表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夢のまたその夢で

作者: 可憐

 意識が浮上し周りの音が聞こえるようになって、誰かが心配している声音が聞こえた。

聞こえたけれど、その声の主が何を話しているかが分からなかった。


私の知らない言語だろうか、それとも‥‥‥。


目を開けようと目蓋に力を入れるけれど、私の体はまだ起きようとしてくれない。

目蓋が開かないのだ。

寝ろと言うことか。だけど、声の主を安心させるためにも起きなければ。


私の目蓋がゆっくりと開き、真っ先に目に入ったのは、タオルだった。

ごわごわとしていて、濡れ気味のそれは悪い質の糸で編まれているようだ。


何でこんなものが。というか、死んだみたいじゃないか、これは。


「×××××××!」

「×××××」


 タオルを摘まんで起き上がると、私が横になっていた周りにいた人々が聞いたことも無い言葉を発し、うちの一人が何処かへとかけて行った。


 私がいるこの部屋は簡素なつくりで、随分古いものらしく、気の隙間から漏れる隙間風が酷い。

 隙間風もぬるく、部屋の熱気が和らぐことも無かったので、現代っ子の私には少々答える暑さだ。


 その中にぎゅうぎゅうに押し込まれている彼らが何を言いたいかは分からないが、私に必死に語りかけている。

 分からないのだから答えようが無い。

 それに、私の言語でも通じるのだろうか。


「ここは何処だ。あなたたちは一体」


 私が発した言葉に、必死に語りかけていた彼らは一同に首を傾げた。

 ああもう、私はどうすれば。


 一方的に話すしか無い状況に頭を抱えていると、誰かが入ってきた。


 彼が着ているのは、私たちの着る麻布で作られた簡素な服ではなく、金糸が散りばめられた一見すると豪華な服だった。

 一見するとと言ったのは、成金をイメージしそうな服であるからだ。ブランド品を身につけてスマートに歩く人がお金持ちだと私は思っている。

 太っているから、漫画で描かれる成金にそっくりである。


 笑いを堪えていると、彼は立ったまま私に何か言っている。

 しかし、意味が分からない。


 どう言うことだろうか。

 私は、別の国に来てしまったのだろうか。

 それが一番可能性が高いが、どうも納得がいかない。だって、最後の記憶がここじゃない。

 私は誘拐されたのだろうか。


 でも、私の肌はこんな褐色じゃないし、私の髪がここまで長かった記憶がない。

 私の体が違うということか。誰かと体が入れ替わったのだろうか。そんな空想の世界のことがあるわけがあるまいて。


 でも、意識を失う前に何をしていたかというと、思い出せない。

 確か何かの研究をしていたんだよ、私は。


 何だ?何故思い出せない。


「×××××××!」


 先程から、男がうるさい。

 いや、彼が現れてからずっとか。


 私は言葉が分からずずっと流していたのだが、彼はそれが気に入らなかったようだ。

 知らない言葉で話されたって意味が分からないだけだが。


 イライラして、彼を睨みつけると、一旦動きを止めた。

 私を恐れたようである。

 女に睨まれてこわがるとか、お前は本当に男か?


 私が心の中で笑ったのが分かったらしい。いや、顔に出ていたのだろうか。

 どちらにせよ、彼は顔を真っ赤にさせ、大声で何か言った。


「×××!」


 その三文字で、後ろに控えていた男たちが私に武器を向けた。

 槍だったり剣だったりと様々であるが、女性に向けるものじゃないぜ?


 私は、その光景を見て嘲笑う。

 この位で私が怖がるわけ無いだろう。


 手で目の前で印を描き、魔法の呪文を唱える。

 捧げ物が無いが、この熱気だ。

 勝手に吸い取ってくれるだろう。


 私が呪文を唱え終わると同時に、私に武器を向けていた男たちが一人また一人と倒れて行く。 


 それを唖然とした表情で見ていた男は、私を見て慌て始める。

 何だ何だ。頭が空っぽなのか。


 まあいいや。こいつにも寝てもらおう。

 煩くされると面倒だし。







 ■ ■ ■


 魔法を使って思い出したことは、私はどうやら魔法が使えるらしい。

 使った後だから使えるということが分かったが、それまでは全く思い出せなかった。


 記憶にある魔法が使えるなら翻訳魔法もいけないかと思ったが、条件に何処の国の言葉か分かる必要があるんだった。

 大事な時に使えないのは痛い。


 彼らの様子を見ていると、大体の人が私と言葉が通じていないということが分かってきたようだった。

 話しかける人は減ってきて、最終的には一番傍で世話をしてくれた少年だけになった。彼は、今の私と同じような褐色の肌をしており、笑顔が可愛い。大体10歳ぐらいだろうか。それにしては、体が小さい。

