やっぱり働いて欲しい。


『メッセージ:これからは君たちの時代だ(キリッ』

「……どう思うデモ子?」

「働かざるもの食うべからず、なのでこの領域で得られたものは全てお母様に還元されるように設定しておきました」

『メッセージ:Σ(´□ `;)』


神は絶望した、そしていつの間にそんな設定していたのかデモ子、恐ろしい子。

領域の使用率が90%超えるまでの予想時間を私のために表示したり、神のメッセージが表示された瞬間に削除したり、別のウィンドウで神用のカウンターを構築したり、本当に私が創造したとは思えないぐらい有能な子である。

デモ子創造に要したリソース1%って実はとんでもなく使用しているのでは?

次に創造をする時は使用率をあんまり使わないようにしようと心に決める。


『メッセージ:この子怖い((((;゜Д゜))))』


神の所為で本来の目的から脱線してたけど、最後のウィンドウを確認する。

『啓示・干渉の候補世界一覧』は他の2つに比べて少ない、少ないといっても10万以上対象がある。

世界を創造するのはめんどくさい、手間がかかる、難易度高い。

なので、すでに出来ていて名前の無い世界を選択することにする。

名前付きの世界だと干渉し難いと注記があり、名無しの世界を私が名付ると無条件で『私の世界』となり制約が少なくなる。

すでに名前付きの世界は『顕現:不可、創造:不可、啓示:制限、眷属:能力制限、転移:制限』と他にもあるが制約まみれ。

対して名無しの世界を私が名付けると『顕現:制限、創造:限定、啓示:自由、眷属:能力無制限』と名前付きに世界に比べ緩和される。

能力縛りプレイは最初なので無しの方向で、難易度ノーマルを所望する。

そうして消去法で干渉する世界を私は選ぶのであった。











その世界は争いが絶えることがなかった、人同士が、人と魔物が、魔物どうしが延々と終わることない戦いを続けている。

3つの大陸があり、人間の国家が多数存在するリンクス大陸、魔物が跋扈する秩序無きイヴン大陸。

リンクス大陸とレイヴン大陸の最も近い海岸は10㎞と離れておらず、侵攻する魔物と防衛する人間がその血を流し骸を沈め、死の海峡と呼ばれていた。

魔物は縄張りを争い、人間は欲望のまま領土を広げる、闘争は必然として起こり争いの終わりには勝者と敗者が生まれる。

勝者によって殺されることなく居場所を奪われた者達、殺されないため逃げ延びた者達は生きるために最後の希望に縋る。


最後の大陸、敗北者や脱落者、落ちた者達が最後に辿り着くマーセナリー大陸。

リンクス大陸とレイヴン大陸からは100㎞もの距離がありながら、多くの者達がこの大陸を目指す。

両大陸からマーセナリー大陸には幾つかの道が存在する、まるで逃げ延びる者達に最後の希望という幻想を見せるかのように。


一つは石の道と呼ばれるリンクス大陸とレイヴン大陸からマーセナリー大陸に向けて全長100㎞、横幅は2mもの石製の道が存在する。

一つは海の道と呼ばれる満潮と干潮時に現れる道で、20㎞間隔で存在する小島を経由することでマーセナリー大陸へと繋がる。

この二つの道は海の状況によっては危険極まりなく、また海岸の特定の場所なので常に監視の対象となっている。

それ以外の道として最も安全だが、最も危険と言われる道が二つ。


戻らずの道と憎しみの道、別名として契約の道とも言われている。

正しくは道ではなく移動の手段だが、通った者達の不確かな証言において道と言われている。

契約の道はとある契約を精霊と結ぶことによって通る事ができ、それ故に最も安全な道と言われている、『精霊は嘘を付かない』、それがこの世界の常識だ。

だがそれでも契約内容がネックとなり選ぶ者は、本当に追い詰められた者が契約を結び道を通る。


契約の内容は『二度とマーセナリー大陸から出ない』これが大前提となる。

これだけならば大抵の者は二つ返事で契約してしまうかもしれない、戻らずの道と憎しみの道の違いはこれ以外の契約内容によって変わってくる、最低最悪の契約内容。


戻らずの道の契約は――

『これより通る道に契約者の記憶の中で最も大切な者が幻想として現れる、その者は契約者を惑わせるだろう。

 契約者にはその者を殺してもらう、如何なる力をもって現れた幻想を殺せ。

 殺した後は決して振り返らず道を進め、振り返れば契約者は永劫に道を彷徨うこととなる』


憎しみの道の契約は――

『これより通る道に契約者の記憶の中で最も忌まわしき者が幻想として現れる、その者に契約者を憎悪するだろう。

 契約者にはその者を愛してもらう、如何なる力もふるうことを禁じ現れた幻想を愛せ。

 決して負の感情を抱くことなく愛した幻想と共に道を進め、契約者が負の感情を抱けば生きたまま貪り食われることとなる』


戻らない大切な幻想を殺すか、忌まわしき幻想を愛し憎むな。

仮に契約を果たし道を通り抜けることができてたとしても、まともな精神状態で出てこられた者は皆無であった、多くは彷徨うか貪り食われるかしてしまう。

そうして辿り着いたマーセナリー大陸は、訪れた者を更なる絶望に落とすこととなる。


荒れ果てた大地に作物は育たず、湧き出す水は生き物に対して毒性があり、風と共に舞い上がる砂にはガラス質が多分に含まれ吸い込むと肺を傷付ける。

空は晴れることない雲に覆われ、局所的に発生する落雷、竜巻、暴雨、大粒の雹、豪雪などにより過酷なものとなっている。

人も魔物も関係なく生きることが困難な大地、それがマーセナリー大陸であった。

逃げてきた人も魔物も疲れ果て、争うよりも生きるために共存せざるを得なかった。

極僅かに存在する気候が安定した場所にひっそりと暮らすも、そこには希望は無く絶望が蔓延していた。

大陸の真の姿を目にした者達は来た道を引き返そうとするが、海は途端に荒れ果て波に浚われ消えていくのであった。


精霊と契約した者たちはそもそもが出ることを禁じる契約を結んでいるため出ることができない、『契約を破るものは許さない』とあり過去に契約を破ろうとして死んだ者がいる。

