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自分の部屋に飛び込んだつづるは、ドアと窓に鍵を掛けてカーテンを閉めた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
破裂しそうなほど激しく鼓動している心臓を感じ、自分がまだ生きている事を改めて確認した。
崩れる様に床にへたり込む。
「をみ…」
あの可愛くておっとりしたお嬢様が、猟奇殺人の犯人?
呼吸が落ち着いて来ると、それだけじゃなかった気がして来た。
が、何が何だか分からないので、をみが何を言っていたのかも思い出せない。
「いたっ…」
左胸がずきんと痛む。
しわくちゃで土塗れの制服の上着を脱ぎ、姿見の前に立つ。
ブラが引き千切られていて、5本の指が刺さり掛けた赤い内出血の跡が左の乳房にクッキリと残っていた。
薄暗い部屋の中でもハッキリ見える。
「う、っく…」
をみは、本気でつづるを殺そうとしていた。
そう思うと涙が出て来る。
何か嫌われる様な事をしてしまったのだろうか。
殺されるくらいの恨みを買っていたのだろうか。
でも、をみは生きていた。
想像していた事とは別の意味で最悪な状況だけど、生きていた。
もう1度会おう。
をみに。
そして、どうしてこうなったかを、訊こう。
視線を床に落とす。
鞄、上着と一緒に白い木の棒が転がっている。
あの場から無我夢中で逃げたせいで、つい持って来てしまった日本刀。
これがつづるの手に飛び込んで来た不思議現象も偶然とは思えない。
涙を指で拭いたつづるは、刀を鞘から抜いた。
ギラリと光る刀身。
護身用として使おう。
って、これじゃをみを殺す決意をしてるみたいじゃん。
武器で身を守るって事は、どう考えても相手を倒すって意味だし。
違う違う、そうじゃない。
上半身裸で何やってるんだ私は。
真剣稽古中の侍か。
つづるはそっと刀を鞘に戻す。
えーと、そうだ。
また襲われても良い様に、心臓の辺りの防御力を上げて置けば良いんだ。
スポーツブラの上に普通のブラを重ねるとか。
パッドも入れるか!
…パッドなんて有ったかな。
薄着用の奴なら持ってた気がする。
タンスを探り始めるつづる。
あ、でも重ね過ぎると超巨乳になるな。
サラシを巻くか。
…サラシってウチに有るのかな。
お母さんに訊いてみよう。
ついでに制服の洗濯も頼もう。
つづるは男の子っぽいと思われているので、グラウンドで勢い良くコケたと言えば怪しまれないだろう。