 気を失っている間お世話になったんだろうが、申し訳ない。

 一言だけでもお礼を言いたいんだけど、下手に動作をすると勘違いされるかもしれない。

 海外に移住することになった過去のある私が言うから間違いない。


 隙間風の酷い建物に魔力を流して立て直す準備をしていると、少年が私の服を引っ張った。

 夜になったからそろそろ寝ろという事らしい。

 彼らは、日が落ちるとともに寝て日が昇るとともに起きるのか。


 言っちゃ悪いけど、原始人みたいな生活しているんだな。

 冬とかなかなか起きられないよね。


「すまない。もう少しやらせてくれ」


 少年に告げ、さっさと終わらせようと建物に先ほどよりも多量に魔力を流し続ける。

 快適さのためだったらなんだってやる。現代っ子舐めんなよ。


 それに、こんなところですし詰め状態で寝るなんて真っ平ごめんだ。

 数十人がこんなところで雑魚寝なんてやってられない。奴隷みたいじゃないか。

 ん、奴隷?


「って、まさか」


 そう言えば、さっきの成金野郎が私を蔑みの目で見ていたな。

 そして、私が睨みつけると、後ろの武装した男たちに指示を出した。


「とっても、嫌な予感がするのだが」


 ああ、分かった。これは夢なんだ。悪夢なんだ。

 奴隷になる夢とか、どれだけ現実の私は追い詰められているんだか。


「……なんてね」


 こんなにリアルな夢があってたまるか。

 服を引っ張る少年の力も、今も流している魔力の感覚も確かに本物である。


 私の記憶はいろいろ抜けているが、ここで過ごせば戻るだろうか。

 いや、戻さねばならない。現状を打破するには、記憶が戻るのを待つしかないのだから。


 周りの人たちは、既に寝ている。

 私を寝させようと頑張っていた少年も傍で寝転がっていて、寝息を立てている。

 しかし、時折苦しそうにしているのを見て、心が痛くなる。


「仕方ない。なるべく早く、完成させる」


 何故か、彼を助けねばと思ったのだ。

 私が何者か分かるのかはまだ先だろうが、目の前の人の苦しみを無くしてあげることを第一に。


 私がここにいるのは、そのためなのかもしれない、と思ったのは、夜が明け、隙間から光が差し始めた頃だった。


 そうか、何か圧迫感があるなと思ったら、窓が無いのか。






 ■ ■ ■


 気付けば、家だけでなくその周り一帯の土地に魔力を流していた。

 寝不足のため、若干思考が鈍ったからなのだろう。

 魔力は体力とは違うもののため疲労感や倦怠感は一切無いが、ただもう魔法は使えんな。

 体内にある魔力がもう底をついたのだ。

 まあ、昨日の成金野郎以下男どもは起きる様子も無いのでまだ一日は持つであろう。


 彼らが帰って来ないので、不思議に思った奴が尋ねてくる可能性も無きにしもあらずであるが、まー何とかなるだろう。


 それにしても、この体。

 動くのに支障が無い。体が軽いのである。

 インドア派のため前は走ったらすぐに息が切れたのであるが、今は少年の後ろを走りはじめて数十分経ったが、息一つ切れない。


 体力って必要だなとひしひしと感じた瞬間であった。


 私は、朝早い時間に少年に言われるままに、後をついてきているのだが、彼が裏切ったらどうしよう。

 魔法は使えないし、魔術はまだ式を思い出せないし、下手したら死んでしまうかもしれない。

 ネガティブ発言は、フラグだからやめなければいけない。しかしどうしてもかんがえてしまうんだよなー。


「×××××××××」


 彼が立ち止まった場所は、禿げた山の入り口であった。そこから、トンネルが作られている。

 大きさは、大体私を二倍した位の小さな入り口である。

 その入り口の横に一つ小屋がある以外は何もなく、この状況から全く読めない。

 いや、奴隷と山から連想するのは、一つしか思い浮かばないが、考えたくない。

 奴隷という言葉からして嫌な雰囲気だし。


 この山からも私の魔力を纏っているのが見える。

 同調は簡単だったとはいえ、寝ぼけて放出したとしてもやり過ぎだなと呆れたくなる。


 用心にこしたことは無いので、彼の後についていく。

 それ程長いトンネルでもなく、直ぐに視界が開けた。


 そこにあったのは、大勢の人々がツルハシを片手に山を削っているところだった。

 側には、成金野郎と同類だというのが分かるデブが鞭を持って立っている。