リンクス大陸とレイヴン大陸にはマーセナリー大陸の真実の姿は伝わっていない、この大陸は来る者を受け入れ出る者を殺すのだ。

その情報が大陸の外に伝わらず最後の希望と縋り付く者が後を絶たない、マーセナリー大陸は希望を見せる絶望の大陸なのである。



それが神の気まぐれ――厳密にはまだ神ではない――によって変わろうとしていた。






その日も変わらない一日が始まろうとしていた、雲に覆われた空から日の光は射さず、世界は灰色モノクロで構成されていた。

いつもと変わらない生きるために必死に食べられるものを求め、生きるために飲める水を求める。

全ては生きるため、生きることが目的となっていた。

昔はそれぞれに何かしらの目的が在った、だがこの大陸では生きること以外を考える余裕などない。


その日も変わらない一日が始まり終わるはずだった、それが起こるまでは。



誰かが最初にそれに気づき空を見上げ、つられて他の者達も同様に見上げることとなった。

常に空を覆う雲が丸くぽっかりと開き、長く見る事のなかった日の光が降り注いでいた。

暖かな光が雲に開いた穴から大地を照らし、多くの絶望した者達がその光景を奇跡だと叫び歓喜していた。


奇跡はそれだけで終わらなかった。


大陸を全土覆う雲が空の開いた一点に向けて吸い込まれていくのだ、風が唸り、大気が歪み、大陸が泣き叫んでいるかのような音が響き渡る。

それは数秒か数時間の出来事か、絶望した者達にはわからなかった。

ただ一つ分かったのは、雲が消えた。

世界に光が満ちた、世界を満たすのは太陽の光。

長く見ることなく記憶にあるだけだった、もはや見る事も包まれることも諦めた暖かな光。


そして気づく、光の中から感じる圧倒的存在感。


太陽の光を背にして何者かが舞い降りる、3対6枚の翼をもった人ならざる者。

黒き翼に黒き角を持ち天より光纏い舞い降りたる者、神話時代の伝承にて語られる天のみ使いの様でありながら邪悪なる魔を彷彿させる姿。

少女の如き見た目なれど絶対強者の気配、人知の及ばぬものが降臨した。


「私は『魔王』デモゴルゴン、創造主『彼方』様の命により此の地に降臨した」


デモゴルゴンと名乗った少女は人々を見下ろす、その赤い瞳を見た魔物達は途端に臣下の礼を取っていた。

彼らは本能的に理解してしまった、あの少女は自らが仕えるべき至高にして絶対の主、『魔王』だと。

人間たちは絶望に変わった表情のまま『魔王』を見たいた、抵抗は無意味だと感じ自分たちはこれから殺されてしまうのだと。

『魔王』とは絶望の象徴である、過去にも魔物を従え人間達を蹂躙し滅亡の間際まで追い詰めた存在。

大精霊によって人間の中より選定された『勇者』により滅ぼされた、それがおよそ200年以上前に実際にあったとされる。


「この大陸に存在する者達に告げる、私はお前達に導きを与えよう、これより7つの夜を越え天の光が中天に昇るまでに――」


少女が話を区切ると同時にそれは起こった。

大陸の中心と思しき方向、険しい山々に囲まれ誰も近づけないほど過酷な環境となっていた。

その地へ向かった者達は誰一人として帰ることがなかったため未開の地だった。

その地より天へと伸びる白い光の柱が現れ、数秒で光の柱は霧散しその後には白亜の巨塔が聳え立っていたのだ。

それは遥か遠くにありながらも視認できるほど巨大、天まで伸びる白亜の巨塔に誰もが言葉を失う。


「――彼の地へと来るがいい、単純な選択だ、導きを享受し未来を選ぶか、拒絶し停滞した今を選ぶか」


『魔王』は告げる、自らに従うか従わないか。

人と魔物達の目の前に紫色の珠が現れる、突如現れ地面に落ちた珠を全員が警戒していると『魔王』は言葉を続ける。


「一度限りしか使えない転移の宝珠だ、願えば彼の地へと辿り着こう。だが、7つの夜が過ぎ天の光が中天に昇ると同時に砕け散る、それまでに決めるがいい」


その言葉と共に『魔王』の姿が揺らめき空の青に溶けるようにして消えてしまう。

幾人かが夢を見ていたんじゃないかと呟くが足元には紫色の珠が転がっており、先ほどまでのことが夢ではなく現実だと認識させられる。

マーセナリー大陸にいた者達は幸か不幸か降臨した『魔王』によって選択を与えられた。

新しい時代が始まると否が応でも理解させられる、人も魔物も老若男女関係なく自身がそのうねりの中にいると。


だがこの時、新たな『魔王』が現れるだけでも途方もない事態なのであるが、『魔王』でさえ霞んでしまう様な存在が降臨するなどとは誰も想像しようの無いことであった。






『メッセージ:私の準備、完了|_-)』

「えーっと禁止設定、神の顕現、神による創造、神の啓示を禁止して、

 アクセスもゲスト除外、登録設定も私とデモ子だけにして、

 排除設定を神」

『メッセージ:ちょ、おまΣ( ̄□ ̄;)!?』



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