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「美作さんは、知性ってのはなんだと思いますか?」

「先ほどもいったように、発達した新皮質がもたらす機能全般を指す言葉だと思う」

「なるほど。

 さっきから話題に上がっているシミュレーションの中の全人類にも、そうした知能を共通してい備えていた、と」

「それが、前提条件となるな」

「では、言語活動かとか想像力とは、なんだと思いますか?」

「知性によって想起する一機能。知性の一部分、とみなすべきか」

「では……言語とか想像力とかは、いったいどこから来たと思います?」

「どこから?

 だから、脳が機能してその結果として知的な営為全般が……」

「知性が発達すれば、必ず複雑な言語活動や活発な想像力が備わると、そのようにお思いで?

 では……クジラやイルカなどもかなり知能が発達しているそうですが……」

「クジラやイルカは、言語野はヒトほど発達していない。

 水棲生物の脳はだいたい、複雑な水流をかきわけて行動するためにその処理能力の大部分が使われているらしく、高度な知的能力があるといってもその方向性がまるで異なるというか……」

「では、なんで一部の類人猿だけに、こうした複雑な言語活動や想像力を駆使することが可能な複雑な情報処理系を発達させることが可能だったんでしょうね?」

「樹上生活から地上へと住処を移す課程で空いた両手を駆使するため。

 同時に、広い視野を持ち、ともに前方を向いた両目。

 これらの条件が、複雑な道具の操作を可能とし、同時に脳に高度な情報処理系を発達させることになった」

「それにしては……ヒト族の脳は、ずいぶんとオーバースペックではないですか?

 ただ単に道具を使うだけなら、そんな抽象的な処理は必要とされないわけですし……」

「それと……そうだ。

 社会的な要因も、忘れていた。

 現存している類人猿でさえもかなり複雑な社会的活動をしており……」

「はいはい。優等生的なお答えですね。

 でも……例えば、美作さんのご専門である高度な数学について思索する能力とか、そうした営為から発達すると本気で思っていますか?」

「……それは……」

「おれは……おれたちが今持っている知性ってのは、野生動物が普通に獲得するにしては、ずいぶんとオーバースペックな代物だと思っているんですけど。

 多少、火や道具を使う必要があったにせよ、ここまで複雑なことを考える必要があったんでしょうか?」

「……たまたま……多くの偶然が重なって、高機能な脳が、情報処理系が人類に備わってしまったから……徐々にその機能を有効活用する形で……」

「高性能な脳味噌が先にあったから、おれたちもここまで複雑な知的活動が可能になった、というわけですね?

 卵が先か、鶏が先か。

 ハードが先か、ソフトが先か……」

「アイさん。

 いったい……なにがいいたいの?」

「仮に……仮に、ですよ。

 どっかの誰かが、たまたま準備ができていたおれたちの祖先の脳味噌にあわせて、なにごとかの悪知恵を吹き込んだのだとしたら……」

「……今度は、エデンの蛇か」

「しょせん、酔っぱらいのたわごとですからね。

 別に、エデンの蛇とかモノリスみたいに実体があるものである必要はなくて……」

「実体がない……だって?」

「あっても、目に見えないものとか。

 ウイルスとか、ソフトウエアとか……放送とか。

 どこからともなくやってきたそいつらが、するりと、ちょうどいい具合に育っていたおれたちの脳にとりついたとか……。

 エデンの蛇に限らず、ヒトを誘惑して堕落させようとする異物の伝説は世界中にあるわけですし……」

「たいていは、その手の誘惑に乗った者は、手酷い目に遭うわけだけどな」

「かといって、聖書をひもといてみればわかるとおり、こちらを教え導いてくれるはずの偉大なお方ってのは、生け贄とか理不尽な神罰が大好きなわけですす……。

 どちらについていった方がよかったか、ってえのは、また、別のはなしかと……。

 おれは、その誘惑者と名無しの唯一神とは、同一の存在ではないかと思っているんですが……」

「聖書の掲載された諸々のエピソードは……他の民族に伝わる伝承と同じく、古い言い伝えの集積物に過ぎないと思うが……」

「ことによると石器時代、いや、それ以上に古い物語の原型も伝えているそうですけどね、聖書。

 教典としてはともかく、人類が保存している最古の物語アーカイブであることは確かでしょう。

 それらの古い古い物語は、さて、いったいどこから来たのだと思いますか?」

「だから、それは……」

「はい、先ほどの問答に戻りましたね。

 ちょっと寄り道して、聖書の中に伝えられている唯一神の特徴をいくつかあげて見せましょうか?」

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