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プロローグ

私はつづるさんが大好きです。

大きな口を開けて屈託無く笑う所。

とても優しく、荷物が重くて困っている人を見たら、上級生でも手を貸してしまう所。

お腹が空いたからと、二時間目の休み時間に学校を抜け出し、コンビニでステーキ弁当を買って来る、ワイルドな所。

そして、思い出します。

初めて言葉を交わしたあの時。

高校からの編入組の級長に、私の名前は何て読むの?って訊かれて。

そのやりとりを見ていたつづるさんが、お互い変な名前で困るねって、笑い掛けてくれた。

つづるさんの名前は普通だと思う。

私、海瀬峰深乃に比べれば。

わたせをみの、と読みます。

初見でちゃんと読んでくれた人は、今まで一人も居ない。

でもつづるさんは、私の名前は特別っぽくて、逆に羨ましいと言ってくれた。

その言葉は、親の尊い願いが文字に込められた物だと知ってはいても、少なからず名前にコンプレックスを抱いていた私を救ってくれた。

自分の名前は男の子っぽいから、女子高で名前を呼ばれると浮く、と苦笑いするつづるさん。

そんな事無い。

とても似合ってますよ、と言うのは変かな。

貴女は男の子っぽいです、って言っている様な物だし。

それから私とつづるさんは友達になった。

一緒に遊んで、一緒にお弁当食べて、一緒に教室を移動して。

話題作りの為に、つづるさん好みのTVやマンガも良く見る様になった。

そしていつからか、つづるさんを見掛ける度に、身体の中で何かが高まって行く感じを自覚する。

自分の感情がどう言う物か気付くのに、それ程の時間は掛らなかった。

本当の意味で、好き。

いっそ、つづるさんが男の子だったら良かったのに。

そうしたら、はしたないけれど、私から逆告白するのに。

実際は出来そうもないけれど。

でも、絶対に恋人になれない、友達以上になれない今の状況より良いと思う。

最近は、つづるさんの目を見るのもつらい。

何でも無い顔を装うのも苦痛だ。

女の子同士でも恋人になれるのかなってつづるさんに訊きたいけど、嫌われるのが怖いから訊けない。

女の子が好きになった女の子?きもい!

って言われたら死んじゃいそう。

つづるさんに嫌われたら絶望で死ねる。

だから私は、つづるさんに近付き過ぎない様、離れ過ぎない様、友達関係を続けた。

そして、もうすぐ夏休み。

明るい性格のつづるさんは、私以外の友達も多い。

数人で楽しそうに遊びの計画を立てている。

つづるさんは私も誘ってくれたけど、私の家は夏休みに家族全員で海外に行く。

毎年必ず行かなければならない予定なので、どうしても断れない。

高校生になったのだから一人で日本に残りたい、と思っても口に出して言えない小心者の私。

私にも、お父様の仕事仲間に挨拶をするという役割が有るし。

どうして世の中は思い通りにならない事が多いんだろう。

悔しい。

悔しい。

悔しい。

もしも願いが叶う魔法のランプを手に入れる事が出来たらと、夜な夜な妄想する。

つづるさんを男の子にしてくださいと願おう。

いえ、それだとつづるさんの迷惑になるかな。

私が男の子になろう。

そして全てを捨てる覚悟で告白をしよう。

涙が零れ、妄想が終わる。

溜息。

そんなランプは実在しない。

絶対叶わない夢を持ってしまい、毎日が辛い。

だから。

だから、私がこんな選択をし、こんな運命を受け入れたのも、仕方が無いと思う。

どんな結果になろうとも、私はきっと満足出来る。

筈。

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