「ガチかよ・・・・」


 どうやらここは、採掘場のようである。

 ツルハシを持つ人々は皆褐色肌の持ち主で、成金野郎たちは白い肌を持っていた。

 ふざけた思考をしてやがるぜ。


 どうやら、私も少年もあの中の一員であったらしい。

 しかし、何故今は私たちは何も言われてないのだろうか。


 そんなことは今はいい。

 こんな状況を見てはいられなかった。

 平和な世界に生きていたからこそ、こんなのは話の中だけだと思っていた。

 だが、今は現実なのだ。


「何か、ムカムカしてきた」


 奴隷制度がこの国にあるのか知らないが、似たような制度があるのは確かだろう。

 彼らには、足枷がつけられているのだから。


「×××××××!」


 少年が何か話している。何かを訴えかけるように言っている。

 私はそれが知りたいのに、言葉が通じないだけで理解が出来ない。


「ああもう!ここの国の言語。言語の名前分かる?」


 それだけ分かれば、魔法が使えるのだ。

 魔力は少し回復した位で用が足りる。

 たった一言。一言だけ分かれば。


 彼は、何か言ってる。

 何か言ってるけど、何を言っているのか分からない。

 だから、異国は無理なんだよ。英語のテストが3点だった私には辛い。


「仕方ない。とりあえず、私がこの人たちを救ってみせる」


 魔法のエキスパートである私に、誰が勝てるというのか。

 これが余計なお世話だったら謝らないといけないが、それでもこれが私の正義だ。

 誰も否定はさせない。







 ■ ■ ■


 そうと決めたら、私は誰の話も聞かない。

 まあ要するに、一点集中型である。悪く言えば、猪突猛進型というのだろうか。


 だから、徹夜で私が作る仕掛けに同居人たちは皆首を傾げていたが、しばらくすると何も言わなくなった。

 彼らも、突然狂ったように家の周りに呪文を描いたり、道具を作る私から一歩引くことにしたらしい。


 それでも、遠巻きに見ているということは、何をしているかが気になるのだろう。

 私がしていることは、ここからー成金野郎どものの元から脱出するためのものであるということを教えたらどうなるだろうか。

 もしかしたら、足枷の人はごく一部であって、殆どの人々がそういう訳でないとしたら?


 まー、考えても無駄か。

 苦情は後から受け入れるって事で一つ。


「さーて、一仕事するか!」


 私は、少年に人を3箇所くらいに分かれて固まるように言った。

 大勢の人々が働いているが、3つの山に分けられているらしく、そちらの方が集めやすいという。

 地面に絵を描いて説明したら、直ぐに理解してくれた。頭はいいんだろうな。

 そして、同じ小屋に住む人々に伝えてくれたので、これは大丈夫だと思う。


 そろそろ、皆が3箇所に集まる時間である。

 時計など無いので、太陽の位置を確認する他ないが、これの測り方は慣れていた。


 さて、ここからが正念場である。

 私の魔力を注ぎ込んだ3つの山は、全て私の魔力場になっている。

 陣地になったと言った方が説明が早いか。 


 この陣地は、私が遠隔操作可能であるが、魔力場の魔力の多さに応じて使える魔法のレベルが決まる。

 魔力を追加したのはいいものの、足りるかどうか。

 しかし、私の魔力は少し回復したのも全て注ぎ込んだのでもう無い。

 全ての人々が入り切るのを願うしかないな。


 私が今いるのは、3つの山の中央に位置する、大きな山の前。

 ここは、私が魔力で陣地取りをした範囲の中央である。

 

 魔力を注ぎ込んだ場所で魔術を発動させるには、中央で操作する必要がある。

 が、ここは見晴らしが良く、下手したら人が消えて不思議に思って現れた成金野郎どもにバレるかもしれない。


 その時になったら考える。うん。


 皆集まったらしく、3箇所から花火が上がる。

 音が響いたが、成金野郎どもに動かれる前にトンズラする。

 それが、私の考えた脱出作戦。穴だらけなのは、考えることが苦手であるからだ。

 結果が良ければ良し。


 移動魔法には地属性のものを使うため、この陣地の土を使えば捧げ物はクリア。

 解放奴隷の行き先は、同じ小屋に住んでいた男たちが知っているらしいので、彼らに頼んだ。その時の様子を思い浮かべることが出来れば、移動魔法が発動するので、そこもまあ大丈夫だろう。

