プロローグ
2014/8/21 行間調整
2014/8/29 一部修正
真っ黒な空間がどこまでも果てしなく広がっている、光は当然存在しない。
かと言って闇でもない、闇とは異なる空間。
そこは“無”。
“無”とは何もないこと、そこには物質を構成する最小単位のものさえ存在しない。
そんな“無”――
「だからあんたの調整は少しばかりこっちの世界に影響出ちゃってんの、もうちょっと周りへの影響考えてよね!」
「貴様のところの人間が次元科学に手を出さねばよかった問題であろう……資源獲得、利権争い、人口増加、食糧不足、貧富の拡大、問題を先送りにして他の世界へ手を出したツケだろうに」
「ケンカ売ってんの、ケンカ売ってんだよねぇ~イイ度胸じゃん若造がぁっ!!」
「はっ、後先考えずやって自滅するような年増は大人しく隠居しとけや!」
本来“無”には存在しないモノたちが口論を交わしていた。
一人は女性、腰まで届くプラチナブロンドの髪と翡翠の輝きを放つ瞳、神の造形美を思わせる整った容姿に純白のワンピースを着た絶世の美女。
思わず見惚れてしまいそうな美貌だが、今は怒りに染まり吊り上がった眉とギラギラと輝く瞳は猛獣も逃げ出す迫力になっている。
一人は青年、黒髪黒目だが額の上から前方方向に突き出す奇抜な髪形、いわゆるリーゼントにやたらと角張ったサングラス、長ランの特攻服の背にお決りのような『夜路死駆』の文字、顔はふつう。
見た目の割に言動が普通で、女性に対しても余裕を持った対応をしているあたり何かがオカシイ。
あともう一人いた。
終始無言で腕を組んだまま微動だにしない少女、腰まで届く黒髪をツインテールにし髪留めの白いリボンが二重螺旋を描き巻き付いている。
ルビーを思わせる瞳は半眼で焦点は合わず、どこか遠くを見ているようで心此処に在らず、黒色のセーラー服だが所々に白い逆十字が入っている。
「ぐぬぬっ、コジローの癖に生意気なぁーっ!まだ私若いから若いんだから若いんだよおぉーーっ!!」
コジローと呼ばれたリーゼント、宮本小次郎は――
「中堅に比べ古参に極めて近い貴様は十二分にそうなのではないか?」
ニヤリと擬音さえ聞こえそうな笑みを浮かべながらそう言った、話を振られたツインテールの少女、彼方はピクリと反応すると目線と焦点だけを小五郎に合わせる。
「……そうかもね」
と一声だけ言ってまた元に戻――
「か~な~たぁ~なんでかなぁなんでかなぁ~どうしていつもそんなに辛辣なのよぉ~!」
肩を掴まれて力の限り前後に揺さぶられる、神速の勢いでシェイクされたまらず組んでいた腕を解いて肩にかかった手を止める。
カナタは神速の勢いでシェイクされた影響でくらくらしているが、眼前の女性、フィオナ・ウィンチェスターの目力が物理的なプレッシャーと化している。
このプレッシャーから抜け出す方法を考え、チラリと小次郎を見た後、告げる。
「フィオナ……諦めて現実を受け入れる、それが最善だと私は思うから」
真っ直ぐに目を見つめながら告げると、一瞬にして崩れ落ちるフィオナ。
完全にorzである。
そんなフィオナを見て彼方は――
(肩を掴まれ揺さぶられるまでの過程と一瞬で崩れ落ちた時の過程が認識できなかったな)
完全にどうでもいいことを考えていた。
再び腕を組んで先ほどまで考えていたことに戻ろうとして、ふと小次郎を見ると腹をかかえて爆笑していた。
彼方はそんな小次郎を見て薄く笑みを浮かべると、崩れ落ちたままのフィオナの耳元でそっと囁く。
「私はフィオナと同じくらいだからああ言った、小次郎は若い……なら躾が必要だと私は思う」
そう言うと再起動するフィオナ。
過程を置き去りにして
「コジロー、
お・は・な・し、