 問題は、魔力が保つかどうかだが、3箇所には、呪文を描いていたため、少し魔力が足りなければ、魔脈から引いてくれると信じてる。


「さて、行きますか」


 呪文を唱え始めると私の陣地である土地が揺れる揺れる。

 地震だと勘違いして逃げるなと忠告するの忘れたなあ・・・。


「××××××××!」


 半分位まで呪文が進んだ頃、複数の足音が聞こえてきた。

 どうやら成金野郎どもの行動は素早かったらしい。デブの癖に。


 それでも、ここで呪文をやめるわけにはいかない。

 何故なら、ここまでやってきた意味が無いから。


 まあ、やろうと思えばやれるけれどさー。


 無理やり呪文を短縮すると、魔力の暴走が起こるかもしれないと教授に言われていたがいいや。背に腹は変えられない。


 前に作った音が同じ言葉を繋ぎ合わせて、短縮呪文を早口で言う。


「移動魔法、シラバランデ。思い浮かべるは、幻影に潜む影。我らを誘い、かの場所へ連れて行け」


 適当だし、聞いたままの口上のため、合ってるか知らないが、3箇所で天に登る光を見るところによると、合っていたらしい。


 無くなった山の後には、金鉱石が山積みになっていて、奴隷なんて必要ないんじゃ無いかと思うけど。


 ・・・・・・ん?

 そう言えば、私は行けないのか。呪文を書くのを忘れていた。


「ちょっとそれはピンチか」


 何が起きたか分からないようであった成金野郎どもも、私が主犯だと確信したらしくじりじりと迫ってくる。

 お前ら、理解していないのに勘だけは鋭いんだな!


 これが夢なら覚めてくれ、なんて願った。

 これが夢なわけ無いのだが、無我夢中で願うしか、私には方法が無かった。

 だって、もう魔法が使えないんだから。




































「ヒ・・・ヒカ・・・・」


 別に私は光ってないですよ。

 私の魔力が可視化されたからって、魔力は光り輝いていると言うより粉が舞っているように見えますよね。

 あ、でも、金が舞っているから?でも、やっぱり金粉だから関係ありませんって。

 だから、教授。私は妖精じゃないんだってば。


「ヒカリ!」


「はっ!ごめんなさい教授!」


 漸くそれが私の名前を呼んでいるのだと分かって、私は慌てて机から顔を上げる。

 教授に、課題について教えてもらっていた時に寝落ちしてしまったのだろうか。

 本の上に顔を乗せていたらしく、若干よだれがついている。

 これが図書館の本だったら怒られるところたが、教授の私物の本であるためまだ軽く済みそうだ。


「全く・・・・・・昨日は寝てないんですか」


「いや、寝ましたよ。ちょっと魔法の練習をしただけです」


 そう言って、私は新しく会得した魔法を披露する。

 移動魔法を改良して、大量の物を運べるようにした転移魔法だ。

 とは言っても、運ぶようなものもないから、自室に置いてあるぬいぐるみに必然的になってしまうが。

 ぬいぐるみを抱えた私に、教授は優しく言う。


「研究熱心なのは構いませんが、体調には気をつけてくださいね」


「はーい」


 まあ、約束できるかどうかは分からないが。


「ところで、何の夢を見ていたんですか?」


「え?」


「やけにうなされていたようですけど」

  

 あの夢は現実だったのか、それともただの夢だったんだろうか。

 それはもうわからないが、多分あの世界はあるのだと思う。

 

 一つ言えることは、あの夢はやけにリアルであったが、特に私の恐怖心を煽るような物も無かった。

 多分、教授は勘違いをしている。


「あー、夢の中でも頭を使ったからですかね」


 インドア派のくせにお頭が弱い私には、ちょっと難しい夢だったです。

 



書いて思いました。

何書いているんだと。


文才が無いのは多めに見てください。

結局衝動のままに書いただけだから。

後日談を載せようと思って書いてたら、PC使えない罠。


夢で会った、何故かエレベーターを使う少年と残念イケメンなギルマスが書きたかったけど、話に繋がらなかったからまた次の機会に。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

途中で投げ出さなければ、彼らの後日談が書けるかと。


まー、頑張るしかないよね←





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