しましょうね~」
「ま、待て落ち着け!かなたたすけ――」
声を置き去りにして消えた二人、orz状態から小次郎を捕まえて消えるまでの過程が認識出来なかったが考えるだけ無駄だと悟る。
毎回のことなので気にするだけ無駄である。
こうなった場合はこれも毎回のことで代行の者が現れる。
「フィオナ様の代行、イサカであります」
「小次郎の代わり、ムサシだよ」
赤い光がフィオナの代行、イサカ。
青い光が小次郎の代行、武蔵。
彼方は毎回この二人から報告を聞いたり伝言を伝えたりしている、フィオナと小次郎がまともに最後までいることは少ない。
「早く終わらせて帰りたいから、イサカ」
「はっ、フィオナ様の管理世界『ウルティマレシオ』において次元科学を使用した他の世界への干渉を行いました、その際に宮本小次郎様の世界の調整が影響を及ぼし次元の歪みが多数発生しました」
イサカは簡潔に述べ最後に人的被害と惑星間ネットワークに影響が出たと言っていたが、彼方は残念ながら他の世界の内情には詳しくないためスルーしていた。
「こっちは小次郎の世界『伊邪那岐』で封印が解けた大妖怪が平行世界『伊邪那美』に渡って力蓄えたあと大暴れ、それをどうにかしないと『伊邪那美』が崩壊しちゃうんで調整をしたんだ」
武蔵が言うには最終的に世界を繋げて素戔嗚を派遣して事なきを得たとのことらしく、平行する世界といえど簡単に出来る事ではない、下手すると連鎖的に世界が崩壊しかねなかった事態で次元の歪み程度で済んだと言える。
イサカは何やら不満があるらしいが代行としている以上は不要なことを言うことはない、武蔵も口調は問題だが代行の役目を果たしている。
「フィオナには小次郎の世界に近いところへの干渉は避けさせ、小次郎には注意勧告を周りに出すように言っておいて、何か他にはある?」
彼方がそう言うと代行の二人は特に異論はないという感じでだった。
フィオナと小次郎が大体口論になる以上、この3人で集まって際にまとめ役になるのが彼方であった。
「それで私の方なんだけど――」
彼方が話す内容は大抵決まっている。
「私の世界『ディザスター』において精霊や魔獣の分布、人間国家や魔物国家の状況は資料としてフィオナと小次郎、それから他の奴らにも渡してあるから説明の必要は恐らくないろう。
それで――
『炎の魔王』ペイモンが建国を行った、領土の問題で近隣諸国とギクシャクしているらしいがあいつの話を聞く限り問題となることは今のところない。
『風の魔王』アンリとマユは相変わらず放浪の旅という名の家出中で今は勇者一行と行動を共にしているみたいだ、魔王が勇者一行と行動している時点で問題だが二人曰く信用できる人間……キチンと話してみないと分からんが。
『水の魔王』アゾートは王立図書館に引きこもっていると聞いてたけど私が行くときは大体ちゃんと仕事していた、あの娘は未だ親離れできていないのから心配なのだ。
『土の魔王』マモンはドワーフ達と一緒に鉱脈探して採掘してたのが実を結んで黄金の都市を造るにまで至ったみたい、まあ都市が完成した段階で次の目的ができたようだ
『光の魔王』マステマは冒険者ギルドのマスターとダンジョン最深部のボスの2役を見事にこなしていて、他の『魔王達』のお手本と言うべき成長ぶりだったな」
決まって自分の世界の『魔王達』のことを話す親バカのである。
彼方のこの親バカにウンザリしていたイサカと武蔵の主達は口論をして自然にいなくなるのを暗黙のルールとして互いに行っているが、代行の二人にはたまったものではない。
彼女は『魔王育成師』彼方。
彼女の仕事は『魔王を創造し、育て、他の世界に派遣すること』
なお、重度の親バカである。